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第十話 わかんねぇよ・・・

「今日、大学で何かあったの?」

タクシーの中で呆けていると心配そうにこちらを窺ってくる永がそんな事を言ってきた。

「ん?・・・なんでそう思うんだ?」

永に心配は掛けまいと元気に振舞うが、どうもうまくいっていないらしい、心配そうな永の顔がそれを示していた。

「ちょっとな・・・友達と喧嘩しちまったんだよ」

「喧嘩?」

「うん・・・まっ大丈夫だ。明日になったらケロッと忘れてるさ」

「うん、そうだね」

「今日は何の映画見る?俺達の戦争か?」

「うん!」

映画の彼等は、友情にとても熱かった。

他の友のために身を呈して庇う奴なんかもいた。

けど、今の俺達にそんな事は出来るのだろうか?・・・友情なんてものは、山城の言う通り利益のためなのだろうか?

「なぁ・・・永?」

「なぁに?」

「俺達の戦争の最後ってさ、浅野と五十嵐が、みんなを助けるために死んじまうじゃんか」

「うん」

「あれって本当に実話なのかな?・・・それとも映画の演出なのかな?」

「う~ん・・・どうだろうね」

「人ってさ、物事を自分がうまく転がるようにって常に考える生物なんだよ。まぁそれは他の動植物でも言える事なんだけどさ。

だから、普通じゃ考えられない行動なんだよな」

「ん~・・・でも」

「でも?」

「・・・地球って丸いでしょ?」

「はい?」

へんちくりんな答えに思わずタクシーの運転手も肩をずらすリアクションを取っていた。

「今はそれが常識でしょ?」

「うん」

「でも、昔はどこかに切れ目があるって・・・それが常識だった。でも、宇宙にも行けてない人間が、丸いって事を言って、その常識を覆した。

常識じゃ考えられない事をするのが人間なんじゃないかな?」

「フフッ・・・面白い事を言うな」

「ホント?面白かった?・・元気でた?」

「あぁ、出た出た。ありがとうな」

「それにね、永はお兄ちゃんのためだったら、何でもするよ」

にこやかな笑顔を向けながら永はそんな事を言ってくる。

それは俺だってそうだ。

この笑顔を守るためだったら、なんでもやってやる。

「あぁ、兄ちゃんも永のためだったら何でもやってやる」

「ホント?」

「本当だ。何でもやってやる」

「じゃぁさ、じゃぁさ」

「おぅ、なんだ?」

微笑ましい笑顔を見せていた永の顔は急変し、腹の底から黒々としたオーラを滲みだしながら永はこう言ってきた。

「人を殺して」



目を開くとそこは住み慣れた我が家の天井だった。

どうやら、また映画を見ながら寝入ってしまったらしい。

しかもソファーではなく、居間に布団を敷き、横にはスヤスヤと眠る永の姿があった。

「何で、こんな夢を見ちまったんだ?」

・・・俺は再び、人を信じっれなくなっちまったとでも言うのか?






俺の親父は本当に最低の野郎だった。

金に物を言わせて、何でも好きなようにするような奴で、会社を買い取って好き勝手やって、潰した数は数えるのが面倒なくらいあった。

子供が欲しいと、どこぞの女性に俺を身籠らせて、十分な金と引き替えに俺を引き取った。

そして、育児が面倒だとベビーシッターを雇い、俺に一通りの教養が付くと、金はやるから好きにしろの一言で、俺を勝手に一人立ちさせた。

一肌恋しい少年に、父親は父親らしい事を一つもしてくれないような最低の野郎だ。

でも、親父がそうなるのもわかる気もする。

親父の周りにはいつも人がいた。だが、周りにいる人間と親父を結んでいるのは『金』だった。

金目的に俺を産んだ母親。金欲しさに俺を育てたオバサン。

親父が『一』と言えば、例え『十』だったとしても答えは『一』になる。そんな世界に親父はいた。

だから、俺に育んでくれたオバサンの愛情も、全ては金だった。

どんなに親父が暴力を振るおうと、誰も止めようとはしない。

もしかしたら、親父は自分暴走を止めて欲しかったのかもしれない。

実際、そんな奴は現れなかったし、そう思っていたのかも死んでしまった親父から聞く事も出来ない。


俺の周りもそんな奴ばかりだ。

三好だってそうだ。両親の勝手な都合で、俺に付きまとっていた。

翔だってそうだ。始めの繋がりは俺も親父と同様、金だった。

でも、そうじゃない。そう教えてくれたのは永だ。


中学の時、人に心を開けなくなった少年の前に、親父が新しい家族だと言って母と子を紹介してきた。

親父はこの子の面倒を見ろ。と言い残し、新たな母と共にどこかへ出かける毎日。

幼い娘は、不治の病との戦いにつかれ、人に心を開かず、ベットから動こうともしなかった。

一方、少年はと言うと、ベットの横で椅子に座り、ボーっとする娘を親父の言う通り『面倒を見ろ』と言う訳で、ずっと見ていた。

何か要望があれば、向こうから言いだすだろう。そう思っていた。

だが、少女から要望は全くなく、数日が経過した。

何も食べずボーっとする少女の頬は次第にコケ始め、さすがにこのままだと死ぬだろうなと、適当に作ったおかゆを持って行くようになった。

ただ無言のまま、スプーンを口元に持って行くと、少女はそれを咥え、無言のまま噛んでは飲む、噛んでは飲むを繰り返していた。

特に理由は無いが、それ段々と面白くなっていた。

口からこぼれた喰い物を包み紙で取ったり、スプーンを口元に持って行くだけだが、それが日課になっていた。

「・・・・ありがと」

空になった食器を下げようと部屋から出て行く少年に、少女が初めて喋った言葉だった。

ありがとうなんて言葉、誰からもよく言われていた。

親父が死んだ後、借金を帳消しにした両親からもそんな事を言われた。そんな時は何とも思わなかった。

でも、少女の言った感謝の気持ちは、何やら歯がゆくなる気持ちに襲われた。

そんな気持ちに慣れていなかった少年は、思考回路が停止し持っていた食器を落としてしまった。


人は金以外にも繋がりが持てるのではないかと、思い始めた。

そんな中、金目的で翔が変な集団を引きつれて少年の元にやってきた。

なんとなく使用目的を聞き、ゲーム機を買うだの言ってたから、ついでにソフトを渡した。

これで、付きまとわれなくて済むと思っていたが、その後、翔は少年に『正しい』金の使い方を教えてきた。

何かと付きまとわれて面倒ではあったが、嫌な気分には決してならなかった。

その次の年、借金娘が同じ高校にやって来て、教室に殴りこんできた。

金の繋がりが切れたと言うのに、三好はやけに付きまとってくる。

まったく持って訳がわからなかった。


だからこそ、少年は人の心を学ぶために大学へ入った。

でも、大学の講義で聞かされる内容は、少年の考えた通りの物だった。

人は全て利己主義者だ。

ならばボランティアの場合はどうか?人に感謝されるのが目的で、それも利己主義者だ。

なんか見苦しい言い訳にも聞こえるが、確かにそうなのかもしれない。

ならば、恋愛は?自殺は?そいつ等も全員、利己主義なのか?・・・答え(言い訳)は想像に任せる。

昔の偉大な人達の哲学では、そう言う事になっている。

でも、哲学や心理学で説明できない物が、人間にはある。少年はそう思っている。




そう思いたかった。

少女からそう教わった気がしていたからだ。

俺が、永を介護していたのは感謝されるためではない。結果として感謝される事になったかもしれないが、そうじゃない。

言葉では言い表せない物が、そこにはあるはずだ。


『友人なんて所詮は道具にすぎない』

そう思いたかった矢吹に、山城は非情な言葉を放った。

『楽しいと思うこと自体が、己の利益だ』

お偉いさんの言い訳だと思っていた言葉を、まさか友人から言われるとは思いもしなかった。

「だから、こんな夢を見ちまったのか・・・」

部屋に入ってくる日差しと、矢吹の独り言に永は眠たい目を擦りながら起きた。

「う~ん・・・どうしたの?」

「ん~?何でもねぇよ。・・・なぁ?永」

「ん~?何?」

「もし、お前を介護する人を雇ったら・・・兄ちゃんって必要無いか?」

「えっ・・・」

「いや、もしもの話だよ・・・。兄ちゃん死んじまった時は、結局、そうなる訳でさ」

「いや」

「そうか・・・」

「イヤ!!」

「んあ?どうした?」

「お兄ちゃん、どこか行くの?永を置いて、どこか行っちゃうの?いや!行かないで!」

永は離さないようにと、矢吹にしがみ付いてきた。

「はぁ!?・・行かねぇって!行かないから」

「永を一人にしないで!・・・一人は嫌!」

「わかった、わかったから」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだもん!他に変わりなんていないもん!」

「・・・・」

「・・・お兄ちゃん?」

「そうだよな」

「何が?」

「俺は俺だもんな。・・・変わりなんている訳が無いか」

そうしてそんな簡単な事に気付かなかったのだろうか、それは矢吹だけでなく、永も同じ事だ。

変わりなんていない。

守るべき物があるからこそ、戦える。

リアルウォーには俺の変わりはたくさんいるかもしれない。でも、永を守れるのは俺だけだ。

訳がわからんと首を傾げる永の頭を撫でながら、矢吹は立ち上がった。

「ちょっと、出かけてくる」

「どこ行くの?」

「ん~、まずは病院かな?・・・ちょっと会わないといけない人がいるんだ」

「知り合い?」

「あぁ、永も知ってる人だ」








夜遅くの病院の廊下に置かれた椅子に矢吹は座り、ある人が出て来るのを待っていた。

廊下に並ぶ大量の扉の一つが開き、探していた人が現れた。

「・・・ん?また、会ったな」

「ども」

いつもならなるべく興味を示さず立ち去る矢吹が、椅子に座ったまま動かない所に違和感を覚えた男は矢吹の前にやってきた。

「・・・もしかして、俺に何か用か?」

「えぇ・・・ちょっと聞きたい事があって」

手首に付けたリストバンドを手で隠す矢吹の姿に井上康太は、顔をしかめた。

「井上さん・・・俺、今ウォーゲームやってるんです」

「そうか・・・」

「ただ、今ちょっと・・・チームがバラバラになってるんです。井上さんの時もそんな時期がありましたか?」

「・・・そんな事を聞いてどうする」

「興味本位です。・・・・一番聞きたかったのは、井上さんは・・・今でも、五十嵐のような死に方は出来ますか?」

「・・・・・」

「しかも、チームがバラバラの時にです。チームを少し疑っている時にです」

「・・・俺がそんな不躾ぶしつけな質問に答えると思うか?」

「そうですよね・・・」

「あぁ、普通ならぶん殴ってやりたい気分だ。・・・・だが、相当思い詰めてるみたいだからな。答えてやるよ」

「・・・ありがとうございます」

「あの頃の俺は、何も考えちゃいなかった。死を恐れてなかったと言ったら嘘になるが、おそらく死に対する抵抗が無かった。・・・・まだ、餓鬼だったからな。

今となっちゃ、なんであんな無茶をしたのか、わからないくらいだ。でも、理由ならしっかりと持っていた。

それは、誰も死なせたくなかったからだ。もし、俺が死ぬ事でみんなが助かると言うのなら、俺は喜んで命を差し出す。それは今も昔も変わらない」

「それって逃げてるんじゃないですか?」

「何っ?」

「不躾な質問に無礼を重ねて本当に申し訳ないと思いますけど、死ぬ事で責任から逃れようとしてませんか?」

「・・・・確かにな。逃げてるように聞こえるかもしれない。

昔、砂漠での戦いで、銃弾を体中に浴びて俺を庇ってくれた人がいた。そいつにもお前は、逃げてると言えるのか?」

「それは・・・」

「理屈じゃないんだよ。そういうのは・・・お前もいつかわかるさ」

井上康太は、腕時計に目を向けると「悪いな、用事がある」そう言って、矢吹の前から立ち去って行った。

「・・・・わかんねぇよ」

考えて見たはいい物の、やはり理解できなかった矢吹は、椅子から立ち上がり、病院から去った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

なんだかんだでなんとか第十話目まで来ることが出来ました。

いや~大体の話は出来上がってるんですけどねー

彼等が想いもよらぬ行動を取るものでストーリーが大幅変更されてる真っ最中でございます。

やばいよ、このままだとバットエンド確実だよ・・・

とまぁそんな感じなんであまり期待もせずテキトーに呼んでいただければ幸いです。


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