幕間
深い眠りから、蹴り起こされるように目が覚めた。
まるで自分の体が、ぼくを助けるために無理をしたような衝撃を感じる。
「……あ?」
いつもの部屋、いつものベッドで目を開けた。
カーテン越しに外は赤く、穏やかに光っている。これは夕焼けなのか、変な時間に目覚めたものだ。
今日は休日だったな、ルシルも寛大になったよ。
「なんだ、これ!?」
ぼんやりとした頭が、徐々にはっきりとしてくると。
全身に、怖気が走っていることに気づく。
「おいおい、こんなの初めてだ」
今までの人生は、決して穏やかで平和なものではなかった。
危険なこと。命の危機を感じることは日常茶飯事に近くて、死ぬ予感がしたことも数知れない。
その全ての体験を足したとしても、今感じている危機感にはまったく及ばないほどだ。
それも、毎日寝起きしている部屋で。
「なにこれ、本当にどうしようか」
おそらくだが、このまま現実逃避して二度寝をすると、そのまま永眠になる。
それは幸せな終わり方かもしれないが……。
「つまらないし、流石に悲しいな」
せめて原因を知りたい、ぼくの身に何が起こっているのか。
ルシルが買った、とても可愛いらしいパジャマのまま。
ぼくは部屋の外に飛び出した。
★
「いないか」
ルシルの家には誰もいなかった。
別に荒らされた形跡もなく、いつも通りの光景だ。まだなにも問題はない。
そんなのは勘違いだった。家の時計は全てが止まっていて、冷蔵庫などの電気製品も動いていない。
二人はどこに行ったのだろう? 家の中にはいないみたいだ。
あいつらも異常を感じて、外に飛び出したと考えてみる。ぼくと同じように、何かに気づいたのかもしれない。
ぼくも覚悟を決めると、外に出てみた。
「へえ、これは予想以上だ」
一面が温かい夕焼けに染められていて、空に見える多くの星々が、燃えるように赤く光っている。
まるで月などの大きな星たちが、力を使い果たして、燃え尽きようとしているみたいだ。
一番目立つのは空の半分を埋めている、とても大きな一つの星。手を伸ばせば届いてしまいそう。
あまりにも距離が離れているせいで、大きな星が小さく見えるのなら。
あそこまで巨大に見える星は、地球にどれだけ近づいているのだろう。
「この風景は、現実離れしすぎだな」
おかげで少し冷静になった。一つずつ、物事を整理してみよう。
本当に嫌になる、ぼくは少しづつ成長しているらしい。
出来るだけ鈍く生きて物事を楽しく感じたいのに、とても感覚が鋭くなってしまった。
最近は変な世界に連れられることが多いので、現実と虚構の差が肌で分かるのだ。
「この世紀末のような光景は、確実に現実。魔法などによる、嘘の世界ではない」
感じたことを、言葉に出してみる。とりあえず、これが大前提だ。
少し周囲を探索してみると、新しい発見がある。
生徒たちが、たくさん倒れているのだ。
歩いていたら、突然意識がなくなったかのように。生徒たちは日常の名残を残している。
「制服で、カバンを持っている。……通学途中だな」
触れてみると、温かい。
死んでいるわけではなく、寝ているだけのようだ。
「まだマシだったな。起きろ」
体を揺する、起きない。頬を叩く、起きない。ぶん殴る、起きない。蹴り飛ばす、起きない。持ち上げて、振り回して、凄い勢いで投げ飛ばす。
……全く起きない。
「もういいや、次」
幸いにも、被験者はいくらでもいる。
今と同じセットを、男女平等で五人ほど繰り返すが、一人も目を覚ますことはなかった。
「全く羨ましい。これだけ深く眠れれば、どれだけ幸せな夢を見るのか」
気になることはいくらでもあるが、寝ているだけで死なないのなら問題はない。
これから世界が終わるのなら、幸せな終わり方だとすら思える。
「ほんとに、何が起こっているんだ?」
どこかの魔法使いが、恐ろしい何かをしているのか。
あるいは、本当に世界の終わりとはこういう形なのか。
調べることに意味はないのかもしれないが、少しだけ楽しくなってきた。
これが本当の終焉なら、世界とは何よりも優しいものだと思えたんだ。




