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第二十六話 第二のプレイヤー

「やられたよ・・・地下に伸びる廊下があった。俺達が昔、この収容所に連れてこられた時に使った時の廊下だ・・・まだ使えてたとは・・・」

『追跡は』

「無駄だ。崩されてる」

『五十嵐の方が一枚・・いやそれ以上に上手だったって事か』

ため息を漏らす島の声に、悔しさをにじみ出す康太。

『観測兵からの映像解析をしてみた所、あの野郎凄いぞ。暗視ゴーグル、赤外線ゴーグルからも逃れるために、野郎は渡り廊下の外を歩いていやがった』

「あぁ、こっちも渡り廊下を通過した時に、確認した。壁が一枚剥がされていて、廊下の外に足場まで作られていた」

『そして、廊下を歩く奴に歩調を合わせ、閃光弾を合図に中に侵入。記者を奪い去りやがった』

「・・・くそっ」

『落ち着け。官房長官救出という本来の目的は果たせたんだ・・・上から言わせりゃ、それだけで十分だ。それに野郎だって鬼じゃない・・お前の友人を酷く扱うようなマネはしないさ』

「洋子に付けておいた発信機は?」

『無駄だ。全部水に濡らされた』

「・・・お手上げか」

『こりゃ虱潰しらみつぶしに敵拠点の制圧をしにゃならんな』

「それは無理だ・・・置き手紙があった。『しばらく身を潜める』だってよ」

『・・・だとしても、現在確認されている敵拠点は未だ健在だ。戦果を出さなきゃ国民は納得しないぞ』

「・・・・そうだな」

建物内を捜索する隊員達に引き上げの合図を出し、康太達は建物から去って行った。






本部へと戻った康太は、島からの報告を受け、渡り廊下で撃たれた同志について尋ねた。

「奴からは何か聞き出せなかったのか?」

康太の問い掛けに、島は首を横に振った。

「死んだよ。処置の使用が無かったらしい」

「そうか・・・」

「だが、妙なんだ」

「妙?」

「弾丸は脇腹から腰にかけて貫通していた。つまり上から下に向かって銃は向けられ、撃たれた事になる。しかも至近距離でな」

「・・・・」

「つまり、奴を撃ったのは・・・五十嵐だ」

「五十嵐が?」

「妙だと思わないか?官房長官に閃光弾や発煙弾を握らせていた。なのに、わざわざ五十嵐が中村洋子を保護する必要なんてなかったんだ。なのにわざわざ五十嵐が出てきた」

「つまり、仲間をそこで殺す必要があった?と言う事か?」

「あぁ、俺達に責任を負わせる為か?それとも」

「俺達に何かを伝えようとしている?」

「・・・はぁ、わからん。奴からのメッセージはお手上げ状態だ」

島は両手を上げて降参ポーズをして見せ、息を吐くようにして笑って見せた。

「フフフ・・・はぁ、これは本当に虱潰しに五十嵐を探していくしかないな」

「あぁ、その通りだ」









「さてと・・・現在の状況は?」

「ん~芳しくないね。うち等の拠点で音信の途絶えた場所は、未だ返事が来る場所よりも多いよ」

「そうか・・・そろそろ国に帰るように通告するか」

「無駄だね。・・・彼等には帰る国なんて存在しない・・好き勝手に戦争をやって楽しんでんだ。帰りたい時に勝手に帰って、死にたい時に勝手に死ぬさ」

「そうかもしれないが、一応通告ぐらい出しておけ」

「了~解」

光が一切届かない場所で唯一の豆電球が光を放ち、その中で五十嵐とこの前、洋子を蹴飛ばした女性がそんな会話をしていた。

「・・・あぁ、駄目だ。私、向こうの言葉喋れないから」

女性はそう言って五十嵐に無線を手渡し、五十嵐はどこかの言葉で、無線の向こうにいる人と会話をし、無線を切った。

とりあえず着いて来い。五十嵐にそう言われ、辿り着いたこの部屋で中央に置かれた椅子に座る洋子。

そして、無線を切った五十嵐がテーブルを挟んで、向かいに座ってきた。

「悪いな。こんな所に来させちまって・・・」

五十嵐の言葉に、顔を横に振る事しか出来ない洋子。

「・・・さて、何から話せばいいかな」

悩む五十嵐に洋子は、口を開こうとするが、木製の扉が豪快に開き、一人の男がやってきた。

「隊長!・・・俺、もぅ変態小早川の隣の部屋なんてイヤだ!・・毎晩毎晩、変な声に魘される俺の気持ちわかってくれよ!」

入って来て早々に愚痴を垂らす男に横にいた女性が「誰が変態だ!」と反論し、男は「変態だろうが!」と女性を指差し、暴言を吐いていた。

「おぃ、お前等・・・客人の前で何言ってんだ。・・ん~紹介するわ。男の方は矢吹、そして、そっちの女は小早川だ」

男の方に目を向けると男は「どもっ」と頭を下げ、女性の方は「妹がお世話になりました」と言ってきた。

お世話をした覚えのない洋子は首をかしげるが、再び扉が豪快に開き、矢吹を突き飛ばした。

「誰が変態だぁぁぁ!・・・そりゃ私の事だぁぁ!」

部屋に入って来て早々、自分を変態呼ばわりする女性。

その女性は、小早川そっくりの女性だった。

「・・・見ての通り、双子だ」

「ん?ぬお!出たなゴシップ記者!・・・・あぁ~ていうか、ごめんね~。戦場に立つと私、性格変わるから」

どうやら洋子を蹴った方は、妹さんの方だったらしい。

「性格が変わるって・・・いつもがこの調子じゃ、戦場の性格の方がマシだね」

小さく愚痴をこぼす矢吹に対し「んだと、このシスコン野郎!」と二人が襲いかかり、二人係で矢吹を苛めていた。



うるさい三人を部屋から追い出し、扉を豪快に閉める五十嵐。

「はぁ、悪いな。いつもこんな感じなんだ」

「まぁ・・一応、私は人質なんだもんね。何も言えないよ」

「あぁ、そうだな」

「何で私をここに呼んだの?・・・私じゃないと駄目だったんじゃないの?」

「・・・・」

「記者を呼ぼうとしてたなんて嘘でしょ?」

「・・・あぁ、嘘だ」

「やっぱり・・・」

「康太を解放してやるためだ。これであいつは好きなように動ける」

「リアルウォー・・・」

「そうだ。俺達の本当の敵は康太じゃない・・・この絵を描いた奴だ」

「じゃぁリアルウォーは存在するって言うの?」

「さっきの三人を見ただろう?・・・周りに比べて、妙に若くなかったか?彼等は第二のプレイヤーだ」

「・・・・」

「俺達が表に出した物が、再び闇に消されようとしている。それは何としても阻止しなきゃならない」

五十嵐の言葉に、洋子は顔を俯かせた。

「・・・そのために爆破テロを起こしたの?」

「・・・あぁ」

「その爆破テロのお陰で、何人の犠牲が出たと思ってるの?」

「だが、同志の存在を明らかにするためには仕方なかったんだ」

「その犠牲者の中に、知り合いがいた人間は同志の存在をどう感じるかわかってるでしょ?」

「・・・わかってる。けじめはちゃんとつける」

「わかってない!」

「・・・・」

椅子に腰かけていた洋子は、勢いよく立ち上がり、机をバンと叩いた。

「首都駅に!私のお母さんがいたの!・・・五十嵐君は、私のお母さんを殺したのよ?五十嵐君だって決して知らない人物じゃないでしょ!」

椅子に座り動こうとしない五十嵐の胸倉に掴みかかるが、爆発した感情は洋子から力を失わせ、膝から崩れ落ち、五十嵐にすがるような形になった。

「五十嵐君は・・・人殺しよ・・・」

サングラスをかける五十嵐の表情は硬く、何も語ろうとはしなかった。


「何でもかんでも同志のせいにするなよ~」

「そうだ、そうだ~!私達は首都駅は破壊してないわよ~」

木製の扉を挟んで小早川兄弟の声が聞こえてきた。

「あぁ、たしかにその通りだ。ちなみに俺は、特殊部隊として駅を守ってたな~。敵は同志じゃなくて、プレイヤーだったけどな」

「あぁ~やだやだ。勢力図がまるでわかってない人なんだね~あの人は」

「まるで同志が全て悪みたいに見てるのね、あの人は」

「まっ、否定はしないけどなっ!」

「「ごもっともです!」」


扉に向かって言い聞かせる三人だが、扉の向こうにいた五十嵐が、扉を蹴り開けその反動で三人は「うわっ!」と声を出しながら蹴り飛ばされた。

「おぃお前等、立ち聞きとはいい度胸だ」

「だって、何も言おうとしないんだもん!聞いててハラハラするんだから!」

「そうだ!そうだ!はたから見て、おじさんとおばさんなのに、何この甘酸っぱい関係は!マジで鳥肌立つんですけど!」

「お前等に見せる為にやってるんじゃねぇよ。さぁ、散れ散れ」

まるで虫を追い払うかのように手であしらう五十嵐の態度に三人は「は~い」と答え、その場を去ろうとした。

だが、そんな中、矢吹が「あっ」と何かを思い出したかのように立ち止まり、洋子の方を見て口を開いた。

「言っておくけどな。ストックホルム症候群には気を付けろよ。俺達は同情される為に同志になったんじゃない。真実を明らかにするために同志になったんだ」

矢吹は言いたい事を言い終えたのか、二人の後を追い廊下へと消えて行った。

「ストックホルム症候群?」

「犯罪被害者と加害者が、同じ時間を過ごす事で強い同情や共感を持ち、犯罪被害者が強い依存症を持つ症状の事だ。だが、俺達は加害者であり、洋子は被害者だ。その関係はかわらない」

「・・・・」

「悪かったな・・・こんな事に巻き込んじまって」

「うん・・・」


「あっ、ちなみに五十嵐さんはリマ症候群に気を付けて下さいね~」

姿を消していたはずの矢吹が再び扉から顔を出し、五十嵐に向けてそう言うと「誰に物を言ってやがる!」と強く言い返され「怖っ」と矢吹は再び姿を消した。

突然の不意打ちに、息を荒げる五十嵐を見て、洋子は思わず表情が緩んだ。

「フフッ、五十嵐君なんだか歳とって子供になったみたい」

「えぇ?そうか?」

「なんだか表情が柔らかくなった気がする」

「あぁ、きっとあいつ等の子守りをやってるせいだ。・・・洋子は相変わらずだな」

「えっ?そぉ?」

「あぁ」

「普通、変わったって言われた方が女性は喜ぶと思うけどね」

「そうなのか?」

「さぁね」

「だが、声も態度も変わってない。昔のまんまだ」

「じゃぁ見た目は変わった?」

「まぁ歳をとったからな」

「あっ!酷い!大体、室内でそんな真っ黒なサングラスしてるから駄目なのよ!外しなさい」

サングラスを外そうと近づく洋子に、五十嵐は思わず後ずさりし始めた。

「それは・・・駄目だ!」

「何でよ!私のどこが変わったか見せてやる!」

五十嵐は手を前に出し、洋子を止めようとするが、五十嵐のその妙な行動に洋子は違和感を覚えた。

「・・・五十嵐君?」

「ん?なんだ?このサングラスはお気に入りなんだ。絶対に外させないぞ」

「・・・」

「・・・おぃ、どうした」

「ねぇ・・・どこを向いてるの?」

洋子の言葉に、五十嵐は思わず後ろを振り返るが、その時に机に足を取られその場に五十嵐は転倒した。

「五十嵐君・・・」

五十嵐は横にしゃがみ込む洋子の腕を掴み「ようやく捕まえた」と呟いた。

「・・・悪いがサングラスは外せない」

だが、五十嵐が掴んでいたのは洋子の足だった。

洋子は両手で五十嵐のサングラスを掴み、五十嵐の顔から外した。

「んなっ!」

洋子は以前の透き通った透明な目ではなく、真っ白に濁った五十嵐の目を目の当たりにし思わず声を失った。

「・・・・くそっ、普通に見せようと思ってたのに、まさかこんな早くにばれちまうなんてな」

「その目・・・どうしたの?」

仰向けに倒れる五十嵐は、手を上に伸ばし洋子を探し、洋子はその手を握り、自分の頬へ当てた。

「ごめんな・・・お前の顔、ホントは見えなかったんだ」

「なんで・・・どうして・・・」

「いや、全部見えてない訳じゃないんだ。ぼんやりと何かがそこにいるってのはわかるんだ」

「いつから?・・・」

「ふっ・・・そうだな。時間はあるんだ。そこから話しても遅くはないだろう」





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