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ヴィーの情報

 


 ルシルがいつまでも隣で説教をしているので、話の流れを変えるためというだけの理由でヴィーの事を尋ねる。


「あれ?ムゲン君はヴィーに興味があるんですか?」


「なんかとっても意外そうだけど?まあ、一方的にぼくのことを知られていて、気持ち悪かったんだよ」


 それはそうだろう。


 ヴィーとその弟子たちはこちらのことを色々と知っていた。


 だが、ぼくは奴らのことを名前すら知らなかったのだから。


「勝手にぼくのことを話したんだろう?どこまで話したの?」


「う、ちょっと怒ってません?」


「悪いと思うなら早く夕食にしてくれ。ぼくはお腹がすいた」


「……わかりましたよ。いまいち釈然としませんが、夕食にしましょう。今夜はシチューですよ、体が温まります」


 ルシルは台所に向かった。


 ふう。これでようやく長ったらしい説教は終わり、夕食が食べられる。


 ルシルの説教を聞き流すことは簡単でも空腹は辛いのだ。


 テーブルにシチューを中心にパンやサラダも並び、ぼくは、料理をばくばくと食べ始めた。


「それで?」


「どこまで、話したかですか?そうですね、ムゲンくんが私の愛弟子になったことだけですね。あとは1組の担任がヴィーだって知ってたので、色々と面倒を見てくださいってお願いしました」


「それだけ?」


「はい、それだけです」


「あんまり舐めてると、怒るけど?」


 奴らは明らかに、そんな言葉では説明がつかないほどにぼくのことを色々と知っていた。


「ほ、本当ですよ!ムゲンくんこそ、ヴィーから何か聞いてないんですか?」


「あー、色々と言ってた気がするけど忘れた」


 興味がないことを一々憶えてはいられないのだ。ぼくが憶えているのは、精々がアイマスクをしていたことだけ。


「ヴィーはその右目で全てを見るんです。だから既にムゲンくんのことを色々と見て知っていたんでしょうね。まあ、いつものことですよ」


 そう言って、ルシルは苦笑している。


「それはおかしいだろう。だって奴はぼくの目の前で、ぼくのことを見ていた。それはつまり、それまではなにも見ていなかったってことじゃないのか?」


「違いますよ。昔、ヴィーから聞いたことがあるんですけど、確かヴィーの右目で見えるものには、いつでも見れるものと、見たい対象が目の前に存在するときに見えるものの二種類があるんですよ。私にはその差がよくわかりませんが、とにかくムゲンくんの情報はいつでも見えているんでしょうね。そしてムゲンくんを直接見て、何がわかったかは私には想像もつきません」


「へえ」


 まあ、細かいことはどうでもいい。とにかくルシルがぼくのことを話したのではなく、ヴィーが自分の力でぼくのことを知ったということだろうな。


 なら、別に構わない。どんな方法だろうが、何かを調べるということは難しいことじゃない。


 極端な話、この世の中には労力や金に糸目をつけなければ、知ることが出来ないことなど何一つないのだから。


「じゃあ、もういいけど実際のところ、ルシルとヴィーってどういう関係なの?」


「そうですねえ、私が田舎から出てきて魔法学校の中等部に入学したときからの付き合いですね」


「つまり、何年前?」


「八年前ですね。ある日突然、世界最高の魔法使いだって言われだした私は、今よりもさらに他人を寄せ付けなかったんですけど、ヴィーだけは傍にいてくれたんです」


「いい人だね」


「というより、私のことなんて目に入ってなかったんでしょうね。ほら、今のムゲンに似ているところがあるんです。ヴィーは昔から一人で生きているところがあったんですよ」


「よく仲良くなれたね」


「ただの偶然ですよ。席が隣だったので授業などの様々なことでペアを組むことが多かったんです。私もヴィーも誰が相手でも別によかったので、惰性的にずっと一緒だったんです」


 成る程な。


 突然世界最高の魔法使いと言われ、周りを見る余裕が全くなかったルシルと、周りに全く興味を示すことがないヴィーなら相性が良かったに違いない。


 しかし、ヴィーは大物だな。


「ヴィーは世界最高の魔法使いに思うところがなかったんだねえ」


 ぼくは、しみじみとそう思った。


「それはそうですよ。当時からヴィーも私に負けず劣らずな有名人でしたから。むしろ私よりも格上の存在だと見ていた生徒が多かったぐらいなんですよ」


「なんで?」


「それまでのヴィーの歩んできた道筋も、凄い評判でしたけど……。なによりもあの両目ですよ。全てを見通す右目と、世界を拒絶する左目。あれで魔法使いの才能があれば世界最高の魔法使いはヴィーでしょうね」


「右目はわかるけど、左目?」


 そういえば、何か言っていたような。まあいいか。


「ヴィーって魔法使いの才能がないの?教師なのに?」


「あんまりないです。精々が中の上ぐらいでしょうね。戦ってもそんなに強くないですし」


「そうなの?」


「本来なら能力的に、あの両目だけで私や学園長より遥かに強いんですけど。とにかく脳に負担がかかり過ぎるんです。あの両目がもたらす情報量は生物に耐えられません。おそらくは十分も戦うと脳が壊れて死にます」


 まあ、戦う必要すらないんですけどね。


 そうルシルは呟いた。


「とにかく、ヴィーの話はそのぐらいです。あとは、そうですね。弟子のことでしょうか?」


「一応は、聞いておくよ」


 興味は一欠片もないが、今後のために。




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