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第二十八話 殻にこもるタイプ

「矢吹だ。今年で二十歳になるのかな?大学生です」

「なるのかな?って・・・自分の年齢ぐらい覚えておきなさいよ。ちなみに『矢吹』ってセカンドネームでしょ?本名は?」

「本名なんて、別にどうだっていいだろ。プライバシーの侵害だぞ」

「はぁ・・・年代が違うとこうも価値観が違うのかね。私達の代じゃ、セカンドネームなんて存在してるようでしてない感じだったんだからね」

「だったら、五十嵐さんはどうなんだよ。あの人だって、セカンドネームだろ」

「あぁ、そう言われればそうだったわね。でも、私、五十嵐君の本名知ってるし」

「えっ?マジかよ。なんて名前なの?」

洋子のちょっとした一言に、身を乗り出し食いついてきた矢吹に思わず身構えた。

「なんだ、案外殻に籠るタイプなんだな」

「そ、そんな事無いわよ!」

「まぁいいや。それで、俺に聞きたい事って?」

「あ、そうそう。一応、これでも記者なんでね。五十嵐君から言われたんだけど、みんなの生い立ちなんかを記事にしてくれって言われたの」

「ふ~ん・・・生い立ちって言われてもなにいえばいいんだ?」

「ん~実は、私も単独インタビューとかってやった事無いのよね~。何か言いたい事とかある?」

何と言うグダグダ感を部屋に充満させ、矢吹は戸惑い髪を掻きながら洋子の質問の答えを探していた。

「言いたい事ね~・・・とりあえず、これまでの活動を言えばいいのかな。初めは大学のサークルメンバーでウォーゲームをやっていた。そのお陰でリアルウォーに参加する事になった。何度かリアルウォーを続けていると、五十嵐さんのビデオメッセージがテレビで放送された。その後、特殊部隊として駅の警備及び、同志の排除を命じられていたが、実際は公の場でリアルウォーを行っただけだ」

「えっ?」

「あぁ?」

「あの駅を警備していたのって矢吹君だったの?」

「あぁ、テレビでも一度放送されてもんな。同志を排除した俺達に向かって抗議を続ける集団に向けて俺達は彼等を同志とみなし銃口を向けた。その行為が問題となり、特殊部隊は解体された。『次に発言する奴は、命をかけろ』あれは俺が言った言葉だ」

洋子は、あぁなんとなくこいつだったら言いそうだな。と感心していると、矢吹は何かを思い出したかのように「フフッ」と鼻で笑い始めた。

「あの時は面白かった。俺達特殊部隊は全員プレイヤーだ。またいつかこいつ等と殺し合いをしなければならないという恐怖から、仲間意識なんてものはほぼ無いに等しかった。だが、俺の言葉一つで俺達は『同志』という共通の敵を見出し、奴等を葬る事に一致団結した。特殊部隊解体後、特殊部隊の名残からか、殺し合う前に無線で連絡を取り合う仲にまでなっていた」

「・・・・」

「・・・大学のサークルメンバーの全員が死んだ。妹も意識不明の重体だ。完全な孤独状態の中から俺は五十嵐さんに拾われた」

矢吹の言葉に次第に力が無くなり始め、目が少し潤んでいるようにも見えた。

「こんなもんでいいだろ。俺は他にやる事があるんだ」

「そ、そうね。わかった、また聞きたい事あったら呼ぶから、どうもありがとう」

矢吹は「あぁ」と短く返事を返すと、足早に部屋から出て行った。

部屋に洋子だけが取り残され、五十嵐に彼等の話を聞くように頼まれた事を思い出しながら、深くため息を洩らした。

「まぁ記者としての仕事を堂々と出来るのはありがたいけどね・・・」

だが、五十嵐に頼まれた理由や目的が全くの不明であり、しかも不敵な笑みを見せながら頼んできた事に対し、首を傾げるしかできなかった。

「本意はどこにあるのかしらね~・・・」





「小早川姉です」

「同じく小早川妹です」

テーブルの向かいに座る小早川姉妹は片手を上げながら自己紹介をしてきた。

「二人ともセカンドネームね」

先ほどの矢吹と同じく反応を示すだろうと思って、追及はしないでおこうと思ったのだが、

「私達の本名なんて知って」「どうするのよ。知ったって何の得もないでしょ?」

と、小早川姉妹は同じ反応を示すが、二人で一つの事を語るという謎の反応を示した。

理解不能な反応に洋子は、口を尖らせムッとした表情をして見せた。

「うわっ、オバサンがそんな反応って」「あり得ね~」

「うるさいっ!自覚あるわよ!!・・・それで!二人の生い立ちを聞きたいんだけど!?」

オバサンと言われ、感情をむき出しにする洋子に二人はやれやれと言った感じにため息を洩らしながら二人で生い立ちを語り始めた。

「私達は、小さな集落で狩りを生業にして過ごしていた。私達二人は、お父さんに連れられて隣の村にあるウォーゲームをやる事になった。銃の扱いに慣れるためにね」

「狩りを生業にってあなた達、もしかして移動民?」

「元移動民だったかな?砂漠化が進んで、緑を求めてお父さんの世代までは移動をしてたみたいだけど、私達が生まれてから移動するのをやめたみたい」

「そぉだったの・・・」

「まぁそれで私達も銃に慣れる為にウォーゲームに参加してたけど、次第に私達はハマって行く事になったの。そして、気が付けばリアルウォーをやってた。リアルウォーの最初の相手は父だった」

笑顔で語る二人に洋子の背筋には一気に鳥肌が立った。

「えっ・・・う、嘘でしょ?」

「言ったでしょ?小さな集落だって、だからそれほどリアルウォーをやる人間もいない。次の相手だって私達の兄だった」

あまりの悲劇に、洋子は目をつぶった。

だが、洋子の態度に二人は首を横に振った。

「目を瞑る必要なんてないわ。私達に罪悪感なんてものはない」

「だって、父親と兄よ?」

「私達に罪悪感を埋め込まなかったのは、父と兄よ。父は私達に生き物の生命を奪う喜びを教えた。兄も私達同様に父に育てられた」

「でも、それは生きる為の狩りでしょ?」

「生きるためよ。私達が狩らなきゃ、私達が死んでた。獲物が、狐や鹿じゃなくて人間だっただけよ」

「・・・・移動民の教育方法か」

「別に共感を得ようとなんて思ってない。私達は移動民。人じゃないもの」

「いいえ、移動民もあなた達も立派な人よ」

吐き出すかのように呟いて見せた洋子に対し、小早川兄弟はキョトンとした顔をして見せた。

「へぇ、私達を人間扱いするんだ。珍しい・・・まぁ、罪悪感は無いとしてもリアルウォーを怨んでるのはみんなと同じよ。狩りは生きる為の行為、だけど戦争は死なない為の行為。そのお陰で父と兄が死んだ・・・私達に殺させた。許せないわ」

「それが罪悪感なんじゃないの?」

洋子の質問に二人は肩を竦めた。

「さぁね。私達が望んでいない事をやらせた事に腹が立ってるだけだし、それが罪悪感と結び付くのかは微妙だわ」

「そぉ・・・。じゃぁ質問を変えて、五十嵐君とはどうやってあったの?」

「・・・知らない方がいいじゃない?」

「どういう事?」

「そのままの意味よ。あなたは私達の隊長を正義の味方、もしくは悲劇の人物だと思ってる」

「そんな事無いわ。五十嵐君は昔からの友達よ」

「だったら、尚更」

首を振る二人に、軽い嫉妬心を抱いた洋子は、手に持った紙とペンを見せつけた。

「私は記者よ。公私混合はしないつもりです」

洋子の強い態度に、二人は顔を見合わせ「どうする?」「いいんじゃない?」と結論付け、洋子の方に再び顔を向け、口を開いた。

「隊長は多分、紹介者の浅野よ」

姉妹の言葉に、洋子は気付かぬ間にペンを地面に落していた。

「・・・えっ?」

「あくまでも私たちの考えよ、だからそんなに気にしないで」

「紹介者・・・岸辺の事?」

「だって、あり得ないもの。浅野達は自分たちの駒の事を同業者だとしても決して洩らさない。唯一、明かすとしたら、駒の交換、引き渡しの時だけ。

現に私達も引き渡しの際に、隊長に誘拐された。そして、矢吹もそう・・・他にもプレイヤーは数人いるけど、彼等は皆、仲間を多く失ってる」

「でも、紹介者ってのは、プレイヤーを戦わせなければいけないんでしょ?五十嵐君は・・・」

「私達は今現在進行形で、戦ってるわ。つまり、これはリアルウォーの延長線の一つ」

「そんな・・・」

「つまり、全ては筋書き通り・・・これまではね」

「これまで・・」

「そっ・・・イレギュラーはあなたよ」

姉妹が洋子を指さし、指を刺された本人は首を傾げながら自分に指をさし「私?」と尋ねた。

「ま、イレギュラーって訳でもないけどね。私達プレイヤーは常に人質を取られてる。もちろん、あなただって昔は人質だった」

自覚が全くなかった洋子にとっては頷いて見せるが、何とも微妙な感じだった。

「でも、もしかしたら『だった』ではなく、現在進行形だったら?」

「えっ?」

一瞬戸惑って見せるが、洋子は大声で笑いながら「ないない」と手を横に振った。

「ないない、あり得ないって。康太には今、奥さんがいるのよ。あり得ないって」

笑って見せる洋子に二人は大きなため息を洩らした。

「あのさ」「オバサン」

「オバっ・・」

「誰も井上康太だなんて言ってないわよ」

「へっ?」

首を傾げる洋子に姉妹はやれやれと言った感じに手のひらを返しながらため息を洩らした。

「俺達の戦争、第七作目覚えてる?」

「見てないわよ・・・」

当事者である洋子にとっては、ハッキリ言って虫唾が走る映画であり、それはおそらく康太も五十嵐も同様である。

「あぁ~もぅ馬鹿ね~・・・あの七作目が一番いいんだから!」

「たしか・・・七作目って恋愛描写でやったやつだっけ?」

本当に下らないっと鼻で笑って見せる洋子。

「あれって、あなたと井上康太。あと祐大と未来って子の恋愛描写を主に取り上げてるけど、実は全っ然違うからね!」

「えぇ~私もそういう風に聞いたけど・・・」

不貞腐れる洋子に説明しても聞く耳を持とうとしないオバサンに二人は頭を抱えて「あぁ~もぅ!」悶絶して見せた。

「オバサン」「せっかくのモテ期だったのに鈍感ってのは罪よ!」

「あの・・・もしかして、五十嵐君が私の事を想ってたとでも言いたいの?あり得ないあり得ない」

なんか自分で言ってて心が虚しく成ってくる・・・

二人は、肩を落としため息交じりに口を開いた。

「じゃぁ聞くけどさ・・・・隊長の人質って誰よ」

「それは・・・」

言われてみれば確かにそうだ。彼の人質は誰だったのだろうか・・・康太達?しかし、それは康太達も同じ・・・父親?・・・は殺すほど憎んでいた相手・・・

フリーズする洋子に姉妹は勝ったとほくそ笑んだ。

「隊長の人質は!・・・中村洋子!あなたよ!」

指を突き付けられ、洋子は「はっ?」と豆鉄砲で撃たれた鳩のような表情をして見せた。

「さぁさぁ!そう言われてみれば、思い当たる節もあるんじゃないの~?」

ニヤニヤと姉妹は強気に迫ってきて、洋子も過去を辿ってみて、ガンズショップを案内された時から始まり、銃の使い方、暴漢に襲われそうになった時に救ってくれた事

それを考えるだけで顔が真っ赤になるのを感じながら、自分の精神年齢が若干子供になった時に、怪我を負った五十嵐君の上に乗り、無邪気に彼の傷口を殴り続けた事を思い出し、洋子は忘れたかった過去を思い出し、爆発した。

「あぁぁぁぁぁ!穴はどこ!?隠れるから!というか隠れたいぃぃぃぃぃぃ!!」

悶絶する洋子を横目に二人は勝ったと言わんばかりにハイタッチをして見せた。

「まっとにかく、これはあくまで私達の仮説。隊長は自分の足枷となっていた人質を手中に収める事が出来た」

「・・・・」

完全に腰が抜けた洋子は地面に腰を落としながら、二人の言葉に耳を傾けた。

「つまり、ここからが私たちの戦いよ」

「戦うって・・・あなた達も戦うの?」

「当然よ。私達はプレイヤーでもあるし、狩人でもある・・・私たちほど、戦いに適した人物はいないわ」

「そんな・・そんなの駄目、五十嵐君が許さない・・死ぬかもしれないのに」

「私達は何度も隊長の横で戦ってきた。それと、死に別に興味が無い」

「・・・・」

「理解なんてしなくていい。それが移動民の考え方よ。いつ死ぬかもわからないからね。そろそろ、仕事に戻るわ」

そういうと複雑な表情をする洋子を無視して部屋から出ていった。





廊下に垂れさがる豆電球が頼りの長い穴倉を歩いていると何やら遠くでどなり声が聞こえてきた。

なんだろうかと記者魂が洋子を騒ぎの方へと進ませた。

「俺が、拠点防御の陣頭指揮だなんて・・・そんなの今まで傭兵にやらせてたじゃないですか!」

「雇い兵が数少なくなってきたんだ。そろそろこっちだって、本腰を入れなきゃならん」

「そんな拠点、捨てちまえばいいんですよ!」

「その分、本拠地を発見される時間が早くなってしまう。この拠点をなんとしても死守して欲しい」

「それは・・・俺に死にに行けというのと同じですよね」

「・・・不服か」

五十嵐と誰かが言い争っている。内容まではうまく聞き取ることが出来ない。

だが、しばらくして「くそっ!」と言いくるめられたのか部屋の扉を乱暴に開け、五十嵐と言い争っていたらしい人物が洋子の前に出てきた。

「あぁ?なんだてめぇ」

「・・・・」

殺気立つ男性に、思わず昔のトラウマが蘇り立ち尽くす事しかできない洋子に男は何やら暴言を吐いているみたいだが、理解する事が出来なかった。

「なんか言ったらどうなんだよ!」

拳を振り上げる相手に、洋子は思わず身を縮込ませようとするが「待てよ」と後ろで声が聞こえた。

「なんだよ。死刑宣告が出されて、力も持たない女に手を上げようってのか?・・・ハッ、餓鬼か」

後ろに現れた人物に気付き、男は舌打ちをしながら拳を降ろした。

「てめぇか・・俺を売ったのは」

「はぁ?何の事だ?」

明らかに相手を見下すような口調に違和感を覚えたが、声は聞きおぼえがある。

「・・・裏切り者が」

「裏切ってんのはあんただろうが。さっさと死んでこい・・・裏切り者」

下を出しながら相手を見下す矢吹の姿に洋子は思わず目を疑った。

相手は悔しさを滲ませながら「くそっ」と言い残し、その場を去って行った。

「・・・やっぱ殻に籠るタイプだったか」

壁に倒れ込む洋子を見下ろしながら、矢吹は洋子を無視して先ほど誰かが出てきた部屋に入って行った。


「俺もそろそろ顔がばれてきました」

「そうか・・・こんな辛い任務を任せて悪かったな」

「いいですよ。心理戦は俺の得意分野だ・・・確実に疑われる人物はこの二人です」

「わかった。下がっていいぞ」

「はい」


矢吹が再び廊下に出てくると、矢吹は洋子のいる方とは反対側に姿を消した。

洋子は重い腰を持ち上げ、矢吹が入っていた部屋に入った。

そこには椅子に腰をおろしテーブルに肘を乗せながらドンと構える五十嵐の姿があった。

「誰だ」

「・・・五十嵐君」

「なんだ・・・どうした?」

洋子はテーブルの上に置かれた二枚の顔写真と音声テープを見ながらそれは何かと尋ねた。

「これか・・・俺達の居場所を流そうとしている奴等だ」

「裏切り者・・・・矢吹君に裏切り者の捜索をさせていたの?」

「そんな・・・」

「だが、彼にしかできない事だ・・・」

五十嵐を見つめる洋子に五十嵐はため息を洩らした。

「すまない。今はなりふり構ってられないんだ・・・使える物は使う・・・使わなきゃ今は駄目なんだ」

「そっか・・・わかったよ。私」

「ん?」

「何で彼等をインタビューさせてくれたのか」

「そうか・・・」

「聞かないの?間違ってるかもしれないわよ」

「はぁ・・・じゃぁ聞こうか」

「あの三人は、昔の五十嵐君にホンットにそっくり・・・本心を見せやしない。・・・私と同じ殻に籠るタイプなのよ」

「・・・・」

「少しでも救いたいんでしょ・・・あの三人の闇を」

「・・・・」

「ま、私に出来るか、わらないけどね」

「出来るさ・・・少なくとも今の俺の支えにはなってる」

「あらま、嬉しい事言うじゃないの」

「たまにはお世辞を言わないとな」

「今のでガタ落ちだわ」

「・・・うん」

「やれるだけやってみるわ。五十嵐君は今まで通りやってればいいわよ。私はただ単に仕事をするだけだから」

親指を立て、やってやるぜとアピールして見せたが視力のない五十嵐にそのアピールは届かず、すごすごと親指を隠す洋子に一瞬、五十嵐が笑ったかのように見えた。





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