ガチャを回してみた
「なんだこれ?」
仕事の帰り道、家路の途中にある小さなゲームセンターの前にある三台並んだガチャポンの台。
たまたま目に入っただけだが、俺はそのガチャポン台の中に一つ気になる物を見つけた。
他の二つは子供に人気のアニメキャラの商品だったが、一番右端のガチャポンだけ『お楽しみ』という張り紙が張ってあった。
こういう中に何が入っているのか分からない、いや分からせないランダムなガチャガチャと言うのはよく見かける。大抵は昔のガチャポンの残り物の商品を要り混ぜて在庫処分的に売っている。
俺も小さい頃はよくガチャガチャをやっていた物だ。今はもうする事もあまり無くなってしまったが、たまに怪獣とかのガチャポンは懐かしんでやったりする。
「……やってみようかな」
こういうランダム系のガチャポンはハズレが酷いのだが、例えば『押すな』とかかれたボタンをつい押してしまいたくなるような、タブーを破りたくなるいたずら心と運試しをしたくなるほんの小さなギャンブル心から俺は財布を取り出していた。
「……300円!? ぼったくりも良いところじゃないか!」
これは高い。中身の商品が一切分からないのに300円は高すぎる。
だが最近は円柱のカプセル売りが500円もするガチャポンがあったのを見たことがある。中身が分からないのはかなりマイナスだが近年の値段のインフレに比べればマシか、これも運試しだ、と開き直り300円を入れてレバーを回した。
ゴトッ、というカプセルが落ちてくる音を聞き取り出し口からカプセルを取る。カプセルの色は真っ黒で中身が分からない仕様になっていた。しかも、結構重い。
「ずっしり来るなぁ。ひょっとして当たりか?」
或いは一つのカプセルに数個の商品をぎゅうぎゅう詰めにしているだけかも知れない。まぁ家に帰って開けてのお楽しみだ。
「ただいま……」
家に帰るなりそう伝えるが、家には誰もいない。本来は親と暮らしているが今は両親で夫婦旅行に出ている。
腹も減っていたからラーメンでも作ろうとキッチンに向かい鍋に水を入れコンロに置き火をかける。沸騰する間にさっき引いたガチャポンの中身を見てみようとキッチンと地続きのリビングに移動し思い真っ黒なカプセルを力一杯に開けてみた。
「……ん? どわっ!」
だが開けた瞬間バン、という何かが破裂したような音がなり同時に煙がリビングを包んだ。俺もそれに驚きしりもちをついてしまう。
「ゲホッ、ゲホッ……ああクソッ!」
器官に入ってくる煙に苦しさを覚えながらも窓を開け煙を外に逃がす。リビングも段々と晴れて行き、原因となったカプセルを拾おうとするが、そのカプセルのすぐ側には、人の足があった。真っ白な綺麗な足だ。その足からスーっと見上げていくと、白と水色を基調としたドレスのような物を着込んだ女の子が立っていた。
銀髪の、クールな顔つきをした可愛い女の子だ。突然現れたその子の姿に唖然としながら見とれて居るとその子の方から口を開いた。
「初めましてマスター。『カプセル少女』商品No.6、ルリと申します」
「あ、どうも初めまして……篠田正平と言います……って違う!」
ルリと名乗る子の丁寧な挨拶につられてこっちも名乗ってしまいついノリツッコミをしてしまう。
「君一体どこから入ってきたんだ!?」
「……? マスターが私を購入したのでは無いのですか?」
ルリと名乗る子は首を傾げながらそう聞き返し、足下にあるカプセルを指差した。
『購入』という言葉が引っ掛かり彼女の足下にあったカプセルを拾い中身を調べると、ガチャポンの商品ラインナップを紹介する冊子を見つけそれを広げる。
冊子には『カプセル少女シリーズ』という紹介文が記載されてあった。そのラインナップはそれぞれ個性豊かな見た目の可愛い少女達が並んでいるがその中に一つ、今目の前に現れたルリと名乗る子と同じ姿の子もラインナップに加えられている。
この冊子をパッと見て判断するなら、こういうフィギュアでもあつかったガチャポンだと判断するのが妥当だろう。現に食玩やガチャポンでそういう商品を売るのは今日び珍しい事じゃ無い。
だが今目の前にいるのは等身大の、生きた女の子だ。とてもこんなカプセルに入っていたとは思えない。だが、冊子にある姿と目の前の子は全く同じ姿だ。つまり、俺は生きた女の子を『お楽しみ』という怪しげなガチャポンから買った事になる。
「……そんなバカな!?」
目の前の状況が受け入れられずに仕事疲れから見た夢だと思い耳をつねる。
「……あ痛!?」
だが感じたのは鈍い痛みだけでそれは夢では無い事を証明していた。
「大丈夫ですかマスター?」
いきなり自分の耳をつねり、痛がる姿を心配してくれたのかルリと名乗る子は俺の耳朶を触る。耳から感じる感触は柔らかく、暖かかった。
「……ちょっと、君の事を触っても良いかい?」
「はい。マスターのお好きなようにどうぞ」
普通に考えればセクハラするヤバい構図だがお構い無しに彼女を触る。頬、腕、そして銀髪の髪。先程と同じように肌は柔らかく、髪はサラサラとしている。その感触は健康的な少女そのものと言っても良いぐらいだった。
「……んっ」
触る度にくすぐったげな色っぽい声を出し、さすがに背徳的な物を感じ彼女から手を離した。
――間違いない、本物だ。
そう確信し、とりあえずこの子をどうしたものかと腕を組み考えを巡らせるが彼女が服の裾を掴んできた。
「マスター、向こう側から何か音が聞こえてきます」
「何? あっ、しまった! 鍋に火をかけたままだった!」
彼女が聞いた音とは鍋の水が沸騰する音で完全に泡を溢していた。
慌ててキッチンに駆け寄りガスを切る。気付かずにそのままにしておいたら一大事になる所だった。
「はぁ……ありがとう知らせてくれて」
「いえ……礼を言われるまでの事ではありません。マスターの家が無事で何よりでした」
そう言って頬笑む彼女の姿に思わずドキッとしてしまった。