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第二十二話 二人の英雄

紺色のスーツに身を包んだ康太は、部下の長谷川に無理を言って時間を作らせ、ある病院の一室にいた。

その病室では、口にマスクをつけられ心音を測る機械がリズムを刻み、ベットの上で横になる人物がいた。

「よぉ、元気にしてたか?勉」

横になったまま動かない人物を勉と呼び、康太は話を続けた。

「俺達の戦いが終わって、普通にサラリーマンやって、普通に暮らそうとか思ってたのにさ・・・フッ、まだ俺の戦いは終わってないみたいだ・・・・しかも、相手誰だがわかるか?もしかしたら五十嵐かもしれないんだよ。冗談だと思うだろ?」

無理して笑いながら康太は何も話さない勉に「何か喋れよ」と呟いてみるが、勉は一向に反応を示さなかった。

「・・・・まぁ、いい。今日は俺の給料持って来ただけだからさ・・・しばらく会えないかもしれないけど、必ず戻ってくるよ」

康太は、分厚い茶封筒を勉の枕元に置き、病室から去ろうとするが、その前に扉が開き年の離れた勉の弟と鉢合わせした。

「よぉ、元気にしてたか?公也きみや

「・・・・この部屋に何の用だ」

公也は、勉の枕元にある茶封筒に気付き、康太を押し退けて茶封筒を掴むと康太に押し返した。

「何度、言ったらわかるんだ。こんな金、必要無い!」

「悪いな、公也。それは無理だ・・・勉との約束だからな」

「一体、何年前の約束だと思ってる!・・・俺ももう社会人だ。兄貴の治療費ぐらい稼げる!」

「使い道が無いんだよ。持っててくれ」

「冗談じゃない!こんな薄汚い金、どぶに捨てた方がマシだ」

「なら、そうしろ。それでいい」

康太は病室から去り始め、そんな康太に公也は声を荒げた。

「兄貴はな!いつも食卓であんたの話をしてた!あいつがどうだの、あいつの様子がおかしいだの!・・・だけど、あんたは一体何だ!金だけ置いていきやがって!兄貴がこんなんになったのも全部、あんたのせいだ!俺は絶対に許さねぇ!」



後ろから罵声を浴びせられながら、病室を出て扉を閉じ、ため息を一つこぼす康太の横に松葉づえをつく男が近づいてきた。

「相変わらず、酷い嫌われようだな。康太」

松葉づえをつきながら、やってきた人物を康太は「親父」と呼んだ。

「病院の理事長が、病院の中、うろついてんじゃねぇよ」

「俺の生き方をとやかく言われるつもりはない。たしかに、もぅ隠居の身だけどな、暇なんだよ」

「あぁ、そうかい・・悪いな、勝手にヘリポート使わせてもらって」

「いいさ。今や時の人となったお前が堂々とこの病院に入る事は、出来ないだろうからな」

「・・・しばらく、会えないかもしれない。勉の事、頼むぞ」

「そうか・・・行くのか」

「あぁ、西日本に行ってくる・・・多分、あいつはあそこにいる」

「死ぬなよ」

親父の言葉に「五十嵐と俺、どっちに言ってるんだ?」と笑いながら聞いた。

「俺の息子・・・・と言いたいが、正直、どっちもだ」

肩を竦ませながら答える親父に「クソ親父」と呟いた。

「クソ親父で結構だ」

肩を竦ませながらそう言う親父に、康太は再びため息を洩らした。

「はぁ・・・親父、俺がこの舞台に立ったんだ。悪い事は言わねぇから、表に顔を出すな。悪いけど、親父を守れるほど余力は残ってねぇぞ」

「大丈夫だ。老いぼれは、勝手にどこかでのたれ死ぬのが運命さだめだ」

「あぁ、出来ればそうしてくれ・・・・冗談だ」

「冗談に聞こえないのが寂しいね」

康太は普段なら廊下のソファーに座り、項垂れる大学生がいる所に腰を下ろした。

「親父、ここにいつも座ってる学生は?・・・来てないのか?」

「あ?・・・あぁ、妹さんの看病をしてた子か・・・入院するようになってからは毎日来てたのにな・・・ここ数日間は全く見てないな」

「入院?・・・あいつの妹さん、病状悪化したのか?」

「あぁ、勉君と同じだ。いつ意識が戻るかわからない・・・いや、戻ったとしてもあの子は恐らく、一生ベットからは起き上がれないだろう」

「そうか・・・気の毒にな」

「もともと脳に障害を持っていた子だ。・・・これまでよく持った方だと思うよ」

「兄貴のお陰ってやつか」

「それで?その兄貴の事をお前はどうして知ってるんだ?」

「・・・いや、公也と猛喧嘩してたのを見てな」

「ほぉ、公也君と」

「あぁ・・・気になったのは、奴が公也を圧倒してたってところだ。公也はあれでも、防衛大出身だ。ウォーゲームをやってるとか言ってたが、かじった程度じゃあんなに戦闘慣れはしない」

「いや、それだけじゃない。彼はネイキッドゲームもやってる。対人戦には長けているだろうよ」

「ネイキッド?・・・あいつがか」

「あぁ、しかも公認のじゃない。ストリート賭博の方でだ」

「なんでそんな事を知ってるんだ?」

「荒川さんを覚えてるか?・・・元プレイヤーの」

「あぁ忘れる訳ないだろ・・・同じ砂漠で戦った。たしか、ストリートの管理をしてたな」

「その息子さんが、手に大きな傷を持って、この病院に運ばれてきたんだ」

「・・・・」

「どうやら、彼にやられたらしい。一応、傷害罪に当たるが、公序良俗違反で立証も出来ない」

「あの子が違法賭博を・・ね。想像できないな、妹思いの好青年ってイメージだったんだけどな」

「大方、妹さんの治療費を稼ぐためいたしかたなくって感じかな?」

「そうか・・・」

「で?納得したか?」

「あぁ・・・・あぁ、いや。微妙だな・・・ちょっと気になっただけだ。あぁ、あと最後に会いたかったからって感じで聞いただけだ。気にしないでくれ」

康太は腕にはめた時計を見て「そろそろ行かなくちゃ」と親父に言った。

「気を付けてな」

「あぁ、親父も」










「一体、ここはどこだ?・・・・・俺をどうするつもりだ!」

薄暗い部屋の中央で椅子に座らされた矢吹は、拘束もされていないが周りに銃を持った人達に声を荒げるが、彼等は全く反応を示さなかった。

「だぁぁっ!クソ野郎共が!・・・・こんな所で何時間も居坐らせやがって!訳わかんねぇよ!俺は井上康太を殺しに行くんだ!邪魔すんじゃねぇよ」

「なら、俺達の利害は一致する」

そう言いながら部屋に入ってきた人物に矢吹は目を疑った。

「お前は・・・」

やってきた長身の人物は、同時の首謀者と名乗り、電波塔を破壊した男だった。

「すまない。・・・・こんな形で救出するつもりじゃなかったが、これしか方法がなかった。もっと早く、お前達を救いたかった」

「・・・・・まさか、五十嵐」

井上康太が、同志の首謀者が五十嵐で間違いないと言っていたが、正直、本人を目の前にするまでそれが信じられなかった。

いや、今でもまだ信じられない。

「なんだ・・・俺の事を知っているのか」

「馬鹿な・・・・あんたは死んだはずだ」

「フッ・・・死ねたら良かったのにな」

この国を震撼させた出来事は何度もスペシャル番組などでドラマ化され、その中でも際立って目立つ存在が井上康太と五十嵐だった。

五十嵐の父、岸部悟と井上康太の父は、大御所俳優が演じ、井上や五十嵐は波に乗る俳優が花を飾ってた。

敵の組織から逃れるため、五十嵐は仲間を救うため敵を巻き込み自爆したはずだった。

「ドラマと現実は違う。・・・そう言う物だ。それに俺はドラマの奴ほど、イケメンじゃないしな」

「で?・・・そんなお前が俺に何の用だ」

「利害が一致すると言ったはずだ。俺達はこの国を一度は救ったつもりでいた。だが、救っただけじゃ駄目だと言う事がわかった。だから全てゼロにする」

「・・・マジで言ってんのか?」

「そうだ。そのために必要なら・・・俺は康太を殺す。どうだ?利害が一致するだろ」

五十嵐の言葉に体全体に鳥肌が立つのを感じた。

何故だろうか、五十嵐の言葉は胸に響く。

以前、井上康太に感じた言葉の重みにも似ていた。

そして、五十嵐の言葉を聞き、胸が高鳴ると同時に、矢吹の顔に自然と笑みがわいてきた。

「ハハッ・・・・戦友おも野望の為なら殺す・・・か。いいねぇ、それ」

矢吹の答えを聞いた後に、五十嵐は「自分の腕を見てみろ」と指示した。

自分の腕を見てみるとそこには、ある筈の座標特定機が手首についていなかった。

「お前はもぅ、自由の身だ。それでも俺達についてくるか?」

「くどい。・・・付いて来るなって言っても付いて行くぞ、俺は」

「そうか・・・」


五十嵐は、矢吹の答えを聞くと部屋の周りに立つ人達の方を向いた。

「諸君!新たな仲間に祝杯を!・・・我等同志は何ぞ!」

「「我等同志は、この国を討ち滅ぼさんとする者也」」

「我等同志の手には、持つ物は何ぞ!」

「「我等同志の手には、この国を滅ぼす武器也!」」

「我等同志の腰に差す物は何ぞ!」

「「我等同志の腰に差す物はこの国の首を取るための武器也!」」

「ならば問おう!我等の志は一体何ぞや!」

「「例え、一人になろうと敵の喉元に喰らい付く心也!」」

「総員、武器を持ち撃鉄を起こせ!」

「「戦争じゃぁぁ!」」

「なまら楽しむべや!」

「「ヨッシャァァァァァ!」」

五十嵐の言葉に全員が雄たけびを上げ、空砲が部屋中に響き渡った。



「ハハッ・・・スゲーや」

雄たけびが響き渡るこの部屋で一人だけ椅子に座り傍観者を気取る矢吹に、五十嵐が近づいてきた。

「さっそくなんだが、やって欲しい事があるんだがいいか?」

「んあ?・・・新入りの俺が出来る事なんかあるのか?」

「新入りだからこそ出来る事もある」

そういうと五十嵐は「ここでは少しな」と顔をしかめ、雄たけびを上げる部屋から矢吹を連れだした。



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