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第三十四話 繋ぐ想い

「話ってのは何だ?・・・康太」

小さな一室に呼ばれた島は中央のいすに座る康太に声をかけた。

「まぁ立ち話もなんだから座ってくれ・・・部屋の向こうにいる二人もだ。隠れるくらいなら堂々と入って来い」

康太の言葉に少し驚いた島は、扉の向こうに待機させていた二人に「入って来い」と促した。

島の言葉に扉の向こうにいた橋場と野々村は恐る恐る部屋の中に入った。

入ってきた二人がこちらに向ける不信感を感じ取り康太は思わず「やっぱりか」と鼻で笑った。

「どうやら疑われているのは俺みたいだな」

「康太・・・正直に言ってくれ。お前はどっちの味方なんだ」

「島、どっちってのはどことどこだ?」

「そんなの決まってる。俺達が守るべき国か、その国を滅ぼそうとしている五十嵐かだ」

「本気で言ってるのか?」

「康太!!はぐらかすな!」

島は思わず机を強くたたき音を立てた。

「島・・・お前こそ守るべきものはなんなんだ」

「俺が守るべきはこの国だ」

「そうか・・・それは妙だな」

「どういうことだ」

「俺達の対テロ組織の今していることは何だ?リアルウォーがあったかどうかの追求だ。いまのこの国を大きく揺るがす行為だって事を忘れてないか?」

「・・・・」

「島・・・もう一度聞く。お前が守るべきものは何だ」

「康太・・・お前はこの国を滅ぼしたいのか?」

「あぁ、滅ぼしたいね。俺達はこれまでの戦いでリアルウォーが実在している事を認知している。俺達を苦しませてきたあのリアルウォーがまた新たに始まっているんだぞ。それが許せるのか?」

「康太!!このチームが作られた趣旨を忘れたのか?俺達は同志からこの国を守るために活動をしてきたんだ!俺達がこの国を滅ぼしてどうする!」

「違う!!このチームを作った本当の理由はリアルウォーが実在するか否かを調べるためだ。同志の殲滅もただの証拠集めの一環に過ぎん!!」


「じゃぁ俺達はその証拠集めの一環で殺される予定だったんですか!!」

ヒートアップする二人に割って入ったのは橋場だった。

「突然何を言い出すんだ?橋場」

「俺達は今日、長官の命で井上総合病院の警備をしていました。けど、そこで私達は殺されるところだった」

「同志にか?」

「違います。公安、そして警察にです」

「・・・それを仕向けたのが俺だとでも言いたいのか?」

康太はため息交じりにそう答え、その返答振りに「そうです!!」と橋場は強く訴えた。

「なら聞くが・・・公安も警察も何故お前達を殺せなかった」

「はい?・・・」

「俺がお前達を殺す作戦を考えていたのであれば、確実に殺せるよう事前にお前達がいることを伝える。どんな特徴があるか、どんな武器を携帯する傾向があるか・・・事細かにだ」

康太の言葉に、公安の人間が一度二人を確認してから、車に戻ったことを思い出した。

「お前達はすでに何度も戦場を体験したプロフェッショナルだ。そんな人間を殺すのを突発的に考えたりするもんじゃない」

「じゃぁ一体誰が・・・この作戦を知っていたのは俺達四人だけなんですよ」

「橋場・・・いいか?この舞台はすでに終盤に差し掛かってるんだ。それぞれの思惑が交差し、ズレが一番生じる時期なんだよ」

「・・・つまり、偶然だと?」

「偶然とまでは言いにくいかもしれないな・・・なぁ島。まだ白を切りとおすつもりか?」

康太の問いかけに島は何一つ反応を見せず、康太は言葉を続けた。

「ズレが生じやすい時期だもんな。ビックリしたろ、俺があの食堂でこの二人を病院につかせるって突然言い出したことによ。お陰さまで計画が大幅に修正されることとなった・・・いや、おそらく修正する時間すら与えられなかった」

島は目を強く瞑り顔をしかめたまま黙って康太の言葉を聴き続けた。

「二人からの異状ありという報告で島、お前は俺の命令で俺の元から離れることとなった。その間に俺は鈴鹿の元へ迎えた。あんたの監視から逃れるためにだ」

「島さん・・・」

「島、頼む。あんたの口から答えてくれ、俺はこれ以上あんたを追い込みたくない・・・」

康太はそういいながら一枚の茶封筒を取り出し、島に見せ付けた。

「まだまだ俺を追い込むネタはあるって訳か・・・」

「島・・・」

「康太・・・これにだけは答えてくれ、お前はこの国を滅ぼそうとしているのか?」

「あぁ、少なくとも今の状況では救う価値も無い」

「そうか・・・取り押さえろ」

島が手を上げ、振り下ろしたのを合図に幾人もの人が狭い部屋に流れ込み康太の周りを囲み、銃を康太に向けた。

そして、その野戦服に彩られた人ごみを割って康太のほうへ歩み寄ってくるスーツ姿の長谷川は、康太に礼状を見せつけた。

「井上康太。国家反逆罪の疑いで只今より、連行する」

「康太、無駄な抵抗はするなよ。全員俺の部下だ。お前の言うプロフェッショナルだ。お前を傷つけたくない」

「全員お前の部下?俺の部下も一人混ざってるんだが?」

「長谷川はもとよりお前を監視するための総理から送られた部下だろ」

「そして、お前が誑かせて自分の部下にしたってか」

「あぁ、悪く思うなよ」

「それはお互い様だ。・・・悪く思うなよ」

康太が手を上げるとその瞬間、康太に向けられていた銃先はすべて島に向けられた。

「なっ・・・」

思わず後ずさりをする島の後頭部に長谷川は銃を突きつけて「動くな」と小さく呟いた。

「長谷川・・・お前ほどの人間が何故・・・」

信じられぬといった感じで島が長谷川に問いただすが、長谷川はきつく締め上げたネクタイをはずしながら答えた。

「暑っ苦しくて、硬ッ苦しい。ようやくこんな動きづらい服装から開放されるかと思ったら清々しますよ。俺も聞きたいですよ。島さん、あなたほどの人間が何故」

「・・・・」

「俺はあんたに誑かせる振りをして、あんたの部下に取り入る事が任務だった。でも、島さん・・・あんたの部下は全員、あんたの方針が間違ってるとみんなが協力してくれたよ」

「長谷川・・・お前は父親が嫌いだったんじゃないのか・・・・」

「あぁ、嫌いだね。リアルウォーで死んだのはマジで清々してるよ。でもな、すぐに暴力を振るうような親父ってイメージしかないけど、親父は何かから俺達を守っていたんだって幼いながらに感じ取ってた。そして、親父は俺たちを守るために砂漠の上で死んだ。俺なんかいい方だ。親父の死に様を聞くことが出来たからな・・・知らない奴だっている。ましてはプレイヤーだったと認可されない人間もいる。

俺みたいな子供をもう作っちゃいけないんだよ・・・だからリアルウォーが憎い。憎い、憎い憎い憎い憎い!それを保護にする島さん・・・俺はあんたが本当に信じられねぇよ」

「・・・・・」

「答えろ、島大助!!答えなくば間髪いれずにてめぇの脳天をぶち抜く!!」

長谷川は怒りをあらわにしながら島に向ける銃を強く握り返した。

「この場に俺の味方は一人もいないってか・・・」

島はこれまで共にしてきた仲間から向けられる視線を浴びながら深くため息を漏らし、口を開こうとした。

だが、その前に銃を取り出し島に銃を向ける長谷川に向けて銃を向ける人間が二人現れた。

「よせ、長谷川」

「まったくだ。なんで俺らの同期は食えねぇ野郎が出世するようになってんだ?」

銃を向けられた長谷川は「橋場、野々村」と二人の名前を呼んだ。

「お前ら・・・何のつもりだ」

「少し落ち着けって言ってんだよ。今のお前じゃ、島さんが全部話したら島さんを殺しかねないからな」

「落ち着けだと?お前らは、よくそんなに落ち着いてられるな!!」

「そりゃ・・・・あれだよ。俺達はリアルウォーの被害者遺族じゃないからな」

「あぁ?」

「考えてもみろ。リアルウォーが再び行われていたとして、それを公に出したらどうなる?この国はもう終わりだ」

「あぁ、だから終わらせるんだよ」

「・・・だから、この国を終わらせたいって思ってるのは、お前等だけなんじゃないのか?」

橋場らしからぬ言葉に全員が思わずざわつき、橋場の言い分に野々村もうなずきながら口を開いた。

「要するにだ。俺達はこの国を守りたいんだよ。リアルウォー?何十年前の話してんだ?・・・確かにお前らに取っちゃ許せなくもなるだろうよ。この場にいる人間のは、少なからず第一次リアルウォーとつながっている。全員だ。同じ目をしている。まるで地獄を見たかのような目だ。この国に何も未練は無いかのような目だ。

だが、俺達は違う。俺達はリアルウォーの辛さや憎しみを知らない。憎しみや辛さを知る極一部の人間のせいでこの国を滅ぼされたら困るって言ってんだよ。確かにこんなクソみたいな国だが、そこには友達もいるし家族だっている」

「つまり、お前等はリアルウォーを黙認するというのか?」

「いや、別にそういうわけじゃねぇけどさ・・・島さんの気持ちもわかるって言いたいだけだよ」

長谷川の言葉に野々村は頭を掻きながら小さな声で言うが「違うんだ」と島が口を開いた。

島はポケットから小さな機械を取り出し全員に見せ付けるように天に突き上げた。

全員がその機械に顔を引きつらせ、急ぎその場にいる全員が体内無線の電源を落とした。

島が機械にスイッチを入れると青い閃光が部屋中に広がり、部屋にあった無線機からはピーッという耳を切り裂くような音が流れ出した。

部屋中に響く耳を裂くような音は、無線のスイッチを切ることで止まった。

「悪いな。こうでもしなきゃすべてを語る前に殺されかねないんでね」

島はそういいながら椅子に腰をおろした。

「先に言っておく。おそらく、俺の命はこのジャミングが終わると同時に終わる・・・だから、その前にすべてを語る。全てだ」





数秒に一回のペースで遠くで爆発音がおき、はめ込まれた窓ガラスがカタカタと音を鳴らす。

この国では考えられない暑さだが、湿気も無くからっとした暖かさが額の汗を蒸発させる。

日差しだけが、今いる自分の部屋を照らし、椅子に縛られた島は出入り口に立つスーツ姿の男二人組みに睨みを利かせていた。

「てめぇ等・・・この偏狭の地に何のようだ」

「日本人の傭兵がこの地域に多くいると聞いてね。査察に来たんだ」

「査察だと?俺達プレイヤーを紛争地域に送り込ませておきながら、査察だと!?」

「まぁ言うまでも無く。君達は本来、この紛争地域で死んでもらう手はずだったんだがね・・・」

「プレイヤーをそんなにも認めたくないのか・・・あの国は・・・」

「公にさらされてしまったわが国の失態。だが、その失態は最小限で抑えたいのだよ」

「だから、俺達を戦地に送り込んで戦地で死んでもらう手はずだったってか・・・・残念だったな。俺達はまだ生きてる」

「あぁ、しかもかなりの大人数だ」

「いつまでも生き残ってやる・・・俺達はお前等ののど元に噛み付くまでは絶対に死なない」

「国に帰りたくないか?」

「・・・何?」

「ただし、貴様に選択の余地は無い。・・・いや、貴様等に・・・か」

「何を言ってやがる・・・まさか、この手首につけた発信機で殺そうって話か?残念ながらこの機械はもう役に立たないぞ」

島の言葉に男はあざ笑うかのように鼻で笑って見せた。

「島大輔・・・お前達、最近健康診断に行かなかったか?」

「・・・あぁ、いつ死ぬかもわからないが健康面を気にして、会社の命令で・・・お前達の差し金か」

「採血のほかに注射を打たれたな」

「予防接種でな・・・」

「わかるだろ?」

「俺達に何をした・・・」

「なぁに、これまでのようにスイッチひとつで死ぬようになっただけだ」

「てめぇ・・・」

「だが、悪い話じゃないだろ。お前達は国に帰れる・・・ただし、この国に忠を尽くしてもらうがな」

「俺が断った場合・・・俺の部下はどうなる」

「言ってもいいが、聞きたいか?」

男の言葉に島は、首を横に振った。







「俺には家族はいない。俺はこいつ等を失ったら・・もぅ何も無いんだ」

島は自分に銃を構える部下に目を向けた。

「悪かったなぁ・・・お前等を騙す様なことをしちまって・・・でも、お前等に憎まれようが銃を向けられようが俺は、お前等を失うほうが怖かったんだ」

島の言葉に、島の部下達は銃を下ろした。

「隊長・・・長谷川も言ってたろ。どんなに憎もうが恨もうが、息子は親父の姿を見ていた。俺達だって同じだ。あんたが何かから俺達を守っていたって事ぐらい気づいてたさ」

「まっ、隊長が死ぬって事は当然、俺達もここまでって事か・・・」

「どうせいつ死ぬかわからないこの命だ。全員まとめて死ねるんだ。別にいいだろ」

「しっかし、また中途半端なところで終わっちまうんだな・・・前回のリアルウォーだってそうだ。中途半端に生き残っちまった」

部下の反応に島は「お前達」と小さく呟いて見せた。

「隊長。俺達は真実を知りたかった。それだけで十分だ。俺達は最後まで隊長、あんたについていくよ・・・今度は地獄の底まで一緒だ。先に逝ってる奴等もきっと待ってる」

「・・・さてと、どうする?残り少ない命だ。こいつ等全員皆殺しにするか?」

そういうと部下は康太達に銃を向け引き金に指をかけた。

「ダメだ。殺すな」

だが、島が止めに入り銃をおろさせた。

「康太・・・悪かったな。今まで俺は自分を偽り続けてきた。でも、それも今日で終わりだ」

「島さん・・・俺達に何か出来ることは?」

康太の言葉に島は首を横に振った。

「相変わらず、お前は甘ちゃんのクソガキだな。・・・だが、康太」

島は康太に歩み寄り立ち尽くす康太の胸に人差し指を立てて当てた。

「井上康太。俺達は志半ばで倒れるが、お前が死ぬことは許さん。三途の川で追い返してやるから覚悟しとけ・・・俺達の思いを・・・願いを終わらせないでくれ」

島の言葉に井上は小さくうなずいて見せた。

「・・・総員!一列横隊!!」

島が大きな声を張り上げると島の部下達は一列に並び、康太のほうへ目を向けた。

「井上長官に対し敬礼!!」

康太に視線を向けていた部下達は康太に対し敬礼をした。

「「死してなお栄光の輝かんことを」」

敬礼をする島たちに向け康太も敬礼で返した。

そして、島は最後に康太に向けて口を開いた。



「先に行く。・・・後は頼んだ」



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