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第四十話 命を奪う権限

地下のボイラー室に侵入した橋場との野々村からの通信が途絶えてから数分がたった。

「二人からの中間報告は?」

痺れをきらせた康太は部下に問いかけた。

「まだありません」

「妙だな・・・何かトラブルか・・・」

康太は、二人に何があったのか聞くため無線を手に取った。

「橋場、野々村応答しろ」

二人からの応答を待つが、いくら待っても返事は無かった。

「橋場、野々村」

二人からの返事は無く、司令室に不穏な空気が流れた。

『・・・井上、こう・・た』

二人の無線からはかすれた声で知らない男が返事を返してきた。

「二人に異状あり、救援を向かわせろ」

康太は知らぬ男の声に異状ありと判断し、急ぎ救援を向かわせた。

『井上康太・・・お前か』

乱れた息遣いで無線からは相変わらず声が聞こえてきた。

『二人なら・・・死んだ。・・・俺が・・・俺が殺した』

男の言葉に司令室にいる人間は信じられぬといった表情をした。

『井上康太・・・答えろ。俺は・・・こんな人間を殺してよかったのか・・俺が生きててよかったのか・・・』

康太は無線の男の正体に気付き、急ぎ無線を手に取った。

「矢吹、お前か」

『・・・・あぁ、俺だよ。信じられねぇか?』

「お前みたいな人間が何故・・・」

『俺みたいな?・・・俺をかいかぶるなよ、井上康太・・・俺は人は信じねぇ。俺はそういう人間だ。だが・・・始めて見た・・・他人の為に命を捨てる人間を』

無線から聞こえてくる矢吹の言葉からは恐怖に似た声がひしひしと伝わってきた。

「矢吹・・・」

『腕を負傷した人間を五体満足の人間が命を捨てて救った理由は何だ・・・俺には理解できない』

「矢吹・・・俺は前にも言ったはずだ。理屈じゃないと」

『理屈が無きゃ行動できるわけ無いだろうが!!』

「矢吹!だったらお前のお仲間はどうだ!どうやって死んだ!」

『俺に仲間はいねぇよ!!』

「いた!お前にはいたはずだ!」

『・・・・・』

「矢吹・・・俺は知っているぞ。翔、山城、三島。お前には仲間がいたんだ」

『・・・俺を裏切った奴等だ。俺を見捨てた奴等だ!』

「見捨てただと?・・・ふざけるな!だったら、なんだお前は生きてる!何でお前が生き残って俺と会話をしている!」

『それは・・・』

無線の向こうからは動揺する矢吹の声が聞こえてくる。

「矢吹・・・お前は俺の部下を何人も殺した。俺はお前が憎い・・・殺してやりたいぐらいだ。今、お前が自殺しようとしてるのなら、それを止める気もさらさら無い。だがな」

『・・・まるで、俺に守るべきものがあるみたいな言い草だな・・・』

「お前こそ、守るべきものが無いみたいな言い草だが・・・お前にはある。お前には妹がいるはずだ」

『意識が戻ることは無いって言われたよ。・・・死んだようなもんだ』

「戻る。お前の妹さんは意識を取り戻す」

『何を根拠に・・・』

「いったはずだ。理屈じゃないんだよ・・・俺は勉を20年間待ち続けた。そしてあいつは戻ってきた」

『理屈じゃないのかよ・・・』

「あぁ、だが断言できる。妹さんは意識を取り戻す。絶対にだ」

『・・・ハッ、くだらねぇ。言ったはずだ。俺は理屈でしか行動しない・・・だが、信じるのも悪くは無いか・・・』

「そうだ。信じることがお前にとって大きな一歩だ」

『・・・俺は疲れた・・・少し・・寝る』

弱弱しくなる矢吹の言葉は最後にそういい残し、それ以降、矢吹から返事が帰ってくることは無かった。







「救護班を出せ。今の奴に反撃できるとも思えん」

矢吹からの応答が途絶えたあと、康太は部下へ指示を出した。

だが、救護班に指示を出す前に返事が帰ってきた。

「その必要は無い」

そういいながら司令室のある簡易テントに手に持った銃を洋子の頭に突きつけた五十嵐が入ってきた。

「・・・五十嵐」

「こうやって実際に会うのは久しぶりだな。康太」

「救護班を向かわせないとはどういうことだ」

態度は落ち着いて見える康太だが、声は明らかに五十嵐に対し怒りをあらわにしていた。

「・・・だから、お前は優しいんだ。敵に情けをかけるな・・・だが、今回は訳が違う。俺が行く」

五十嵐はそういって洋子に突きつける銃をアピールして見せた。

「人質に紛れて現場から離れたか・・・五十嵐、こうなる事を全て予想していた!そうだろ!」

「・・・・常に最悪の事態を想定する。それだけのことだ」

「お前にとっては仲間も駒の一つか、五十嵐」

「駒だ。だが、仲間だ・・・ただの駒と一緒にするな」

「だったら、お前は!どうして、なんな不完全な子供を兵士として使った!・・・あんなにもがき苦しんでる餓鬼の側に、どうしてお前がいない!」

「・・・・」

「五十嵐・・俺はお前を敵だったとしても仲間だと信じてた。これ以上俺を幻滅させるな」

康太の言葉に五十嵐は少し驚いたかのような表情を取り、小さくため息を漏らしながら口を開いた

「仲間か・・・・康太。お前は俺の親父と同じようなことを言うんだな」

『仲間と味方は違う』五十嵐の父、岸辺悟の言葉が康太の脳裏に浮かんだ。

「そうだな・・・そうかもしれないな。俺はあいつ等のことを心のどこかでは味方だと思っていたのかもしれない・・・」

ため息混じりに、視線を逸らしながら答える五十嵐の姿に康太は体が熱く燃え上がるほど怒りがふつふつと湧き上がるのを感じた。

体が震え握った拳が解けない。

「五十嵐っ!」

こみ上げてくる怒りは、腰に差した銃を手に取り五十嵐に向けるという行為をとらせた。

「答えろ五十嵐!お前は俺の仲間だと信じていた俺は間違っていたのか?」

「康太。俺達は敵同士だ。敵には情けはかけるな。例えそれが仲間でもだ」

五十嵐の態度にまだ言い足りないことが山ほどあり口を開こうとするがいい言葉が出てこない。

悔しくて歯がゆくて口を開きたいが歯軋りしか出来ない自分が情けない。

「・・・・いいだろう。五十嵐。救護班は向かわせない。お前をあの建物に入るまではこちらは一切手を出さない。それでいいか?」

「足りないな。建物内から全部隊を撤退させろ。撤退する部隊の中から一人を選べ。そいつに建物の入り口付近で人質を引き渡す」

「人質を手渡した時点で俺はお前を殺していいのか?」

「いや・・・そうだな。一時間ぐらい時間をくれ、そしたら投降する。俺達の戦いはこれで終わりだ」

「一時間だな?」

「あぁ、一時間だ」

「・・・わかった」










建物の中央ロビーで今だ激しい戦闘を繰り広げる長谷川と小早川達に休戦の無線が届いたのは、彼等のやり取りが終わってから数分たった後だった。

『長谷川。進行中止だ。一度引け』

「ん?」

長谷川は両膝をつきながらも今にも食って掛かるぞと言わんばかりの目をした小早川の額に銃口を向けながら無線に出た。

「進行中止ってのはどういう意味だ?長官」

『今から人質を連れたまま五十嵐がそちらに向かう。お前は人質を入り口付近で受け取り人質を保護したまま本部へ帰還しろ』

「・・・怒ってるのか?」

『下らん詮索は止めろ』

「了~解。本部へ戻る」

そういうと長谷川は無線を切り、小早川へ視線を戻した。

「命拾いしたな。俺、女性には優しいんだ」

見下したかのように笑う長谷川に小早川はまるで犬のようにうなり声を上げ長谷川をずっとにらみつけたままだった。

「それともあれか?これが武士の情けってやつなのかな?俺が解釈してやろうか?」

「殺すならさっさと殺せ!」

「それがお前の望みというのであればな」

「もう両腕も動かない。血を失いすぎてまともに動けない。これじゃ死を待つだけの哀れな狩人だ」

「腕は治せば動く。血が無いなら輸血すればいい。それなのにお前は死を選ぶのか?」

「今この場で動けなきゃ意味が無い。お前を殺せない!」

「・・・・お前、もしかしてあれか?」

「何よ!」

「今まで負けたことが無いのか?」

「・・・はぁ?」

「馬鹿だな。負け=死だとでも言いたいのか?負けて生きるってのは儲けもんなんだぜ?やっぱ止めた」

長谷川は銃口を小早川から外し、スーツの中へ銃を戻した。

「お前は負けを実感し、悔しさを噛み締めろ。そしたら、お前はもっと狂犬らしくなれる」

最後にそういい残し、長谷川はロビーから去った。








建物から出た長谷川は本部から建物へと向かう二人の姿を捉えた。

一人は銃を持ちその銃を前を歩く女性の背中に向け銃を向けられた女性は何もしゃべらずただ黙々と歩みを進めていた。

「あれが人質か・・・」

長谷川は黙々と歩く洋子から視線をずらし洋子の後ろを歩く男へと目を向けた。

大きなサングラスをし表情は一切変えない。

康太と同様に年を感じさせないほど威圧感を放つ男。

「・・・あんたが五十嵐か」

長谷川の言葉に五十嵐は歩みを止め長谷川の方へ目をやった。

「誰だ?」

五十嵐はこちらに視線を投げてはいるが長谷川の姿を本当に捉えているのか長谷川は違和感を感じた。

「俺の名前は長谷川だ。長官の話だと、俺の親父とあんた等は一緒に戦ったことがあるんだろ?」

「長谷川・・・まさか、お前、ハセさんの息子か?」

五十嵐の言葉に、長谷川は少し驚いたような表情を見せ、その後少し誇らしげに笑って見せた。

「そっか・・・俺の親父ってのは家族を崩壊させサイッテーな野郎だってのに・・・・あんた等プレイヤーから見たら一目置かれてた存在だったっってことか・・・」

「そうか、ハセさんの息子か・・・あの人は最後の最後までみんなのことを想い、みんなを庇うような戦い方をする人だった」

「まぁ、俺の中ではサイッテーな親父ってのには変わりないがな。だが・・・少し気が楽になった」

長谷川は肩をならしながらそんな言葉を呟きながら「さてと」と話題を変えた。

「ってか、さっきからさ洋子さん喋ってねーけど、あんた等グルなんだろ?なんで一言も喋らねーんだ?」

長谷川は洋子を指差しながら問いただすが、洋子はそっぽを向き沈んだ表情をさらに暗くさせた。

「・・・おーぃ、無視かい」

長谷川の言葉にそっぽを向く洋子は本当に聞こえるか聞こえないくらいの声で「うるさい」と呟いた。

長谷川の耳にそれが届いたかどうかは知らないが長谷川は視線を五十嵐に戻し話を進めた。

「それで?人質を俺はどのタイミングで引き取ればいいのかな?」

「それもそうだな・・・今でいい。後は一人でいける」

五十嵐はそういうと洋子の背中を押し長谷川の方へ洋子を突き放した。

不意を疲れた洋子は砂漠に足を取られながらよたよたと長谷川の方へ歩み寄り最後に「ふぎゃ」と砂漠に倒れこんだ。

五十嵐と長谷川は互いに銃を向け合いお互いに一切隙を見せることは無かった」。

「一時間後だ。一時間の猶予をくれ。そしたら武装を放棄し投降する」

「あいよ・・・同志と戦うのはもうこりごりだ。この戦いは何も生まない」

「その通りだ。これで終わりにしよう」

五十嵐はそういうと銃を下ろし建物の方へと進んでいった。

一方、倒れこんだまま動かない洋子は離れていく五十嵐の足音を聞きながらも決して五十嵐の方を向こうともせず、目には涙を浮かべているようにも見えた・









建物の中に入っていく五十嵐の姿をモニター越しに見ていた康太だがテントの外がなにやら騒がしいことに気がついた。

その騒がしさの元凶は次第にこちらに近づき、簡易テントの扉を開けて入ってきた。

「状況はどうなっている」

黒い髪を後ろにまとめビシッとしたスーツを羽織ったおっさんが現れ、その男を康太は「官房長」と呼んだ。

「状況はどうなっていると聞いている」

「現在、五十嵐が最後の人質を解放し同志が篭城する建物に入っていったところです」

「なるほど・・・それで?これからの対応は」

「五十嵐の要望で一時間の猶予が欲しいと・・・一時間後奴等は武装を放棄するとの約束です」

「それを鵜呑みにしたと?」

「えぇ・・・まぁ」

官房長官は椅子に座る康太を見下ろしながら口を開いた。

「君は、どうやら何か勘違いをしているみたいだね」

「はい?」

「君たち特殊部隊は国の脅威になるものを排除するために設立された部隊だ。今、あの建物には国の脅威となる者が篭城している。体内無線の中枢が破壊された今、あの建物に戦略的価値は無い」

「・・・・」

「言いたいことはわかるね?」

「・・・わかりません」

「ならば端的に言おう。あの建物ごと奴等を葬り去りたまえ」

「全員、一時間待機だ。体を休めておけ」

官房長の言葉を無視し、康太は椅子に深く腰を落ち着け画面に再び目を戻した。

「井上康太。上司の命令に逆らうというのか?」

「俺は総理大臣直属の部隊長だ。あんたに発言力は無い」

「総理大臣の不正が発覚した今、権限は全て官房長官である私にあるのだよ」




「何が権限よ・・・」


そういって入ってきたのは怒りをあらわにした洋子だった。

「何が権限よ。ふざけないで・・・」

官房長官をにらみつける洋子を官房長は鼻で笑い洋子から目を逸らした。

「人質風情が・・・ストックホルム症候群にでも陥ったか」

「違う!・・・とも言い切れないけど、あなたに彼等の命を奪う権限なんて無い。それだけは言い切れる」

「権限ならある。私がいまやこの国の統率者だ」

「この国が彼等同志を生み出したんだってことを忘れたかぁ!」

「なっ、貴様・・・」

「リアルウォーを再び作り出したのは誰?同志を生み出したのは誰?・・・諸外国と張り合うために経済力が必要だった?砂漠化が進むこの国が先進国としてのプライドでも欲しかった?面子を保ちたかった?あんた等の下らない傲慢が彼等を生み出したのよ」

洋子は胸ポケットからぼろぼろになったメモ帳を一つ取り出した。

「ここには彼等同志の一人一人の想いが込められている。官房長、あなたが五十嵐君にこれまでさせてきた事も事細かに書いてある。彼等全員を葬り去って自分は煙に巻かれるって魂胆だろうけど、それも無駄なことよ」

「貴様・・・そんなことしてみろ。貴様等の会社はただじゃおかんぞ」

「ゴシップ記者舐めんなよ。こちとら営利目的で働いているわけじゃねぇんだよ『常に国民に真実を』これが弊社の社訓だ!」

洋子の威勢にしり込みをす官房長を見て、康太は思わず大声で笑い出した。

「ハハハッ、傑作だ!国民一人に泣く子も黙る官房長が尻込みするとは・・・あんたの化けの皮も剥れてんだ。てめぇのことは後でじっくり調べてやるからよ。今は黙ってろ」

「井上康太・・・貴様、私の紹介で長官になったことを忘れたとは言うまい」

「だからなんだ?あんたの娘が俺の嫁だからなんだって言うんだ?・・・まさか見逃せとでも?ふざけんなよ、クソ爺」

こちらを見てせせら笑う康太の姿に官房長官の額には脂汗がにじみ出る。

「確かに、あんたは俺達に指示を出す権限はあるかもしれない。だがな・・・・あんた等、悪党にやつ等の命を奪う権限なんてない」






最後まで読んでいただきありがとうございます。

ついにここまで来ました。

いや、ようやく到着地点が見えてきました。

もともと考えていた到着地点からはかなり離れておりますが、ようやく着陸できそうです。

あとは着陸許可をですね・・・何言ってんだ?ホント。。。


いやー、俺達の戦争2を書き始めたのが昨年の10月ですからね。

約半年?・・・半年!?

嘘だろ!?えっ嘘、あれ?



・・・と、まぁ掲載してからずっと読んでくれてた人とかいるのかな?

もしもいたとしたら半年間もこんな私の変な妄想話に付き合っていただきありがとうございます。

あと二話で最終話です。ホント自己満みたいなしょーもない話ですが、最後まで読んでいただけるとうれしいです。



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