1.魔のカーブのうわさ
夜の8時にさしかかろうとしていた。雲雀町の郊外。
町を見おろす丘に蓮たちはいた。
自転車にまたがっていた小学6年になる少年3人は、路肩に縦列駐車させると、ひと塊に集まった。
しゃがんで息をひそめ、待つことにした。
うわさが本当なのか、これから明らかになるだろう。
県道沿いだった。
測量設計事務所の黒い建物がそそり立っているせいで、見通しの悪いカーブになっていた。ドライバーにとっても、歩行者にとっても生理的に嫌なアングルだった。じっさい、測量設計会社を囲うフェンス沿いには、『危険! 死亡事故多し。スピード落とせ』の黄色い幟が、そよ風に揺れていた。
カーブの外側には古びた自衛官募集の看板が立っている。白い制帽をかぶった、眼にもまぶしい白い夏制服姿の凛々しい青年が、挙手の礼をしている図。ただし、経年劣化のせいで鉄板全体の塗装がはげ、サビが浮いて痛々しい。
その眼下はゆるやかな斜面となり、鬱蒼たる森がずっと向こうまで広がっていた。
あの森のなかの林道を突っ切れば、男子たちの地元に帰れるはずだった。
「もうじき予定の時間だぞ」と、蓮が腕時計をにらんだあと、他の2人に目配せした。「準備はいいか?」
「準備って、つまり心の準備ってか? いざ計画の時刻が近づいてきたら、なんか緊張してきちゃった」
瞬介は神経質そうにメガネの位置を正しながら言った。
「にしてもさ。うわさってマジなんかな?」ずんぐりした体型の武司は、おしっこを我慢するかのように身をよじらせた。「もし例の正体が尋だったら、いくら友だちったって、おれ、一番先に逃げ出すかもしんない。そんときゃ、あとはよろしく」
「させないぞ、武司。おれたちしかないだろ、あいつを取り戻すには」リーダー格の蓮が、臆病風に吹かれた男児の顔をつねった。武司の頬はモッツァレラチーズのように伸びた。「あの日、おれたちが3人もいたのに、あいつをとめられなかった。おれたちにも落ち度があったんだ。だからけじめをつけるべきだ」
「今年の十五夜は特別なんだ。おれたちが取り返してやるんだ。おれたちだからこそできる――よね?」
と、瞬介が挟み撃ちする形で、武司を囲んだ。
蓮が人差し指を突き出した。
「うわさがマジかどうかは、じきにわかる。そろそろ尋が死んだ時間だ。出るっていうんなら、8時3分にちがいない。とりあえず今夜は、正体をあばくのが先だ。どうせお月見の晩じゃないと、手が出せないんだし」
「だったらさ。尋の奴、去年のまま、現れるのかな? オニヤンマ号に乗って。あれって、スクラップにしたはずじゃん。佐々木廃棄物リサイクル商店で、こーんな重機でペシャンコにされてるとこ、おれ見たぜ」
「オニヤンマ号ね。あいつの手作りだったな。世界に二つとない。武司、いい疑問点だ。そいつも含めて確かめてやろう」