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始まりの気持ち

 


 城の屋上から見る景色は、下々の人々を塵のように思わせた。

 一面の砂漠に見える景色、ボコボコの地面に隆起した岩山。

 それらに身を隠し、魔法から近代兵器まで戦場を闊歩していた。

 適当に数えても何千人を超える人間たちが、この戦場で争っているのだ。


 地平線が見えると言うことは、視界の外の世界でも同じ景色が広がっている。

 月の裏側の全てで、戦いがあると言うのなら。戦っている全てだと、何十万人か何百万人か。

 地球で言う国と国との戦争を遥かに超える規模で、この戦いは繰り広げられていると感じた。


「こんなに堂々として、見つからないんだな」


 ぼくがいる城は、戦場のど真ん中。そのすぐ上空で、浮遊している。

 こちらから見えているのだから、あちらからも見えているはずだが。


「もちろん姿は隠れているさ。結界もあるから、一切の攻撃も届かない」


 キリの説明は、端的で安心できた。

 見物人としては、満点の回答だ。

 ……だが、参戦者としては不服が残る答えでもある。


「つまり、城からは出れない?」

「いや、外側から内側だけだよ。そうでなければ、攻撃も出来ないだろう?」


 城の中から一方的に攻撃をするためには、この形が相応しい。

 始まった城の自慢を聞き流し、もう一度戦場に目を向ける。

 雄たけびを上げながら魔法を放つ魔法使いや、スヤスヤと眠る負け犬どもの姿が目に優しい。

 この中に入れたら、楽しいだろう。


 だってそうだ。命の心配をしないで、殺し合えるのだから。


「ふむ。一つ、気になっているのだが」


 ルシルとフルーツの様子を見て、今ならいけると思っていた時。

 横からキリに声をかけられた。

 その顔には疑問が浮かんでいて、理解できないものを見る目をしている。

 文句を言いたい心を押し殺して、そのまま続きを聞いてみた。


「キミは、戦いが好きなのか? 殺し合いが大好きな、野蛮人なのか?」


 言葉には純粋な興味が現れていて、考えてみようと思えた。

 戦いが好きなのか。まさか、そんなわけがない。

 殺し合いが好きなのか。まさか、それも違うだろう。

 ならば、なんでこんなにも。心が躍るのだろうか?


「興味があるんだ」


 心の中を探してみると、そんな言葉が溢れてくる。

 深くも考えず、そのまま口から吐き出していく。

 理屈を考えても、本心は現れない。奥底が見たいのなら、感情に任せるべきだから。


「ぼくは強いのか、弱いのか。それを知りたい」


 思えば、色々な経験をした。

 強い奴と戦って、弱い奴と戦った。

 手ごたえは、あった。あったはずだ。それでも、ぼくは一度も勝てていない。

 なぜなら攻撃が効かないから。心臓に直撃しても、針の傷すら与えられないから。


 それが実力だとは思えなかった。どうしようもない部分だからだ。

 厳しい現実だと言うのなら、否定のしようがない。その通りだと思う。

 でも攻撃が効くのなら、ぼくはどのぐらいの強さだろう。

 魔法が使えなくてもいい。不利なのは、変わらない。


「……それでも、試してみたいんだ」


 籠の鳥は、似合わない。

 守られる姿は、つまらない。

 ここでしかできない戦いでも、安全が保障されなければ怯える臆病者でも。

 翼を広げなければ、鳥だと呼ばれなくなってしまうだろう。


「そうか、なるほどね」


 納得したような言葉には、隠しきれない喜悦が溢れる。

 でも見下したような雰囲気もない、一つの敬意を感じもする。


「やっぱり、そうだ。自由には怒りが必要なんだね。ワタシの子供たちには、キミが必要なんだろう」

「あ?」

「また一つ、キミのことが気に入ったと言うことだ。好きにするがいい、少しだけ手を貸してあげよう」


 キリが指を鳴らすと、人形たちがルシルたちを取り囲む。

 そのまま両手両足を拘束し、床に押しつぶしている。

 壊したくないのか、壊すわけにはいかないのか。

 どうでもなるだろうに、二人は大人しくしていた。


 二人で仲良くお喋りしていたのに、不意を突かれて驚いている。

 ルシルは状況についていけず、フルーツは何か気付いたように。


「な、何をするんですか?」

「……まさか!?」


 だが、もう遅い。

 始まる前には、終わっていた。

 その光景を見て、くつくつと笑っていたキリが。


「教えておくが、キミは強いぞ。経験もあるが、基本的な性能が常人を遥かに超えているのだから」

「ああ」

「失望しないように、気を付けるといい。世界は広く見えて、とても狭いのだから」


 忠告もほどほどに、ぼくは屋上の手すりを飛び越えて。

 下に広がる、戦場に飛び降りていった。


「む、ムゲンくん!?」

「離してください。あの鉄砲玉は、一度放たれたら帰ってこないんですよ!!」


 過ぎ去った屋上から、二人の叫び声が聞こえる。

 少しの間でも、キリが足止めしてくれるのだろう。

 自由な時間は、思うより短いが。満喫するには充分だろう。

 空からの落下には慣れていて、始めの目標を決めるには長い時間だ。


 よし、あれから狙おう。

 堂々としていて、強そうな。巨大な炎を扱う、魔法使いを。


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