学院長との割と大事な話
「あー、じゃあいいや。次だけどさっき、ぼくが妖精に近い存在だって言ってたよね? どういうこと?」
もしかして、ぼくは人間ではないとでも言うのだろうか。
……だから無限の魔力だって?
「ああ、それは簡単な話。君はその性格、あるいは性質と言うものがああいうものに、とても近いのさ」
「ああいうもの?」
その言葉は漠然としすぎて、よくわからない。
「そう、妖精たちみたいな超常のもの? あるいは子供や動物なんかに近いと言ってもいい。……神に近いと言ってもいい」
「つまり?」
「はっきり言って、君には人間的な欲望と言うものが一切ないだろう?」
学院長が言っている言葉の意味がわからない。
「そんなことはないよ。お腹がすいたり、眠たくなったり」
「それは生物の欲望だろう? 私の言っているのは人間的な欲望だよ。底知れない欲望とか?」
どうだろう、結構色々なものが欲しかったりするが。
「確かに君は様々なものに興味があって、実際に買ったりもするけど、私物なんて一切ないよね?直ぐに誰かにあげてしまうから」
まあ、そうだ。少し使うと、他人にあげたり、どこかに売ったり。
「君は様々なものに、興味があるだけで、欲しいわけじゃないのさ。だから執着しない。誰かに乞われると手放してしまう。別にいらないからね」
「……」
そうなのだろうか。確かにぼくの部屋はいつも何もないが。
「君は必要な時に必要な物しか、手に入れない。抱え込んだりしない。それは人間関係でも例外じゃない。君には他人に何かをしたいなんて感情はないだろう?」
まあ、確かに一人で生きている自覚はあるが。
「自分以外の誰かに興味がなく、好奇心でのみ行動し、人間らしい執着をせず、自由気ままに生きている君は自然的だってことさ」
だから、妖精に近い、か。
まあ物語に出てくる妖精は、刹那的で悪戯好きだって言うし。
似ていると言えば似ているかもしれない。
「よくわからないけど、とりあえずわかった。わかったから帰る」
もう用事は終わった。
後になったら新しい疑問が増えるだろうが、そろそろ帰らないとルシルが怖い。
「ああ、私からも一つ、無限君。私の養子にならないか?」
「は?」
突然、何を言い出すのか。
「いや、ずっと思ってたんだよ。君のことは生まれた時からずっと見守ってきたけど、君はやっぱり私のところにいたほうがいいよ」
「なんで?」
「君の両親たちは論外だとしても、親戚の人たちとも上手くいってないよね」
「そんなことはない。世話になったよ」
「いや、馴染めてないよね? 十年以上もお世話になったのに」
「まあ」
どうしても他人と言うものに慣れないんだ。それは今も変わらない。
「養子と言ったけど、私は君を束縛する気はないよ。でも君は私の所に来た方がいい。その方が危ない事ばかりする君を助けてあげることが出来るし、なにより家族と縁が切れるよ。本当の家族とね」
確かに、赤ん坊のぼくを親戚の家に預けて一度も顔を会わせなかったのに、急に呼び出して一年経ったらどれだけ条件はよくても家の犠牲になれと言われた。
うん、縁を切るべきだな。
これからも色々と言われなくて済むし。なんの情もない。
「でもさ、なんで今頃? 赤ん坊のころからぼくを見てたならもっと早くに言えばよかったのに」
「私にも色々あるんだよ。神崎家とは付き合いが長いし、なにより君の親戚の家族は良い人たちだった。少しだけ君が幸せになれるかなって思ってたんだけど、ちょっと根深いみたいだね。結局のところ君は彼らと家族にはなれなかった。家族みたいなだけだった」
ぼくにだってよくわからない。物心ついたときには一人が好きだった。
いや、一人じゃないと落ち着かなかった。
苦手だとか、嫌いだとかじゃなくて、とても不自然だと感じるのだ。
「まあ、直ぐに返事は求めないよ。少し考えてみてくれ。ああ、さっきも言ったけど私は君に何かを求めたりはしない。戸籍を変えるのと、世間に君が私の子供になったって公表するだけだ。好きなところで生きていいよ。いざとなったら助けに行くけどね」
確かにその条件なら楽だ。
「もちろん、君が普通の家族のような関係を求めるならそれでもいいけど、嫌だよね?」
「絶対に嫌だ」
こんな胡散臭い男に興味はない。ぼくはとっとと部屋から出るとルシルの家に向かう。
道に迷うかと思ったが、学院長の力なのか不自然な光がぼくを誘導してくれる。
「さて、今日のルシルはどれだけ怒っているのだろうか」
ぼくの呟きは山の寒さに儚く消えた。




