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第九話 それぞれの過去

「い、いらっしゃいませ〜」

受付の前に立つ大次を出迎えたのは、岸辺ではなく、ぎこちない笑顔を作る康太だった。

それを見た大次は、しばらく硬直していたがそのまま笑顔を作り続ける康太に大爆笑した。

「ダッハハハ、何それ!!康太、保護ってそう言う事?」

「馬鹿、笑うんじゃねー!岸辺が、働かざる者、食うべからずとか言って、ここの制服を渡されたんだ。お前等がここに来るまでの間、ここで働く事になったの。お前が来たから、俺の業務は終了なのに岸辺の奴、まだ帰ってこねー。寝てんのか?」

「でも、いいねぇここの店員で初めて井上って名札ができるんじゃないか?」

「いや、俺も岸辺になるらしい」

「ん?どういう事?」

「岸辺から聞いたんだが、ここには俺みたく保護された奴が、中にはいるらしい・・・だから、そう言う奴がバレないように、ここの店員は、全員岸辺らしい」

「なるほど・・でも、名前呼ぶ時、大変だろうな」

「店員同士、お喋りしてる所みた事あるか?」

「あぁ・・ないな」

「とりあえず俺、岸辺探しに行ってくる。お前は、部屋にでも行ってろ」

康太は、受付から飛び出しどこかへ行ってしまった。



岸辺は、勉がいる個室に向かっていた。

「意識戻ったみたいだな」

扉を開けると、ベットで寝ている勉がいた。

「体には、異常は見つからなかった。お前は、これで退院だ。それとこれを家に持って行け」

岸辺は、勉に封筒を渡した。

「二十万入ってる。いや〜いい住み込みのバイトがあって良かったな」

「なぁ、岸辺・・」

「なんだ?」

「康太、ここで働く事になったんだろ?」

「あぁ、保護としてな」

「・・・頼みがあるんだ。俺もここで働かせてくれ」

勉の頼みを岸辺は悩む事なく、即答した。

「駄目だ。理由はわからんでもないが、ここで正式に働くと言う事は、紹介者になるってことだぞ。お前にそれができるのか?」

「岸辺・・・・もしかしてお前も紹介したことがあるのか?」

「・・・いや、まだない。でもいつかは、そうなるかもしれない・・・でも、お前は出来ないだろ」

「・・・・」

「なら、駄目だ」

「俺も、高校をやめたら保護してくれるのか?」

「そう言う訳じゃない、康太の場合は、リアルウォーに支障がでるから、保護をしているだけだ。ただ、お前の事情では、例え親父さんが死んでもこちら側に、なんら支障は出ない。

だから、残念だが保護することはできない。ここにある、二十万でしばらくは、親父さんも助かる」

「そうじゃねー !!俺は、もう親父を楽にさせてやりてーんだ」


その時、奥の扉がガチャリと開き、康太が入ってきた。

「どういう事だ・・?」

岸辺は、また面倒臭いことになったぞと言わんばかりに頭をかきむしった。

「康太には、関係無い」

「おじさんが、入院してる事が関係あるのか?」

「え?なんで、知ってるんだ?」

「康太っ !!あの紙、見やがったな」

「ごめん、目にチラッと入っちまったんだ」

「クソッ・・俺の管理ミスか・・」

「なぁ、勉、おじさん、何かあったのか?岸辺 !!知ってるんだろ。教えろよ」

「俺からは、言えん」

しばらくの間、沈黙が続き、勉が話始めた。

「俺の親父・・今、死んだまま生かされてるんだ。意識が戻らないまま、自発呼吸もしていない。生命維持装置で何とか生きてる状態なんだ。過労が原因らしい。会社からは、毎月少ない金額だけど振り込まれてくる。でも、それだけじゃ生きてなんか行けない。母さんは、体が弱いから、そんなに働くことなんかできないのに、無理して俺を高校にまで、行かせて。

でももぅ、それは限界に来てるんだ。今までは、貯金があったから何とかなったけど、それも底をつき始めてる。会社から金は入ってくるけど、生命維持装置にも金がかかるんだ !!

しかも、会社は親父が死んだら金の振り込みを止めるって言ってきてる!!

・・・へ、変な、話だよな・・金がなる木の維持に・・その倍以上金がかかるんだ。

けど、親父の生命維持装置を外しちまったら金は入らなくなって、俺達の収入が無くなっちまうんだ。母さんは、やつれてきてると言うのに、俺は !!こんな所で、自分が生き残りたいがために人殺しをしてる・・」

「・・どうして、俺に相談してくれなかった。維持装置の方なら、俺が親父に・・」

「なら、お前は !!・・・お前の親父と面と向かって話ができるのか?」

「それは・・」



俺と勉は、小さい頃から、よく遊んでいた。俺ん家の父親は、家に帰ってくることはなく仕事だとは、わかっていても。全く帰って来ない父親に、不満はもっていた。父親は、いないものだと考えるほどだった。

父親の職業は、医者で、父親は病院を大きくする事に没頭していた。

母親も、そんなにアウトドアでは、なかった。でも、とても優しい母親だった。

だから、おじさんは、勉と一緒に俺も色々な所に、連れて行ってくれてた。

ウォーゲームも、おじさんの影響だ。おじさんは、プレイヤーだった。

その頃は、プレイヤーも観戦者もたくさんいた。試合に勝って、チーム全体で喜ぶ中、おじさんは、観戦席で見る、俺達に手も振ってくれてた。


「おじさん、凄かったね!!僕もいつか、プレイヤーになりたいな」

「康太がなるなら、僕もなる」

そんなある日の出来事だった。俺と勉は、おじさんの試合について話しながらの、帰り道だった。

「お前達がプレイヤー?そりゃ、楽しみだな」

「僕と勉のチームが、おじさん達のチームを倒すんだ」

「それは、困るな・・無敗伝説を、息子のチームに破られるのは」

「それじゃぁね、勉、おじさん」

俺は、夕暮れ時に電気が点いた、家の中に入って行った。

「ただいま〜、お母さん。今日は、すごかったんだよ。おじさんが、大活躍!!足を撃たれた仲間をかばいながら、おじさんが、敵をどんどん・・倒して・・いってさ・・」

家に入り、靴を脱ぎながらいつも通り母親が、料理をしている。台所に今日の出来事を語りながら駆け足で向かうと、そこには、料理をしているはずの母親が、片手に包丁を持ち、もう片方の手は、あるべき所には、付いておらず、倒れている母親の場所から離れた場所に落ちていた。

母親の周りには、血の池が広がり、壁には血が飛び散っていた。顔には、血の気はなく、真っ青で、俺は何が何だかわからなかった。

「お、かあさん・・?」

俺は、とっさに母親が握りしめていた包丁を取り両手で胸に抱えるように握りしめた。

すると、向こうで玄関の扉が開き、誰かがこちらに向かってくる音が、聞こえた。

ここにやってきたのは、スーツを汗まみれにし、息を切らせた父親だった。

父親は、この光景を見て固まっている。俺は、そいつが視界に入った瞬間、フツフツと怒りが沸いてきた。

お前のせいだ。お前が俺から、お母さんを奪ったんだ。

「・・人殺し・・・」

俺の声に少し反応しこちらに目をやった。俺は、包丁を父親に向け突進した。

父親は、目はこちらにやったものの、体が反応しなかったのか包丁は親父の右足に突き刺さった。

父親から、包丁を抜くと、そこから血が飛び出し俺の顔にかかり、目をつぶった。

親父の叫び声が聞こえる。生暖かい血を拭い目を開くとその場で足を抑え、うずくまる親父がいた。

俺は、包丁を再び掴み

「この・・人殺しーー!!」

両手で頭の上まで持ち上げ、親父を殺そうとした。振り下ろした包丁は、途中で止められ

気がつくと俺は、仰向けに倒され包丁は奪われていた。

「康太、馬鹿な事はするんじゃない」

俺を倒したのは親父の叫び声を聞いた勉のおじさんだった。

おじさんの顔を見ると、涙があふれてきて俺は、その場で倒れる父親をそのままにし、おじさんに抱きつきその場で大声で泣いた。


その後、父親と母親は救急車で運ばれ母親は死亡、父親は足に障害を持ってしまった。

自殺の原因は、俺がまだ小さいことから教えられなかった。それ以来、親父は家には、全く帰ってくることはなくなり俺は、しばらくの間、勉の家にお世話になる事になった。

けど、俺が家で待ってないと、母親が帰ってきたとき、俺がいないと淋しがるそう思い、俺は

勉の家には、親父が帰ってくるようになったから大丈夫だ。と説明し、誰もいない家に一人で帰るようになった。

おじさんとおばさんは、家に誰もいないことは知っていたんだろう・・・

たまに、様子を見に来てくれたりした。・・・けど俺には、その愛情が重すぎた。

「しつこいよ、おじさんもおばさんもっ !!俺はもぅ、大丈夫だから、もぅ来なくていい」

そう突き放しても、回数は減ったものの、おじさんとあばさんは、こっそりと様子を見に来ていた。

俺は、それが嫌で、家の窓と言う窓はすべて閉めきり引きこもるようになった。


引きこもって数か月が経ったか、まだ地面には、雪が所々、残っている時期、部屋で動かずにいると、

カン、カン、カン

と、窓から音が聞こえてきた。鳥か何かか?と思い、カーテンを開けると空き家だったはずの

隣の家に俺と同い年ぐらいかの女の子が立っていた。

そして、俺に向かって「窓開けてー」と叫んでいる。

窓を開けると

「私、隣に引っ越してきたの。中村 洋子って言うの、よろしくね。あなたのお名前は?」

正直、戸惑った。近所からは同情の眼差しで見られ一部からは避けられ、それが嫌で、家から出たくなかったのにこの子は、俺の過去を知らない普通に接してくれる。

「い、井上 康太・・」

少し戸惑ったが、それより嬉しかった。




「でも、おじさん達には、俺はかなりお世話になったんだ。おじさんを助けるためだったら、俺は親父に・・」

「違う、俺は、もう親父を楽にしてやりたいんだ。だから、母さんの給料だけじゃなくてもっと安定した、金が必要なんだ」

「・・・だったら、俺がここで働いた分の金を全部やるよ」

「そ、そんなの・・受け取れるわけないだろ」

「いいから、いつか返してくれればいいから」


そんな会話を、部屋の外で大次と五十嵐が、扉の横で座りながら聞いていた。

大次は、部屋に入ろうとした時、どこからか康太の叫ぶ声が聞こえ何事かと思い、叫び声がする部屋に近づき、その場で立ち聞きしていると五十嵐が、登場し大次が手招きし二人で立ち聞きをしていた。

「いい友情だね〜」

大次がそう呟く

「・・・康太と勉もそうだが、お前と裕大だってそんな感じだろ?」

五十嵐がそう聞いてきた。

「そんなんじゃねーよ。俺達は、互いに家庭の事情は、知ってるけど関わったりはしてない」

「そうか・・」

ここは、あえて深く聞こうとしなかったのは五十嵐の考慮か、ただ康太と勉の過去を知ったのに俺だけ話さないのは、不公平だ。

「俺は・・・俺には兄貴がいるんだが、父親が違うんだ。異母兄弟ってやつ・・?

兄貴の父親は、兄貴が生まれる前に事故で死んだらしい。その後、違う男と結婚したらしいんだが、その男は、実は死んだ親父の慰謝料とかが目当だったらしくて、俺を母親に身籠みごもらせておきながら金を持って、どっかに消えちまった。

それ以来、母親は誰も信じられなくなって、俺達にそんな思いは、させたくないと必死になった。俺達は、それに答えようと必死に勉強して立派な人になろうと頑張った。

・・・けど、年月が経つと、俺の顔に父親の面影が重なったのか、母親は、俺を恐れるようになった。

どんなに、テストでいい点を取ろうが、どんなに、先生に褒められた事を報告しようが、俺を遠ざけるようになって、兄貴ばかりを見るようになった。母親が、俺を遠ざけようとするなら、俺が母親から遠ざかろう。そう思った。

・・・それが、今の俺の家の家庭の事情。

裕大の方は、あいつは、両親がいないんだ。生まれてすぐに、施設に預けられたらしい。

そこには、いろんな事情で捨てられた子供がたくさんいる。そん中でも、あいつは最年長だ。

でも、そこの施設の管理人は、爺さんと婆さんだ。もう正直、先は長くない。

管理人がいなくなれば、金もなくなるし施設にいる子供達はバラバラになる。

だから、裕大は、この大会で優勝して優勝賞金を施設の運営に使おうと思っているんだ。

正直、俺も優勝賞金を手に入れたら、母親が俺の父親に取られた分の金を持って、金を母親の前に突き出して『俺は、あいつなんかの息子じゃない !!』って言ってやりたいんだ。

変だよな。所詮は、みんな戦っている理由は死にたくないのと金なんだ・・」

「あぁ、そうだな・・・」

しばらく沈黙の中、五十嵐が立ち上がり

「今日は練習はなさそうだな」

帰ろうとしていた。

「五十嵐、お前にも、そう言う過去があるんじゃないのか?話してみろよ、気が楽になるかもしれないぞ」

大次がそう言うと、五十嵐は立ち止まりしばらく黙ったまま動かなかった。

「・・・俺には、両親がいないと言うのは実は嘘だ。母親は今どうなのかは知らんが父親は生きている。俺は、そいつを殺すために生きている」

「はぁ・・・なんだよそれ・・?」

五十嵐は、そう言うとまた歩きだした。そしてその会話をすべて聞いていたのは、盗聴を続ける岸辺だけだった。


しばらくして、勉の父親の生命維持装置は、家族と康太が見守る中、外される事になる。




康太は、ガンズショップでの仕事を終え家に帰った。何も変わらず、部屋に入ると突然、家のブザーが鳴った。俺は、急いで玄関に行き念のためチェーンをつけた。

扉の向こうから、コツッ、コツッ、っと不規則な足音と松葉杖をつく音が近づいてきた。

扉の前につくと、そいつはドアノブを握り扉を開こうとしたが、開かなかった。

「何しに来た?」

康太は扉の外に立つ奴に声をかけた。

「康太、またID錠のナンバーを変えたな」

静かな落ち着いた声が扉をはさんで聞こえる。

「当たり前だ。あんたがIDを調べれば、すぐに変える。何の用だ、ここにあんたの居場所はない」

「高校を辞めたと連絡があってな」

「あんたには、関係無いだろ」

「あぁ、そうだな。ただ、一つだけ言わせてほしい事がある。康太がどんな人生を歩もうが私に引きとめる権利はない。ただ、今、就職しているガンズショップだけはやめてくれ・・・

あそこは、知らないかもしれないが、危険なんだ」

何やら知ってる口調に康太は驚いた。

「どうしてだ?」

「詳しくは、言えない・・・ただ、危険なのは変わりない、だからあそこに就職するのだけは、やめてくれ」

「あんたは、知っていたのか?」

「康太・・?」

「知っていて、何もしなかったのか !!」

「康太・・お前まさかプレイ・・」

「出て行ってくれっ !!ここにもぅあんたの居場所はない!!あんたの息子も、もぅいない !!」

扉の向こうの奴は、しばらく立ち尽くしていたが松葉杖の音は、段々と離れて行き聞こえなくなった。




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