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第三十五話 共同戦線

「もう隠す必要も無いだろ」

康太はそういい橋場たちがいる目の前で同志達と唯一のホットラインである無線機とパソコンを繋いだ。

するとパソコンの画面上にとある部屋が映し出された。

「長官・・・これは?」

「同志の潜伏先だ。場所の特定も出来ている」

「長官、やはり同志とつながっていたんですね・・・」

「初めからじゃない・・・この無線機を手に入れてから俺は五十嵐と情報共有を行っていた」

橋場の質問に答え、康太はパソコンに向けて声を発した。

「五十嵐、そこにるか?いたら返事をくれ」

だが、向こうから返事はなく、しばらく待つとカメラの向こうにタイヤキを口に運ぶ洋子がカメラの前を横切った。

その姿に呆れた康太はため息を漏らし、そのため息に気づいた洋子は無線機を手に取った。

「あれ?もしかして康太?」

「洋子・・・頼むからタイヤキを捨てて、羞恥心ってのを持ってくれ」

「はぁ?」

「カメラが繋がってるんだよ・・・俺の部下も一緒にいる」

康太の言葉に、洋子はタイヤキは捨てることなく後ろに隠し、カメラの電源を落とした。

「洋子!!てめぇこの野郎!!俺は五十嵐に用があるんだ!さっさとカメラを起動して、五十嵐を呼んで来い!」

「は~い」

洋子はそういうとカメラを起動することなく、部屋から出て行く足音だけがパソコン上から聞こえてきた。

「あぁ、くそ・・・調子が狂う」

康太は頭を掻きながら頭を抱え込んだ。


しばらく経つと、カメラが起動しカメラの前に五十嵐の姿が映し出された。

「待たせたな」

「よぉ、五十嵐」

「お前からの荷物はすべて受け取った。もぅ連絡することは無いと思っていたんだが・・・」

「お前の部下からもらった情報が役に立ったんでな。そのお礼を兼ねて、状況報告をしようと思ったんだ」

「矢吹のことか・・・・島さんは?」

「死んだよ・・・」

「そうか・・・」

「だが、栄誉の死だ。俺達に決定打を与えてくれた。これから、総理の下へ赴く」

「・・・その様子だと、まだ状況を理解していないみたいだな」

「なんのだ?」

「奴等にいっぱい食わされた。康太・・・お前と矢吹達がいるところを撮られた」

「馬鹿な・・・お前の部下は顔が割れていないだろ。たとえ映像が撮られたとしても同志と断定することは出来ない」

「だが、テレビは違う。矢吹たちの表情にはモザイクが入れられ、全テレビ局で同志と思われる人物と接触する井上康太として大々的に放送されてる」

「くそっ・・・一体誰が・・・」

「悪いな・・・おそらく俺の部下だ」

「はぁ?」

「お前のことを個人的に恨んでる奴が一人いてな・・・おそらくそいつの仕業だ」

『俺が決定打を打ってやるよ』という矢吹の言葉が康太の脳裏に浮かび上がった。

「あの糞餓鬼・・・」

「まぁ好都合っちゃ好都合だ」

「何がだ?」

「これから乗り込むんだろ?俺達は堂々とお前を援護できる」

「だが、問題はその後だ。俺達の計画じゃ、俺の身は潔白でなくては困る」

「勝てば官軍、負ければ賊軍だ。潔白も糞も無い」

「つまり、これが俺達の最後の戦いってことになるな」

「そうだ。負ければ、すべてが終わる」

「それなのに俺は主戦力である島さんを失っちまったのか・・・」

「戦力はいくつだ?」

「かなり厳しい・・・俺を含めて10人もいない・・・声をかけて来る奴を数えても20を超えるかどうか」

「おそらく向こうも総攻撃を仕掛けてくると踏んで、厳重に警戒しているだろうよ・・・」

「そっちの人数は?」

「俺も戦力にいれていいなら・・・15だ」

「たったの30で敵の頭取りに行くって言うのかよ・・・くそっ」

「康太・・・俺達は昔、たったの5人で敵のアジトから脱出した。今回は30人もいるんだ。俺達ならやれる」

「はぁ・・・まぁ頑張ってみるか・・・」

「それと・・・最後になるかもしれないからなお前に一つ報告がある」

「なんだよ。お前らしくも無・・・い」

冗談を飛ばそうとした康太だったが画面に映る五十嵐の横に松葉杖をつきながら現れた男に康太は思わず言葉を失った。

「・・・ははっ・・・マジで康太だ・・・老けたな」

「嘘だろ・・・勉?」

「五十嵐から全部聞いた。俺達の最後の戦いだってのに、意識失ってるわけにはいかないからな。蘇ってきた」

画面に映る勉の姿に康太はうまく言葉が見つからず目を泳がせる姿に勉は思わず笑って見せた。

「やっぱり康太はいつになっても変わらないな」

勉はそういうと五十嵐にバトンタッチした。

「・・・康太」

「なんだ」

「また共に戦える事を誇りに思う」

「あぁ、俺もだ」

「以上、通信終わり」







「これより俺達は同志にとらわれていた人質を救出に向かう。武器は必要ない・・・奴等はアジトを放棄した」




「人質を発見。体力は衰えているが健康状態に問題なし」




「第一小隊から本部へ。人質と共に帰還。これより本部へと向かう」






トラックの荷台に救出した人質を乗せ、市街地を走り続けていた。

運転席と助手席に座る隊員は、長い道のりに集中力が衰え時々あくびを掻きながら運転をしていた。

だが、後頭部に突きつけられる重たい鉄の塊と冷たい金属音に二人の緊張感は一気に倍増した。

「人質の身分確認を怠るってのはやっぱダメだと思うぜ。クズどもが」

人質の中に紛れていた矢吹たちは、二人に銃を突きつけながら予定通りのルートを走らせた。




「本部へ通達。荷物がきた。計画決行の合図を待つ」

「すべてはこの国の繁栄の為、君の引き金が未来を作ることを願う」

「了解。荷物を破棄する」

市街地を走っているトラックに対し、屋上に身を潜めていた一人の男がロケットランチャーを取り出し狙いを定めて引き金を引いた。

屋上の上から放たれた弾丸はトラックを貫通し、その瞬間に市街地の真ん中で大爆発を起こした。

周囲は、悲鳴と混乱する人々であふれた。

「荷物の破壊に成功。これより帰還する」




「見つけた」

「うん、見つけた見つけた。屋上に一人・・・殺していいんだっけ?」

「駄目よ。そんなことをしたら、隊長に怒られる」

「矢吹、後はよろしく」

トラックを破壊した男を見つけた小早川兄弟は、離れた場所にいる矢吹に無線で伝え無線からは「了解」と短く声が入った。

パニックになる人々の中にいた矢吹は屋上から降りてきた男の後を追い、その場から離れた。

「私達も移動するわよ」

「了~解」
















トラックを破壊した男はとあるマンションの一角に入るところを確認した。

「蜘蛛の巣を発見。これより巣より離れる」

矢吹は、人ごみの中に紛れその場から離れるが、その姿を数人の男に見られていた。

人ごみを分けて歩く矢吹の後を数人の男が追いかけた。

信号が点滅中のスクランブル交差点の中を歩く矢吹

そして、一台のトラックがクラクションを鳴らしながら人ごみをどかすようにスクランブル交差点に割って入ってきた。

トラックが矢吹の姿を隠し、トラックが横切ると矢吹の姿はそこには無かった。

あわてて矢吹の姿を探す男達は、トラックにしがみつく矢吹の姿を見つけた。

挑発するかのように手を振り「アディオース」と叫ぶ矢吹を男達は他の隊員に無線で伝えた。

「男はトラックに乗り逃走。車の調達を急げ!」

無線で矢吹が逃走したことを伝える男に対し、屋上にいた小早川兄弟はクリスマスに流れるような曲を口ずさみながら、ボウガンで狙いを定めた。

「ジングルベール、ジングルベール、鈴がーなるー」

小早川兄弟の放った矢は人ごみを掻き分け無線を手に持った男の胸に突き刺さった。

矢が自分の体に刺さった男はその場に倒れこみ、人々は倒れた男に悲鳴を上げた。

「敵襲!」

矢吹の後をつけていた男達は、仲間がやられた事を伝えようと無線を入れようとするが、小早川兄弟の矢が残りの敵をすべて撃ち落した。

「今日をはーたのしいー、クリスマス~」

小早川兄弟は全ての狩を終えると再び移動を開始した。



トラックの荷台にしがみつく矢吹は一角のマンションへとトラックと共に入っていき、そのトラックを追い数台の車がマンションの中へと入っていった。

だが、トラックを追いかけてきた数台の車を待っていたのは四方を銃を構えた人たちで囲まれた駐車場だった。

「死にたくなかったら、武装放棄して車から降りろ」

矢吹の言葉に従い、男達は両手を上げながら車から降りた。

車に取り残された武器や弾丸を奪い取り、捕らえた男達を壁に並ばせた。

「お前等、馬鹿だよな・・・・殺したいほどこっちはてめぇ等を憎んでんだよ。殺さねぇわけねぇだろ・・・・殺せ」

矢吹の言葉を合図に銃を構えていた同志は、捕らえた男達に弾丸を浴びせた。

薄暗い駐車場に無数のフラッシュと男達の悲鳴が鳴り響いた。



壁に倒れこむ敵の姿を横目に矢吹たちは、トラックに乗っていた人質を下ろした。

「約束どおり。俺達は、お前等を解放する。どこへでも好きに行くがいい」

人質の誰一人動こうとしない中、スーツ姿の男が矢吹に向かって猛突進を食らわせた。

仰向けに倒れる矢吹の上に跨り、胸倉を掴んだのは公也だった。

「てめぇ!何故、無抵抗の人間まで殺した!!」

「・・・はぁ?捕らえてたって何の価値も無いだろ」

「そうじゃねぇだろ!」

「なんだ?道徳でも説こうってのか?くだらねぇ・・・だったら、俺達がこれまでされてきた仕打ちはどうなんだよ。今そこに倒れている奴等は俺達を見殺しにしてきた敵の末端だぞ。俺はゆるさねぇぞ」

「・・・俺だって許せねぇよ。だけどな」

「黙れ。戦争被害者と当事者を一緒にするな。お前は兄貴を失ってただけだ。俺達は全てだ、全て奪われた。家族も、仲間も・・・自分が今までいた場所さえもだ!

俺は、元学生だ!大学で心理学を専攻していた。後ろにいるおっさんだって普通のサラリーマンだった!家族もいた!おっさんの横にいる女は、元女子高生だ!友達もいた。彼氏だっていた!学校や職場、これまで各々が生きて築き上げてきたものを奴等は全て奪い取ったんだぞ!

それを許せって言うのか?・・・・お前に俺等の気持ちがわかるわけねぇだろ!!」

矢吹はそういうと銃を公也に突きつけ、公也は矢吹の上から退けてた。

人質の中にいる洋子は、心配そうにこっちを見ているが、矢吹はそれを無視して口を開いた。

「わかったか?お前等、人質風情が俺等の気持ちを理解できるわけねぇんだよ。・・・とっとと失せろ。俺は幸せそうな人間を見るのが大ッ嫌いなんだよ」







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