憎悪の正体
「目を覚ませ!!」
激昂して襲い掛かってくるジュリに、先制して飛び蹴りをする。
左腕で防がれてしまうが、手ごたえはあった。
この攻撃は無駄ではなく、続ければきっと勝てるのだと。
「よし。トワもたまには役に立つな」
そのままの勢いで連続して、ジュリを蹴りつける。
だが弱っていくのは、ぼくのほうだった。
なるほど、そういうことか。
「近づくだけで、ダメだってことだな」
ジュリが右手に持つ朱い太陽に、全身の力を奪われる。
距離を取れば力が戻るが、長く近くにいるのは危ないのだ。
「無限になにをしたあああ!」
ジュリの右腕がぼくに襲い掛かる。
これに触れたらどうなるのか。興味があるが、勇気はない。
それは最終手段に取っておこう。
「ぼくが無限だって言っているだろうが!」
「影如きが嘘を吐くな!!」
蹴りつけながらのぼくの言葉に、ジュリはよくわからない言葉を返す。
「あ、影だと?」
「白く光るだけの有象無象が、まるで人間のような口を利くな。オレを殺して奪うつもりだろう、そうはさせるものか!!」
ジュリにはそんな風に見えているらしい。
目までおかしくなったのか。
「ぼくは人間だ」
「嘘を吐くなと言っている。これが、こんなものが人だと言うのか? 思い上がりも大概にしろ、人間がこんなにも白くあれるものか!!」
……その言葉には、響くものがあった。
だからかもしれない。鈍った体は、ジュリの一撃を喰らってしまう。
ごっそりとなにかが無くなった気がした。
「バケモノと呼ぶのも悍ましい。お前が無限なら、呪われているのではなく、呪いそのものではないか!!」
それはきっと。心の底からの言葉で。
神埼無限という殻がなければ、ジュリが思っているむき出しのなにかで。
「あの子は人間だ。人間なんだ、オレが救う。バケモノであるはずがないんだ!!」
ああ、ぼくはバケモノではないけれど。胸を張って、ただの人間だと言えるけど。
……お前たちから見たら、バケモノと変わらなくて。
「ぼくは人間だ。人間から生まれて、人間の中で生きてきたんだ!」
「人がそこまで純白になれるわけがない! 人間は醜くて悪に染まり、それでも正義を求める穢れた生き物だ。だからこそ理解しあえて、分かり合えるんだろう!!」
「じゃあ、無限は違うって言うのか!?」
弱っているぼくを追撃するジュリと、なんとか避けて反撃を狙うぼく。
そんな戦いの光景とは裏腹に、心の言葉は止まらない。
「……今のあの子は、お前に似ているかもしれない。だが、そもそもは違った」
「なに?」
「あの子は変わってしまったんだ。それこそが、呪いの証明だ。あの子は、何かに呪われてしまったんだよ!!」
ジュリが何を言っているのかわからない。
混乱しながらジュリに殴りかかり、右の拳が脇腹に突き刺さる。
でもダメージがまったくないように見えた。
ダメだ、どうしても力が入らない。
魔力の関係ない殴り合いなら負けるわけがないのに。
「あの子はもともと、憎悪に満ちた子だった」
「……」
「本当に小さいころから人間を見ていた。憎むような目で、恨むような目でずっと眺めていた。あの姿を見て感情がないとは思わない。純白どころか漆黒だと誰もが思う姿だった」
……いや、まあ。思い当たることはある。
昔のぼくは人間を見て学んでいた。多くの人を見て、自分との違いを考えていた。
その執念は今でも続いているぐらいで、その姿が憎しみに見えてもおかしくはないと思う。
でも、それは周りから見たらの話だ。
ぼくの中身は好奇心や探求心だけで、人間への想いなんて一欠けらもなかったのだから。
「それは、違うと思うんだが」
「違うものか、お前に何が分かると言うのだ!!」
「なにが、というか」
ぼくがわからずに、誰が分かると言うのか。
今も昔も人間に思うところなんてない。これは断言できることなのに。
「あの目を見てないからわからない。あの姿を見ていないから、わからないのだ。あの子はいつでも、どんな時でも人を見ていた。他の何を捨てても、他の何も受け入れずにずっとだ」
そうだけど、そうなんだけど。
確かにそうだけど、やっぱり違うのだ。
知りたくて、どうしても知りたくて人を学んだ。
触れて、接して、語って。そして、観察した。
その全てを通して、ぼくは違うのだと理解できたのだから。




