第十八話 現実と真実
店が何軒も並ぶ駅構内の地下にも同志がいたらしく、そこらじゅうに倒れる死体が散乱していた。
「くそっこんな大規模な無差別をしやがって・・・」
「どうかな・・・見ろよ」
マイクの言葉に矢吹は、倒れる死体の中から特殊部隊の二人を指さした。
「辺りの銃痕の数が、周りに比べて多い。おそらく、ここで銃撃戦を行ったんだ・・・一般人も関係無くな」
「そんな・・・」
「狩る者。狩られる者が存在していて、狩る者の姿は同志には明白に見えている・・・俺がもし奴等なら、間違いなく俺達、特殊部隊を狙う。誰だって命は惜しい・・・狙われたら周りなんて関係なく銃を撃つさ」
「・・・まぁ、俺も否定はしない」
「それに大規模なテロかもしれないが、今の状況から見ても俺達の方が圧倒してる。こんな些細な出来事なんて、間違いなくもみ消され、全ては同志のせいにされる」
「フッ・・・こんな奴が正義を貫き通せ!なんて言ったのかよ」
「残念か?」
「いや、スッキリしたね。お前も俺と同じ・・・人間だってよくわかったよ」
「俺を一体なんだと思ってたんだ?神か?それとも下郎か?」
「悪いな、俺は無宗教だ。神なんかに助けを求めた事なんて一度もない。それに人の良し悪しを判断できるほどの人間でもない。だがな」
大声で話す二人の声に、周囲の殺気だった人間達が集まりだす。
「いい指導者だと・・・俺は思う」
二人は銃を取り出し、背中あわせに銃を発砲し、隠れていた同志達に先制攻撃を食らわせた。
「いい指導者だって?良し悪しを判断してるんじゃないかよ。悟りでも開けとでも言うのか?」
「そうじゃない。総隊長は浅野だが、小隊長に相応しい人間だと『俺個人』で思っているだけだ。良し悪しは判断してない」
マシンガンの弾が底をつき、ハンドガンを両手に構え二人は交互に向きを変えながら、敵を一掃し始めた。
「だたの言い訳じゃないか!」
「言い訳してなんぼの世界じゃ!」
「弾が底をつく!」
「承知!」
二人は、無人の洋服店に飛び込み、カウンターにダイブした。
用意してあった銃を手に取り、弾が底を尽いたと勘違いし店内に入って来た同志を返り討ちにした。
「リロード!」
「承知!カバー!」
「よし!退くぞ」
矢吹はマイクの肩を叩き、店内の裏側にある半開きの店員用入り口を指さした。
「おぅ!」
二人は半開きの扉をすり抜け、店の奥へと進んで行った。
同志は執拗にあとを追い、半開きの扉を押しあけようとした。
その瞬間、ワイヤーが外れあとに続いていた同志を巻き添えに大爆発を起こした。
店の光が一気に無くなり、非常用ライトの薄い緑色の光だけが頼りになった世界で、ロッカーの扉を開き、軽くせき込みながら矢吹が出てきて無線を取った。
「こちら地下街。同志の大部分を一掃した」
「さっきからこいつの無線ばっか聞くぞ・・・大したもんだ」
「ホント・・・味方で良かったぜ・・」
「今だけはな・・・」
「止せ、今はそんな事を考えるな」
駅構内の上の階を捜索する特殊部隊の二人は横に大きく広がった廊下を歩いていた。
慌ただしかった同志の活動は、ほんの一瞬の出来事であったかのように、辺りは静まり返るが、傷痕は生々しく残っていた。
横からうかがえる覗けるようになっている全面ガラス張りの壁は駅の改札口全体が見渡す事が出来、いつもなら人で込み合うはずの場所が、横に倒れ動かない人しかいなかった。
「こんな事が・・・あっていいのかよ・・・」
「さぁな・・・でも、これが事実だ」
ガラスから見える景色は、まるで作りものであるかのように
「こんな所で殺し合いをしてるのも事実って訳か・・・」
そんな事を話しながら捜索を続けている二人の目の前に人が現れ、二人は思わず銃を構えた。
「撃たないで!」
涙ぐみながら両手を上げる女性は、綺麗な服が崩れた瓦礫などの粉塵で汚れ、顔も薄汚れていた。
そんな女性の姿に二人は銃を降ろした。
「お願い・・・助けて・・・」
「待ってろ。今、無線で一般人の保護を要求するから」
一人は無線を手に取り、もう一人は彼女の方へ近寄って行った。
「こちら、駅構内の二階。一般人をはっけ・・・おぃ!そいつから離れろ!」
彼女のスタイルを隠すような薄手の服装。
だが、両脇に微かな脹らみを発見した一人が、近寄っていた仲間に声を張り上げた。
彼の声に振り向こうとした仲間は、後ろから大きなナイフを横に振り抜かれ、首が真後ろを向くように曲がり、体から離れ落ちた。
「くそっ・・・」
これまで共に行動していた仲間の異様な死に様に顔を引きつらせながらも、銃を向け彼の仲間の体ごと撃ち抜こうと引き金を引いた。
彼女は倒れそうになる死体の首根っこを掴み上げ、死体を弾除けにし、脇から彼の銃を取り、引き金を引いた。
仲間の銃で攻撃された彼は、体を仰け反らせながら仰向けに倒れた。
「フン・・・男ってみんな馬鹿。ちょっと可愛い顔したらすぐに警戒を解いちゃうんだから」
頭から振りかぶった赤い液体を手で拭いながら下に倒れる二つの死体に唾を吐きつけた。
『そんな事を公の場で呟く、お前はもっと馬鹿だ』
死体の無線から誰かの声が聞こえたかと思った瞬間、隣の窓ガラスが割れ、窓ガラスを割った銃弾が彼女の片足を貫いた。
足を貫かれた彼女の悲鳴は、彼女を狙撃した彼の所まで届いていた。
痛みのあまり悲鳴を上げる女性を目の前にして山城は無線からも聞こえるような声で笑って見せた。
『クックックック・・・馬鹿な女だ。ちょっと勝った気分に浸って、警戒を解いちまうんだからな』
女性は上の方を見るとスコープの反射光がキラリと光るのが見えた。
「お願い・・・助けて・・・」
『グッバイ エンジェル』
一発の銃声が駅に響いた。
地下街で行動する矢吹とマイクは、再び肩身を寄せ合いガタガタと震える一般人達を発見し、困惑していた。
店員専用の通路を捜索していた二人の前に数十人はいるのではないかと思うほどの人間が通せんぼをしていたのだ。
「なんでここに逃げるんだよ・・・」
無線も通じず、矢吹が何度も無線を取るが誰も反応なしだった。
「どうする・・・」
「どうするも何も・・こんなに大勢の人間を移動させるのは無理だ、もっと人数がいる。だったら収集が付くまで、ここにいてもらった方が安全だ」
「わかった。・・・俺から伝える」
年の功とはよく言ったものだ。矢吹のような若造に言われたって何の説得力もない。
だが、俺よりも歳のいったマイクが話せば彼等は納得し、耳を傾けていた。
ここなら安全だ。自体は次第に収まりつつある。そんな単語を彼等に聞かせる中、矢吹はひとまず休憩しようと、横にある椅子に腰を下ろした。
椅子に腰を下ろす矢吹にジッと視線を投げる子供に気付き、矢吹は顔をその子に向けた。
幼稚園児ぐらいだろうか、髪を大きなリボンでまとめ上げ、大きな瞳で矢吹をずっと見つめる少女だった。
「・・・・」
これは声をかけるべきなのだろうか・・・いや、別にそんな必要はないか
視線を放そうともしない少女との我慢比べが矢吹の中で勝手に開始しされ、どちらも譲らずずっと目を離さずいた。
そんな中、少女は矢吹に向け大きな目が潰れるほど満面の笑みで答え、その瞬間、矢吹の脳裏に妹の姿が浮かんでしまった。
少女の顔と幼き頃の妹の顔が重なり、まるで目の前に妹がいるかのように思えてきた。
「おぃ、どうした?」
マイクの言葉に矢吹は我に返った。
気が付けば、矢吹は横にいる少女の頬を震える手で触り、少女はキョトンとした顔でこっちを見つめていた。
「・・・いや、なんでもない」
矢吹は震えそうな手を頬から離し、頭の上に手を置いた。
「ここは安全だから、絶対に外に出るんじゃないぞ。いいな?わかったな?」
「・・・・うん!」
「よし、いい返事だ」
その子の母親らしき人が、矢吹の横にいる我が子に気付き、こっちに来なさいという声で少女は矢吹の前から立ち去り、矢吹達はこの場を去った。
「おぃ、どうした・・・顔色が悪いぞ」
「・・・覆面してるのに、どうやって顔色を窺えるんだよ・・」
「そうじゃなくてさっきから明らかに調子がおかしいだろ?・・何かあったのか?」
「別に・・・何でもない」
「でもよ・・・」
「頼むから思い出させないでくれ・・・そう言った単語一つ一つで脳裏に響くんだよ」
今は思い出してはいけないのだ。
「・・・わかった。でも、さっきの少女と」
「うるせぇ!」
「・・・わかったよ・・もぅ言わん」
「話すなら何か他の話題にしてくれ・・・」
「なら一つ聞きたかったんだが、連絡通路でお前はさっきみたく一般人を見つけたんだよな?その時は同志を探したというのに、何で今回は探さなかったんだ?」
「・・・わからん。考えてみりゃ同志だって千差万別だ。銃を撃ちまくって銃を捨てちまえば、そいつはもぅ一般人だ。銃を撃ちまくって死ぬことだけが同志じゃない。そんな同志に、俺は銃を持たせちまったんだ」
「無理もないだろ・・・殺気立ってたんだ。それにその同志だってその場にいたって事は、少なからず銃を使用した。もしくは、人を殺してる」
「だが、生き残ろうとしていた」
「それは俺達も同じだ。これまでも、そして、これからもだ」
「・・・そうだよな」
「あぁ、そうだよ」
マイクの言葉に矢吹の気持ちは少し楽になり、矢吹は少し戸惑って見せるがあることを話題に出した。
「・・・なぁ、聞きたい事がある」
「なんだ」
「今回のこの騒動。本当に同志の活動だと思うか?」
「・・・・・」
「あんただって気付いてるはずだ。これはテロなんかじゃない・・・リアルウォーだって」
「止せ、その単語を口にするな」
「その反応を見る限り、あんたもプレイヤーだ。そして、俺も・・・この特殊部隊は全員がプレイヤーだ」
「おぃ」
「そして、同志の手首に着いた発信機は、俺達のものと同様の物だ」
「・・・つまり、同志なんていない。そう言いたいのか?だったら、あの男は何だ?一体誰なんだ」
テレビに映るあの男。そして、井上康太の発言。
今回の騒動。俺達に同志なんていないと勘付いてしまうようなあからさまな活動。
「・・・あっ、そうか・・・今回の騒動とテレビの男は別件だ」
「はぁ?」
「全てが繋がった・・・俺達に同志なんていないと思わせ、一般人には同志と言う悪の存在を示した!最悪だ・・・最悪なシナリオが盛り込まれるぞ!憲法9条だけじゃない・・・総理に絶対的な権限だって持たせる可能性がある」
「おぃ、一体何を言って」
『そこまでだ。お前、一体何を知ってる』
浅野の登場に巻き込まれてしまったとマイクは天を煽り、逆に矢吹はニヤリと笑って見せた。
「だたの目測で話す事にあんたが登場するって事は、俺は相当確信を突いてるって事だな?」
『・・・さぁな。俺はただ、周りに人がいるかの知れないというのに、リアルウォーの存在を話すお前等を止めに入っただけだ・・・安心しろ。二人にしか回線は繋いでいない』
「おぃおぃ、勘弁してくれよ。俺は関係ないだろ・・・」
『まぁ所詮は目測。殺すなんて事はないから安心しろ・・・じゃぁその目測で未来予想をして貰おうじゃないか、今後、この国はどうなる』
「さっきも言ったように悪の存在が堂々と示された。廃止しようとしていた憲法九条は完全に廃止されるだろうよ。そして、同志の存在は明らかにされたんだ。見過ごす訳が無い・・・自衛隊、自衛軍・・いや、それだけじゃない。民間軍事、もしくは総理直属の新たな軍隊が作られる可能性だってある」
『・・・素晴らしい目測だ。だが、』
「まだ終わっちゃいない」
『・・・』
「・・・つまり、この壮大な絵を描くために俺達を利用したんだ。・・こんな絵を描くために、俺達の仲間は血を流したんだ」
これは俺達の物語だと思っていた。
だが、突き付けられた現実は実際違った。
俺達はただの布石。だたのお膳立てだったのだ。
物語なんて始まってもいなかったんだ。恐らくこれから始まるのが本当の物語なのだ。
「おぃ、修也に卓也だろ?覆面の下からだってわかるさ・・・俺だよ、俺」
壁に追い込まれた同志が銃を向ける特殊部隊に命乞いに近い言葉を発していた。
「東寺か・・・」
「そ、そうだ。俺は・・・同志になりたくてなった訳じゃないんだ。ただ、同志にならなければ家族とお前等を殺すと脅されて・・・」
「・・・知ってるさ、そんな事」
「だ、だから・・・銃を・・」
「けどな・・・」
「・・・」
「お前が・・・同志になったお陰で俺達の家族は殺されたんだぁ!」
「そんな・・・」
特殊部隊の言葉に愕然とする同志は、腕をダラリと降ろし、特殊部隊の二人は涙ぐみながら必要以上に引き金を引き、同志が倒れた。
「大丈夫ですか?さぁ手を」
一般人と一緒に身を潜めた女子高生に扮した同志は特殊部隊から差し出された手を取った。
「えぇありがとう」
作った笑顔で笑いかけてみせ、何事もなかったかのように、駅前に止められたトラックに乗り込んだ。
そして、トラックが走りだし遠くに見える駅を見て生き残ったんだとため息を洩らした。
だが、こんな事で開放されるわけが無い
同志は腰に隠し持っている赤く染め上がったナイフを強く握り締めた。
「だぁぁぁぁぁ!!」
互いに銃を落としてしまい、掴みあいの乱闘をしていた同志と特殊部隊。
特殊部隊が同志に馬乗りになり、手に持っていたナイフで同志の胸を突き刺そうと全体重で押し付けるが、同志も必死になってそれを抑えようとした。
だが、ナイフは徐々に下にさがって来る。
歯をガタガタと鳴らし、必死に耐えるもナイフが腹部に触れる感触が全身に鳥肌を立てた。
痛みと熱さがが一気に腹から体全体を走り抜け、その瞬間、同志は特殊部隊の片足を蹴り飛ばし、同志が馬乗りになり立場を逆転させた。
同志は相手の顎を手で抑え、開いた首に一心不乱にかぶり付いた。
特殊部隊の首からは血が溢れ、必死に手で血を止めようとした。
地面で暴れる特殊部隊を横目に、体中真っ赤にし腹をナイフで刺された同志は、その場から立ち去ろうとした。
小さな一室から出てみるとその部屋の横には、銃に抱きつき体をガタガタふるわせる特殊部隊の姿があった。
「・・・お前みたいな餓鬼に手を上げるつもりはない」
同志はそう言い、背を向け歩き出した。
そんな彼に向って、特殊部隊の一人は彼の背中に向け銃弾を放ち、彼は横に倒れた。
彼の薄れゆく意識の中で後ろの方で「ごめんなさい」という言葉が何度も聞こえてきた。
『騒動は大分、落ち着いた。だが、まだ同志の活動が終わった訳ではない。十分に気を付けろ』
淡々と状況報告をする浅野の無線を気分の落ち込んだ二人は、地下街道の椅子に腰をおろし、ボケっとしながら聞いていた。
「俺達、いつまでここでボケっとしてるんだ?」
「しらね・・・もぅ同志も大体いなくなったんだ。俺達が頑張る必要はねぇよ」
「考えてみたら・・・こんな事が全国で行われてるのかな?」
「どうだろうな・・・こんな大規模な物はそうそうないだろ・・・」
そんな会話をする二人。
辺りは非常灯の光のみしかなく、小さな音ですら廊下を反響し聞こえてくる。
そして、その音は危機をも教えてくれる。
廊下の向こうから微かに聞こえてくる「ママー」と小さな声が二人に銃を握らせた。
「・・・おぃおぃ、冗談だろ」
「まさか・・・」
マイクは嫌々と言うように首を横に振って見せるが、聞き覚えのある声に矢吹は腰を上げ、走り出した。
「おっ、おぃ!」
「一人でも多く殺せ・・・一人でも多く殺せ・・・一人でも」
言霊のように何度も呟きながら歩く同志の一人も小さな助けの声を耳にし、顔をニタつかせ、声のする方へ向かった。
救助が来るまで出てはいけないと言われていたのに、どこかへ姿を消した娘を探し、外に出ていた母親も娘の声に気付き周りにびくびくしながら、進み始めた。
なにも意味もなく、ただ暇だったからという理由で外に出てしまった娘は、帰り道もわからなくなり、どんなに声を張り上げても自分の声が帰って来るだけで、寂しさのあまり目からは涙があふれ出していた。
「おぃ!」
そんな娘の声に気付き、駆けつけてくれたのはさっき会ったお兄さんだった。
溢れんばかりの笑みで駆け寄ろうとする娘だが、武装兵の彼は違った。
「はやく、物陰に隠れろ!」
長い廊下の中央に立っていた娘に先に会っていたのは武装兵ではなく、同志だった。
彼の銃口が娘を捕らえ、後ろを指さすお兄さんの指を追い、後ろを振り向いた少女にニヤリと同志は応えた。
「くそっ・・・!」
矢吹は娘の方へと駆け出し、引き金を引こうとする同志の前に立ちはだかり、娘の盾となった。
バァン!
一発の銃声と後ろにのけ反る武装兵を店の奥で見ていた母親は悲鳴を上げた。
後ろに倒れる仲間を見て、それがまるで信じられない光景のように目をカッと開く、マイク。
倒れ込んだ矢吹の向こうに見えるのは、完全に正気を失った同志の姿だった。
マイクはハンドガンを構え、同志に銃弾を撃ち込んだ。
倒れ込む同志の側に銃を構えながら近づき、死んだのを確認してからマイクは矢吹の方へと滑り込んできた。
「おぃ!しっかりしろ!おぃ!!」
名前を聞いていなかった事に後悔しながらマイクは、矢吹に何度も声をかけた。
息をせず目を閉じたまま動かない矢吹に、マイクは何度も声をかけた。
「浅野!・・・仲間が撃たれた!敵は排除した、衛星兵を頼む!」
「・・・ゲホッ!」
「・・・!」
動かなかった矢吹が、突然せき込み、言葉を失うマイク。
それは、撃たれた矢吹もそうだった。互いに目を合わせ、首を傾げながら、矢吹は撃たれた胸の辺りを手で探った。
そこには、防弾チョッキにめり込んだ銃弾があり、矢吹はそれを手に取って見せた。
「・・・・あはっ・・どんだけ幸運なんだよ・・お前は・・」
無事でよかったと、胸を撫で下ろすマイクを横に、矢吹は後ろに立つ娘に目をやった。
キョトンとする娘に矢吹の中に何かが沸々とわき上がって来るのが感じ取れた。
脅威が去ったと確認し、娘の方へ駆け寄ろうとする母親の前で矢吹は娘の頬を思いっきり引っ叩いた。
「糞餓鬼を取り扱う面倒さは、映画や漫画だけの世界じゃないって事がよくわかったよ!外に出るなって言ったら出るなよ!ボケが!
お前は!俺の妹なんかじゃない!・・・失せろ!二度と俺の前に姿を見せるな!」
どうやら、肋骨が折れていたらしく、大声を出したお陰で痛みが走り、矢吹はその場に蹲った。
大声で泣き始める娘を庇うかのように、抱きかかえた母親は矢吹を睨みつけた。
「なんて人なの!子供に手を上げるなんて!」
母親の言葉に反論しようと顔を上げ睨みつけるが、矢吹と母親の間にマイクが割って入った。
「その娘さんのせいで、俺達は仲間を一人、失う所だったんだぞ・・・それに、こいつが命張って娘さん助けようとした時、あんたは何をしてた。こいつは、本来、親がやるべきはずの役目を買って出たんだぞ。そんな人間を蔑むのか?親であるあんたは?」
「・・・・」
「その娘さんを連れて、俺達の前から消えろ。そして、娘さんの手を二度と離すな」
反論が出来ない母親は、二人の前から娘を連れて立ち去った。
「なんだかんだで、やっぱりお前も餓鬼だな。・・・妹さん、いるのか?」
「・・・・」
「それとも、あれかな?妹さん・・・もぅ死んじまったのか」
「唯一の家族だ」
「・・・そうか」
「病弱でな・・・まだ意識が戻らないんだ」
「・・・・」
「・・・考えないようにしてた。私情を持ち込まないようにしてた。でも、あいつが妹と重なった」
「そうか」
蹲ったまま話し続ける矢吹の声は次第に裏返り始めた。
「やっぱ・・・おかしいよな・・変だよな。妹の為にこれまで生き残って来た・・・でも、医者に言われた・・・このまま目を覚まさないかもしれないって・・・妹と重なったのは事実だ。でも。俺はそんな妹に手を上げてしまった。
そして、俺は・・・こんな所で人殺しを続けてる・・・」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
普段ですと十話更新ごとに後書きみたいな物を入れていたのですが、
「うわっ、こいつ二十話より早く後書き書いてやがるププッ、早とちりさん」
とかではなく、なんと「俺達の戦争」「俺達の戦争2」合わせて50話になりました~~~!!
いや、もぅビックリ!暇なときにただなんとなく書いてたものがまさかの50話達成。
目指せ100話とかは絶対に無理なんでマジで勘弁してください。
ではでは、次回は第二十話目にお会いしましょう。