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第十七話 作ってはいけない友

駅前の広場の一角に実を潜め、広場の中央で銃を乱射する男に銃口を向け、引き金を引くと男は頭を撃ち抜かれ、その場に倒れた。

「こちら駅前広場。中央の敵を無力化に成功」

『正義を貫き通せ!』

知らない男の無線をきっかけにバラバラであった特殊部隊の面々は知らず知らずに一体感を持ち始め、パンク状態だった無線からは、増援要求と経過報告のみが飛び交うようになっていた。

「俺達が正義か・・・」

特殊部隊の一人は、男の言葉を思い出し歯痒い言葉に鼻で笑いながらも悪い気持ではないなと思っていた。

そんな男の後ろに現れた人物は、男に近づき肩を叩いた。

「おぃ、お前。俺と来い」

気付かない間に後ろを取られた男は、驚き後ろに銃を構えながら振り返るが同じ服装の人間だと気付き、ため息とともに銃を降ろした。

「なんだよ・・びっくりさせるなよ」

「お前の仲間は?」

「・・・中央に倒れてる。屋上の奴とは連絡が取れない」

「そうか・・・俺もだ。・・・だから仲間が必要だ。一緒に来てくれないか」

「・・・どこに向かう」

そう尋ねると男は覆面の下からもわかるくらいの笑みを見せ、こう言った。

「駅構内だ。面白い奴もいたもんだ・・・無線の男に会ってみたい」

「・・・わかった。名前・・って言う訳ないか」

「そうだな・・・マイクとでも呼んでくれ」

「外人かよ・・・じゃぁ俺はサムだ」

「西口の敵は無力化した。西口から突入する」

「了解」

マイクはサムとあつく握手を交わすと無線で浅野と連絡を取った。

「こちら駅前広場。二名で西口から駅構内に向かう」

『了解した。駅構内には多数の敵が潜伏してるとみられる。十分注意しろ』

「承知した・・・無線の男はどこにいる。奴等と合流したい」

『東口だ。連絡通路の一本が、最初の爆発で使い物にならなくなっている。東口に行くには南側の連絡通路を使う必要がある』

「大丈夫だ。・・・ここは俺達の地元だ。道はわかってる」

『頼もしい言葉だ』

無線を切ると二人は西口から駅の中へと入って行った。






静かになった駅構内で矢吹は目の前に倒れる同志の前にしゃがみ込んだ。

動く事のない男の手を取り、矢吹は手首についている発信機を目にし「やっぱりな」と呟いた。

「翔、周囲の敵を無力化した。状況はどうだ」

『東側改札口の周辺は無力化したけど、西の方はわからない。それにここはあくまで一階だ。上の階には一般人も逃げ込んでる。どれが同志なのかもわからない状態だ』

「・・・西口に特殊部隊は」

『それもわからない。向こうはやけに静かだ・・・戦闘が終了したのか、もしくは』

「同志に占領されたか・・・南側の連絡通路を使って西口の方へ行ってみる。お前達は西口の上を取れ」

『わかった。でも、矢吹・・・俺達の方は直接西口と繋がってる訳じゃない。回り道しないといけない』

「わかってる。慎重に来い」

無線でやり取りをしていると西口の方で銃撃戦の音が聞こえ、矢吹は銃を手に取った。

「翔!俺は西口に向かう。お前達もなるべく早く来い」

『わかった』

矢吹は下に落ちている銃を拾い、連絡通路へと向かい走り出した。



一本道の連絡通路にはロッカールームが両側に広がり、人の気配を感じる。

矢吹はナイフとハンドガンを構え、ロッカーの方へと向かった。

ロッカーの奥へと向かうとそこには体を震わせる一般人の姿があった。

矢吹が銃を構えると一般人の中には「ひぃ」と声を洩らす人もいた。

矢吹は一般人に向けて構えていた銃を降ろし、無線を繋げた。

「こちら駅構内。ロッカールームに一般人数名を発見。どうする」

『こちらで保護をする。担当の者が向かうまでの安全の確保を』

「了解」

矢吹は西口の方を気にしながら無線を切った。

「怪我をしてる人はいるか」

そう問いかけると誰も声には出さないが辺りを見渡し、全員が首を横に振った。

「そうか・・・なら次の質問だ。これが一番重要だ・・・周りに知らない人間はいるか?知っている人間がいるなら知っている奴と手を繋げ」

矢吹の言葉通り、彼等は知っている人間と手を繋ぎ始めた。

「よし、誰も知り合いがいない奴。手を繋いでいない奴は立て、そしてこっちに来い」

体を震わせ身を寄せ合っていた彼等は、特殊部隊という安心感に助けられ誰ひとり、矢吹の言葉に疑うそぶりも見せず立ち上がった。

「俺の後ろに廻れ」

立ち上がった彼等を顎で指示し、彼等、彼女等は矢吹の横を通り、矢吹の後ろに回った。

「壁に一列になって並べ」

次第に不信感を抱きながらも彼等は壁に並んで立った。

そして、矢吹は銃に弾を込め彼等に突然向けた。

「単刀直入に言う。・・・この中に同志はいるか?」

矢吹の言葉に、静かだった空気が一変した。

「ふ、ふざけるな!俺達が同志だとでも言いたいのか!」

「冗談でしょ。それでも特殊部隊なの!?」

慌てふためく彼等と、壁に縮こまっていた知り合い同士のグループは更に身を縮めた。

「同志は全員、お前達と同じ私服で行動している。見分ける方法がないんだ。一般人の中に潜んで俺達を狙う可能性だって十分ある」

壁に並んでいる一人が、知り合い同士のグループに目をやり、そっちに近づこうとした。

だが、そんな彼の足元に銃弾が飛び、銃声が鳴った。

「下手に動こうとするな。この緊張状態で、同志と一般人の区別なんて付かないんだ」

「俺、あいつ知ってるぞ!大学で見た事がある」

男は足を震わせながら身を寄せ合う女性グループの方を指さし言ってきた。

「・・・どうなんだ?」

矢吹の問い掛けに女性グループは知らないと首を横に振った。

「おまっ・・・ふざけるなよ!」

思わず声を荒げるが矢吹が銃を向けた事で男は黙り込んだ。

「見かけるだけじゃ駄目なんだよ。見かけるだけじゃただの草花と同じだ」

矢吹は男の腕にリストバンドが付いている事に気が付き、思わず銃を向けた。

その動作に男は体を強張らせた。

だが、その動作に矢吹は銃を降ろし、男の手を取り、上に掲げた。

「お前・・・プレイヤーだな?」

「・・何の事だ」

目を泳がせる男に矢吹は言葉を続けた。

「『ウォーゲーム』のプレイヤーだな」

「・・・そ、そうだ」

矢吹はさっき拾った銃をチェックしながら男に問いかけた。

「銃の扱いは慣れてるか?」

「あ、あぁ・・・」

「俺はこれから西口に向かう。それまでここを守れ」

「わ・・わかった・・・」

矢吹は無線を取り彼に背を向けた。

「こちらロッカールーム。一般人の中にウォーゲームのプレイヤーを発見。彼に武装をさせた・・間違えて撃ち殺すなよ」

男は矢吹が無線で通信をする中、矢吹から渡された銃をカタカタと震わせながら矢吹の方へと向けた。

だが、矢吹は後ろを振り変えらず肩から降ろしていた銃を後ろに向け、男に向けて引き金を引いた。

銃声と悲鳴がロッカールームを木霊し、銃弾を食らった男はロッカーにぶつかりその場に倒れた。

『どうした!何があった!』

「何でもない、プレイヤーだと思っていた人物が同志だっただけだ。一般人の中に同志が潜んでいる可能性がある」

『わかった。伝えておく』

「ロッカールームの脅威は排除した。俺はこれより西口に向かう」

矢吹はそう言うと無線を切った。

胸から血を流し倒れる男の顔を見て「たしかに見た事のある顔だ」と呟き、ロッカールームから立ち去った。








「サム!改札口にライフル兵」

「無理だ!こっちからじゃ届かん!」

西口の入り口付近で立ち往生する二人は、互いに離れた場所で遮蔽物に身を潜め同志と激しい銃撃戦を繰り返していた。

サムは遮蔽物から身を乗り出し銃を構えるが、飛んできた銃弾が肩に被弾しその場に倒れ込んだ。

「あぁあ!畜生!」

それに気付いたマイクは、身をかがめながらサムの方へと走り出し、サムの使っていた遮蔽物に滑り込んだ。

そして、その場に倒れるサムを遮蔽物の裏に引っ張り込んだ。

「こちら西口!仲間が一人撃たれた!衛星兵と増援要求!」

『増援は今出せない!なんとか持ちこたえろ』

「浅野ぉ!俺達を殺す気か!」

『手駒に限りがあるんだ!なんとか持ちこたえろ!』

『こちら連絡通路。待たせたな。増援到着だ』

突然割りこんできた無線の声にマイクとサムは怒り狂っていた感情が落ち着いた。

『今、連絡通路にいる。こちらからは死角になっていて、同志の位置がわからない』

「よぉお前を迎えに行くつもりだったんだけどな・・・待ってたぜ。人数は」

『・・・俺一人だよ』

「・・・なんて心強いお言葉だな、おぃ・・・脱力感が湧いて来たぜ」

『舐めるな・・・狙撃兵と観測兵と上においてある。場所を言え、そいつ等もすでに到着しているはずだ』

「はっ・・・大した奴だよ・・・改札口にライフル兵。待合室に一人・・・それと俺達の正面に三人だ」

『了解・・・待合室は俺がやる。正面にいる奴等の後ろを取る。カバーを頼む』

「承知した」

マイクは、銃を手に取り敵に向けて発砲しようとするが、サムがそれを止めた。

浅い呼吸を繰り返すサムはマイクに目で訴えかけ、マイクはそれに頷き、横に落ちている銃を拾い渡した。

「俺達のタイミングに合わせろ!」

倒れていたサムは横に転がり正面にいる敵に向けて発砲をし始めた。

あとに続き、マイクも敵に向かって銃を撃った。



矢吹は西口から聞こえる銃声を合図にして連絡通路から飛び出した。

すぐ脇にある待合室に侵入し、それに気付いた同志が銃を向けるがそれよりも早くナイフを投げた。

ナイフは同志の首に突き刺さり、同志を倒した。

「翔!待合室の敵を排除!ここから見ると、正面三名、改札口に一人。それと彼等のいる反対側の出入り口に人がいる。こちらからは同志かは判断できない」

『確認した。入り口の同志はこちらで排除する改札口の方はこちらでは無理だ』

「わかった・・・改札口はこっちでやる」

矢吹はこちらに気付いていない同志に向けて銃口を向け、集中した。

スコープをセットし敵の頭を捕らえ、引き金を引いた。

改札口の同志が横に倒れると同時に、上の階から放たれた山城の銃弾は、入り口に立っていた同志に当たりガラス張りの扉を割りながら倒れた。

改札口の同志が倒れた事に気がついた敵は待合室にいる矢吹に気付き、銃口を向けるが足元に転がる手榴弾に体を強張らせた。

強い閃光と耳鳴りが彼等を現実世界から白い世界へと誘い、目を一時的に奪われた彼等はその場で立ち尽くした。

「山城、12時の方向、中央の敵、距離80」

「了~解っ!」

翔の指示に山城はうきうきした気分でそう答え、スコープに映る最後の敵を見つめ引き金を引いた。

「終わりだ!」

弾が底をついたマイクはハンドガンで敵を狙った。

「・・・死ね」

閃光弾を投げた矢吹は立ちくらみを起こす敵に照準を合わせ引き金を引いた。






ほぼ同時になった銃声と共に中央にいた三人の敵はその場に倒れた。

「ハァ・・・ハァ・・・やったぞ!サム」

目を横にやるとそこには、力尽きたサムの姿があった。

「・・・よく頑張ったな。お疲れさん」

マイクは敵を睨みつけるようにカッと開いたまま眠るサムの目を閉じた。

「あんたの仲間か」

近寄って来た矢吹は倒れるサムを見て、マイクに尋ねてきた。

「あぁ・・・さっき知り合った戦友だ」

「そうか」

「・・・フッ、全部、お前のせいさ・・・作ろうとなんて思わなかったよ。こんな戦友・・・でも、作っちまった。知り合ってから、たった数時間。いや、数分だったかもしれない・・・こいつの本当の名前も知らない。・・・でも、涙って出るもんなんだな」

目だし帽の下から溢れ、零れ落ちる涙をマイクはどうやっても止める事が出来なかった。

「どうしたよ・・・男泣きがそんなに珍しいか?心の中で笑ってるのか?」

涙を止める方法を見いだせないマイクは、ただ突っ立ってこちらを見下ろす矢吹に当たってみた。

「笑いたきゃ笑うがいいさ・・・お前には本当の仲間がいるんだからな。こんな、俺の気持ちなんて、わかりはしないさ」

そんなあからさまな態度に矢吹はため息を洩らし、口を開いた。

「悪いな、俺には笑う度胸も、お前の涙を拭うハンカチも、涙を止める器用さも持ち合わせちゃいない」

心を見透かされていたマイクは口を閉じ、矢吹は話を続けた。

「だが、そこであんたは立ち止まるのか?・・・もし、そのつもりが無いならな」

矢吹はマイクの前に手を差し伸べそれに気付いたマイクは顔を上げた。

「俺と来い。この先にいる脅威を排除するためには、あんたが必要だ」

歯痒い言葉にマイクは思わず鼻で笑うが、そんな態度を取っても矢吹は一向に差し伸べた手と表情を崩さなかった。

「いいだろう・・・もはや俺は天涯孤独の身。お前みたいな若造の無線に心奮い立たされたかと思うとかなり残念だが、あんたの背中・・俺が守ってやる」

マイクは矢吹の手を取り、掴んだ手を引っ張り上げマイクが立ち上がると、駅に連なるショッピングモールへと二人は走って行った。





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