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第三十一話 反旗の種達

「そうか・・・井上達は、五十嵐の捜索を打ち切ったのか」

「えぇ、長官は政治内部に今回の一件に関わっている人物がいると考えているようで、そちらに力を入れるのかと・・・」

広い部屋を色々な装飾に彩られた場所で、立派なソファーに腰をかける総理に長谷川は、定時報告を入れていた。

「内通者か・・・誰かは目星がついているのか?」

「いえ、それはまだ何とも・・・」

「そうか・・・もしもわかったら教えてくれ、私も最大限力になろう」

「はい、失礼します」

長谷川は一度頭を下げると、その部屋から出て行った。

長谷川が部屋を出ると同時に椅子にふんぞり返っていた総理は、深くため息を洩らした。

「最近、井上の行動はどうも目を見張るものがあるな」

総理の独り言に対し、裏の扉から「えぇ」と答えながら五十嵐が出てきた。

「中村洋子の存在が彼にとって一番の難点でしたからね。今、彼の手中にある状態であればいつ問題行動を起こしてもおかしくない状況ですね」

「そうだな。それも君の失態で、こちらの手に落ちるはずの中村洋子が向こうの手の中に入ってしまった」

「すみません」

総理の嫌身に似た言葉に対し、頭を下げる五十嵐はサングラスで総理に表情を読みとられないようにしていた。

「しかし、こちらもそう何度も向こうに先手を取られる訳にもいかん。・・・彼にとって難点となりうるものをこちらの手に収めておかなくては・・・」

「ならば、お勧めの人物は今現在で三名います」

「誰だ」

「チーム1のメンバーである鈴木勉、康太の父親である井上。そして、彼の妻です」

「なるほど・・・だが、彼等をもし全員保護する事に失敗すれば」

「康太の足枷となる人物は消え、間違いなく反旗を振り返すでしょう」

「あぁ、そして君もな」

「・・・・」

「フフッ・・・否定もしないのか」

「私の目標はあくまでもこの国の崩壊です。そのターゲットにはもちろん、総理。あなたも含まれてるんですよ」

「・・・君の言う三名を保護する事を許可する。だからこそ、絶対にしくじるなよ」

「わかりました」

五十嵐は、もう一度頭を下げるとその部屋を後にした。

取り残された総理は、再びため息を洩らした。

「私と彼らではどうしてこうも違うのかね・・・」

部屋に一人取り残された総理は、まるで誰かに助けを求めるかのようにそう呟いた。







「内通者か・・・まぁ一番わかりやすいのは監査官の長谷川と公也だろうな。あいつ等はそれが仕事なんだし」

「まぁな~でも、長谷川は自分がスパイだって事自覚してないと思うぞ。あいつ、馬鹿だから」

「その上、公也は公也でお前の事をめっちゃ恨んでるからな。あいつなら喜んで、スパイとかやりそうだよ」

丸テーブルに大量の料理が置かれ、それをガツガツ食べる島と康太は、誰が内通者かと大声で喋り、そんな二人を引きつった笑いを見せながら橋場と野々村は見守っていた。

「あ、島!お前の部下は?内通者がいるんじゃないのか?」

「馬鹿を言うな!俺達は、仲間のパンツの色を誰かに洩らすくらいなら舌を噛み切るくらいの覚悟でこれまで戦ってきたんだ」

「うわっ・・・マジかよ・・・」

「おぃ、何引いてんだよ。それほどの信頼関係があるってだけで、パンツの色ぐらいじゃ下は噛み切らんぞ」

「じゃぁ一体誰だろうな・・・」

「う~ん」

黙り込む二人に対し、橋場達はようやく口を開くタイミングを見出したと思い口を開いた。

「あ、あの・・・俺達って何のために呼び出されたんですか?」

「おぉ、そうだ。お前等も誰が内通者か心当たりはあるか?」

腕を組みながら、康太は二人に問いかけるが

「それで、もしも俺達が内通者だったら言える訳ないじゃないですか・・・」

と、ため息交じりに野々村に言い返されてしまった。

「そーだよなー・・・わからないからこそ、スパイなんだもんな~」

「あ、あの・・長官、それで俺達を呼んだ理由ってのは・・・」

「ん?・・・あぁ!そうだった!お前達に頼みたい仕事があったんだよ」








「頼みたい仕事って・・・張り込みかよ!!」

井上私立病院の敷地の外に車を止め、康太から頼まれた仕事に対してスーツ姿の野々村は思わず、そう突っ込みを入れ、橋場も思わず運転席でため息を洩らしながら項垂れていた。

「異常があったら知らせろって・・・それまでずっとここにいろって言うのかよ・・・」

橋場の言葉に野々村もため息を洩らした。

大きな病院以外は、田畑が広がる場所で何も変わらない景色に二人は嫌気がさしていた。

「・・・暇だ」

「暇・・・だな」

「そういや、この病院に公也の兄貴が入院してんだっけ?」

「あぁ、そういえばそうだな」

「チーム1の生存者だもんな・・・」

「早く意識が戻ってほしいな」

「だな・・・」

そんな話をしている二人の前に、遠くの方から噂をしていた公也が病院の方へ歩いて来ていた。

「あ、公也じゃん!」

野々村の言葉に本当に暇だった橋場は、車のエンジンをかけ公也の方へアクセルを思いっきり踏み込んだ。

猛スピードで突っ込んでくる車に公也は思わず立ちつくし、そんな公也の前に車が急停車した。

「よぉ!公也!」

「えっ?・・・・野々村?」

「久しぶりだな」

「橋場?・・・お前等、何やってんだ?」

同年代入社の久々に会った公也は思わず表情が緩んだ。

「仕事だよ。仕事」

野々村の言葉に、公也は思わず顔を引き締めた。

「まさか、俺の監視か?」

「阿保か・・・お前を監視なんかしてどうするんだよ。自意識過剰だぞ」

「そうなのか?」

野々村の言葉が信用できなかった公也は、橋場に問いかけ、問いかけられた橋場も頷いて見せた。

「詳しい任務の話は出来ないが、少なくともお前を監視するような任務だったら間違いなく断ってるよ」

「そうか・・・俺はてっきり、あの井上に俺を監視するように言われたのかと思ったよ」

「お前な、長官はお前が言うほど酷い人間でもないし」

橋場が全てを言い終わる前に公也が「止めろ!」と声を荒げた。

「公也・・・」

「あいつは、俺から全てを奪ったんだ」

「公也、それは長官だって同じだろ」

「同じだと?・・・」

橋場を睨みつける公也に対し野々村が手を叩き空気を変えた。

「はいはい、やめやめこの話をしたら切りが無いだろ。せっかく久々に会えたってのに、喧嘩は無しだ」

野々村の言葉に、公也はしばらく黙っていた後に「またな」と二人に言い、病院へと入って行った。




公也の先ほどのやり取りで煮え切らない雰囲気に二人は黙り込んだまま、車の中で待機していた。

車内にはため息声しか聞こえない中、一台の車が遠くに停車した。

「おぃ、あの車」

野々村の言葉に橋場も車の方へ目をやった。

「・・・公安?」

ごく一般のワゴン車だが、二人の目から見たらそういった関係の車だと一目でわかった。

そして、それは向こうもどうやら同じだったらしい。

停車した車を注視する二人に対し、運転席と助手席の男がこちらを指さし何かを喋っていた。

しばらくの間、静かな時間が流れたが助手席から一人の男が降りてきて時間が動き出した。

「橋場、注意しろ。スーツの下にハンドガン、防弾チョッキまで着用してやがる」

野々村の言葉に、橋場はハンドルの下にテープで固定させていたハンドガンを取り、手に隠し持った。

男は車の横にまでやってきて運転席の窓をノックした。

橋場は、車の窓を少し開け「なんだ」と男に問いかけた。

「お前等はなんでここにいる。・・・と言うよりも誰だ」

「トップシークレットだ。お前らこそ、こんな寂れた場所に何用だ」

「俺達は公安だ。情報を洩らす事は出来ない」

「つまり、堂々と動けない事をこれからするって事か・・・俺達が黙っちゃいねーぞ」

二人の会話に野々村が乱入し、男は顔を顰めながら車へ戻った。


「念のため、長官に連絡するか・・・」

「そうだな」

野々村は携帯を取り出し、本部へ連絡を入れようとしていた。

電波状況の悪いこの場所では、なかなか本部と繋がらず電子音がプップップッと鳴り響くだけだった。

そんな中、助手席から再び男が降りてきた。

「野々村。まだ繋がらないのか?」

徐々に近づいてくる男に危機感を覚え、思わず声が裏返る橋場に野々村も「わかってる!」と声を荒げた。

そして、男は一定の距離にまで近づくと懐からビンを取り出し車に向かって投げた。

「緊急退避する!」

橋場は声を上げながら車を急バックさせた。

向こうから投擲されたビンは、運転席の窓ガラスにぶつかり何らかの液体が窓ガラスにまき散らせた。

その瞬間、窓ガラスからは一気に炎が噴き出し前が見えなくなった。

「くそっ!!」

バックする車の窓ガラスに向け野々村は銃弾を撃ち込み緩くなった窓ガラスを蹴り飛ばした。

炎の熱さからは逃れられたが、ワゴン車から降りてきた男たちの弾丸が二人に襲いかかってきた。

「頭を低くしろ!!」

弾丸が頭の上を飛び交う中、橋場はアクセルを踏み続けた。

だが、車は田んぼの路肩にタイヤを取られ車は斜めになりながら止まった。

「車から降りるぞ」

「よし」

弾丸が車の車体に当たる音が車内に響き渡る中、二人は外に出て車の裏へ逃げ込んだ。

『はい、こちら電話受付センターです』

「ようやく繋がりやがった!おぃ、本部へつなげ!!」

『はい?おっしゃっている意味が・・・』

「あぁ!この音がわかんねーのか!撃たれてんだよ!」

『えっ?撃たれて・・る?』

「あぁ、もぅ!!暗証コード、0、4、53、21」

『コード入力します。・・・本部へお繋ぎします』

「いい!長官に異状ありと伝えろ」

そういうと野々村は電話を切った。

車越しに向こうを見ると、ワゴン車に乗っていた数人が病院に突入していく姿を見た。

「橋場、病院に数人突入された!」

「わかってる!」

橋場はそう言いながらトランクからサブマシンガンを取り出し、横にいる野々村に投げ渡した。

「弾幕を張る!隣の塀まで走れ」

「了解!両翼に展開するぞ」

野々村が車から身を出し、引き金を引いた。

敵が身を隠す瞬間を狙い橋場は病院の全体を覆う塀へ走り込んだ。

そして、塀をよじ登り塀に身を隠していた敵に向け銃弾を放った。

「一名排除完了」

「よし・・残り一名だ。確保するぞ」

「了解だ」

一気にたたみ込もうと突撃する二人の耳には一発の銃声が鳴り響き、車の奥に潜んでいた男が倒れた。

「・・・くそっ!」

男の意識を確認し悔しそうに言葉を出す野々村。

そして、塀の横で倒れていた男にかろうじて意識があるのを確認した橋場は野々村を呼んだ。

「おぃ、誰の指示だ!どうして、俺達を攻撃した!」

男の胸倉を掴み情報を聞き出そうとするが、意識のもうろうとする男の口はパクパクと動くだけでうまく情報を聞き出せなかった。

「まだ死ぬんじゃない!お前等の任務は何だ!この病院に何がある!」

「・・・すずき・・・勉と・・井上康太の・・・父」

「だれの指示だ」

「・・・それは・・」

全てを言い終える前に男の体から生気が無くなり、体から全ての力が抜けるかのように倒れ込んだ。

「鈴木勉と長官の父親・・・」

「病院内に行くぞ・・・公也が危ない」

「公也・・・急ごう」

二人は向こう先で聞こえるサイレンの音を聞きながら病院内に突入した。





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