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第八話 日常が壊れた

「お前ら、大丈夫か」

バスは、いつもなら駅前に止まるはずだが、けが人がいるからと言う訳でガンズショップに到着すると何人かの医者らしき人に混じって岸辺が血相を変え入ってきた。

「なんだよ、岸辺・・・そんなあわてた表情して、そんなんでいいのか?」

あわてる岸辺を見て大次が笑いながら言ってきた。

「あぁ・・いや、そう言う訳じゃないんだ。お前達が、戦い以外で死なれたら困るんだ。お前たちを保護するのも、俺の任務だからな」

「はぃはぃ、そうですね・・・俺達はどうせ商品ですよ」

岸辺は、それに対し何も言い返せない事に腹が立った。


意識の戻らない勉と足を撃たれた裕大は医者によって、ガンズショップの中に運ばれていった。

「岸辺、なんでガンズショップなんだ?」

「ん?お前ら、何のためにこの店には、ミーティングルームがいくつもあると思ってるんだ?犯罪者にはいい隠れ家で、俺達にとってはあそこで、十分生活ができるってわけ。

あ・・覗かない方がいいぞ。身のためだ」

大次は、なんやかんやと話しているが、康太は口数が少なかった。

「・・・ん?どうした、康太?もしかして、お前もどこか怪我してるのか?」

「なぁ、岸辺、もし俺らが死んだら、その死体はどこに行くんだ?」

「・・・原形を留めていなければ、その場で廃棄処分だ。だが、原形を留めていれば、銃弾なんかは、処理して医療大学なんかに、持って行く。まぁ、向こうに着くまでに銃弾処理とかしてると腕一本になっていたりする事も、あるらしいがな。訳有りの死体なんかは、向こうに持っていけば解剖して向こうで処理してくれる」

「そうか・・」

「おぃ、本当にどうした・・・カウンセリングでもやるか?」

「いや・・いらない・・」

明らかに様子のおかしい康太に全員がそう思っていた。岸辺は深いため息をついた。

「とりあえず、連絡することがあるから部屋で待ってろ」

岸辺は、そう言うとバスから降りて行った。


岸辺が、部屋に入ると全員が口を開かず、黙って座っていた。

「おし、それじゃ・・とりあえず。勉と裕大は、こっちでしばらく預かる。それとしばらく、試合はないと思ってくれていい。裕大の方は、家には連絡をつけておいたんだが、勉の方は、康太・・申し訳ないが、勉の家に伝えてほしい事がある」

伝えてほしい事を聞くと、康太は部屋から出て行った。


「康太・・大丈夫か?」

心配したのは大次だ。

「あいつ・・大切な人が目の前で死んだ幻覚を見たんだ」

「五十嵐、てめぇ、なんでそれを言わなかった」

大次が、椅子から立ち上がり五十嵐に掴みかかった。

「言ってどうする?立ち直るかどうかは、あいつ次第だ !!」

「だからって、放っておくのか」


にらみ合いが続く二人に岸辺は痺れを切らせた。

「二人とも落ち着け。お前等が、言い争ったって意味がないだろ」

大次は、掴んだ手を放し椅子に座った。

「・・・そうだ、お前ら、聞いて驚け!!おぃ、五十嵐。お前の狙撃距離の最高記録言ってみろ」

「2300・・」

「さっきな、俺・・2350出したぞ」

「そうか・・なら、さっさと2400の記録だして帰るか・・」

「え・・ちょっ・・マジで?」

五十嵐は、自分のライフルをロッカーから出し部屋を出て行った。


「くそっ・・・あの狙撃バカが、こんな状態でよくあんな事が出来るな」

苛立つ、大次に岸辺は静かに言った。

「そうでもないさ・・」

「あいつは、感情がないんだ。立ち直りが早いとかじゃなくて、落ち込むことがないんだ」

「俺も、狙撃バカだったからわかるが、あいつは、落ち込むと自分の記録を塗り替えてるんだ。落ち込んでる自分と決別するためにな・・・こんな、くそゲームをやる奴らなんて、みんな心に傷を持っている。みんなの前では、元気そうに振舞うお前みたいにな」

そう言うと、岸辺は部屋から出て行った。

「くそ野郎がっ!!」

大次は岸辺にすべてを見透かされているようで苛立ち、目の前にあった鞄を掴み壁に思いっきり投げた。



康太は、勉の家の前にいた。チャイムに手を伸ばそうとすると

「お兄ちゃん?」

そう言って、勉の弟が扉を開けて出てきた。

「よぉ・・・久し振りだな」

「・・・うん」

「おばさん、いるか?」

「待ってて」

そう言うと、家の中に戻って行きしばらくすると、おばさんを連れてやってきた。

「康太君・・久しぶりね」

「どうも・・お久しぶりです」

一礼し顔を上げると前は、笑うととても優しいおばさんだったはずだが、今は何かやつれているような気がした。

「やだ、そんなにかしこまらないで・・・あっ・・上がってく?」

「いえ、大丈夫です。勉から、伝言があってきました」

「伝言・・?」

「えぇ、ちょっと泊まり込みでいいバイト見つけたから、しばらく帰ってこれないそうです」

「あらやだ、そんな事しなくていいのに・・」

岸辺からは、それ以外に何も聞こうとはするなとは言われていたが、どうしても聞きたかった。

「あっあの、おじさんは・・?」

「あぁ、今は・・まだ帰ってきてないのよ・・でも、安心して、元気よ」

その言葉に、違和感を覚えたが、それ以上聞けなかった。

「それじゃ、これで・・失礼します」

「うん、それじゃぁね。またいらっしゃい」

「・・・はぃ」

俺は、静かに扉を閉じた。



「兄貴、兄貴開けてくれ」

大次は、英介の部屋の窓に向かって石をいくつか投げた。すると窓が開き、梯子が降りてきた。

「悪い、兄貴・・遅くなった」

「別に気にするな・・・・それより大丈夫か?この頃、帰りも遅いし様子もおかしいぞ」

「大丈夫、絶対に迷惑はかけないよ。それじゃ、俺もう寝るわ」

大次は、窓から窓に飛び移り、自分の部屋に入って行った。



あれから、だいぶ日にちが経った。学校は再開し、マスコミからは、野次馬に対しての暴力事件や、記者に数人の生徒が、掴みかかったりでだいぶ批判をされたものの、落ち着きを取り戻し始めていた。


ただ、クラスの様子は少し変わっていた。裕大と勉が来てないことは、他にもショックで学校に来ていない人がいるため誰も疑問には、持たなかったがいつもなら、生徒で賑わうはずの教室も人数が少ないせいか、落ち着いている。

五十嵐は、相変わらず、本を読んでいるが大次は、輪から外れ一人で席に座りほぼ放心状態だった。

そして、康太も輪から外れ龍之介が落ちてきたあの日のように五十嵐の席の横で窓から身を乗り出しずっと下を見ていることが、多くなっていた。


「ねぇ、康太?」

声に反応し、振り返ると洋子がいた。

「あんた、前より悪化したんじゃないの?大丈夫?」

「あぁ・・お前には関係無い」

そう言うと、また窓の下に目線をずらした。

「関係無いって・・人がどれだけ心配してると思ってるの !!」

洋子は、俺を窓から引きずり出した。その時、俺はこの前の記憶が、重なった。

洋子が俺に銃口を向けてる。なんで・・俺は、死にたくない・・死にたくない !!

「よせょ !!止めろ!!」

康太は、洋子の頬を叩き、洋子は周りの机に当たりながら倒れた。

一瞬、クラスは静まり返り女子からは、悲鳴と非難の声がとび洋子に駆け寄る奴もいた。

「康太 !!お前何してんだっ・・」

男子が康太に叫ぶが、康太は反応しない

「なんで・・なんで」

ただその言葉を繰り返し頭をかきむしりながら、その場で立ち尽くす。

すると、横で本を読んでいた。五十嵐が本を閉じ立ち上がり康太を思いっきり殴った。

そこでもまた女子の悲鳴がある。康太は吹き飛び、泳いでいた目もようやく元に戻った。

「気が付いたか?康太」

五十嵐が問いかける、ただ頷くことしかできない康太。五十嵐は、康太の肩を担ぎ

「おぃ、そこの」

そう言って、大次を指名し

「こいつを、保健室に連れて行くのを手伝ってくれ」

大次は、「わかった」そう言って片方の肩を背負い、ぐったりとした康太を連れ、教室から出て行った。


保健室に入ると、誰もいなかった。

「まぁ、好都合か・・」

康太をベットに放り込み反応を待った。

「大丈夫か?康太」

康太は、両手で顔を覆い隠し語りだした。

「あいつが・・この前の敵と重なったんだ。あいつを守るとか言っておいて俺が怪我させちまった。そんな俺って最低だよな・・・龍之介の時と同じだ・・やっぱり、俺は、ここにいちゃいけないんだ。俺は・・あいつのためとか言っておきながら、本当は死にたくないから戦ってたんだ。そんな俺に、あいつを守る資格なんてない」

何も言い返せないのは、大次も戦ってる本当の理由は、死にたくないからだからだ。

「俺は・・もうここにいる事はできない・・これ以上ここにいたらおかしくなっちまう。

・・・・・俺、学校やめるよ」

「な・・まてよ、そんな学校を」

「いいじゃないか、別に」

止めに入る、大次を五十嵐が止めた。

「確かに、これ以上ここにいたら気がおかしくなるのは、確かにそうだ。

大次だってそうだろ、戦場から次の日には、平和な学校生活、気がおかしくならない方がどうかしてる。それに、こういう事だって、今までにもあったんだろ?岸辺」

すると、全員の頭の中に岸辺の声が入ってきた。

『もちろんだ、お前達は、現実と非現実を行き来しているようなものだ。どちらが現実でどちらが非現実なんてわかったもんじゃない、実際に両方起きてるんだからな。だから、俺達がいるんだ。康太の保護もこちらでやるから、安心しろ』

「まぁ、そう言う事だ」

五十嵐は、保健室からシップとテープを一つずつ取り保健室から出て行った。

『大次も、もぅ教室に戻れ』

「クソッ、わかったよ」

岸辺からの指示で大次は保健室から出て行った。


五十嵐は、教室の扉を開けた。

「五十嵐君、どこに行ってたの!!早く、席に着きなさい」

社会の臨時の先生が、立場上ミスは出来ないからか、やけにピリピリし、なにやら叫んでいる。

五十嵐は、すぐ手前にいた男子に話しかけた。

「おぃ、他の女子どこに行った?」

「え・・?いやわかんねーょ。女子トイレじゃね?」

「おぅ、わかった」

そう言うと、五十嵐は扉を閉めた。

「五十嵐君 !!ちょっと待ちなさい」

先生はそう言いながら後を追おうとして扉の前まで来たが、開けようとすると扉があき、大次が現れた事に驚き、ヘニャヘニャと腰を降ろした。

「え・・・先生?あれ・・俺のせい?」


女子トイレには、洋子と他数名の女子が、洋子を励まそうとしていた。

そして、女子トイレの入り口に五十嵐が現れた。

「中村 洋子いるか?」

数人の女子に囲まれ、目を赤くし片手で頬を隠した洋子がいた。

「ちょっと、何の用よ」

一人の女子が前に立ちはだかる

「何って、怪我してるんだろ。保健室に連れて行くんだよ。ちなみに俺、保健委員だ」

「保健室には、あいつがいるんでしょ?行かせるわけないじゃないの」

「行かせるも何も、決めるのは、洋子次第だ。お前になんか、聞いてない」

五十嵐にとっては、睨んでるつもりは無いだろうが強い口調で、そう言われるた女子は、五十嵐から離れた。

「・・・私、行くよ」

「嘘・・なんで?」

「行かない方がいいって」

「大丈夫、大丈夫だから」

女子が止める中、洋子は五十嵐に近づいていった。




「あいつのした事、許してやってくれ」

保健室に向かう途中、五十嵐が、話しかけてきた。

「えっ?」

「いや・・だから、あいつもかなり反省してるし、かなり落ち込んでるんだ」

「うん・・大丈夫。いつもの、康太じゃないもん」

「あいつとは、付き合い長いのか?」

「えっ・・ただの幼馴染だよ。家がお隣同士なだけ」

「そうか・・あいつ何言うかわからないけど引きとめたりは、しないでやってくれ」

「うん、わかった」

「その手で隠してる、頬は腫れてるのか?」

「うん、ちょっとね」

「見してみろ」

「え・・でも」

「いいから、そのためにシップとかを、わざわざ持ってきたんだ」

洋子が手を外すと、見てわかるほどボッコリと腫れていた。

五十嵐は、その腫れに触れた。

「熱はまだあるみたいだが、腫れは引いてきてるな」

五十嵐の手は、ヒンヤリとしてて、やけにゴツゴツとしてた。

そして、シップを貼りテープで固定しようとした。

「え・・いいよ、恥ずかしいし」

「そうか?・・このぐらいやっておかないと、あいつショック受けないんじゃないかなって思っていたんだが?」

「いい、シップだけでいい」

「そうか・・」

すると突然、五十嵐が洋子の顔を見て思わず横を向き噴き出した。

「ちょっ・・今、笑ったでしょ」

「いや・・笑ってない。これは、くしゃみだ」

五十嵐は、口を隠し体が震えていた。

「笑ったでしょ、っていうか今も笑ってるでしょ」

「・・・あぁ、わかった。笑った、許してくれ。悪気は・・少しあった」

「何よそれ・・じゃぁ、許してあげるから、一つ聞きたい事があったの正直に答えて」

「なんだ?」

「いつも読んでる本あれって何?」

しばらく黙っていたが

「康太達には、内緒だぞ」

「うん・・いいよ」

五十嵐は、一呼吸おいて早口で

「実は、ライトノベルとか言う奴だ」

洋子は、しばらく、固まっていた。

「え?うそでしょ?正直に答えてって言ったじゃない。」

五十嵐は、ポケットから本を取り出しページを選び、洋子に見せた。

そこには、挿絵があり、その絵は、いわゆる萌えと呼ばれるような、絵が描かれていた。

しばらく固まっていた洋子が思わず噴き出した。

「アッッハハハ・・本当だった・・!!あ・・痛い、腫れが痛い」

「おぃ、あまり笑うなよ。腫れが悪化するぞ」

「うん、うん、ごめんね。わかった。結構な秘密、私握っちゃった」

目に涙を溜めながら、洋子は言ってきた。

「それから、あいつの前でもそのぐらい笑ってやれ」

「うん、わかった。ありがとう・・なんか元気出た」


そう言ってると、保健室の前に到着した。

「ここで待ってるから、また殴られそうになったら思いっきり叫べ。」

「わかった」

洋子は、そう言うと保健室に入って行った。



『なかなか、気の効いた事するじゃないか・・あぁ、安心しろ、お前にしか回線はつないでない』

岸辺の声が五十嵐に入ってくる。

「何の用だ?」

『いや、お前は、あいつのためにやったのか?それとも彼女のためか?』

「それも任務の一つか?」

『いや、気になってな』

「もちろん、あいつのためだ」

五十嵐は、教室に戻ろうとした。

『おぃ、待ってなくていのか?』

「あいつが、また彼女を殴る事なんてねーよ」


康太は、その日に高校をやめた。



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