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第六話 初めての犠牲者

「何を考えているんだ。馬鹿な事をするな」

『うるさい、僕のせいでこの人達は死んだんだぞ !!』

右手に構える銃がガタガタと震えていた。

「落ち着け、お前が一番死にたくないって言ってたじゃないか」

『だからって、僕は人の屍の上で生きていい資格なんてない』

パニックになる龍之介を、どうにか抑えようと俺が必死になる中、「ふざけやがって」と呟いた五十嵐が、その場で射撃体勢をとった。それを見て俺は、一度無線を切った。

「おぃ、五十嵐。なにするつもりだ」

「いいから、黙って説得を続けろ。・・・あいつに恐怖を植え込んでやる」

五十嵐は、ライフルに違う弾を詰め込み始めた。


五十嵐は、準備が終わると「無線を貸せ !!」と叫んだ。

俺は、五十嵐に無線を渡した。

「おぃ、龍之介 !!お前、今から死のうとしてんだろ?だったら、さっさと引き金引きやがれ」

「五十嵐 !!何考えてる」

叫ぶ俺を五十嵐は「うるせぇっ!!」と一喝した。

『い、言われなくても、そのつもりだ』

龍之介は、無線を落とし右手で、構えた銃の引き金を引こうとするが、引けなく左手も添えようとしていた。

「引けねぇのか !!だったら、俺が殺してやる」

そう言うと五十嵐は、引き金を引いた。銃声と、ともに隣に倒れていた死体の頭が吹き飛び

地面に血が飛び散った。

『ヒッ !!』

無線からは、龍之介の恐怖で引きつった声が聞こえてくる。

「いいか !!龍之介。今詰めた弾の大きさはな、さっきの銃弾とは訳が違う。当たれば、隣にいる奴みたく頭なんて軽く吹き飛ぶぞ」

また、五十嵐は引き金を引いた。次は片腕が、肘からちぎれ宙に浮き龍之介の横にボトリと落ちた。

「さぁ、こうなりたくなかったらな !!さっさと自分で引き金を引け !!」

今度は、龍之介の足元に着弾した。

「次は、頭を狙う。さぁチャンスはあと一回だ」

龍之介は、頭に銃を向けたまま硬直し動かなくなった。

「チェック」

五十嵐の声は、今までにないくらい感情的だった。

「チェック」

五十嵐のライフルは、本当に龍之介の頭に標準を合わせた。

「チェック !!」

「おぃ、止せ」俺が五十嵐を止めに入ろうと飛び込んだと同時に大次と裕大が、龍之介に飛び込んだ。



大次は、龍之介から銃を外そうと龍之介の手を地面に何回も叩きつけた。

必死に抵抗する龍之介を、裕大は押さえつけた。

「放せ !!放してくれ」

「てめぇこそ銃を・・放しやがれ」

龍之介は、銃を放した瞬間、大次は、銃を遠くへ投げた。

そして、無線からは裕大が『無事確保したぞ』と、連絡があった。

それまで、俺は五十嵐に飛びついて引き金を引かせまいと、もがいていたから、勉に言われるまで全然気付かなかった。

訳が、わからない俺に五十嵐が、勝ったと言わんばかしに俺に向かってニヤついた。


全てに気が付いた時、俺は

「あぁ〜クソ、やられた〜」

そう叫びながら、仰向けに倒れた。

「くっそー、合図を待てってそう言う事かよ」

無線からも

『俺もこういう事だとは、思わなかった』

と連絡が入る。

「いや、俺もこうなるとは想像もしてなかった。問題は応用力だ」

と五十嵐が言う

「はぃはぃ、全員が一杯食わされたってことね」

ようやく、みんなに笑顔が戻った。俺は、無線とみんなに聞こえるように言った。

「さぁ、帰ろう」




「あぁ〜くそ〜・・・なんで授業中寝ちゃ駄目なんだよ」

「よく言うぜ、起こされた後もぐっすり寝てたくせに」

「だからって、教科書の角で叩くかフツー?体罰じゃね?これってさ、PTAだPTAに訴えてやる」

そんな事を言っていると

「寝ている人を起こすのは先生として当たり前の行動だ !!」

後ろから、洋子にノートの角で叩かれた。

「イってぇぇ、ヤベっノートが頭に刺さった。サックリいったぁー」

「んなわけあるかー!!馬鹿。まったく・・いつも通りに戻ってもこれはこれで、問題ねやっぱり、あんた昨日までの状態に戻りなさい」

そんな事を言って、昨日のお陰で、幼馴染からランクアップした奴に顔を近づけられたら正直困る。

「あれ?どうしたの!?顔が赤いわよ。熱でもあるんじゃないの?」

「━━っ!!何でもない」

「ん?変なの」

そう言って、女子の集団の方へ行ってしまった。ってか、そんな事を真面目な顔をして悩まないでくれ・・・

「いいねぇ、青春かぇ?」

なんて、男子からははやし立てられ

「馬鹿っそんなんじゃねーよ」

・・・そんな、くだらない会話をぶち壊す、惨劇がこれから起こるとは、思ってもいなかった。


今日は、やけに天気が良かった。窓も開けてあるし程よい風が教室に吹き込む

「はぁ、こんな日は学校なんて抜け出して、どこかいきてーなー」

なんて、誰かがいい

「あぁ、そうだなー」

なんて言って、窓の方を向くと何か黒い物体が、上から落ちてきて通り過ぎて行った。

日差しが強く差し込むのに一瞬、影が入ったため、クラスのほとんどが、一度は、窓の方に目をやったが、異常がないことを確認するとすぐに会話に戻った。

ただ、俺とさっき天気の話をしていた奴を除いては・・

「お、おぃ、今なにかおちて・・」

俺が言いかけた時、窓の外で半端じゃない女性の悲鳴が上がった。


「おぃ、なんだどうした」

そう言って、野次馬気分で男子は窓辺に群がり、他の奴等が見れないようにバリケードを作った。そして、ある物を目にし全員が固まる。

窓辺に座っていた五十嵐は、それを見た瞬間、勢いよく教室を抜け出した。

俺は、五十嵐が抜けた場所に穴ができたのでそこから外を覗き見る。

俺らの教室の真下には、血が飛び散り、その中心に同じ学生服を着た人間がありえないような、方向に腕が曲がり、頭はパックリと割れた状態で倒れていた。

そこに、さっき駆け出して行った五十嵐がやってきた。

俺は、倒れている姿は、どこかで見た事があるような気がしていたが、それを信じたくはなかった。

「い、五十嵐・・そいつ、誰だ」

俺が五十嵐に問いかける。


五十嵐は、顔を見上げ「福見・・龍之介だ」と小さい声だが、俺達の教室に届くような声で

一区切り一区切り丁寧に言った。

「うわぁぁぁぁーっ !!!」

男子の特徴ある叫びで、全員の金縛りが解けた。

ある人は叫びだし、ある人はその場で吐いた。

何があったのか、わからない女子は、窓に押し寄せるものもいれば、その場でオドオドする奴もいた。

「止せ !!見るな」

大次が、見ようとする女子を止めようとしていた。それに気づいた裕大と勉も止めに入った。

その場を切り抜け覗いた女子も何人かいた。俺は、相変わらず金縛りが解けず、外を見降ろしていた。

五十嵐は、最初に悲鳴を上げていた。今は、その場にうずくまり、泣いている女子に近寄り

「大丈夫だ、大丈夫だから」

そう言い聞かせ、自分の体に引き寄せていた。しばらくして、その場に、何人もの男の先生が現れた。

それから、彼女は意識を失ったのかグッタリとし、五十嵐は彼女を担ぎ校舎に入って行った。


「ねぇ、康太・・」

後ろを振り返ると、洋子と数人の女子が立っていた。

「ねぇ、何が見えるの・・?」

見たいと言う、好奇心と見てはいけないと言う恐怖心が入り混じった表情をしていた。

見てはみたいが、周りの様子をみて見たらこうなってしまう・・・今、どうすべきか戸惑っている。

「・・見ない方がいい。龍之介が・・死んでいる」

その場にいた女子が全員、息をのみ、手で口を押さえ涙を流す女もいた。


しばらくして、救急車とパトカーがやってきた。当然学校は、臨時休校となり。

生徒全員が、帰る時に使う通りに龍之介が倒れているので、俺達が通る時にはブルーシートがかぶせられ一部分、盛り上がりがあった。

多分あそこに・・

何人かは、パニック状態が抜けず病院に運ばれた。龍之介が同じクラスだったからか俺らのクラスからは、かなり精神がやられた奴がいた。

だが、違うクラスからも精神的にやられた人が数人出ていた。

五十嵐は、なぜか、倒れた彼女の付き添いで一緒に救急車に乗せられ病院に行ってしまった。


校舎を出るところですでに、数人のやじ馬ができていた。

「え・・マジで?」

「やべぇ・・グロすぎ。見れば良かった」

「マジもっかいやってくんねぇかな?」

なんて言っている。奴等に勉と大次、裕大、他数名の男子が、そいつ等をぶん殴り何人かの先生と警察に押さえつけられ、鎮圧はしたものの野次馬からも、病院送りが数人出た。



俺も、本当は殴りかかりたかった。けど、横で泣きじゃくる洋子を置いて行くことはできなかった。

やべぇ、俺って紳士・・

なんて、なるべく他の事を思っていたかった。

「だ、大丈夫だ。ってか、もう泣くな」

「う、うん、ごめんね。泣きやまなくて、本当は康太の方が泣きたいのに・・」

「いや・・そ、そそそんなことねぇよ。俺だって、確かにショックだったけど・・お前が、そんなに泣いてるからさ・・・」

だぁーーー逆効果だ !!また更に謝ってくるし!!

「大丈夫だ。落ち着け」

「大丈夫って、何が大丈夫なのよ。だって、龍之介君が・・」

そうだ。なるべく思い出したくなかった・・・俺らのせいだ。あいつが自殺したのは・・

「俺らのせいか・・」

「え・・?」

思わず、声に出してしまった。そう思うと、顔から血の気が引いて行く。

ヤベ・・どうしよう・・

『・・ったく仕方がないな』

俺の頭に誰かが話しかけてくる。

「違うよ。康太達のせいじゃないよ。確かに、いじめてたかもしれないけど今は会話だってしてたし普通になってきてたじゃない」

「いや、あいつにとっては・・・そうじゃなかったのかもしれない」

「そんな事言わないで、責任感じる事ないわよ」

「でも、現にあいつは・・」

「お願いだから、責任感じないで、ね?私もう大丈夫だから。もう、泣かないから。あっ私ここでもう大丈夫・・・それじゃぁね」

「あぁ、わかった。ごめん・・」

洋子は、家に入って行った。



『ったく、余計な事で無線を使わせるな。前から思ってたが、俺って女心がわかってるな』

俺の頭の中に岸辺の声が入ってくる

「どういう事だ?なんで、お前の声が聞こえる」

『言っただろ。盗聴も任務の一つだって。盗聴以外にも、任務はあるんだよ』

「本当にサイッテーな野郎だな」

『最低な野郎のお陰でゲームの秘密は漏れることはなくなった。彼女に嫌われる事もな』

「あぁ、お陰さまで“助かりました”」

『おぅ、感謝しろ』

「おぃ今、スゲー嫌味で言ったんだけど」

『知っている。今から、ガンズショップに来い。他の奴等も時期に来る』

岸辺からの無線はこれで終わった。

「くそがっ !!」



ミーティングルームに入ると、まだ誰も来ていなかった。

誰もいないなら、好都合だ。ただ、このイライラを解消したかった。

俺は、目の前にある長机を思いっきり蹴飛ばした。

「くそっ !! くそっ、くそ、くそ・・」

倒れた長机が壊れても何度も何度も踏みつけた。だが、イライラは収まらない。増していく

目頭が段々と熱くなってくる。

「くそがっ・・」

声にも段々と張りが無くなってくる・・・


そこへ、勉、大次、裕大が入ってきた。この光景を見ても、誰ひとり何かを言おうとはしなかった。

きっと、みんな同じ心境だからだろう。全員が、椅子に座り五十嵐と岸辺が来るのを待った。

「全員、そろったか?」

そう言って入ってきたのは、岸辺だった。

「五十嵐は、まだか・・くそ・・よりによってあの病院に入りやがって」

その言葉に反応したのは、俺と勉だった。

「まぁいい。お前らだけにでも、連絡を入れておこう。別に今回のケースは数は少ないが、無かった訳ではない。お前達が心配してるの事は、これから言う事だろう。あいつは、自殺はしたが、安心しろ。周りの奴等を、消したりはしない」

そう告げても、誰一人として安堵の表情を見せた奴はいなかった。

「なんだ?それ以外にでも心配してることでもあるのか?」

「心配事なんかじゃねーょ」

「じゃぁ、なんだ?浮かない顔して」

全員が黙っていたが、俺は心にあるこのイライラを口にだし、表現したかった。

「俺は・・・俺達は・・目の前で、龍之介が死んだってーのに、どうして !!

クラスの奴等とは、違う事をしてるんだ!!クラスの奴なんかよりも・・俺らの方が !!

あいつとの付き合いは長いんだ・・それなのに、あの場で泣けなかった !!

あの場で、吐く事も、叫び声を上げる事もできなかったんだ。

・・あの場で泣けなくて、どうして今、涙が出る !!

しかも、この涙は、悲しいからじゃなくて、悔しいからだ !!・・・イライラするからだっ !!

なんで、悲しくて泣けないんだ・・・・・俺達は、もぅ・・そんな人間なのかよ !!

周りの人間とは違うのか・・・?そんな、俺達が・・あの場所なんかで !!生きてていいのかよ」

全員が、その場で泣く中、岸辺はしばらく全員が落ち着くまで待った。



「全員、落ち着いたか・・なら話を続ける。いいか、これは前例があるとは、言っても極めてまれなケースだ。あいつは、ある意味、幸せ者だ。死んだって事が、みんなに知らされるからな。

お前等は、もしかしたら、これから戦いで死ぬかもしれない。だが、死んでも誰にも知らされない。せっかく守った家族にも、周りの奴等にも !!仲間の中で覚えてる奴がいるかもしれないが、これは、たくさんの前例があるが、みんな死んだ事を忘れて行く。それだけは、覚えておけ・・・・それと、屋上には、あいつからの遺書があったそうだ。

『俺は、人間である内に、死ぬ』そう書いてあったそうだ。あいつも、お前等と同じ心境だったんだ。・・・・・さて、ここで次の試合の連絡だ。」


次の試合の連絡を伝えると岸辺は、足早に部屋から出てきた。これ以上、あの場所にいたら

あいつ等に、感情移入してしまう。

扉を閉めると、向こうから五十嵐がやってきた。

「よぉ、お帰り・・さっき、あいつ等には、もぅ伝えたんだが・・」

「悪い・・後で聞く・・」

そう足早に通り過ぎる時に言われ、五十嵐は部屋に入り、勢いよく扉を閉めた。

しばらくすると、扉を挟んでいるのに聞こえるような音で、ロッカーが壊される音と五十嵐の叫び声が、聞こえた。




あんな、子供に・・俺達、大人は・・一体・・何をさせようとしてるんだ・・




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