教室での風景
「それで、急にどうしたんだシナモン。彼を引っ張ってきて」
「今日からこの男を俺たちのグループにいれることにした。理由はやる気がなく怠慢な男だからだ。授業中に寝てしまうような性格は、この俺が矯正しなければなるまい」
「ホワイミルト先生の弟子なのに? ……それでもおかしくないか? このクラスの中での話だとしても、授業中に寝てしまうような人間は数人はいるはずだよ。おれだって何回か見たことがあるからね。それなのに何故彼を仲間に入れるんだい? 世界最高の魔法使いの弟子だから?」
「単純な話、俺がこの男と会話をしたからだ」
主席くんははっきりと言い切った。
「俺は決して万能ではないからな、どれだけの努力をしても全ての人間をまともにすることはできん! だがな、一言でも会話をした人間の間違った部分を見逃すことも同じぐらいできないのだ!」
なんだろう、今はっきりとぼくは間違っていると言われた気がする。
お前らとは学院に通う目的自体が違うのだから、ぼくが授業中に寝るというのは、間違いには当てはまらないはずだ。
立派な魔法使いになるために学院に通っているのに寝てしまうのは間違いだろうが、暇つぶしに通っている人間が寝てしまうことに別に問題はないはずだ。
そのところをはき違えないでほしいのだが。
「この男とは会話をして、縁が出来てしまった。ならばこの俺が世話をしてまともな人間にしてやろうと思ったのだよ、文句はないだろう?」
「そうだね、それは真っ当な理由だ。それに友人が増える事にも文句なんてないさ。よろしくね、無限」
「ぼくは何一つ納得をしていないけど。とりあえずよろしく、魔法使いくん」
「ま、魔法使いくんって何? おれたちは全員魔法使いの卵なんだけど?」
動揺する魔法使いくんに、ぼくははっきりと言ってやる。
「普通の格好をしている腰抜けどもを、ぼくは魔法使いだなんて認めない。君のような時代錯誤な格好をしていて初めて魔法使いだとぼくは思う」
そう、ぼくはこの学院に来て初めて感心したのだ。
おそらく、ぼくは飽きた時点であっさりとその服装をやめていただろうが、やはり魔法使いはこうでなくてはならない。
「いやあ、面白いですねえ。私もよろしくお願いしますね、無限」
「ああ、エルフもよろしく」
ぼくがそういうとエルフは苦笑をする。
「実は私はハーフエルフなんですよ。父親は人間です」
「そうか、ハーフエルフじゃ長いな。ちゃんと名前で呼ぶことにするよ」
「……えっと、エルフだったらそのままそう呼ばれていたんですか?」
「ああ」
何を当然なことを。
「無粋な質問だが、貴様は人の名前を覚えることが嫌いなのか? それとも他人をあだ名で呼ぶことにこだわりでもあるのか?」
「単純に面倒なだけだよ、少しの間一緒にいるだけの相手の名前を覚えるなんて」
それに長いから。
「やはり貴様は礼儀というものを知らないようだな」
「知らないよ、そんなものは個人の自由だ」
ぼくがグダグダと言い出した主席くんを無視していると、授業が始まった。
☆
暫くは監視を気にして真面目にしていたが、またもや飽きた。
「おい、起きろ! 集中しろ!」
なにもかもを気にするのを止めて、眠りの世界に旅に出ようと思ったが、突然の大声に目が覚める。
断っておくが今は授業の真っ最中だ。
「おい! ベイカー、授業中に大声を出すんじゃない」
教師が当然の文句を言う、当たり前だ。
僕たちの座っている席は最前列であり、何があっても気づかれないことなどあり得ないレベルだ。
「失礼、だが授業中に眠ってしまう生徒を起こしただけです」
「確かにそれは立派な行為かもしれないが、授業を妨害している」
「ですが一人の生徒をまともにするための行為です。許容していただきたい」
「……もういい。同じことをしないように」
おお、教師に勝ったぞ。なかなかやるなコイツ。
やっていることの全てはただの余計なお世話だが、どんな理由のどんな論争でも、生徒が教師に勝ったことは評価できるだろう。
「おい主席くん、何か話をしてくれ」
再開した授業を完全に無視して、ぼくは主席くんに話しかける。
「貴様は何を言っている? 何かを聞きたいのなら休憩時間にしろ」
「暇なんだよ、貴族の優雅な暮らしを知りたいんだ」
「だから、休憩時間にしろと!」
「お前が面白い話をしなければ、ぼくは完全に寝るぞ? それよりはマシじゃないのか?」
ぼくは、この世の真実を口にする。
「……仕方あるまい、何が聞きたいのだ?」
最前列なので意味がないとは思うのだが、主席くんは小声で話を始めた。
だが、だんだんと熱が入ってきたようで声は少しずつ大きくなっていき……。
「せめて一番後ろの席に移動しろ!」
最終的に教師がキレてその授業は終わった。




