第二十話 始まりの終わり
『・・・今度はお前達が相手か』
「あぁ・・・そうみたいだな」
『正直、お前達と一緒に戦えた事を誇りに思うよ』
「・・・あぁ、俺達も負ける訳にはいかないからな。本気で行かせてもらう」
『フフフッ・・・そりゃ楽しみだ』
作られた同志達による大々的な活動が終焉を迎え、俺達、特殊部隊は解散。
今後の活動は、自衛軍、自衛隊へ委託されるような形になった。
そして、俺達は再び、元の世界に戻されることとなった。
俺達に指示を出してきた浅野の乗ったトラックは、最終日に突如として爆発し、中からは身元不明の遺体が発見された。
同志による犯行とされてたが、矢吹にとってはそれが誰の仕業なのかはわからなかった。
「そろそろ時間だ・・・」
『あぁ、コンタクトもこれで終わりにしよう』
「わかった。お互い後悔の無いように戦おう」
『あぁ・・・以上、通信終わり』
特殊部隊として戦ってから、俺達は妙な一体感が生まれていた。
戦う前の通信は、お互いの意思表示、そして、互いの戦闘意欲を増長するような会話が矢吹達だけでなく、他の仲間もやっているらしい。
戦うべき相手との妙な一体感はあるものの、矢吹達の信頼感はすでに薄れつつあった。
「・・・いつも通りだ。生きて帰ろう」
「「了解」」
矢吹の言葉に淡々と二人も答え、それと同時に腕時計がピピピと試合開始の合図を伝えた。
砂漠というのは季節感を全く感じさせない。
強い日差しが、矢吹を照らし、その日差しを砂漠が照り返し、額から汗がにじみ出た。
「あっちぃ・・・」
砂漠の中にある小さな集落の大通りの中央に立つ矢吹は、暑さのあまり小さく呟いた。
「突撃兵から観測兵へ、異常無し。次のポイントに移る」
『観測兵から突撃兵へ、了解だ』
粘土づくりの建物は外の光とは打って変わって、光をさえぎり真っ暗闇を作り出していた。
「・・・暗視ゴーグル持ってきた方が良かったかな」
暑さに集中力が途切れ、口からは愚痴とため息だけが零れた。
その時、何一つ変化の無い空気に違和感を覚えた。
背筋から刺すような冷たい空気に、矢吹は急ぎ身をかがめ横に跳んだ。
地面に顔からダイビングした瞬間、さっきまで立っていた場所で銃弾が跳ねた。
「くそっ・・・」
矢吹は急ぎ、見晴らしのいい大通りから闇を作り出す建物内へと向かった。
ぽっかりと口を開ける窓に向かい走り続ける中、弾が耳を掠める音が聞こえた。
窓に飛び込むと同時に体制を整え、翔達に連絡を入れた。
「突撃兵から観測兵へ!敵の攻撃だ。敵の位置は不明!」
『こちらからも確認した。奴等、建物内を移動しているみたいだ。お前を撃ってきた奴は、お前から南西の方角にある建物の屋上にいる』
「・・・気付いてたのか?」
『違う。建物内から出てきたのを確認してお前に連絡を取ろうとする前に発砲したんだ』
「まぁ、いい。・・・他には?」
『お前の真正面にある建物の崩れた二階に敵の姿がある。お前を探しているみたいだ』
「ハァ・・・ハァ・・・」
乱れる息を整え、窓から外を確認すると向かいの建物の天井の無い建物の二階に敵の姿が見た。
「確認した」
『やれるか・・?』
「やるしかないだろ」
矢吹はマシンガンを崩れた建物から少しだし、敵の頭を狙い始めた。
向こうはまだこちらには気付いていないらしく、頭をきょろきょろとさせていた。
乱れていた息を整え、神経を尖らせた。
そんな中、耳から聞こえてくる吐息と風の音に混ざり、微かに後ろで何かが動く音が聞こえた。
矢吹は後先考えずに、後ろを向き、物音の聞こえた方に向かって引き金を引いた。
粘土状の壁に無数の穴が開き、壁の向こう側からはドサリと何か大きなものが倒れる音が聞こえた。
銃を前に構え、暗闇に目を慣らしながら恐る恐る壁の向こう側に回り込むと、血の池の中央で銃を持った男が一人倒れていた。
「ハァ・・ハァ・・クソッ・・」
整えていた息が乱れ、額には脂汗がにじみ出た。
額を袖で拭おうとした時、後ろから銃声が鳴り弾丸が後ろからかすめ通った。
「くそっ!」
頭を屈めながら建物の奥へと進み、さっきまでいた部屋に突入してくる敵を確認し、閃光弾を放り込んだ。
耳からは閃光弾の後遺症で何も聞こえず、耳鳴りが鳴り響き、目からは閃光弾で目をやられ、抑えながら苦しむ敵の姿を捕える事が出来、矢吹は銃口を向け引き金を引いた。
一方、翔と山城は大通りを一望できる三階建ての建物の屋上に狙撃ポイントを置いていた。
「おぃ、矢吹?応答しろ」
『・・・・』
翔の問い掛けに矢吹は応答しなかった。
「くそっ・・・駄目だ。死んじゃいないと思うが・・・」
「なぁ?そんなもんどうでもいいだろ。撃つぞ、撃っていいんだろ?」
「・・・あぁ、そうだな。11時の方向90メートル、狙撃兵だ」
「おっそいんだよ・・・ボケが」
「・・・・」
山城の言葉に返す言葉も見つからず、翔は山城に敵との距離、風向きを伝えた。
「了~解」
スコープを覗き込むと、先ほどの銃声を気にし、周りを警戒する敵の姿が映った。
敵の頭に照準を合わせ、目を凝らしながら引き金に指を近づけた。
「・・・っ!2時の方向、距離30!」
突然の言葉に、思わず銃身をずらし引き金を引いてしまい弾丸は敵の足元に着弾した。
「くそっ!」
狙撃に気付き、建物内に潜ろうとする敵に的を絞るが、それよりも早く敵が隠れ、山城の横に銃弾がはじけた。
「くそっ!翔!何やってやがる!外したじゃねぇか!」
「馬鹿!違う!敵だ!」
山城は、向かって2時の方向にある建物内にいる二人の敵の姿に気付いた。
「・・・くっ、よこせ!」
山城は翔からマシンガンを奪い、建物に向かって制圧射撃を行った。
建物の壁に大量の銃弾が痕を残し、敵はこちらに向かって銃を構えた。
敵の放った弾丸が地面を走り、銃を撃ち続けていた山城の肩を貫いた。
「あああぁぁぁあああ!!」
銃弾を肩に喰らった山城は肩を抑えながら仰向けに倒れた。
「・・・う、撃たれた・・・撃たれた」
翔は撃たれた事でパニック状態になる山城の襟を掴み、弾丸が飛び交う中、建物の奥へと山城を引きずって行った。
「山城、大丈夫か!」
翔は流れる血を圧迫しながら山城に声をかけた。
「撃たれた・・・撃たれた、撃たれた、撃たれた」
声が裏返り、口をガタガタと震わせながら山城は自分の手に着いた自分の血を見て更にパニック状態に入った。
翔は敵が距離を縮めてくるのを防ごうと山城の横に落ちているマシンガンを拾い、窓際に行こうとするが、山城が翔の腕を掴み放さなかった。
「いやだ、嫌だ・・・死にたくない、死にたくない」
「放せ!山城!」
「いやだ、いやだ・・嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!」
「大丈夫だ!すぐに戻る!」
翔は掴んでいる手を無理やり外し、傷口に当てた。
「死にたくなかったら、そこで自分の傷口抑えてろ!」
出血が激しい、山城は目をカッと開き、呼吸が浅くなり、そんな山城を見ながら翔は「使えねぇ」と呟きながら、窓際へと向かった。
後を追う敵の足音を耳にしながら、矢吹は暗闇に包まれた建物内を走り続けていた。
長く曲がりくねった穴倉は一本道で、敵は矢吹を追いどんどんと距離を縮めてきていた。
「くそっ・・・くそっ、くそっくそっ!」
建物の外に出なければ、山城達からの援護は見込めない。
なのに、進めば進むほど道は狭く、そして野外とはかけ離れた場所へと進んでいく。
「どうする、考えろ。考えるんだ、矢吹」
後を追う敵の数は恐らく二人・・・いや、もしかしたらそれ以上・・・
穴倉の独特の壁が足音を反響させ、確実な人数を測らせてくれない
閃光弾も使い果たしてしまい、持っているのは銃のみ。
どうにかして、外に出なければ・・・
小さな穴倉は次第に、頭を屈めないと進めない程に小さく、狭くなっていた。
そんな小さな穴を進む中、進んだ先に横の壁から光が差し込む所があった。
「・・・」
まさかと思い、矢吹は小さな光が差し込む壁を蹴った。
すると薄かった壁はち小さな穴を開け、大量の光が差し込んだ。
穴の先には建物内に続いていた。
「・・・よし」
後を追っていた敵は穴の先から光が見える事に気付き、進むスピードを落とした。
光が差し込む穴を見て、先を進んでいた敵は後に続く仲間に止まるように指示した。
穴のすぐ横にまで来た敵は、慎重に手鏡で建物内を探った。
誰もいない事を確認したが、念には念を入れ、閃光弾を建物内に放り込んだ。
目映い光が建物内に走り、それを合図に敵は室内へと突入した。
キーンという音が耳を襲う中、建物内を仲間と一緒に周囲を確認した。
だが、建物内に矢吹の姿はなかった。
「ううっ・・・」
後ろで仲間のうめき声を聞き、後ろを振り返るとそこには後ろから短刀を突き刺された仲間の姿があった。
力が抜けていく仲間の後ろには、獲物を狙う矢吹の姿があった。
「くそっ」
敵は、仲間もろとも撃ち抜こうと銃を構えるが、矢吹はぐったりと倒れ込もうとする敵を後ろから支えながら、手に握っている銃を敵に向けてはなった。
弾丸を大量に浴びた敵は銃を乱射しながら後ろ向きに倒れた。
矢吹は敵が倒れるのを確認し、敵から短刀を引き抜き、仰向けに倒れている敵の方へ銃を構えながら近づいた。
死んでいるのを確認すると、深く息を吐き出し銃を降ろした。
「こちら、矢吹・・・敵勢力四名を無力化」
翔からの連絡を待っていたが、すぐには返事が返って来なかった。
「・・・おぃ、翔?」
『連絡が遅いんだよ!ボケ!』
返事が返ってきたが、翔の周囲からは銃撃戦の音が聞こえてきた。
『山城が撃たれた。さっきのポイントで籠城してる。援護してくれ!』
「わかった。今行く」
弾丸が翔達が立てこもる建物に向けて放たれる中、矢吹は後ろを通り、建物内へと入った。
建物内に入るとそこには、横たわる山城の姿があった。
「山城?・・・おぃ、山城!しっかりしろ!」
体をガクガクと痙攣させながらも、未だに意識を保つ山城は、横に座った矢吹の腕を必死に掴んできた。
「矢吹!そいつはもぅ駄目だ!応戦してくれ!」
翔は窓から体を半分出す状態で外にいる敵に向かって威嚇射撃をしていた。
だが、敵に狙いを定める事が出来ない自分に腹を立てていた。
「くそっ!当たれよ!」
「翔、このままだと、山城がショック死しちまう!」
「知るか!こっちはまだ生きてんだよ!」
翔の口からは信じられない言葉が飛んできた。
だが、事実だ。矢吹は「死にたくない」と呟き続ける山城の手を放した。
「大丈夫だ。すぐに終わらせて、浅野を呼んでくる。それまで待ってろ」
矢吹は自分の脇に置いておいた銃を手に取り、翔と共に窓から身を出し、敵に向けて銃弾を放った。
弾丸を頭に喰らった敵は、そのまま倒れ、その横に立っていた敵は、手榴弾を取り出し、こちらに向かって投げ込んできた。
「手榴弾!」
矢吹は飛んでくる手榴弾に気付き、大声で叫んだ。
矢吹と翔は室内に入ってきた手榴弾から離れようと横っとびし、手榴弾の向かう先を見つめていると、コロコロと転がっていた手榴弾は、山城のすぐ横で、止まった。
「やめろーーーーーーーーーーーーーーー!!」
矢吹の言葉もむなしく手榴弾は山城を巻き込みながら爆発した。
「くそがぁぁぁぁ!!」
怒り狂った矢吹は、窓から完全に身を乗り出し、敵に狙いを定めて引き金を引き続けた。
『試合終了、勝者チームFOOL(愚か者)』
場内アナウンスが流れ、矢吹はようやく銃を撃つのを止めた。
「翔・・・無事か」
横に突っ伏したまま動かない翔の方へ歩いて行き、動かない翔の姿に違和感を覚えた。
「翔?」
翔の脇からは血が流れている事に気付き、急ぎ近づいた。
「翔!おぃ、翔!」
抱きかかえ体を揺らすが翔は全く動かなかった。
「なんで・・・何で?」
脇の辺りに何か突起物突き刺さっている事に気付き、矢吹はその突起物を抜いた。
どうやら、さっきの手榴弾は炸裂弾だったらしい、鉄のかけらは頭を両手で抑える翔の脇から心臓を貫いていた。
「嘘・・・だろ。おぃ・・・」
そして、炸裂弾の破片は、翔だけでなく矢吹の背中にも無数に突き刺さっている事に気がついた。
体に全体に今更、痛みが走り、痛みのあまり歯を食いしばっていたが、痛さのあまり矢吹は意識を失いそのまま倒れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前半戦終了です。見事にバットエンドへと進行中です。
どうすんのよ。みんな死んじゃったじゃん・・・
と、まぁそんなわけで次回からは後半戦がスタートします。
今後ともよろしくお願いします。
では、また