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第二十三話 俺達の戦争

「・・・かん・・ょうかん・・・・長官!井上長官」

腕を組み目を閉じている間にどうやら眠りについていたようだ。

ヘリの窓から外を見渡せば、辺り一面に黄色い砂漠が広がっていた。

「・・・まさか、ここに戻ってくるとは・・・思いもしなかった」

康太は、このヘリの下で行われた惨劇を思い出し、横に座る長谷川も康太の言葉にうなずいていた。

「あそこで俺の親父が戦っていたなんて、正直、信じられません」

「長谷川の親父さんが?初耳だ」

「え?・・えぇ、家庭崩壊にまで追い込んだ駄目親父で、なんだか、口に出したくなかったんですよ。・・・でも、俺達のために戦っていたと思うと・・ちょっと」

申し訳なさそうに口籠る長谷川に、井上は砂漠の戦場で知り合ったハセさんを思い出し、どことなく面影があるように感じた。

「まさか、ハセさんの息子と一緒に戦う事になるとはな・・・」

「えっ?なんですって?」

「いや、なんでもない」

そうしているうちに、ヘリは砂漠のヘリポートに着陸し、康太と長谷川は砂漠の上に降り立った。

目の前には簡易型のテントがいくつも張られ、作業をする兵士たちの姿があった。

ヘリから降りた井上に数人の兵士が出迎え、そのうちの一人が片手を上げながら康太に近づいてきた。

「よぉ!まさか、お前とまた戦う事になるとは、思いもしなかったぞ」

「お久しぶりです。てっきり捕えられて、殺されてるかと思いましたよ」

「あぁ、お前達が活躍してくれたお陰で、銃殺される寸前、助かったんだよ」

「今までどこに・・・」

「銃殺は免れたものの、政府は瑕疵を認めようとしなかった点があってな、捕えられた俺達は傭兵部隊として戦場に送られてたんだ。・・・お陰で何人か仲間を失った」

暗い話題になり、表情を曇らせる康太に気付き「自己紹介が遅れた」と言い、一歩下がってから敬礼し、口を開いた。

「現場指揮をとらせていただきます。指揮監督の島大助です。階級は・・」

島は自分と横に立つ他の指揮監督も康太に紹介し「全員、元プレイヤーだ」と付けくわえた。

「だから、お前達は俺等にとって救世主だ。お前の命令なら、炎の雨が降ろうがそこに行ってやるぜ」

「心強いお言葉をどうも」

島さんと砂漠での戦いに付いて語り合っていると知らない間に全部隊のメンバーが康太の周りに整列していた。

全員が揃った事を確認すると康太はマイクの置かれた場所に立った。

「さて・・・喝の入るような演説なんて柄じゃないんだが、とりあえず言っておきたい事だけ伝えておく。ここにいるのは、元プレイヤーやそうじゃない人もいるだろ。同志の惨劇を体験した人間。惨劇を知らない年代の奴等もいるだろう。

・・・だが、ここにいる全員が、またあの惨劇を繰り返してはならないと意気込んでいる奴だと俺は思っている。そして、あの惨劇を繰り返そうとする奴等がいる!それを阻止するために俺達は集められた!

俺はこんな安全地帯でお前等に指揮して、無駄死にさせるつもりも、政府の信頼を保つためのお飾り指揮官になるつもりはない。お前達と共に現場に出て、共に闘おう!だから無駄に命を落とそうとするな!そんな命知らずは、俺だけで十分だ。

こんな戦いをさっさと終わらせて、みんなでいい酒を飲もう。そん時は俺が奢ってやる!・・・以上だ」

康太は全体を見渡し、敬礼すると全隊員がそれに応えた。

「あぁ、一つ言い忘れた。報告や上司にすれ違う時に無駄に敬礼とかするなよ。時間の無駄だ」

壇上から康太が降りると隊員達は速やかに持ち場に戻っていった。



「現在、無人探査機を全部出して、奴等のアジトを捜索中だ。おそらく、それほど時間もかからないだろう。それと」

テントの中で、康太に状況報告をする島が数枚の衛星写真を机の上に並べた。

「この数日間、防衛軍の衛星写真で撮られた西日本の現状だ。全体的に言えば、ほど砂漠平野だが、所々風化した街が並んでいる。戦闘の際は、おそらく街一つが戦場になるだろう。それと、海外から多数の船が西日本に入り込んでいる」

「同志に雇われた傭兵と言った所か・・・」

「あぁ・・・俺達が他の国のために戦っていたように、今度は他の国の奴等が俺達の戦いに参加してるって訳だ」

「皮肉な話だ・・・」

「そうでもないさ、頭を潰せば残りは雇われ兵って事だ」

「奴等に頭があればいいけどな・・・」

顔をしかめる康太に、島は再び一枚の写真を出した。

そこには、人ごみに紛れサングラスをかけた男が写っていた。

「電波塔破壊後、野次馬の中に紛れていた男だ。・・・なぁ、ハッキリさせておこう。お前はこいつを撃てるのか?」

サングラス越しでもわかる。周りの人より頭が飛び出し、写真からも伝わってくる威圧感。間違いなく、五十嵐だった。

「・・・・撃てるさ。それが俺の役目だ」



会議終了後、代表格の人間が、ぞろぞろとテントから立ち去る中、康太は島を呼び止めた。

「島さん」

「なんだ?」

「俺の会見、見てましたか?」

「あ?あぁ、そりゃ国民の三人に一人が見ていた会見だ。見逃す訳ないだろ」

『リアルウォーは存在しません』康太の会見をマネして見せ、冗談交じりに笑って見せる島。

「ここだけの話。俺は・・・リアルウォーが存在してたと思います」

笑って見せていた島の顔から笑みが消えた。

「もしかしたら、今も続いてるかもしれない」

「・・・・冗談だろ?」

「奴等・・・同志は、被害者である事をいつも訴えていた。それだけは、今も昔も変わらない。そして、同志たちはどうやって集まった?どうして破壊工作を行えるくらい数が整っている?同志になろうなんて考える奴がどうして存在する・・・それだけでも充分だろ」

「確かにな・・・」

「おそらく、手引きしてる奴がいる。・・・・むこうの首謀者は五十嵐、そして、それに対する奴が俺だ。出来すぎたシナリオじゃないか」

「つまり、お前の考えは、そんなシナリオを書ける程の権力者がいるって事か?」

「・・・だから、正直、堂々とこんな話出来ないよな~」

「出来ないも何もしてるじゃねぇかよ・・・俺まで巻き込みやがって」

「俺のために命を投げ出してくれるんでしょ?」

そう言って笑って見せる康太。そして、そんな約束するんじゃなかったと島はため息を漏らした。

「長谷川・・・今の会話。絶対に誰かに洩らしたりするなよ」

「洩らしたら、俺だって危ないじゃないですか・・・」

康太の横に立っていた長谷川も、側近になるんじゃなかったと激しく後悔していた。









「アジィ~・・・日陰でもこの暑さは辛いな・・・」

「そうだな・・・ちょっと水でも持ってくるか」

矢吹は、一面に広がる砂漠にポツンと佇む街の高台で、眼帯を付けたオッサンと辺りを警戒していた。

「なぁ、おっさん。お前もプレイヤーなんだっけ?」

「あぁ元プレイヤーだよ。こんな熱い時に変な話持ち出すな」

「おっさんの仲間はどうなった・・・」

「一人、生きてるかな?・・・他はあいつ等に救われる前に死んだ」

「あいつ等ってチーム1の事か?・・・ドラマとかでは知ってるけど、実際、あんなに強かったのか?」

「さぁな。実際に交えた訳じゃないからな・・・ただ、今は浅野だっけか?昔は岸部って言う紹介者の中で噂にはなってたな。犠牲者を出さないで戦うチームがいるってな」

「そのチーム1のメンバーが俺たちの頭か・・・元少年兵の五十嵐」

「観測手がいらないらしいからな・・・どんな目を持っていれば、そんな事になるんだか・・・」

「そして、俺達と相対するのが、同じくチーム1のリーダー。井上康太か・・・」

「中・近の戦闘に長けていて、メンバーを引っ張る存在だったらしいな。砂漠の戦いでは高校生にして、総指揮を任せられていた。・・・考えられない経歴を持つ二人だ」

「でも、あんたはリアルウォーが終わった今でも傭兵を続けてるんだろ?」

「俺達のメンバーは元々、そう言った奴等が集って出来たチームだ。別に守るべき者もなかった。だから、俺の左腕にはまだこれが付いてる」

オッサンは左の袖を捲り、手首に着いた発信機を見せてきた。

「今じゃ使われてないけどな」

捲っていた袖を元に戻し、再び監視を続けていると、空に一点黒い物が見えた。

それに気付くと、次第に羽音が矢吹達の耳に届き始めた。

「来たな・・・探査機だ」

双眼鏡をのぞくオッサンはそう言い、その横で矢吹は対空砲を構えた。

「開戦の狼煙にはちょうどいい・・・」

武器を肩に担ぎ、矢吹は上空を旋回する探査機に狙いを定め、引き金を引いた。

ロックされた探査機は回避行動に移るが、飛んできた弾が当たり、黒煙をまき散らしながら上空で爆発した。

「来い!井上康太!」







その頃、指令室で待機していた康太の所に探査機が一機ロストした事を隊員の一人が伝えにきた。

「ついに来たか・・・」

康太はテントから出て「もう誰にも邪魔はさせない」と呟き、空を見上げた。

「これは、俺達の戦争だ!」



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