第三十話 久々の対面
「お前達!ここで待つ!」
片言の日本語を椅子に縛られた康太と島に言い、避難民が部屋から出て行った。
「ここで待ってろとか言われても、身動き一つ取れないっての」
肩をすくめながら言う島とこの危機的状況をどうやって打破するかを考える康太。
「島、ロープは解けそうか?」
「ん~・・・時間がかかりそうだ。そっちは」
「10秒あれば十分だ」
「えっ・・・?」
康太は首を左右に振るような動作をするとゴキゴキっと言う音を響かせながら後ろに縛られていた腕を前に持ってきた。
「はぁ~・・・器用なもんだ」
両手首をきつく結んだロープを歯で食いちぎり、痕が残った手首を擦った。
「いって~・・・」
「なぁ、そんな事やってないで俺のロープもほどいてくれよ」
「無理、奴等の足音が聞こえる」
「あぁ・・・終わった」
「武器になりそうな物は?」
「俺の口の中」
そう言って島は口を大きく開いた。
そして康太は何も言わずに島の口の中に手を突っ込み、歯ぐきの裏に隠してあった一枚のかみそりを取り出した。
「・・・これじゃロープは切れないな。自分でどうにかしろ」
「俺も関節外せればな~」
そうこうしている間に、部屋の向こうからは何人もの人の足音がこちらに近づいてきた。
康太は手の中に剃刀を隠し持ち、彼等の帰りを待った。
「・・・さすがは高校生英雄ってとこか、この数分の間にロープを解いてしまうとは」
「縛られるのは相に合わないのでね。別に抵抗する気はないから安心しろ」
年老いた日本人が、後ろの扉から入ってきて康太達を睨みつけてきた。
顔は老けているが、体つきはがっしりとし隙を見せようとはしない。
そして何より、康太達と同じオーラを感じた。
「元軍人・・・いや、プレイヤーか」
「あぁ、ただし俺達は行方不明のままだろうな」
老人は左腕の袖をまくり、手首より下が無いのを見せてきた。
「この集落に何人日本人はいるんだ?」
「7人だ。皆、同じ境遇さ」
「数多く点在する集落に7人もか・・・俺達が来る事を見越してか?」
「そうだ。東側で何やらコソコソと嗅ぎ回っている人間を見かけてな、お前達を待っていた」
「ばれてたんじゃねぇかよ・・・島」
ため息交じりに島に話しかけると「うるせぇよ」と愚痴っぽく言われた。
「俺達を待ってたって事は、俺達に何の用だ?」
「用があるのはそっちだろう?手助けしてやろうと思ってな」
老人はそう言ってポケットから手のひらサイズの妨害電波装置を取り出した。
「ヤベッ・・・」
急ぎ体内無線をオフにしようとするが老人の手の方が早かった。
康太と島の頭の中に砂嵐に似た音がガンガンと響き、その瞬間に後ろの扉から三人飛び出し、二人を頭から地面に叩きつけ、取り押さえた。
「んがっ!」
頭から叩きつけられた島はそのまま意識を失ったらしく、抵抗する様子も見せなかった。
腕を完璧に固められた康太は、横で伸びている島に声をかけるが反応が無かった。
「島!おぃ、島!」
島の上に跨る二人は小柄で、何枚にも羽織った布で顔を隠しているつもりだろうが布の隙間から長い髪が数本垂れていた。
「あぁ島・・・女性二人に跨られて、意識があったらそこは天国だろうな」
「だったら、こっちはこれから天国に連れてってやろうか?」
康太の上に跨る男は、そう言いながら康太の後頭部に銃を突き付けた。
聞き覚えのある声に康太は、後ろを見上げるとそこには病院で妹を必死に看病していた男の顔があった。
「お前は・・・」
「井上康太・・・」
だが、今康太の上に跨る男からは、妹を思う兄の面影は一切見られず、こちらに憎しみだけをぶつける少年に見えた。
「何故お前が・・・」
康太の問い掛けに応えようとせず、男は手に握った銃の激鉄を起こし、引き金に指をかけた。
引き金を引こうとする少年だが「やめろ」と言いながら新たに部屋に入ってきた男の声に、銃を降ろした。
「俺の旧友だ。俺の前で殺す事は許さん」
「・・・くそっ、井上康太・・・これで二回目だ。三回目は無いと思え」
新たに入ってきた男は、壁を辿るように歩きながら老人の座っていた椅子に腰を下ろした。
「久しぶりだな、康太」
「・・・洋子は無事か」
「安心しろ。不自由はあるかもしれないが、ちゃんと生きてるし、危害も加えていない」
「そうか・・・安心した。死んだと思ってたんだけどな・・・こうして目の前に現れちゃ信じるっきゃないよな・・・久しぶりだな五十嵐」
暗い室内だというのにサングラスで目を隠した五十嵐は、康太の顔を見ながらにやりと笑って見せた。
「俺達が体内無線をオフにする事は、危機的状況のみだ。瞬時に、俺達の位置情報が軍部に送られる・・・制限時間はおよそ30分だ」
「いや、電子妨害をその前に張ったから位置を特定するのに15分はかかる。45分だ」
「詳しいな・・・まるでこっちの情報を知っているようだ」
「まぁな・・・」
「否定も無しか・・・誰が手引きをしている」
「それは言えない」
「・・・・誰かに飼われているのか」
「それはお前も同じだろ。総理直属の軍隊なんだからな」
「これもリアルウォーの一環か・・・」
「それは違う。今回は俺の判断だ・・・そっちもそうだろ。調査団ではなく、わざわざ来てくれたんだ。お陰で手間が省けた」
「俺に何の用だ」
「用件だけ簡単に言う。・・・康太、仲間であっても誰も信じるな」
「お前が洋子を誘拐する際に、仲間を撃ったようにか・・・」
「あぁでもしなきゃ、洋子が死んでた」
「・・・」
「奴等の筋書きはこうだ。あの場で民間人を殺し、俺達同志を更に悪に染め軍部拡張を狙った・・・俺達の望みは、リアルウォーの公表と政治体制の崩壊だ。軍の拡張なんて望んじゃいない」
「・・・それには同感だ」
「以上だ。俺達は去る・・・今度会う時はお互い殺し合ってるかもしれないな」
五十嵐は椅子から立ち上がりながら康太に向かってそういうと、康太も「あぁ」と短く返事を返した。
そんな康太の髪を鷲掴みにし顔を持ち上げながら、上に跨る青年は「その前に俺がお前を殺してやるよ」と耳元で呟き、康太の顔を地面に叩きつけた。
そこで康太の意識は途切れ、部屋から出て行く五十嵐達の足音が微かに聞こえた。
「あれが英雄かよ。大した事ねーなー」
殺す事を止められた矢吹は廊下を歩きながら悪態付く中、五十嵐は「そうでもないさ」と矢吹の言葉に遮った。
「はい?」
五十嵐の言葉に首を傾げる矢吹は、首を傾げた時に首元に何か違和感を感じ、違和感のあるところを指でなぞった。
「お前が、康太をいつでも殺せたように、康太もお前を殺す事はいつでも出来たって事だ」
違和感を感じた場所にあった物は、鋭利な剃刀が矢吹の襟元の布に刺さっていた。
「いつの間に・・・」
「どうだ?これでも俺の元リーダーは、大した事無いって言えるか?」
認めざるを得ない康太の実力に、矢吹は手に持っていた剃刀を無言のまま地面に投げ捨て、五十嵐の後を追った。
「おぃ、康太。いい加減起きろ」
「・・・んぁ、いってぇ・・・どのぐらい寝てた」
「さぁな・・・一時間ぐらい?」
気が付くとそこは最初にいたゲートの入り口だった。
「あいつ等、すげーぞ。さっきもう一度集落の方へ行ってみたんだが、全部無くなっていた」
「無くなっていた?・・・建物だってあったろ」
「それが全て木端微塵だ。跡形もない」
思わず後ろを振り返ってみるが、そこには建物のあった形跡はあるが人の気配もそこに誰かが住んでいたという形跡も何一つなくなり、砂漠が一面に広がっているだけだった。
「・・・どうしてここにいる。運んでくれたのか?」
「気が付いたらここにいた。俺達を殺さず放置だ・・・舐められたもんだぜ」
「・・・・五十嵐だ。奴がいた」
「なんだと・・・」
「俺に会いたかったんだとさ・・・」
「そりゃお互い様だろ」
「だが、奴は俺を殺さなかった。まだ利用価値があると見たのか・・・情でもあったのか」
「貸しでも作っておきたかったんじゃないのか?」
「ま、どーでもいい・・・そろそろ迎えも来るだろうよ」
康太は、下手に考える事を止め服に着いた砂をはたき落としながら立ち上がった。
そんな康太の姿に島は思わず首を傾げた。
「おぃおぃ、どーした。やけにスッキリしてるじゃねーか」
「んー・・・俺ってさ、下手に深く考えるのって苦手なんだよね」
「あぁ・・・まぁわかる気がするな」
「だからよ。・・・証拠集めなんてヤメだ!」
「あぁ!?」
「怪しい奴等を片っぱしから徹底的に揺さぶる!」
「おま・・・自分の立場ってのを」
「自分の立場の権力を利用して何が悪い」
ニヤリと笑う康太の顔に島は半分諦めたかのようにため息を洩らした。
「ま・・・俺はこの職から溢れたらまた傭兵に戻るってのも一つの手だしな。そして、何より・・・面白そうだ」
迎えのヘリが康太達の前に着陸し「とことん付き合ってやるぜ」と島が最後の言葉を残し、二人は砂漠の地を後にした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ようやくここまでたどり着きました。
物語もようやく後半戦、むしろ終盤に差し掛かったのでは無いでしょうか。
と言うか予定よりもかなり物語がずれてます。
もはや修正不可能です。ごめんなさい
結末がどぉなるかわかりません。
恐らく、あと10話ほどで終わると思います
とりあえず、最後までよろしくお願いします。