引っ越し
とりあえず僕らは引っ越すことになった。
それというのも僕が4月から就職するためだ。
僕は名古屋にある中央女子大学の教員になるのだ。
それも恩師の紹介で。
これでも僕は国内では名の知れた存在。
恩師の口利きで一発で名の知れた女子大に就職することが出来たのだ。
まずは中央女子大学について説明しよう
中央女子大学は国内でも名の知れた才女が通う大学。
日本でもかなり古い部類にある大学だ。
レベルも恐らく東大をもしのぐであろう天才女子たちが通う大学。
それが僕の通うことになる大学だ。
そこは他の大学とは少し変わっていて生徒は当たり前なのだが教師も全員女性。
職員も全員女性。
とにかく女性しかいない世界。
そこに僕は通うことになった。
もちろん、学校関係者は僕のことを知っている。
僕が性転換したことを。
そして僕が戸籍上は男であることも知っている。
恐らく歴史上、僕がその大学に男として教員になることは初となることだろう。
性転換しているのだが。
僕は未だに女社会というものを知らない。
それが恩師の計らいとはいえいきなり4月からそこに放り出されることになった。
レベルの高い大学とは言え恩師も怖いことをする者だ。
ちなみに恩師はそこの大学の関係者ではない。
ただ顔が広いだけである。
所で話を戻そう。
僕は引っ越さなければならないと言うことを説明しなければならない。
今、彼と住んでいる部屋が手狭だと言うこともあるのだけどもう1つ理由がある。
それは僕が教員住宅という女子寮に住むことが大学の教員になる絶対条件だからだ。
学長は僕たちのことをよく分かっている。
その上で女社会を勉強するためにも集団生活を学びなさいとのこと。
もちろん女として。
その上で僕の能力もかってくれているのだ。
引っ越しの準備をしていると
僕の彼女は
「ねぇ、大学の教員になることはおよそ見当が付いていたけれどあなたの専門は何なの?」
と聞いてきた。
(注意;この後の僕の台詞はかなり専門的な内容なので飛ばしても構いません)
僕は
「専門は代数学。
僕が研究しているのはその中でも有理数論だよ。
これを研究している人は少ないんだ。
そもそも全ての整数は1以下の有理数と同じ数なんだ。
そして僕はその中でも1/2以下の有理数を研究している。
分からないかも知れないけど1以下の有理数と1/2以下の有理数はちょうど同じ数なんだ。
無限という世界の中ではね。
と言うことは1/2以下の有理数を研究することで全ての整数を理解したことになるんだ。
そしてその研究を素数の公式に応用することが出来ればと思っている。
それが出来たら凄いことなんだよ。
現在はコンピューターは2進法で処理しているのだけどその公式でp進法に変換できれば一桁で無限に出来ることになる。
つまりメモリーが要らないことになるんだ。
それで文字通り無限の世界が広がることになるんだよ」
彼女はちんぷんかんぷんな顔をしていた。
僕は話題を変えようと彼女に
「そういえば君は今どういう仕事をしているの?」
と聞いてみた。
彼女は面倒くさそうに
「話すと長いんだけどね。
まぁ、いいわ
え〜と、どこから話そうかしら。
あなたがアメリカに行った時、寂しさを紛らわすために語学学校に行ったのよ。
もちろん、あなたがいるアメリカの公用語、英語をね。
でも1ヶ月でマスターしちゃってね。
次にスペイン語を習ったの。
それも1ヶ月ぐらいでマスターしちゃったのよ」
僕は彼女が何を話しているのか理解できなかった。
彼女は続けて
「大体1年ぐらいで7カ国語を完璧にマスターしちゃってね。
それで今はその言語の通訳の資格も持っている訳。
それでね、私の通っていた語学学校の校長先生からね頼まれちゃってね。
語学学校の講師を今やっているの」
僕は驚いた。
彼女が英語ペラペラなのは知っていたけどそれ以外にこんな才能があったなんて。
ちなみに彼女は高卒、本来は勉強嫌いだったはず。
それにしても恐ろしい才能だ。
僕はもう1つ気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、なんで性転換したの?
アメリカに行く前は男の中の男って言う感じだったのに。
ムキムキだったし。
徹底的に少女趣味を排除していたよね。
本当は男に興味ないとも言っていたしだから僕は特別だよとも。
だから性転換するのは僕しかいないと思っていたのに」
彼女は
「それについてはごめんなさいね。
男に興味がないと言ったのも嘘だったし。
本当はイケメン大好き。
心は生まれながらにして女の子だったの。
カワイイもの好きだったしね。
でも周りに変に思われたくなくて男を演じていたの。
でもあなたがいなくなってから我慢できなくなったの。
本当の自分を取り戻したいってね。
それからホルモン治療をして性転換したの。
今はすっきりした感じ。
でもあなたまで性転換してくるとは思わなかったわ。
そういえばしゃべり方はそれでいいの?」
僕は
「性転換しようが僕は僕。
アイデンティティは変わらない。
それに今更男に戻ろうとは思わないしね。
結構この体も気に入っているんだ。
違和感がないように胸も小さめにしているしね。
君とは違ってね」
そんな話をしながら僕たちは楽しく荷支度をしていた。