帰国
突然だがいきなり僕の自慢をしたい。
僕は数学者だ。
これでも国内では名の知れた存在なのだ。
僕の専門は代数学。
その中でも整数論というものを専門としている。
整数論とは簡単に言うと世の中で使われている数には全て意味がある。
その数の意味や存在意義、そして特殊性を考える学問なのだ。
そしてゆくゆくは素数の公式を求めたいと思っている。
現在はそのための勉強として有理数を研究している。
有理数とは分数のことで僕は1より小さい正の有理数についていろいろと考えている。
と言ってもいきなりそんな難しいことをと思っているかも知れない。
しかし、もう少し僕の自慢に付き合ってもらいたい。
僕は幼い頃から神童と呼ばれ大学院を首席で卒業した。
暗算は僕の得意で電卓いらずだ。
簡単な計算なら10桁掛ける10桁までそらで出来る。
方程式も簡単のなら3元3次方程式まですぐに出来る。
ここまで僕の自慢なのだが今まで僕はアメリカにいました。
アメリカで本格的な数学を勉強するために。
でも苦労したのは英語。
僕は数学以外からっきしダメで英語の得意な恋人に教えてもらったりしていました。
おかげで今はペラペラです。
日常生活だけなら支障はありません。
でも専門的な英語はかなり苦労しました。
何しろ数学英語は恋人からも教えてもらえなかったので簡単な小学校の算数英語から勉強。
数年で大学レベルに突入。
そしてアメリカの大学院をなんとか卒業することが出来ました。
つまり日本とアメリカで博士号を取得したのです。
これで大手を振って日本に帰れます。
恋人の待っている国に。
大事なことを言い忘れていました。
それは日本に帰ったら結婚することです。
大好きな彼と。
ところが問題があるのです。
それは僕が男であること。
現在の日本では同性婚は認められていません。
だから僕はアメリカで性転換しました。
一世一代の決意です。
そして僕は女性になった。
アメリカでの生活も女性として過ごしました。
日本に帰ったら就職先もあります。
僕をアメリカに送り出した恩師が世話をしてくれることになっています。
もちろん恩師も僕が性転換をしたことに驚いていました。
でも意外では無いとも。
普段の仕草から僕がいずれ性転換すると思っていたのかも知れません。
恩師のおかげでこの春から女子大で大学の教員をやることになっています。
研究をしながら生徒たちにも教えることが出来る仕事。
今から楽しみでなりません。
僕は今、中部国際空港にいます。
やっと日本に帰ってきました。
大好きな彼には僕が性転換したことを知りません。
僕が帰ってくることも知らせていません。
彼にサプライズです。
名鉄に乗って名古屋にある彼と同棲していたアパートに向かいました。
安アパートですが僕らの愛の巣でもあります。
そしてこの春から僕は教員住宅に引っ越すので彼も一緒に来て欲しいと思っています。
有った、有った、懐かしの我が家。
僕が住んでいた部屋のインターホンを押すと見知らぬ女性が出てきました。
「え!?」と僕は思った。
彼は女性嫌いだったはず。
なぜ女性が彼の部屋にいるのか。
もしかして妹さんかお姉さん?とも考えたが彼は一人っ子、女の兄妹はいない。
アメリカにいる時、彼とも手紙のやりとりをしていたがずっと元の家にいるとのこと。
じゃぁ、この音あの人は誰なのか。
そう考えているとその女性は
「あの、どなた様ですか?」
と聞いてきた。
僕は
「ここに外上と言う男の人が住んでいたはずなんですけど」
と聞いてみた。
彼女は
「失礼ですけどどなた様でしょうか?」
と再度聞いてきた。
僕は
「以前、ここに住んでいた根田というものです。
僕は彼に会いに来たのですが」
彼女は
「根田は確かに知っていますが、男の人だったはずですが」
と聞いてきたので僕は
「見知らぬあなたにこう説明するのも何ですが僕は性転換したのです。
だから以前は男でした。
日本は同性婚が認められていません。
彼と結婚するために性転換したのです」
彼女は絶句していた。
そりゃそうだろう。
いきなりの重い告白、ビックリする意外しようが無い。
しばらく間を置いて彼女は
「私があなたの訪ねてきた外上です。
私は生まれてきた時から心は女の子でした。
あなたがアメリカに飛び立った時、我慢できずに性転換したのです。
戸籍(の性別)も変えました。
初めは女装からでしたが。
もちろんあなたと結婚することを夢見て。
でも、お互い性転換したのですね。
これからどうしましょうか」
僕は呆気にとられていた。
まさか相手も性転換していたとは
でも僕の気持ちは揺るがなかった。
「君はこの国で性転換をし戸籍の性別も変えてしまったかも知れない。
でも僕はまだ戸籍の性別は変わっていない。
つまり法律上は男女のカップルと言うことになる。
僕はあなたの姿が変わっても愛することが出来ます。
結婚しよう」
彼女は驚いていた。
しかし、二つ返事でOKしてくれた。
これから僕らの女同士の結婚生活が始まります。
大学での新生活も。
僕は女子大というものに行ったことが無いからこれからどうなるか楽しみです。
彼女との新生活も楽しみ。
新しい住居は男子禁制の教員住宅。
女子大の教員住宅と言うことで教員たちも女性ばっかです。
とりあえず僕らの結婚生活は希望で一杯です。




