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学院長は伊達じゃない

 


 そこは、一本のあまりにも大きな木を中心に、妖精が飛び回っている世界だった。


「ここは妖精郷、ユグノーだよ」


 そこは、不思議な場所だった。


 どう見ても手のひらサイズの妖精が住む場所なのに、近くに人間が住めそうな大きさの家があったりする。


 つまり、妖精はこいつらが全てではなく、人間ほどの大きさの個体もいるのではないか。


 あるいは、妖精以外の存在が一緒に生活しているとか。


「来て、無限。これからここに住むんだから、長に会わなきゃ」


 こっちこっち、と周りにいる妖精に案内される。


 そこは大きな木の根元。


 やはりと言うべきか、人間としか思えないような生物がそこにいた。


 だが、背中に羽が生えていることなどから、とても人間ではないということがよくわかる。


「こんにちわ。よく来ましたね。無限さん。私が妖精族の長、キリーです」


 キリーはにっこりと笑いながらぼくに挨拶をした。


「なんでぼくの名前を知っているの?」


「同族たちが、あなたの噂をしていますからね。なんでも人間なのに私たちに近い人がいるって」


 人間よりも、妖精に近い。


 初めて言われたが、結構衝撃的だ。


「何それ、ぼくが人間じゃないとでも?」


「いえいえ、あなたは間違いなく人間です。多種族の血が混じっている、なんてこともないでしょう。ですが、その在り方が私たちに近い」


「どういう意味?」


「ふふっ、気になりますか?でもその話はまた今度でいいでしょう。あなたはもう人間の世界には帰れないのですから、ゆっくりと語ってあげますよ」


 キリーはとても怪しい笑みを浮かべている。


「人間の世界に帰れない?なんで?」


「私にその意思がないからです。私は人間と言う生き物にあまり好意を持ってはいませんが、あなたは別です。この妖精郷でずっと暮らしてほしいですね」


「何故、君は人間が嫌いなの?何故、ぼくは別なの?君たちに似ているから?」


「人間は自然を壊すでしょう?不必要でも木を伐り、妖精を利益の為に攫います。……特に魔法使いという種類の人間は世界に存在する魔力すらも奪い取っていく。我ら妖精が存在するにも、我らの世界樹にも魔力は必要だというのに」


 キリーは嘆くようにそう言った。


「ですが、あなたは別です。何故ならあなたは魔力を消費するということが出来ない。そして私たちに近い存在です。仲間に加えるになんの問題もない」


 なるほど、さっぱりわからない。


「でも、行ったり来たりするならともかく、ずっとこっちにいるのは困るんだけど」


 ぼくはワールド・バンドのメンバーに会うためだけに学院に通っているのだ。


 その夢が途切れると、とっても困る。


「ふふ、ですがあなたには元の世界に帰る術はありません。大人しく……」


「それは困るなあ」


 キリーがぼくに、勝ち誇るような言葉をかけようとしたとき、胡散臭い声がその場に響き渡った。


 それは、悪戯坊主のような、他人というものを面白がっている悪の声。


 言うまでもなく、学院長であった。


「……なにか、とっても酷い評価をされたような雰囲気を感じたんだけど、私はそんなに悪人じゃないよ。今だって君を助けに来たんだからね」


 若干傷ついたような顔をしながら学院長が、ぼくに言い訳をする。


 でも、仕方がないだろう。


 印象と言うものは、他人が勝手に決めるもの。


 ぼくの主観からすると、学院長は悪人に見えるのだから。


「……ごほん」


 学院長は咳払いをすると何かを諦めたように、ぼくから視線をそらし、妖精の長に話しかける。


「久しぶりだね、キリー君。悪いんだけど、無限くんは私にとって大事な子でね。返してもらうよ」


 学院長は、友人に語りかけるように、そう言った。


「嫌です。その子の魂は美しい。返したくありません」


 だが、キリーはにべもない返事をする。


 だが、その言葉からは、僅かな恐怖が感じられた。


「まあまあ、私を敵に回すのは得策じゃないよ。さっきも言ったけど、私にとって無限くんはとても大事な存在なんだ。彼を守るためなら、少しぐらいひどいことをしてもいいぐらいにね」


「それは、我々と契約を結んだ魔法使いとしての発言ですか?ですが、たとえ我々との契約を解除されたとしても彼を手放す気はありません。これだけ無垢な魂なのです。転生させて次の妖精族の長にすることだって不可能ではないのですから」


 転生とは、ぼくを殺すということだろうか。


「うーん、それは無理なんだけどなあ。……それに君は勘違いをしているよ。今の私の立場は妖精族と契約を結んだ魔法使いでも、偉大な学院長先生でもないんだ。もっと単純な、無限くんを大事に思う世界最強の魔法使いなんだよね」


 学院長は、軽口を叩いているが……。


「単純な強さならルシルくんよりも、遥かに強い私を敵に回すのかい?いいんだよ、この世から妖精と言う種族が絶滅して消えても。私は困らないからね」


 自分の邪魔をするなら、本当に滅ぼすという意志が。


 関係のないぼくにすら、感じられた。


「……わかりました。この場は諦めましょう」


「うん、いい子だ。帰るよ、無限くん」


 今、初めて学院長は強いと言うことを理解した。


 もちろん、だからなんだと言うことはないのだが。



 ★



「心配したよ、無限くん。君は魔法を使えないんだから一人で行動しちゃいけないよ」


 元の世界に戻り、一息つきながら学院長はそう言った。


「断る。ぼくは行きたいところに行くんだ。……妖精郷はなかなかに綺麗なところだったよ。次はどこに行けるんだろう」


 ぼくは、次は何を見ることが出来るのか期待する。


 この好奇心を止めることは出来ない。


 今回は妖精たちに無理矢理連れていかれたが、別に自分の意思でも妖精郷に行ってみたかった。


「困ったな。ルシルくんたちにもう少し強く言っておくべきなのかなあ」


「それより、学院長にはいくつか聞きたいことがあったんだ」


 いい加減、知らないと行けないことが、ぼくにはあると理解した。いや、あんまり興味はないのだが。


 聞いたってどうにもならないし。


「そうかい、なら私の部屋に行こうか、歓迎するよ。是非、君を招待したいと思っていたんだけど、忙しくてね。ほとんどみんなに監禁されながら仕事をしていたんだ」


 成る程、学院長の仕事はそんなに大変なのか。


 ……ルシルの将来は暗いらしい。




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