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ぼくは魔法を覚えても使えないみたいだ。

 


「で、でもそれならせめて。私の魔法を覚えることが出来るかだけ、試させてはもらえませんか?」


 ルーシー先生の、抵抗の言葉。


 だが……。


「一歩間違えば、死ぬんだよね?」


 試されるだけで命の危険になるのは、流石に勘弁してほしいのだが。


「いえ、あなたの魔力量なら間違いなく、死ぬことはありません。もちろん一番初歩の魔法ならですけど」


 ふむ、どうしたものか。


 まあ、一度ぐらいは魔法なんていう、現実だとしてもフィクションとしか思えない文化に、触れてみてもいいか。


「どうすればいいんだ?」


「簡単です。今から私の発する言葉を、繰り返してください」


「へえ。魔法を覚えるのって、そんなに簡単なんだね」


「いえ、今から教える魔法が音魔法なので。口にするだけで覚えることができるんです。音魔法は口にしたり、耳で聞いたり、実際に楽器を奏でると言った方法で魔法を覚えることが出来るんですよ。魔法は種類によって、覚えかたが違うんです」


 なんというか、素人のぼくでも納得できるような簡単な理屈だと思った。


「では、行きますよ? ×〇▽pdj」


「ルーシー先生。何を言っているのか、さっぱりわかりません」


 壊れたのか?


「え、ええ? これは基礎ですよね? 魔法言語の?」


「魔法言語なんて知らないよ。ほぼ一般人なので」


 そんなもの、見たことも聞いたこともないのである。


「そうでした、もう! これだから学院長に、全ての言語が母国語に聞こえるような、翻訳魔法を使うように進言したのに! 時々、あの人は古いしきたりにこだわるんですから! ……でも困りました。魔法言語は魔法使いなら五、六歳で覚えているようなものなんですよ」


 さっきから思っていたが、ルーシー先生は失礼な人なのかもしれない。


 時々、ナチュラルにぼくのことをバカにしている。


 ……仕返しをするべきだろうか?


「なら耳で聞くだけで、覚えることが出来る音魔法を教えますね?」


「ルーシー先生は、その音魔法が得意なのかな?」


「いえ、私には得意な魔法も苦手な魔法もありません。単純に音魔法は、魔法初心者でも覚えやすいんです」


 簡単ですからね。ルーシー先生はそう言った。


「では、行きますよ?」


 そう言って、ルーシー先生は歌いだした。


 今、日本で有名な歌手のソロ曲。


 CMではよく流れている。


 これはつまり、歌の内容ではなく、ルーシー先生が歌うということに意味があるのだろう。


 ルーシー先生の声そのものに、価値があるのかもしれない。


「あれ?」


 その歌を最後まで聞き終えると、胸ポケットが緑色に光りだし、そして数秒で消えた。


 なんだこれは?


「覚えました。無限くんは私の魔法を覚えてくれましたよ!」


 ルーシー先生は飛び上がって喜んでいるが、こっちはまったく意味が分からない。とっとと説明をしろ。


「魔法使いは自分の持ち物に、覚えた魔法を記すんです。この学園の生徒の場合は、校内に入る前に貰った学生証に、自動的に記録されます。ポケットから取り出してみてください」


 ぼくは、胸ポケットに無造作に入れておいた自分の学生証を取り出し、映りの悪い自分の写真を見た。


「どこに書いてあるんだ?」


「我が校の学生証には本人の名前、学生番号、クラス名学年名が表面に記載されますが、写真を取り出した裏面には、覚えた魔法が記載されるんです」


 裏面を見てみると、AからZまでのアルファベットが等間隔でかかれていて、Zの下にはEXと書かれていた。


 そしてEXの右隣に、1という数字が書かれていた。


「……つまり、EXの魔法を一つ覚えたって意味か?」


「鋭いですね。そうですよ、そのアルファベットは覚えた魔法のランク分けです。そのランクの魔法を覚えると、その右隣に覚えた魔法の数の数字が表示されます」


 鋭いだろうか?


 誰でもわかる気がするが。


「EXってどういうこと?」


「まだ魔法社会でランク付けのされていない、未発表魔法などがそうですね。あとは価値をつけることができないほどに凄い魔法だったり、自分の魔法はランク付けしないでほしいと、要請が通った魔法だったりもします」


「自由なんだね? ……でも面倒だな。魔法って二十六種類に分けることが出来るのか?」


「そうですね。でも安心してください。普通の魔法使いが使うのはMまでの十四種類です。OからZまでの魔法は一生目にすることはないですよ。もちろん、この学園でも教えてもらえません」


「なんで?」


「さあ、私は知りません。それより私の教えた魔法を使ってみてくださいよ」


「どうやって? ぼくはルーシー先生の歌を聞いただけで使い方なんて、わからないよ?」


「その学生証に自分の魔力を通してください。頭に知識が流れ込んできますから?」


「どうやって?」


 魔力の通し方なんて、わからない。


「……ああ、わかりませんか? なら指先を少し切って学生証に血を垂らして下さい。生物の魔力は血液中にも多く含まれていますから、魔力を通すのと同等の効果が起きます」


 ぼくは露骨に嫌な顔をして、近くに置いてあったハサミで指先をほんの少しだけ切った。


 そして滲んできた血を学生証に当てると、頭の中に聞いたことがない呪文と、その効果の知識が流れ込む。


「この魔法について、色々なことがわかったよ。でもどうやら、ぼくには使えないみたいだ。流れ込んできた知識がそう教えてくれた」


「つ、かえないですか? 魔法を覚えることが出来たのにですか? 確かに魔法を覚える力と、魔法を使える力の才能は全く別ですけど」


「ええ、絶対に無理みたいだな。才能がないんで」


「ええええええ!!!!」


 ルーシー先生は、現実を認められないようで叫び声を上げた。


「そんなのは嘘です! だったら呪文を詠唱してみてください! 完璧ではなくても少しぐらいなら効果が出るはずです!」


「「この世界に存在する言葉たちよ。寛大な心を持って我に聞かせたまえ」」


 ぼくは頭に流れてきた、知識にある呪文を使ってみる。


 この魔法は通訳魔法だ。


 普通の通訳魔法は十か国がやっとらしいが、ルーシー先生のオリジナル通訳魔法は、百国を軽く超えるほどの言語を翻訳する。


「zi2k:*:lpww....gswtri,lftbv:75x」


 どうやらルーシー先生は、思いつく限りの言語を口にしているらしいが、その全てが理解できない。


 ぼくの翻訳魔法は、完全に失敗したらしい。


 つまらん。



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