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第二十五話 懐かしき場所

「島!対空砲の無力化に成功した!・・・航空支援を要請する」

崩れた建物の中に潜む矢吹の耳に、あの忌まわしき井上康太の声が届いていた。

「ここまで五十嵐さんの読みが当たるってのも、怖いもんだな・・・」

真っ暗な空間にかすかな光が割れ目から入り、その割れ目から外を窺うと迷彩服に身を纏った井上が部下に指示を出していた。

この隙間から奴を狙えば、確実に殺せる。

矢吹はハンドガンを手に取り小さな隙間から銃を井上に向けた。

『リアルウォーなんて存在しません』

テレビで放った言葉が、許せない。同じプレイヤーである人間が、同志の事をあぁも言いきる奴の神経が考えられなかった。

大きく息を吐き、矢吹の人差し指は、引き金へと伸び、引き金を引いた。


矢吹の放つ殺気を感じ取ったのか、井上は周囲をきょろきょろと見渡し、崩れた建物に目を向けたが、そこには先ほどまで突き出されていた銃の姿はなかった。

弾の入っていない銃を引き金を引いた後、すぐさま引っ込め、井上に一瞬ばれてしまったスリルを体感し、冷や汗をかいた。

「・・ハッ、命拾いしたな。井上康太」

矢吹は、銃に弾を込め、横に置いておいた紙袋を手に取り、五十嵐に頼まれていた任務に戻った。









「これで、よかったのか?」

「あぁ、上出来だ」

小さな小包を渡し終えた矢吹は、机にドンと構える五十嵐に問いかけた。

部屋の中央にぶら下がる豆電球だけがこの部屋の光を作り出し、その光はどこからかの隙間風でフラフラと揺れていた。

「これであいつと交渉が出来る」

椅子に腰かけていた五十嵐は、身を前に出すようにして机に置かれていた無線機を手に取った。

大事そうに手に取る五十嵐の姿は、まるでこの無線機のみが唯一心を許せる存在であるかのように矢吹の目見映った。

だが、矢吹にとっては憎しみをぶつける物であり、五十嵐の態度に妙な嫉妬感を覚えた。

しばらくすると無線機が通じたらしく、砂嵐に似た雑音が無線機から流れ始めた。

「・・・よぉ、そこにいるのは俺の古い戦友かな?」

『そうみたいだな』

「さすがは、お前の陣頭指揮だ。予定よりも早く、お前とコンタクトを取る事が出来た」

『つまり、ここまでの流れはお前の読み通りって事か・・・』

「・・・まぁな。だが、防衛作戦も一応は含まれていた。なるべく犠牲を出したくはなかったが、残念だ。お前を敵に回すと辛い物があるな」

『それはお互い様だ。・・・それで、こんな無線機一つを届けるためにあんな戦いをやってのけて、一体何の用だ?』

「まぁそう硬くなるな。俺とお前を結ぶ唯一のホットラインだ。丁重に扱ってくれよ」

『あぁ、そうさせて貰うよ』

無線でやり取りする中、五十嵐の表情からは頬笑みが見え隠れし、無線の向こうから聞こえる声からも懐かしさを楽しむ声が聞こえてきた。

『久しぶりだな・・・五十嵐』









『それでは、これより、戦果報告と経過報告の記者会見を行います』

大量の記者に囲まれ、フラッシュがたかれる中、スーツに身を包んだ康太は、テーブルの上に置かれた紙に書かれた文章をゆっくりと読み始めた。

そんな康太の姿を、テレビを通し仕事場で洋子は見ていた。

「また進展は無しか・・・」

自分の席で大きく胡坐をかく編集長は、吸いかけの煙草を灰皿にすり潰しながら呟いた。

「でも、井上総指揮が来たって事は何か進展があったって事じゃないですか?」

洋子は、吸い殻でいっぱいになった灰皿を取り、ゴミ袋に灰を捨てながら無精髭を貯えた編集長に尋ねた。

「さぁな・・・もしくは、数ヵ月後の選挙を睨んで政治利用するために呼び出したのかも知れんぞ」

「えっ、でも公務員の政治活動は禁止ですよね?」

「そう思うだろ?ところがどっこい、井上康太は公務員ではない」

「えっ?嘘!」

奴の事なら何でも知っている。そう思っていた洋子にとって、それはかなりショックだった。

「井上は確かに、陸軍に所属していた経歴はあるが、その後は外人部隊の指導員、傭兵派遣会社に勤務していた経歴がある。おそらく、それで食っていたんだろう。そして、今は対テロ組織の総合指揮官だが、奴等は防衛省にも所属しない新たな軍隊だ。総理の管轄という事になってはいるが、俺から言わせりゃ奴等の立ち位置はNGOがいいとこだ」

「つまり、政治利用される可能性もある」

「確実にあるだろ」

「なるほど・・・で?私を呼んだ理由はなんですか?」

「おぉ、忘れてた」

編集長は、書類でいっぱいになった机を漁り、一枚の封筒を洋子に渡した。

「今や時の人から直々のラブレターだよ」






「いやはや、ご苦労さん」

総理の講演会に付き合い、何故か自分まで演説をしなければいかんと言う無茶ぶりに対し、何とか乗り切って見せた康太はやけにフラフラだった。

「いえ、大丈夫で・・す」

「またすぐに行っちゃうのかい?」

「えっ?・・・えぇ、皆が待ってますんで」

「そうかい・・・残念だね」

「それでは、自分はこれで」

ソファーに座る総理に一礼し、康太は控室から出て行こうとするが、ドアノブに手を掛けてから一度足を止めた。

「・・・総理」

「ん?」

「敵の勢力ですが、日本人ではなく傭兵の数がかなり多いんです」

「あぁ報告書に書いてあったね」

「武器もかなりの物でした・・・・その財力って一体どこいあるんでしょうね」

顔をしかめる総理に目もくれず康太は「失礼します」と言い素早く部屋から立ち去った。






とある小さな空港の小さなヘリポートにいつでも飛び立てるようにエンジンを回し、プロペラを回転させるヘリが一機。

そして、そこへ向かう康太の姿と、ヘリに横に立つ長谷川と洋子の姿があった。

「どうも、井上長官。本日は従軍記者に私を選んでいただき、ありがとうござます」

軽いノリで敬礼をして見せる洋子を無視し、康太はヘリに乗り込み、長谷川もその後に続いた。

「ちょ、ちょっと、無視してんじゃないわよ。康太」

後に続いて洋子もヘリに乗り込んだ。


「で?私を呼んだ理由って何?」

ヘリが飛び始め、街が豆のように小さくなり始めた頃、洋子が口を開いた。

「ん?ちゃんと書いてあっただろ・・・そのままの通りだよ」

「国民からの支持を得るために、戦地で戦う兵士たちに取材をして欲しいって事?」

「おぅ、その通りだ」

「・・・私まで現総理の支持率を保つために、政治利用するって事ね」

「その分、お前のとこの小さな会社には十分すぎるほどの利益が上がるだろうよ」

「まぁね、誰も入れない所に第三者の目が入るって事だからね」

二人の会話に長谷川は口をはさんだ。

「しかし、書かれたはマズイ所もありますので、出版される前に私達の方で一度添削させて貰いますので、そのおつもりで」

「了解です!」

冷静さを保つ長谷川に親指を立ててみせる洋子だが「まぁ表向きはな」と呟く康太に首をかしげた。

「えっ?・・・何?」

「移動中に話す。まだ時間はあるからな」






『良い返事に期待するよ』

五十嵐からの通信は、それ以降繋がる事が無かった。

「野々村と橋場・・・この事は他言無用だ。お前達が敵に背を取られるようなミスをした事も聞かんかった事にする」

島の言葉に二人は今起きた事、今聞いた事を忘れる事に「了解」と答えた。

「記者を一人よこせ・・・か」

ため息交じりに呟く康太だが、そのモノローグは「ちょっと待った!」と言う洋子の声でかき消されることになった。


「ちょっと待った!・・・えっ?何?どういう事?」

「今、言った通りだ。奴等を一網打尽にするチャンスでもある。気にするな、記事は勝手に俺達が書いておく・・・話し戻すぞ」

「いや、無理無理無理無理!」

「それにな。お前とある重役の人間で引き渡し交換をする予定なんだ」

「重役?」









日が完全に落ち、辺りは月と星のみが唯一の明かりとなる時間になった。

砂漠のど真ん中に一つの大きな建物がそびえ立ち、なんだかんだで言いくるめられた洋子と迷彩服に着替えた康太と隊員達がその建物の前に立っていた。

『A班とB班で裏口を固めろ。奴等の逃げ道を塞ぎ、取引の終了次第、一般人の安全確保を最優先とし、敵勢力を制圧する』

無線からは、現場指揮を執る島の声が聞こえ、その指示に従いそれぞれの分隊が移動を開始した。

「はぁ・・・何でこんな目に・・・」

「あっ、ちなみに情報統制を行う予定だから、お前が向こうに囚われたとしても、国民の誰一人として知る事はないから安心しろ」

「安心できな~い!」

目に涙を浮かべる洋子は、立派な門を通り抜け、二つの建物からなる大きな建物を見つめた。

その建物は、二つの建物を渡り廊下で結んでいたのだろうが、老朽化のせいかわからないが、その渡り廊下は、一部崩れていた。

「・・・ねぇもしかして、あの渡り廊下で人質交換とかないわよね?」

「おぅ、向こうの要求通りならその通りだ」

「崩れたりしない?」

「一度崩れた所を、目の当たりにしたからな。正直わからん」

「崩れた所?・・・この建物に一度来た事があるの?」

「・・・俺達が捕えられていた場所だ。そして、五十嵐が死んだはずの場所だ」

「・・・そっか・・」

康太達の高校時代、仲間に裏切られ戦地へと送られ、そこから逃亡を図ったがとある施設へと収容される事となった。

そこで射殺命令が出されるのを待つのみとなっていた彼等を裏切ったとされる人物が救い出した。

その際、彼等を逃がす手助けをした浅田悠二。そして、元少年兵の五十嵐が敵を喰いとめるために単独行動をとり死亡した。

渡り廊下の一部、崩れている場所で五十嵐が死んだ。

ドキュメンタリーやドラマでは知っていたはずだが、実際に目にするとその現実味が増し、洋子の目からは思わず涙が零れた。

「おぃ・・・大丈夫か?」

「な、何でもない・・・砂に目がやられただけ・・・」

洋子の頬にそって流れる涙を目にしながら、康太は見なかった事にし、ここは戦場だと気持ちを切り替えていた。

「いいか、俺達はあの渡り廊下を挟んで敵と対峙する事となる。だが、俺達の任務はあくまで人質及び、一般人の安全確保だ。極力戦闘は避け、威嚇射撃を続けたまま、開けた場所にまで退避、周りからの支援を受けながら、安全地帯まで移動する。おそらく敵からの集中砲火を浴びるかもしれない。気を引き締めて行け」

「「了解」」

「行くぞ」

康太の合図に、隊員と洋子は歩き出し、右側に立つ建物内に入って行った。


『敵影を確認。数は11、銃を装備した人間は10人。一人は頭から袋を被らされている』

建物内に侵入した康太達の無線に、建物全体を見わたせる場所にいる隆と衣良から連絡が来た。

「おそらく、そいつが目的の品だろうな」

その無線連絡に受け答えをして見せる康太。

その周りでは辺りを警戒する隊員とすでに言葉を発する事が出来ないくらい緊張する洋子がいた。

『奴等全員、B棟に入りました』

『よし、A班B班。奴等の出入り口を塞ぐんだ』

双眼鏡で建物全体を覗く衣良の視線の向こうでは、砂漠に身を潜めていた隊員達が、敵が全員中ん侵入したのを確認し、島の指示に従い出入り口へと移動を開始した。

扉の横にまで辿り着いた分隊は、扉の横にある窓から中の様子を窺い、誰もいない事を確認した。

『敵影なし』

『待った。扉にワイヤー式のトラップを確認。ワイヤーの先にパイナップル』

無線の向こうでやり取りをする会話に「パイナップル?」と首をかしげる洋子。

だが、康太は気が散ると無線を切った。

『康太。人質の安全を確保したら、すぐにその場を離れろよ。間違えても銃声なんて上げてくれるなよ。その場合、奥に控える俺達が出動せにゃならん事になる』

「わかってるよ」

『よし、トラップの無力化は康太の合図を待て、無力化し次第、建物内に侵入。内部にひそむ敵勢力をなぎ払え』

島の無線を聞きながら、他の無線が康太を呼び出した。

『おぃ、井上康太』

無線の向こうからは、若々しい男性の声が聞こえてくる。

『そっちの建物にいる事は確認済みだ。反応しろ』

「おぃおぃ、この無線は俺と五十嵐を結ぶホットラインだろ?・・・何で見ず知らずの男が向こうから出てくるんだ?」

『安心しな。すぐに変わってやるよ・・・だがな、その前にその記者とやらが本当に記者なのか確認する必要がある。渡り廊下に立たせろ』

「・・・わかった」

康太は、一度無線を切ると洋子に行けと顎で促した。

洋子は康太の指示に従い、恐る恐る渡り廊下の前に立ち、向こう先に見える敵の姿をぼんやりではあるが見る事が出来た。

双眼鏡を覗き込む一人の同志が、横に立つ大柄な男と何か会話をし、最後に無線機を大柄な男に手渡し、大柄な男は無線を繋げた。

『・・・・お前は阿保か』

しばらく無線が切れていたが、次に声が聞こえたのは懐かしい声だった。

「阿保で結構だ」

『何でよりによって、記者がそいつなんだよ・・・』

「本物の記者かどうか、調べる方法なんて無いだろ?・・・だから知り合いを連れてきた」

『記者になったのか』

「あぁ、ゴシップ記事を作る会社に就職してる」

康太の言葉に「ちょっと」と指摘しようと横を向くが、横にいる康太は洋子に無線を渡してきた。

手に取った洋子は、渡り廊下の向こう側にいる人を見ながら、恐る恐る無線を口に近づけた。

「い、五十嵐・・・君?」

『・・・・あぁ、久しぶりだな。元気にしてたか?』

「・・うん」

懐かしい声は、短い言葉ではあるが、無線の向こうから洋子の緊張をほぐしてくれる。

薄暗くてよく見えないが、無線を持つ人がこっちに手を振って見せていた。

「ほ、本当に五十嵐君なの?」

『・・その話は後だ。康太に代わってくれ』


「もぅいいのか?・・・時間制限はないんだぞ」

『別にいいさ。このまま順調に行けば、記者はこっちに来る訳だからな。そっちのほうが時間制限はない』

「じゃ、早速始めようか」

『そうだな』

渡り廊下の向こう側に、頭から袋をかぶせられた男が立たされ、一人の銃を持った男がその男から袋をはぎ取った。

双眼鏡で康太は男の顔を確認し「間違いない、本人だ」と呟いた。

『交換する者同士、渡り廊下を一人で歩かせる。それでいいな?』

「いいや、駄目だ。一人つかせる。互いにだ」

『・・・いいだろう。ただし、俺とお前は駄目だ』

「わかった」

洋子の横に銃を持った隊員の一人が立ち、向こう側も二人が崩れた所に木の板を置き、歩き始めた。

「大丈夫です。・・・私が走ってと言ったら、こちらへ走ってきてください」

横を歩く隊員が渡り廊下を歩きながら、洋子に話しかけてきた。

下を向く洋子は「はい・・」と小さく返事をし、康太の横では隊員の一人が島に無線で、状況説明をしていた。

「現在、渡り廊下を移動中。目標物および、一般人との距離およそ30メートル、接触まで20・・・15・・10」

その時、向こうから「止まれ」という指示が出て、洋子と隊員はそれに従い歩みを止めた。

「止まれ。・・・ここからは二人を歩かせる。妙な動きをしてみろ」

眼帯をつけた男はそう言うと銃を取りだした。

「その場合、人質もその記者も、俺が撃つ」

隊員も後れを取りながら銃を取り出し、男に構えた。

「そんな事してみろ。お前の頭をブチ抜いてやる」

『二人が銃を取った!・・・島さん、どうしますか!こちらからなら、敵を狙撃できます』

『待て、下手に刺激をするな。お前達は今は索敵に専念するんだ』

野々村と島のやり取りが康太の無線にも届いて来る。

渡り廊下では、男が横に立つ人質に「行け」と指示を出し、人質が歩き出した。

それに続き、洋子も隊員の横を離れ、歩き出した。

渡り廊下の窓を挟んで中を窺う野々村と橋場の目には、二人が歩き出すのを確認し島に連絡を取っていた。

一方、洋子は向こう側から歩いて来る人質に何やら見覚えがあり、思わず足を止め口を開いた。

「嘘・・・・もしかして官房長官?」

「・・・どうやら、その様子だと、本当に私が拉致られていた事を報じられて、いないみたいだな」

髪を黒く染め、若々しさをアピールしていた官房長官は今や、白髪交じりのただのオッサンと化し、若々しさどころか、生気すら感じ取れなかった。

官房長官は、洋子の反応を見てそう呟きながら、再び歩み始めた。

「・・・すまないな」

官房長官とすれ違う時に、官房長官がそう言い「えっ?」と声を発しようとするが、その前に廊下中に白い閃光が飛び出した。

強烈な光と音が洋子の耳を貫き、思わずその場にしゃがみ込むが、横の窓ガラスが割れ、誰かに肩を抱かれ「こっちだ」との声に従い、廊下を走った。

後ろの方では銃声が鳴り、何かが耳元をかすめる感じがし、思わず足を止めそうになるが両肩をしっかりと抱かれ、引っ張られているため歩みを止める事はなかった。

「隊長!橋が落ちた!」

そんな誰かの声が聞こえたかと思うと「飛ぶぞ!」そんな声が横で聞こえた。

肩を抱いていた手は洋子を抱きながら思いっきり横っ跳びをかまし、しばらく宙を舞ったかと思うと、コンクリートの地面に倒れ込んだ。

目を閉じていた洋子は、抱かれたまま地面に倒れ込み、すばやく横へと移動された。


目を開くとそこは、先ほど康太達と一緒にいた場所ではなく反対方向の場所だった。

周りには迷彩服に身を包んだ隊員達ではなく、砂や泥で汚れた布切れを何重にも着重ねた人達が銃を持ち、渡り廊下に向け銃を向けていた。

廊下から頭を出し、向こう側を見ると、中央には眼帯を付けた同志が腹部を撃たれたらしく、その場に倒れ込んでのた打ち回り、向こう側には官房長官が渡り廊下を走り切る姿があった。

「頭を出すな!」

廊下の横にいた人が、向こうの様子を窺う洋子を女性の声を響かせながら、蹴り飛ばした。

洋子は思わず後ろにバランスを崩し、先ほど自分を抱え廊下を走った男が後ろで息を切らせ、座っていた足につまずき、見事に転んで見せた。

「いてっ」

胡坐を掻いて座っていた男の上に尻もちをつき、思わず声を洩らす洋子。

「よぉ・・・・本当に久しぶりだな」

息を切らせた男は洋子にそう言ってきた。

その声に反応し、顔を向けるとそこには顔中泥だらけになった五十嵐の姿があった。

「嘘・・・」

「残念ながら本当だ・・・それで、ちょっと、どいて欲しいんだが」

五十嵐は、洋子を横に退けると重たそうに腰を持ち上げ、渡り廊下の方へ向いた。

『・・・やられたよ。官房長官に閃光弾と発煙弾を持たせていたのか』

「あぁ・・・お前達が西の方角から狙撃兵と観測兵を置いてる事には気付いていたからな。発煙弾も持たせた・・・俺達の出口を塞いでいる奴等を退避させろ。20秒後に爆発する」


康太の指示を聞いた隊員達は、ワイヤーを切らないように慎重に扉を開け、手鏡を滑り込ませるとワイヤーの先に着いた手榴弾の奥にタイマー式の爆弾が置かれている事に気付いた。

「退避ーーーっ!」

隊長格の隊員が大声で叫び、全員が建物から離れた。

全員が離れるのを建物の上から確認した矢吹は、手動でスイッチを押し出入り口に設置した爆弾を爆発させた。

洋子の足元が豪快に揺れ動き、五十嵐は無線で「また会おう」と康太に告げ、周りにいる部下たちに「引くぞ」と伝えた。





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