昔、昔……
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──昔、昔……
「私が聞いた昔、とても昔の話です」
真っすぐで絹糸のような白い髪を長く伸ばした12歳ほどの少女が語る。
「私たちのずっとずっと前の時代。まだ神様たちが地上にいて、神様たち同士で争っていた時代。その時代に私たちの祖先が生まれた。お婆様よりも前、そのまたお婆様よりも前。ずっとずっと前のお婆様」
月は赤く不気味に輝き、その明かりが格子戸から差す。
「彼女は戦火の中で生まれ、鉄の嵐の中で育ち、死んだ戦士たちの血と肉で飢えと渇きを満たし、苦痛にのたうつ怪我人の悲鳴を子守歌に眠り、死にゆくものたちの呪いの言葉で祝福され、親ではなく鋼の剣に愛された」
白い髪の少女が顔を上げる。
額に出来た裂傷から血が流れ、白い肌を真っ赤な血が滑るように落ちていく。少女の目はその血のように赤かった。
「彼女は戦争だけを望んだ。神々のしもべたる巨人たちを殺し、暗闇から現れた吸血鬼たちを殺し、兵器として生み出された人狼たちを殺し、神になろうとしたドラゴンたちを殺し、そして神様すらも殺した」
外から怒号が聞こえる。兵士たちの立てる軍靴の音が聞こえる。将校たちの命令が聞こえる。戦争の音が聞こえる。
「私たちに宿っているのはそんなお婆様の血。決して目覚めさせてはいけない血。お母さまはいつも言っていた。『聞きなさい、マリー。本当に恐ろしい怪物は城壁の外ではなく、城壁の中で眠っているの』と」
少女の赤い瞳がその少女に瓜二つの姿をした少女に向けられる。
不気味な笑みを浮かべた少女。
鋭い犬歯を覗かせ、爬虫類のように細い瞳孔が血の色に輝くその瞳を細め、死人のように青ざめた唇を歪めている。
古い、とても古い時代の真っ黒な軍服を纏い、革の軍靴を履いていた。まだ世界を銃ではなく、剣と弓が支配していた時代の軍服だ。
「それで?」
軍服の少女が嘲るような視線を物語を語った少女に向けて尋ねる。
「あなたがそうなのでしょう、“お婆様”? そう私たちの始祖──“血塗れの剣魔女”初代ブルーティヒラント女公セラフィーネ」
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