第三十八話 最後の戦いを始めよう
「俺の声が聞こえるか?・・・この無線は体内無線の全ての回線に展開して発信している。数分間だけでいい、俺たちの声に耳を傾けてくれ」
街行く人々は、突然体内から聞こえる声に歩みを止め空を見上げるかのように上の方を向き、彼の言葉に耳を傾けた。
官邸にいる総理の前に置かれた無線機からもその声は流れ始め、五十嵐の声に康太は「始まったぞ」と無線機に耳を傾けた。
「十数年前、俺達はある事件に巻き込まれた。この事件をきっかけに俺達、同志が生まれた。だが、とある高校生達によって俺達同志は目的を果たし解散した。
だが、俺達は再び集結した。何故だかわかるか?・・・・あの忌まわしい事件が再び繰り返されているからだ。
リアルウォー・・・再び繰り返してはならない。誰もがそう考えたはずだ。だが、再び繰り返されている。
リアルウォーは存在しない?誰がそんなことを言った?総理か?井上康太か?・・・なら聞こう。何故俺達が再び出てきた?
何故俺達はこの国で武器を持ち、この国を脅かす存在として登場することが出来た?
俺達同志は存在することが出来て、何故リアルウォーが存在しないと断言できる?
答えは簡単だ。誰も答えを探そうとしていないだけだ。誰も見ようとしていないだけだ。
誰もが知っているはずだ。リアルウォーは存在していると・・・
だが、誰も言葉にすることが出来なかった。いや、言葉にするつもりすら無かった。
誰かがやってくれる。誰かが行動を起こしてくれる。後はその人たちに任せればいい。そう考えていたはずだ。
そう。全ては他人事。自分には関係の無いことだと思って、誰も行動にしなかった。
その結果がこれだ。今の現状を理解しているか?憲法9条が無くなり、いまや総理に絶対的な権限を与えている。軍を持たない国が、いまや軍を所有している。
他人任せにしていた結果がこれだ。
ごく一部の人間に任せたことで、リアルウォーが再建され、俺達同志が再び生まれた。
今の政治は駄目だ。あいつは駄目だ。時代が悪い。
陰口を言うのは簡単だ。だが、その現状を誰も変えようとしない。・・・そんなんで本当にいいのか?
たったの数十年だぞ。俺達はあの事件をきっかけにあの事件を繰り返さぬようにと心から誓ったはずだ。
だが、繰り返されている恐れがあると知ってもなお、誰もそれを見て見ぬ振りをした。
俺達は悪の存在か?ごく一部の人間か?・・・俺達が消えれば全て解決なのか?
違う。俺達が消えて、全てをうやむやにしたままだと次に被害にあうのはお前達だ。そして、誰もが見て見ぬ振りをする中、影で助けを求めながら死ぬのはお前達だ。
・・・誰かが、誰かで終わらせる必要があるんだ。その誰かとは誰か・・・それはお前達だ。
頼む、ごく一部の人間の戯言で終わらせるのではなく、全体の問題として今回の出来事を見てほしい。
見て見ぬ振りをするのではなく、この問題について自分なりに答えを見つけてほしい。
俺達はこれより、体内無線の機能を全て抹消する。これによって恐らく情報が混乱するだろう。だが、これを壊すことによって俺たちの頭に埋め込まれた爆弾の機能は全て抹消される。
言っている意味がわかるな?ごく一部の人間に告げる。この無線をきり次第、俺達同志は体内無線の全機能をシャットダウンさせる。お前達は自由だ。呪縛から開放されることとなる。
聞いてほしい。俺たちのような行動を取れとは言わない。だが、口を揃えていってほしい。リアルウォーが存在していることを・・・・
そして、全員が耳を傾けてほしい。それは事実だ。現実から目をそらすな」
五十嵐が無線を切ると同時に、矢吹と小早川は最後の一室に突入し、誰もいない機械室を破壊しつくした。
これまでの憎しみを怒りを全て吐き出しながら銃弾を放ち手榴弾を投げまくった。
機械音がなり続けていた機械室は次第に音が弱まり静寂がもたらされた。
体内無線が完全に機能しなくなり、その異変に誰もが戸惑いを見せた。
そして、ごく一部の人間は自分の手首につけられた発信機に恐る恐る手を伸ばした。
外せなかったはずの発信機は、ポロリと簡単に取れ彼等はルールを破れば即死亡という縛りから開放されることとなった。
「ハハッ・・・自由、自由だ。・・・・自由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
街角で喜びはしゃぐ彼は遠くで自分と同様に喜びはしゃぐ存在を見つけた。
本来であれば、互いに銃を向け合い殺しあうはずの存在だが今は違う。自由の身となった彼等は喜びを分かち合い互いに肩を抱き寄せ合った。
そして、彼等は周りの人間にも聞こえるような大きな声で言った。
「リアルウォーは存在する!俺達が生き証人だ!!」
これまで体内無線で情報伝達をしていた官邸では、決して鳴ることの無かった電話が至る所でなり始め、その電話の内容は、至る所に同志が出現し始めたということだった。
「そうか・・・わかった・・・」
総理は、受付からその情報を聞くと受話機を戻した。
「お前等・・・なんてことをしてくれたんだ・・・」
諦めに似たため息を漏らしながら総理は康太たちに言った。
「体内無線の中枢は極秘だ。どうやって調べたんだ・・・」
「人質を乗せたトラックを破壊するだなんて極秘任務は、表立った人間に出来るはずが無い。なら裏に繋がりがある人間が出ると踏んだ。後をつけたら案の定だ。お前達の行動が裏目に出たんだよ」
『俺の部下を必要以上に追いかけたのもそれが原因だろ』
総理の言葉に康太と五十嵐が答え、その答えにより一層深くため息を漏らした。
「残る蛇の頭は俺一人ってか・・・」
「死のうだなんて考えるなよ。うやむやにされて黙ってるほど俺達は優しくない」
「わかってるよ・・・お前達を怒らせりゃどれほどのものか・・・俺達は十数年前から知っていたんだ」
「一つ、聞きたいことがある。・・・何故俺たちを再び舞台に立たせた」
「・・・それを説明するには何故リアルウォーが再び始まったのかを説明しなきゃならない」
「大体予想はつくがな・・・この国はリアルウォーに依存しすぎたんだ」
「その通りだ・・・何兆円もの借金大国が第一次リアルウォーの算出により他国に対する軍事介入もせず借金を返済していたんだ。返済が終わればこの国はリアルウォーなんて馬鹿げたゲームは終わらせるつもりだった。
だが、この国は欲に手が出た。一瞬にして借金が返済され、奴等は国益としてリアルウォーの存続を決めた。豊かになる反面、リアルウォーの算出に依存するようになって抜け出せなくなってしまった。
誰一人としてそれに対する危機感を持ち合わせていなかった。
そんな中、お前達が第一次リアルウォーを表に出した。ようやく奴等も危機感を抱いたが、すでに手遅れだった。この国は依存しすぎたんだ・・・その付けが回ってきたのが俺が政治に参入したときだった」
「・・・つまり、あんたが始めたのか・・・あんただって元プレイヤーだろ」
康太の銃を握る手が怒りに震えだした。
「仕方が無かったんだ・・・としか、言い訳が出来ない。こんな小国が世界と肩を並べるためにはそれしかなかった。プレイヤーとしての想いか愛国心か・・・俺は愛国心を取った」
「ふざけるな。国民を犠牲にするゲームのどこが愛国心だ」
「一定の期間だけでよかったんだ。俺達が依存をなくすまでの一定の期間でよかったんだ・・・」
「そんなことの為に・・・島さんや他の人間が犠牲になったんだぞ・・・」
『康太、それは国を守るべきお前が言う言葉じゃない。俺達が言う言葉だ・・・それで、俺達は何故舞台に立たせられた。俺達がこういった行動を取ることは判っていたはずだ』
「・・・わからん」
「あぁ?ふざけるなよ」
肩をすくめる総理の態度に、康太は思わず一歩前に出るが総理はそれを鼻で笑った。
「わかんねぇもんはわからねぇんだ・・・みんなの反対を押し切って俺がお前達を呼んだ。今にして思えば、エスカレーターのように進んでいった俺の政治人生で初めてレールから外れたのがそれが初めてだ。
もしかしたらプレイヤーとしての想いが生き残ってたのかもしれないな・・・・止めを刺してくれってな」
総理は全てを吐き切ったかのように深くため息を漏らし腕を伸ばし背筋を伸ばして康太の方を向いた。
「もういいだろ。ここで全てを話す必要は無いはずだ・・・ちゃんとした場所で全て話すよ」
総理の表情に曇りは一切無く、どうやら縛られていたのはプレイヤーだけではなく総理もまたプレイヤー同様にしがらみから開放されているかのように見えた。
康太は銃を下ろし、無線を手に取った。
「五十嵐・・・俺達の戦いはこれで終わりだ。武装を放棄してくれ」
『・・・・康太、わかってるだろ』
「リアルウォーはこれで壊滅した。同志はこれで解散、それでいいだろ!」
『康太・・・そう思うのは主観でこの物語を見ていた人間だけだ。客観的に見たら俺達は何をした。俺達同志がしてきたとされる事件は何だ。電波等の破壊、同時刻に駅の爆破。無差別殺傷・・・それを皆が許すと思うか?
お前の部下だってそうだ。俺たちと戦い、多くの戦友を失くしたはずだ。それを許せるか?・・・俺達はけじめをつけなくてはならない』
二人の会話に、総理が思わず割って入ってきた。
「待て、五十嵐。駅の破壊工作は我々がやったことだ。君達がかぶるべき罪ではない」
『だからといって、俺達がこれまでしてきた事を水に流すというのか?許して野放しにして、同志という存在に怯えて暮らせというのか?』
「それは・・・」
『あんたには全てを打ち明けなければならない義務がある。だが、その前にやらなければならないことは、リアルウォーと同志の壊滅だ』
「五十嵐・・・お前、死ぬつもりか」
『元々計画のうちに入っていた事だ。今のところ順調だ』
総理は五十嵐の言葉に思わず康太の方を向いた。
「五十嵐・・・その計画は初耳だ」
『あぁ、お前には言ってなかったか?すまんな忘れてた』
「忘れてたですむ問題か?」
『だが、うすうす感じていたはずだ。康太、俺とお前は趣旨が違う。俺はこの国を滅ぼすために同志を立ち上げた。俺達は、このまま暴れ続けるぞ・・・この国を守るべきお前はどうする?』
「だが、お前の部下には・・・まだ二十歳にもいっていないやつもいたろ・・・そんな子供まで俺たちに殺せというのか?」
『・・・もぅ死んだよ』
「・・・・」
『康太・・・言い方を変えよう。俺達はこの国を恨んでるんだ。全員がかけがえの無い存在を失った。仲間も失った。リアルウォーが存在していたか否かなんてどうでもいいんだ。
俺達はこの国を滅ぼす。リアルウォーの公表だなんてただの通過点に過ぎないんだよ・・・』
「五十嵐・・・」
『最後の舞台は俺達が飾る。最後の戦いを始めよう』