第二十一話 新たなる物語
『次の戦いが決まるまでしばらくゆっくりしてな。・・・まぁ当分はないだろうけどね。それと、僕の判断で君と同様に一人だけ生き残った人達を寄せ集めてチームを作る事になるだろうから覚悟しておいて』
病院で浅野からそう告げられ、放心状態に近い矢吹は何も反論もせずに、家へと帰っていた。
浅野から聞かされた事は、俺は三日間意識を失っていた事、翔と山城が死んだ事、俺は一人生き残った事を知った。
「遂に・・・俺一人になっちまったのか・・・俺一人・・・生き残っちまった」
三好、翔、山城
チームFOOLの俺以外のメンバーが全員死んでしまった。
「なんだよ・・・」
映画の彼等とは違い、客観的に見たら一人一人に関するストーリーも無く、優勝候補との名が他のプレイヤーに知れ渡る事も無く、一人になってしまった。
「呆気ないじゃねぇかよ・・・」
俺達、いや、俺の実力なんてやっぱりこんな物、ただの脇役でしかなかった。
もしもこの話が、世間に知り渡ったとしても俺達は所詮、一人称としての出番も無く、どこぞでのたれ死に、誰も俺の存在を知る事無い。
井上康太と鈴木勉の弟との会話を盗み聞きし、インターネットに五十嵐の存在を書き込み、同志を募ってみたが、結局は何の進展も無かった。
これなら、トラックの中で死んだ浅野とマイクの方が出番はあるのかもしれない。
「・・・こんなんで終わりかよ」
わかっていた。俺の実力は所詮こんな物。
けど、俺は生きている。同じ時間を生きていたんだ。
それを誰も知る事はない。そう思うと虚しさと悔しさが矢吹を襲った。
「これで終わり・・か。。。そんなのありかよ。俺達の存在は脇役で終わるのかよ・・・三好も翔も山城も・・名前すら出ずに終わるのかよ」
ぶつくさと呟きながら、街中をフラフラと歩く矢吹。
そんな矢吹の姿を、ちょうど店から出てきたある連中が目にしていた。
「矢吹ぃ!」
ズボンの赤いジャージが特徴的な男が、矢吹の名前を叫びながらこちらに近づいてきた。
「・・・・」
「よぉ、久しぶりだな。最近、顔出さないから心配してたんだぜ?」
「・・・なんだ、お前か」
ネイキッドゲームの会場にいた連中達に囲まれ、その中心に立つ男に視線を向けて矢吹はそう言った。
「あの怪力男も最近来なくなってな。今じゃ俺がボス猿だぜ」
男はナイフを取り出し、ボケっと立ち尽くす矢吹の頬をナイフで叩きながら言ってきた。
「・・・ブラットゲームか」
「あぁ、反対する奴等は全員潰した」
「下らねぇ」
「はっ、ほざいてろ。怨むんなら、ネイキッドを見放したお前と怪力男を怨むんだな」
「別に・・・関係無いね。ネイキッドを望む連中が、俺を頼りにして何も行動を起こさなかったのが一番の原因だ」
矢吹は、ジャージ男の取り巻きにいるネイキッドを望んでいた連中に向かって言った。
心当たりのある連中は顔を下に向け、言い返す様子も無かった。
「弱い連中だ。一人じゃ何もできないのか・・・」
「あぁ?何言ってんだてめぇ」
「てめぇもそうだろ。取り巻き連れてじゃないと、街すらろくに歩けないだろ」
「おぃ、言葉は選べよ?殺すぞ」
「武器を持たないとデカイ口を叩けないみたいだな」
「おぃ、てめぇ」
「わかんねぇのか?苛立ってんだよ。邪魔すんならボスの座から突き落とすぞ」
「ほぉ、やってみろよ」
男の放った言葉を合図に、頬に当てられていたナイフを男の指ごと奪い、曲がる事のない方向へ曲がった自分の指を見て、男は悲鳴を上げた。
悲鳴を上げ、その場に倒れ込む男に跨り、手の甲に矢吹はナイフを地面ごと突き刺した。
「よかったな。俺と望んでたブラットが出来たんだ。感謝しろ」
矢吹はそう言い残し、その場から去った。
『まったく、ビックリしたよ。君が暴力事件を起こすなんてね』
「でも、どうせもみ消してくれるんだろ?」
『・・・まぁね。それが俺達の仕事だ』
「それを見越してやったんだ。気にするな」
『そうかな?君だって、仲間を失ったんだ。苛立つのもわかるよ』
「黙れ」
『はいはい、わかりましたよ~。あっ、そうだ、今家でしょ?』
「おぃ、浅野。俺の居場所ぐらいわかってんだろ?いちいち確認するなよ」
『まぁ、それもそうなんだけどさ。テレビ、つけておきな。面白い物が見れるよ』
「あぁ?何の事だ」
矢吹は、居間にあるテレビのスイッチを入れた。
テレビでは、同志に関する報道がされていた。
「おぃ、これが一体なんだってんだ?」
『いいからいいから、見てな』
不気味な笑いを残し、浅野からの連絡はそこで終わった。
「・・・?」
同志について過去のVTRを流していた番組が急きょ生中継に切り替わり、総理大臣が記者の前に姿を現した。
総理は大量にフラッシュがたかれる中、集まった記者に対し挨拶云々を繰り返し本題を切りだした。
『同志に対抗すべく、総理大臣直属対テロ組織の特殊部隊を作る事にしました』
憲法9条を廃止した総理はそれだけでは飽き足らず、三権分立のバランスを崩壊させ、国民が気が付けば総理大臣に絶対的な権力を与えるような形を作り出していた。
『その状態になるまで放っておいたのは、あなた達、国民でしょ』
非難されようがなんだろうが、その一点張りで、生活環境に何の変化もない国民にとっては、特に関係もなく無関心であった。
だが、同志の登場によって国民は不安から、総理に絶対的権力を与えたのは正解だと思い込み始めていた。
『それでは、対テロ組織の総指揮官を紹介します』
総理の紹介で、ある人物がテレビに登場した。
「なっ・・・・あいつは・・」
テレビに登場したのは、あまりにも信じられない男だった。
『防衛軍から配属されました。井上康太です』
「馬鹿な!」
「それでは、失礼します」
記者からの質問を終え、控室へ戻ると総理がソファーに座っていた。
「御苦労さん。これからよろしく」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
総理は康太の肩を叩きながら控室から出て行き、総理が出て行った事を確認して片っ苦しいネクタイを乱暴に外した。
『リアルウォーは存在しません。存在してた場合、私が許しません』
記者からの質問に対し、そう答えてしまった康太は「言っちまった」とため息交じりに呟いていた。
「ふ~ん、何か記者会見でボロ出したのかな?」
そう言いながら控室に総理と入れ替わりに中村洋子が登場した。
「出たな、ゴシップ記者め」
「コラっ、幼馴染に対してなんてひどい事を」
頬を膨らます洋子に康太は、ヤレヤレと肩を竦ませる。
「お前な・・・お互い30過ぎてんだぞ。幼馴染は無いだろ。それとオバサンが頬を膨らますな」
「うるさいな、いいの!まだ仕事に集中したいの!」
「あぁ~やだね。これだから独身女は」
「そっちこそ、今時、政略結婚とか流行らないから!」
「なっ・・・お前な!」
「まぁ実際~、その若さで総理直属の軍隊の長官だしね~」
「あぁあ!まったく!お前は五十嵐一筋だもんな!あいつのどこが良かったのか、俺にはさっぱりわからん!」
「なっ・・・五十嵐君は関係ないでしょが!」
「顔は悪くないんだからよ、いい加減、五十嵐の事は忘れて、新しい彼氏でも作れ!・・・まぁ性格に問題があるかもしれないけどな」
「はぁ~?少なくとも、あんたの腹黒さよりはマシです~」
「あの~長官・・・そろそろ、よろしいでしょうか?」
控室の外にまで聞こえる二人の言い争いに入ってきたのは康太の部下で長谷川と言う男だった。
「おぉ、悪い。なんだ」
「いえ、そろそろ準備の方をしなければ・・・」
「わかった。すぐに行く」
「では、失礼します」
長谷川は一礼すると控室から姿を消した。
「・・・ねぇ康太」
「なんだ?」
「いい加減、教えて・・・同志の首謀者、わかってるんでしょ」
洋子の真剣な表情に、思わず康太は顔をしかめた。
「駄目だ。・・・記事にされたら困る」
「記事にしない。・・・私だって薄々気づいてんのよ」
「今のお前は、どれだ?・・・幼馴染としてか?それとも政治部の記者としてか?」
「・・・一人の女として」
「・・・・なら言おう。同志の首謀者だと思われる人物は岸部悟の息子、岸部港。俺達の前では五十嵐と名乗っていた人物だ」
「本当に・・五十嵐君なの?」
「あぁ、映像を解析しても合成されているとも思えないし、まず間違いはないだろう」
「そんな・・・でも、五十嵐君は」
「そうだ。あいつは死んだはずだ・・・だが、俺とお前、二人揃ってあの映像を見て五十嵐を見間違えると思うか?」
「・・・百歩譲って、五十嵐君だとして・・・康太はどうする気なの・・」
「捕える。・・抵抗するなら撃つ」
「そんな・・・」
「お前はどうなんだ・・・あいつに・・五十嵐に母親が殺されたのかもしれないんだぞ」
「それは・・・」
電波塔が破壊され、再び同志の恐怖が国民に注がれる中、第二首都として栄えていた仙台で駅が爆破され、実家に帰ると書置きを残し、爆破された仙台駅で仙田の母親の遺留品らしきものが発見されていた。
だが、同志からの犯行声明は出される事はなかった。
「まだ五十嵐君がやったって決まった訳じゃない・・・同志は頭を持たない組織なんでしょ?」
「確かに、前回はそうだった。・・・だが、今回もそうだとは限らない」
「・・・・・・」
反論の出来ない洋子はただ黙りこみ、康太はそんな洋子を励ますように肩を叩きながら部屋を後にした。
「・・・ふざけるなよ」
自分勝手だが、信じていたのに・・・
井上康太ならこの状況を打破してくれるのではないかと思っていた。
だが、そう願っていた井上康太は、矢吹の願いをこうも裏切った。
こいつのせいだ。
リアルウォーに関わる事になって、生きる希望は捨てたはずだった。
だが、井上康太のせいで、俺は生きる希望を持ってしまった。
変な野望を持ってしまった。
同志を募ってしまった。
だが、仲間も家族も失った。
全てこいつのせいだ。
「・・・・い、井上康太ぁぁぁ!」
『リアルウォーは存在しません』記者会見でそう言った康太に矢吹は怒り、懐に入れてあった銃と自分の部屋に隠してあったマシンガンを乱暴に取ると、家から飛び出した。
怒りに満ちた矢吹は家から飛び出すと、それを待っていたかのように、一台のワゴン車が矢吹の前に急停車した。
突然の出来事で反応の遅れた矢吹をワゴン車から飛び出した黒い目だし帽をかぶった人達が、矢吹の頭に黒い布をかぶせ、車に押し込んだ。
車は急発進し、訳もわからず暴れる矢吹に薬品を嗅がせ、矢吹は意識を失った。