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第十六話 正義を貫き通せ

「・・・つまり、君達には同志の討伐を頼みたい」

トラックの荷台の中でスーツ姿の男が銃を装備し、目だし帽をかぶる武装兵に活動内容を指示していた。

「君達は特殊部隊として街中を巡回及び、同志の脅威を排除してもらう。銃の使用はこちらから指示を出す。それまでは発砲はするな」

男の詳細指示を聞くとトラックの荷台から武装兵たちが降りた。

武装兵たちは誰一人喋る事無く、バラバラとトラックから離れ、お互い離れた所で三人だったり、四人だったりと集まりだすが人数はバラバラだった。

そして、彼等は同じ武装服を着ているというのに互いに睨み合い、とても仲間とは思えない雰囲気を出していた。

『それでは君達の巡回範囲はこちらが指示を出す。なるべく共には行動させるつもりはない。だが、万が一の場合もある。その時は同じ仲間だ、助けてやってくれ』

「・・・ったく、変な事を言う浅野もいたもんだぜ」

特殊部隊の三人が集まり、そのうちの一人が二人に対しそう呟いた。

「仲間を助けるって当たり前じゃねぇかよ」

男の言葉に一人がため息をつき、口を開いた。

「おぃ翔・・・だからお前は馬鹿なんだ」

「はぁ?」

「さっきの浅野も言っていた。・・・共に行動はさせないってな。その意味すらわからないのか?」

「そりゃ、俺達みたく会話をして他のプレイヤー達に見ばれさせないためじゃないのか?」

「それだけじゃない」

矢吹はそう言うと銃を翔に向けて見せた。

その行動に翔は思わず体を強張らせた。

「・・・プレイヤー同志の共食いを防ぐためだ」

「共食い・・?」

矢吹は銃を降ろし、翔は銃を降ろした事でため息を洩らした。

「考えても見ろ、この騒動が終わればきっと俺達はまた戦う事になる。そんな奴が横にいてみろ・・・心が安らぐか?」

「・・・・」

矢吹の言葉に黙り込む翔。

そんな二人を見て山城は、鼻で笑って見せた。

「そんな下らない話をしてどうするってんだよ。関係無いね・・・全員をぶっ殺せばいいんだ」

ヘラヘラと笑みを見せる山城と少し感情が抑えこまれ、少し大人しくなってしまった翔に矢吹はため息を洩らした。

・・・こんな奴が生き残れんのかよ。

『お前達は駅周辺を警戒してもらう』

「了解」

トラックの中から指示を出す浅野の言葉に矢吹は短く返事をし、駅へと向かい歩き出した。






人通りの多い駅に到着した三人は、辺りを見渡し、他の武装兵の位置と人数を確認した。

「巡回する武装兵が四人と二グループ。周囲の建物の屋上に狙撃兵と観測兵が三チームか・・・じゃぁ俺達は駅構内を警戒しよう」

「「了解」」

矢吹達は銃を肩から降ろし、歩き始めると人だかりが自然と道を開き、矢吹達を軽蔑の眼差しで向かい入れた。

「なんだよ・・・俺達はお前等を守ろうっていうんだぜ・・・そんなあからさまな態度取りやがって・・・」

「おぃ、山城・・・俺達はこの国で見かけない物を持ってるんだ。誰だって避けるさ」

銃に手を伸ばそうとする山城に気付き、矢吹は山城の手を抑えた。

抑えられた山城は矢吹の手を振り払い、勝手に歩き出した。

「・・・翔。お前は山城と共に行動し、上の階から下を警戒しろ」

「・・わかった」

「それと山城の動きに警戒しろ。・・・今のあいつは何をやるか見当もつかない」

「そん時は・・・またぶん殴ってやるさ」

「あぁ・・・そうしてくれ」

翔は山城の方へと歩き出しながら、矢吹に無線を飛ばしてきた。

『あとで聞きたい事がある』

『?・・・わかった』





駅の改札口に立つ矢吹。

辺りを見れば、普段通りに生活を送り、会社に出勤する人、誰かと待ち合わせをしているのか時計に目をやる人、学校をさぼっているのか椅子にだらしなく座り、面倒くさそうに携帯を開く人

あらゆる人間がこの駅でそれぞれの時間を送っている。

そんな中、俺は一人、肩から銃を下げ辺りを警戒している。

警戒する俺を見て、辺りの人達は俺を避け、足早に普段の生活を送るために目の前から過ぎ去っていく。

銃をぶら下げて行動する時は辺りは森や市街地、そんな物しかなく一市民、銃を持っていない人なんていなかった。

見る物すべてが敵だった。

だが、この光景はどうだろう。日常を過ごす人間が目の前に当たり前にいて、俺、いや俺達はその場を戦場にしようとしている。

これから始まるかもしれない俺達の当たり前を見て、彼等はどうなるのだろう。

今まで想像もできなかった非現実を目の当たりにして彼等はどうするのだろう。

逃げまどう人間、現実が受け止められなくその場で固まる人間も出るかもしれない。

そんな中で俺達は銃を使い、銃を乱射する。

・・・危険過ぎる。間違いなく犠牲者が出る。守り切るなんて無理だ。

だったらいっそのこと、この場で銃を乱射し、彼等をこの場から・・・

『矢吹』

翔の無線に気付き、矢吹は無意識のうちに手に握っていた銃を慌てて放した。

『持ち場についたか?』

『あぁ・・・管理人に許可貰ってホーム全体を見渡せる場所にポイントを置いた。お前も確認できた』

『そっか・・・で?聞きたい事ってなんだ』

『あぁ・・・ちょっと疑問に思ったんだ』

『・・・?』

『同志の事だよ・・・』

『あぁ・・・』

『用意周到だと思わないか?』

『今回の俺達の事か?』

『あぁ・・・実際この街でも銃の乱射事件はあったが、俺達に同志の討伐を命ずるまで一週間も経ってない』

翔の言葉に矢吹は小さく笑ってしまった。

『フッ・・・お前、カウンセリング受けてから頭の回転早くなったんじゃないか?』

『・・・褒めてるのか、それは』

『冗談だ・・・つまり、お前の言いたい事ってのはあれだろ?・・・同志が彼等の自作自演だって言いたいんだろ?』

『・・・そうだ』

『おそらく・・・いや、十中八九そうだろうよ。・・・先日の銃乱射事件もプレイヤー同志の奴だと俺は考えてる』

『それはつまり』

『あぁ、俺達にこの場を使ってリアルウォーをさせようとしてんだよ』

『同志は存在しないのか』

翔の言葉に、矢吹はこの前の井上康太とある男の会話を盗み聞きした時の事を思い出すが、言う必要がないと思い、忘れようと思い頭を横に振った。

『恐らくな・・・何の経緯いきさつで同志になったかは知らんが、俺達と同様にプレイヤーだろうよ』

『そうか・・・』

『だが、あくまでも推測の域だ。それに何十年も前の同志だって、全員がプレイヤーだ。それは今も昔も変わらない。

唯一違うと言ったら、同志も俺達も全員が国に飼われてる・・・なんて憶測を考える奴が少なからずいるってくらいだ』

『・・・同志は正義か?』

『関係無い。生き残り、未来を作った人間が正義だ』

『でもよ・・・』

『何を考えてる?・・・同志にでもなり下がるつもりか』

『違う。彼等も人間だ・・・そして俺達も、この場を日常に使う人達も』

『・・・お前は人を殺そうと思うな。俺と山城だけで十分なんだよ・・』

『・・・・』

『やっぱり、お前は馬鹿だ・・・下手に事を考えるな。本来物事は全て単純なんだよ・・それを無駄に複雑にしたのは馬鹿な人間だ』

その時、人ごみの中、季節外れの体を覆い隠すようなコートを羽織った人間を目にし、矢吹は一方的に無線を切り、全体の無線に繋げた。

「各班に通達。怪しい人物を駅構内にて発見。小柄な男性、ネズミ色の野球帽と茶色のコートを羽織っている」

その男は懐に何かを抱えているのか大事そうに体全部を使って前かがみになるくらい大事に抱え込んでいた。

無線を確認した浅野が矢吹に無線を飛ばしてきた。

『そいつを確保できるか?』

「無理だ。人ごみが多い、やつは反対側の改札口に向かった」

『わかった反対側の仲間に連絡を入れてみる』




「俺は悪くない・・・俺は悪くない・・・」

腹に抱え込んだ物を大事そうに抱え込んだ男はそうぶつくさと呟き、人ごみの中をよろよろと歩き人の波に押され体がふらつきながらも、真っ直ぐと歩いていた。

「俺は悪くない、俺は悪くない、俺は」

「おい、そこの!」

命令口調で呼び止められた男は下をずっと見ていたが頭を上げ目の前に立つ二人の武装兵に体を強張らせた。

その男の反応に武装兵の二人は鼻で笑って見せ、どんどんと近づいていった。

「そこで何をしている」

「俺は悪くない、俺は悪くない」

「何をぶつくさ言ってんだ?おぃ」

武装兵は銃をちらつかせ、男は相変わらず体を強張らせながらも体に抱え込んだ物を必死に守り、俺は悪くないとずっと呟いていた。

「壁に手を置き背中を向けろ」

「・・・い、いやだ」

「あぁ?何言ってんだ?こっちは市民を守るって言う大事な任務があるんだよ」

「手は・・・放したくない」

「いいからさっさと向こうを向けって言ってんだよ」

「嫌だ・・・俺は悪くない、俺は悪くない」

痺れを切らせた一人の武装兵が男に近づき、体を手で押し、壁に追いやって背を向けさせようとするが頑なにそれを拒んだ。

「おぃてめぇいい加減に」

「お前等馬鹿か!」

二人の武装兵は声のする方を向き、遠くにいる仲間に気がついた。

「そいつにむやみに近づくな!」

向こうから言われることに「ぁあ?」と悪態付く二人だが、向こうにいる仲間は二人に離れるように話を続け、男はずっと同じ言葉を呟いていた。

「そんなオモチャぶら下げて市民を怯えさせてるつもりだろうがな!」

「俺は悪くない、俺は悪くない」

「そんな無駄な考え捨てちまえ!いいか、銃を持って勝ったつもりでいるんじゃねぇぞ!」

「悪いのはそう・・・」

「奴等だって銃を持ってんだ!」

「全部、こいつ等だ」

男は両手で抱え込んでいた物をバッと広げ、その瞬間、懐に隠れていた二丁のショットガンが目の前にいる武装兵を吹き飛ばした。

銃声が駅構内に響き渡り、ガヤガヤとしていた音が一瞬にして静まり返った。

だが、目の前にいた武装兵は即死だったが、手をえぐり取られただけの武装兵は無くなった腕を抑え悲鳴を上げた。

「全員、そいつから離れろおーーー!」

動きを止めていた市民に向け武装兵の一人が声を張り上げ、その瞬間、静まり返っていた駅構内は悲鳴と叫び声で埋め尽くされた。

腕を抑えその場で悶え苦しむ武装兵に男はハンドガンを取り出し、頭に向けて銃弾を放ち、武装兵は動くのを止めた。

そして、男は辺りを見渡し人が去っていくのを確認するとある言葉を呟いた。



「同志の名のもとに!」



男はそう言うとコートの中から一本の糸を手に取り、勢いよくその糸を引いた。

糸を引いた瞬間、男の体は爆発し、近くにいた武装兵を爆風で吹き飛ばした。






『『同志の名のもとに』』


共通の回線でその単語が次々と飛び交い、辺りからは銃声が鳴り始めた。

そんな中、爆風で飛ばされた矢吹は頭を強く打ったのか、視界が揺れ、爆風と爆音で耳なりが酷く周囲の状況がうまくつかめなかった。

「くそっ」

酷い耳鳴りのお陰で平衡感覚が失われ、真っ直ぐ立つ事すらままならない。

揺れる視界の中、駅の入り口に立つ男がこっちに向けて銃を構えているのが見えた。

矢吹は、急ぎ遮蔽物に向かって走り出した。

足元で弾ける銃弾と流れ弾に当たり倒れる人を体全ての感覚で捉えながら、遮蔽物へと飛び込んだ。

「くそっ、しっかりしろ!俺」

揺れる頭を何回も殴り、なんとか意識を取り戻した。

駅構内に設置された花壇の脇に逃げ込んだ矢吹は、無線を取った。

「こちら駅構内。隊員の二人が死亡!駅構内にて発砲あり、敵の数は今見る限り、六人!至急増援を求む!・・・ったく、外を警戒する奴等は何やってんだ!そこらじゅうに同志が混ざり込んでんぞ!」

『了解、至急増援を送る。しかし、駅の外でも発砲が確認された。しばらくは持ちこたえてくれ』

「・・・あぁ了解!」

矢吹は飛び交う弾幕が弱まった瞬間を見計らい遮蔽物から腕を顔を出し、目の前に立つ黒いコートを着た男に銃弾を放った。

銃弾を食らった男は銃を空に向けて乱射しながら力なく膝から崩れ落ちた。

「翔!・・状況を教えろ」

『駅の入り口にいた二人を山城が排除。お前の周りにはあと三人の同志が確認できる・・・くそっ、何人いるんだ!湧いて出てきやがる

矢吹!お前のすぐ横だ!』

矢吹は銃を横に向け、飛び出してきた同志に向けて銃弾を放った。

同志はのけ反り、その場に倒れた。

「こいつ等・・・単独行動だ。ゲリラ戦になるぞ!」

矢吹は全無線に繋ぎながら、状況説明をしたが、無線ではパニックになる武装兵たちの声が飛び交っていた。

『くそっ!どれが同志だ!訳わかんねぇよ!』

『奴等、まだどこかに潜んでるぞ!どれだ!』

『止めろ!そいつは一般人だ!』

『あいつ等、一般人とか関係無く銃を乱射してやがる!』

『くそっこちら駅前ビルの屋上!奴等が出やがった。狙撃兵死亡、誰か助けてくれ!』

『あちらこちらでどんちゃん騒ぎだ!どこに向かえばいい!』

「お前等・・・馬鹿か!」

無線で飛び交う弱音に矢吹はキレた。

そして、矢吹の無線に全員が一度、静まり返った。

「今までお前等はどうやって生き残って来たんだ!あぁ?ボケ!・・・パニックになって生き残ってたのか?随分、運が良かったんだな、お前等は!

大の根より、まずは小の根だ!目の前で銃を持ってる奴等を殺せっ!奴等は俺達の家族を!一市民を!殺そうとしてんだぞ!

今の俺達はプレイヤーじゃない!・・・・特殊部隊だ!正義を貫き通せ!」

『『了解』』






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