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第三十三話 疑いの目

橋場と野々村から異常事態発生という知らせが届いた後、康太は島を病院へ向かわせ、自分はある所へ向かっていた。

携帯画面の地図に一つの点が居場所を示し、康太は思わず舌打ちをした。

「あの馬鹿が・・・」

康太はハンドルを思いっきり切り、地図に示される場所へ急ぎ向かった。



深夜、人通りも少ない公園の脇を一組のカップルが腕を組み歩き、何やら楽しそうに会話をしていた。

道路の脇に路駐していた車のエンジンがかかり、そのカップルに向けてライトを向けたられた。

向けられたライトに何事かとカップルは「何、何」とこちらの方を窺い、その車から一人の男が降りてきた。

「旦那が仕事中に、妻は他の男をとっかえひっ返ってか?まぁ、少子化問題にしっかりと取り組んでいるみたいで、何よりだ」

「・・・こ、康太さん」

車から降りてきた男に対して、思わず信じられぬと言った表情で彼女は名前を呟いた。

「久々に家に帰ってみたら、明かりがついてなくてさ公園の方をブラブラしてたら偶然、見つけちゃった・・・」

「私を・・・監視してたの」

「あぁ、してた。俺も一応狙われる身だからな、お前を人質に取られたら困る」

「今更なんだって言うのよ・・・私のお父さんとの繋がりが欲しくて私と結婚したくせに」

「別にそんな事、望んじゃないない」

「だったら、今の地位はどうやって手にしたのよ!」

「・・・官房長からの紹介だな」

「そうよ!官房長でのあり私の父でもある!」

「より身近で信頼できる人間をそばに置きたくなるのは、政治家の本能だ。それに俺はこんな地位望んじゃないない」

「それで?私に隠れて若い女と密会してる写真は、どう説明するのよ」

「そんな写真あったかな・・・身に覚えがないんだが」

「私が全部捨てたわよ」

「じゃぁその腹いせにお前はこんな事を繰り返していたのか?優等生で大人しすぎるほどだった君が、問題を起こして少しでも俺に振り向いて欲しかったのか?」

「・・・子供だと思った?」

「あぁ、子供だね。だが、嫉妬心は大人が抱く事だ」

「嫉妬心?そんなんじゃないわよ。私はもう康太さんには何の未練も感じないの」

「そうか・・・それは残念だ・・・まぁその話は今度夫婦水入らずで話そうや。事態はお前の浮気を見過ごせないくらいに動き出しちまっててな」

康太はそう言いながら銃を取り出し、妻の横に立つ男に銃を向けた。

「鈴鹿・・・その男から離れろ。今すぐだ」

銃を向けられた男は「えっ、えっ?」と自分を指さし辺りをキョロキョロし男が自分一人である事を確認していた。

「待って、待って何で彼に銃を向けてるのよ。彼は一般人よ」

「同志ってのは民間人に化けて出るからな~・・・同志と判断してこの場で打ち殺してやってもいいんだぞ?」

「最っ低な男・・・それでも対テロ組織の長官なの?」

「長官だからこそだ・・・わからないのか?そいつは銃を持ってる」

康太の言葉に「えっ?」と声に出した途端、男は彼女の首を腕で固定し開いた手で銃を取り出し鈴鹿の頭に銃を突き付けた。

さっきまでのチャラチャラした態度から一変、表情は無くなり康太の方に目を向けた。

「俺が同志だって?あんな奴と一緒にすんな、馬鹿が」

「馬鹿はどっちだ・・・素直に逃げてりゃ見逃してやろうと思ったのによ」

男の態度が今まで見た事がない物に急変し、鈴鹿は混乱しこめかみに当てられる冷たい銃から離れたい一心で彼の腕を必死に振り解こうとするが、彼の腕は鋼のように固く彼女の力では振り解く事が出来なかった。

「お前が一人で来る事をわかっていて誰が逃げっかよ・・・てめぇはここで終わりなんだからよ」

「それはお前、誰に向かって物を言ってるんだ?」

「あぁ?」

「俺を誰だと思ってる・・・鈴鹿の夫だぞ。お前ら如きに命取られるほど軟弱じゃねぇよ」

その瞬間、康太は引き金を引き康太の撃った弾は、男の持っていた銃を弾き飛ばし、衝撃で怯んだ男から彼女を引き離し、男の背中に廻り込み彼の体を盾にするように公園の方を確認した。

「一人二人・・・いや、五人か・・・」

公園の中に潜む敵の数を把握し、康太はその場に蹲る鈴鹿に自分が羽織っていたベストをかぶせた。

「防弾ベストだ。羽織っておけ」

康太の言葉に小さく頷き、ベストを羽織ると康太の立てと言う指示に立ち上がった。

「さぁて・・・ここからどうするかな」

男を盾にしながら康太は次に取る行動を模索していた。

「ば、馬鹿か・・・井上康太・・・俺に人質の価値があるとでも思ってるのか?俺達はこの日の為に生かされてきた存在。ここで死のうが殺されようが関係ないんだよ」

「そうかい・・・だが、防弾代わりにはなるだろ」

康太の言葉を皮切りに公園からは無数の弾丸がこちらに飛んでき、男の体を何発もの弾が貫いた。

男の体は何発もの弾を食らいながらも康太達から弾丸を防いでくれていた。

「俺の車の方へ行け!」

康太は男を横に投げ捨て、暗い公園の方へ向け弾丸を撃ち込みながらその場で悲鳴を上げる鈴鹿に指示を出した。

車の方へ駆け出す二人だが、公園の方から車の下に何かを放り込まれる音が響き、康太は「伏せろ!」という言葉と同時に鈴鹿に覆いかぶさるようにしてその場に鈴鹿を押し倒した。

強い衝撃と共に車が爆発炎上し、二人は逃げ道を失ってしまった。

「あっちゃ~万事休すってか」

炎上した車を遮蔽物に公園からの攻撃を防ぐ中、康太はそう呟いた。

「な、何をのんきな事言ってるのよ・・・」

「まぁここでリタイアってのも悪くないかもしれないな・・・」

「リタイアって・・・私は嫌よ!そんなの!」

「マジか・・・別にいいじゃん。十分に生きたろ」

「十分に生きてない!まだやり残した事もたくさんある!」

「他に何をやるって言うんだよ・・・俺に隠れて浮気まで出来たんだ。それ以上に何を望む」

「やってない!彼とは何もしてないし、しようとも思ってなかった!」

「へぇ・・・何でしなかったんだよ」

「・・・好きだから」

「誰が」

「康太さんが」

「そうかい、それを聞いてまだ死ぬわけにはいかないな」

康太はそういうと炎を上げる車から身を出し、公園に向けて銃の引き金を引いた。

公園からは数人の悲鳴が上がり、その瞬間に鈴鹿の腕を掴み「行くぞ!!」と声を張り上げ、公園から離れた。

だが、公園から離れようとする二人の前に車が猛スピードで近づき、二人の前に停車した。

後部座席の扉が開き「乗って!」という女性の声に康太達は車に乗り込んだ。

二人が乗り込むと同時に車は急発進し助手席に乗っていた女性が公園にめがけ何かを投擲し、公園の入り口で大爆発が起きた。



車に乗り込み一安心する鈴鹿は深くため息を漏らすが、その横に座る康太の顔はまだ緊張した面持ちだった。

そんな康太の態度に鈴鹿は運転席と助手席に座る女性の顔と以前、手紙で贈られてきた康太と共にホテルへと入る女性の顔が一致したことに気が付いた。

「どぉ?敵に命が救われる気分は?」

「黙れ、俺はお前らに助けを求めたつもりはない」

運転席に向け銃を突きつけながら康太は運転する女性に答えた。

状況が読み取れない鈴鹿はそのやり取りを小さくなって見守ることしか出来なかった。

「何で俺たちを助けた」

「そりゃ、あんたを殺すのは私たちだもん。勝手にしなれても困るでしょ」

「そうじゃないだろ。こんな危険を冒してまで俺に接触してきた理由はないんだ。親父の病院を襲撃したのと関係があるのか?」

「ちょっと、何でもかんでも私等のせいにしないでくれる?」

「だったら、さっさと訳を話せ」


「俺があんたに接触するためだよ」

康太は後ろから聞こえた声に振り向こうとするがその前に首を腕で決められ顔の前にナイフを突きつけられた。

「よぉ、井上康太・・・これで三回目だな。てめぇとこうやって会うのはよ」

「残念ながら俺はこれで二回目だ」

「じゃぁ言い方を変えよう。俺はあんたを殺すタイミングがこれで三回目だ」

「だが、殺せなかった。そして、今回もそうだろ?」

「・・・あんたにはまだ生きていてもらわなきゃなんないんだよ・・・くそ」

「だから、その用件をさっさと話せって言ってんだよ。聞き分けの無い餓鬼だ」

「この状況におかれてもなおわからねぇような馬鹿にわかりやすく説明してやるよ」

「おぅ、出来るだけ手短にな」

「砂漠で一緒にいた男いるよな。あいつは誰だ」

「同僚だ」

「違うね。それ以上の存在だろ。さっさと言え」

矢吹の言葉に康太は少し黙り小さくため息を漏らし口を開いた。

「昔、プレイヤーとして砂漠で戦ったときの戦友だよ。何度もあいつに救われた」

「そうかい。奴の経緯を調べたことは?」

「調べたさ。だが、俺の親父がリアルウォーを公に出した後の数年間の痕跡はまったく無い」

「それを疑わなかったのか?」

「何が言いたい」

「奴が裏切り者だとは思わなかったのか?」

「ふっ、馬鹿な・・・」

「笑いたきゃ笑え。だがな、奴は俺の前に一度だけ現れたことがある。・・・紹介者の浅野としてだ」

「・・・・いつの話だ」

「俺が特殊部隊として駅周辺を警備していたとき、奴は俺たちの陣頭指揮を執っていた。奴は特殊部隊が解散する前にトラックごと吹き飛んだはずだったが、おそらくその死体は俺の戦友、マイクだ」

「・・・・」

「言っている意味がわかるか?・・・あんたはもう終わりだ。俺が決定打を打ってやるよ」









病院から離れ、小さな公園のベンチに腰を下ろす島は側に立つ橋場と野々村に「大丈夫か?」と尋ねた。

「えぇ・・・なんとか・・」

「マジで助かりました。島さん」

未だにあふれ出す脂汗を拭いながら答える二人に「そうか」と受け答えをしながら島は顔を俯かせた。

そして、橋場はパニックになる頭の中で考えていた事を口に出した。

「島さん・・・これは一体、どういうことなんですかね」

「・・・何がだ」

「島さんはさっき、警察官に言ってましたよね。島さんが来なければ俺達はあの場で殺される予定だった・・・けど、おかしいんですよ」

「おかしい?」

「奴等は同志じゃない。つまり、この国が俺達を抹消しようとしている・・ですよね」

「・・・まぁ、結論はそういうことになるかもしれないな」

答えを出そうとする橋場に対し「ちょ、ちょっと待ってくれ」と野々村が口を開いた。

「えっ?・・・って事はなんだ?どういうことだ?おかしいじゃねぇか」

「なんだ、野々村。お前も何か疑問に思うことがあるのか?」

「いや・・・俺、馬鹿だからよくわかんねぇけど・・・んー橋場!パス!」

頭が混乱し手で抑えながら野々村は橋場にバトンをタッチし、橋場はため息をつきながら話を続けた。

「つまり俺達がここに来ることを知っていたから、このストーリーが書けた。けど、俺達があの病院に張り込みをすることを知っていた人物はこの場にいる三人と長官だけなんです」

「そぅ!!それだ!それを言いたかった!」

「・・・やはりその結論に至るか」

「島さん・・・これは一体」

「わからん・・・だが、手引きしたのが康太であると考えるのが妥当かもしれないな」

「長官が・・・馬鹿な・・・」

結論を急ぐ二人に「いやいやいやいやいや」と再び野々村が割って入った。

「あり得ないって!!だって、長官だぞ!たとえ、長官が手引きしてたとしてもなんかの訳があって」

「なんかの訳のために俺たちに死ねと?」

「いや、それは・・・」

黙り込む野々村と野々村を睨み付ける橋場に対し「とにかく!」と島がこの場を収めた。

「結論を早く出しすぎるのはよくない。俺から探りを入れてみる。お前たちはそれまで何もするな。いいな」











「あんたの側に置くよりも、身元がわからない俺達に預けたほうが正解だろ。なぁに人並みの生活は送らせてやるから安心しな」

矢吹にそういわれ鈴鹿を車に乗せたまま康太は車から降り、車は走り去った。

誰もいない市街地に取り残された康太は腰につけていた無線機を手に取った。

「俺だ。聞こえるか」

『感度良好。荷物はすべて受け取った。繰り返す、荷物はすべて受け取った』

「了解。積荷はこれですべてだ。芋虫が羽ばたくときも近い」

『了解。以上通信終了』


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