女子大学
今日が初めての大学に登校する日だ。
僕は生まれて初めて女子大に足を踏み入れることになる。
僕は小中は共学、高校は男子校。
大学は男子大学というものがもちろん無いので共学と言うことになる。
だから女子だけの学校というものは初めてだ。
この大学は生徒はもちろん女子しかいない。
しかも教員や職員までが女性しかいないという徹底ぶり。
つまり、この空間には僕以外男子がいないのだ。
(僕は性転換しているが)
とても気後れがする。
もちろん、こんな空間に足を踏み入れるのは初めて。
当然採用試験の時には何度もここに出入りしているがその時は学生たちは春休み。
今、こうやって若い女子たちに囲まれる経験などあろうはずがない。
それにしても男子校出身の僕が言うのもなんだが男子にはない女子特有のにおい。
それがそこら中を充満している。
並の男子ならそれだけで興奮せざるを得ないのだろう。
でも僕はそもそも女子に興味がない。
この女子特有の匂いが少し不快ですらある。
言い訳しておくと最近パートナーも女性特有の匂いを帯びてきた。
僕自身もそうなのだろう。
以前ほどは不快ではない。
まぁ、そのうち慣れるのではあろうけど。
ぶっちゃけて言うと僕は少し女性恐怖症気味だ。
最近は僕自身女として生きているので多少はマシになったけれど。
女性の輪の中にいるよりかは男子の輪の中にいる方が気が楽だ。
性転換してしまった現状では無理に等しいが。
大体、性転換したのもパートナーのためだった。
どんだけ金がかかったか。
かえってきたらパートナーも性転換していたなんて。
あんなムキムキでたくましかった男が今では女性よりも女性らしい美人に変貌している。
心底がっかりした。
僕が別れずに済んでいるのは彼の男時代の綺麗な心を知っているからだ。
それにせっかく彼のためにしたことが無駄になりそうだからと言うのもある。
と言っても結構僕たちは姿形が変わってもラブラブなのは変わらないけど。
頭の中で愚痴が交差しているとお隣さんの3人組が現れた。
「女性生活は慣れましたか?」
3人組の1人がそう聞いてきた。
僕が答える間もなく
「元男性だと聞いてびっくりしましたよ」
「私は人の過去など興味はないけど」
と矢継ぎ早に話しかけてきた。
ちなみに最初に話しかけてきたのは古源 竹葉さん。
次に話しかけてきたのが織田 家輪さん。
最後に話しかけてきたのが流石 極美さん。
3人ともこの女子大の講師だ。
そういえば忙しくて引っ越しの挨拶をしたっきり話してなかったっけ。
僕はそそくさと会話を切り上げ職場に向かった。
僕の職場は数学棟だ。
これから僕は長い間ここで過ごすことになる。
ここでの仕事は僕の専門の研究と授業だ。
そして最初の仕事は授業だ。
僕は急いで授業の準備をし教室に向かった。
教室に入ると圧巻だった。
そこには大勢の女子大生が座っていた。こんなに女子が集まっているのを僕は見たことがなかった。
自慢じゃないが僕はこれでも数学界では名の知れた存在。
多くの聴講生が集まってきていた。
僕はしばらく緊張していたが意を決して教団で話し始めた。
「どうも、「代数学Ⅰを担当することになった根田 恵美です。
前期では代数学における群とは何かを中心に群論の基礎中の基礎から教えます。
後期の「代数学Ⅱ」ではアーベル群を中心にいろんな群についての研究をする予定ですが僕はアーベル群にしか興味がないので恐らくアーベル群しかしません」
僕はこれから1年間の授業の方針を示した。
次に
「僕の個人的な話をします。
僕の専門は整数論、そこから派生した有理数の研究もしています。
ついこの間までアメリカにいました。
まだ時差ボケがありますがよろしくお願いします。
そして知っている人もいるかと思いますが僕は元男性です。
後でバレていろいろごちゃごちゃ聞かれるの嫌なのでここでカミングアウトしておきます。
では、授業を始めます。
まず、みなさんが知っている数字というものはいわゆる数で数は集合体に属しています。
その集合体にもいろいろと種類がありまして今日はその集合体について話します」
授業を始めるとかなり騒がしくなった。
女生徒が騒ぎ出しているようだ。
聞くと
「あの先生、元男なんだって、見えない!!」
「あんなに美人なのに元男だなんて」
僕が元男なのにみんなビックリして授業どころではない。
このままほっておくと変な偏見が生まれそうだ。
僕は授業をやるのをあきらめた。
「授業どころではなさそうなのでこれから僕への質問タイムにします。
一応言っておくけど世の中にはいろいろな人たちがいます。
生き方の多様性を感じそして認めるためにもそして偏見を無くすためにも僕は正直に質問を受けます」
「先生はいつ性転換したんですか?」
「そんなに時間は経っていません。
ついこの間です。
一年も経っていないと思います」
「先生はなぜ性転換したんですか?」
「大好きな男性がいたのですがその人のためです」
そう言うとクラスはヒューヒューとはやし立ててきた。
「まぁ、その人も行き違いで性転換してたんですけどね。
今はその人と同性婚という形で暮らしています」
クラスの1人が
「何かややこしいんですね」
と言ってきた。
「でも言っておきますけど僕の恋愛対象は男性です。
パートナーとは心で繋がっている感じです」
そう言うとまたクラスはヒューヒューとはやし立ててきた。
そんなこんなで一コマ90分の授業は質問タイムに終わった。
もちろん、授業はこの1つではない。
他の授業でも同じ感じで進んだ。
とにかく女子大講師の最初の激動の1日は終わった。
明日からは平穏が訪れるだろうか。




