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第三話 不条理な世界と社会

「とっさに取る動作を反射と言う。それは生存本能を司り、体が勝手に取る事だ。だが、例えばボクシングや柔道といった格闘術を身に付けた人がとっさに人を殴ると言った行為。それは、反射とは少し違う。

己の危機を悟り、学んだ事のある格闘術を使うと言った行為は、生存本能ではあるが、主に爬虫類脳と言う部分で指示が出される」

大きな部屋の中心で黒板を背に向けながら大学の教授が、講義を続ける中、居眠りをする三島を横目に、矢吹は昨日の出来事を思い出していた。

『少し、話をしませんか?』

二人は、老人に言われるがまま連れてこられたのは、会場の屋上だった。

「私が何故、こんなストリートの会場を作ったのか、わかりますか?」

老人は屋上に着くと、二人の方へ振り返りながら尋ね、それに対し二人は首をかしげるだけだった。

「彼等は皆、社会に適応できない者。・・・一般的にいえば社会のクズだ」

そこまで言わなくても・・・なんて思う二人を差し置いて老人は、話を続けた。

「でも、彼等は決して対応できなくてこちら側に落ちたのではない。今の社会に対抗しようとして、ここまで落ちてきた。

こちらの社会では力こそが正義。だから、私は力を付けるためにこの会場を作り、そこに一つの社会を作りあげた」

「人が集まれば、そこには必ず社会が生まれる。それは表だろうが裏だろうが変わらない。でも、彼等は対抗するためにこの道に落ちたはずだ。

・・・なのにここで妥協する意味がどこにある?」

矢吹の言葉に老人は「確かに」と笑いながら言ってきた。

「でも、秩序のためだ。社会には必ず上下関係と言うのが生まれる。上の命令は絶対・・・それを今さっき、あなた達が崩してしまった」

ナンバー4の敗北。それはつまりトップの崩壊を意味する。

頭の無くなった社会は新たな混乱を招くのだ。

「下剋上が成功しても、その後世界が安泰になるとは限らない」

「その通り、いつ死ぬかわからない状況を打破してくれた高校生達がいたが、それでこの国で、大きな混乱が生まれた。

その小規模な混乱が、ここで今起きようとしている。だから、あなた達に抑止力になっていただきたい」

「ボスザルは猿山にいてこそ相応しいってか」

「その通りです」

「断る。ボスザルなんて興味ないし、ボスザルがいなければ新たなボスザルが生まれるだけの事だ。そいつ等に任せればいい」

『はたしてそううまくいくでしょうか・・・』

老人の最後の言葉が引っ掛かりもするが、バイト感覚でやっていただけだ。

いきなり正社員になれと言われても、興味が無いものだったらやる気が起きない物だ。

「社会と言うのは、公共の場であったら必ず出来る。例えば、汽車の中で携帯を開く人とか良く見かけるだろ?何故携帯を開くと思う?

それは、向かいにいる人ともし、目が合ってしまったら気まずいだろ?だから、携帯と言う画面に視線を集中させる。

汽車やバスなどに広告などが張られているのは、その現象を利用した物でもある」

具体例を混ぜて説明する教授に感心しながらも、睡魔に勝てず三好と同様、矢吹も次第に頭が落ち始めて行った。




気が付けば、講義終了のチャイムが鳴り響き、頭を持ち上げると、学生達はぞろぞろと教室から去っていく場面だった。

横では相変わらず気持ち良さそうに眠る三好の姿があった。

「おぃ、三好・・・起きろ」

「いやぁん・・・後五分」

「わかった。俺は先に昼飯食いに食堂に行くわ」

「起きます!」

食い意地の張った妹だ・・・


「お~ぃ、こっちだ」

大きな食堂には、大量の学生達が押し込まれ、席を取っておいてくれた翔と山城がこっちに気付き、手を振っていた。

「おぅ、いつも悪いな」

「いつも真面目に講義にでるお前達と違って、俺達は暇なんだ」

翔の言葉に珍しく山城も頷いて見せていた。

「サボり癖ついても知らないぞ」

「大丈夫、もうなってるから」

それって大丈夫なのか?

「先輩、今日もガンズショップ行くんですか?」

「あぁ~悪い。今日は俺、永を迎えに行くから無理」

「えぇ~」

「でも、翔達は行くんだろ?」

「まぁな。今日は、プレイヤー達に話を聞く予定だしな」

「三好、お前もちゃんと行けよ」

「えぇ~」

「おぃおぃ、三好。俺達とじゃ嫌だってか?」

「別にそう言う訳じゃないですけど・・・」

口を尖らせる三好はあからさまに嫌々オーラを出していた。

「・・・と、言う訳で俺はこれから妹を迎えに行ってきますんで次の講義はサボります!・・・じゃ!」

そう言うと矢吹は食堂から、立ち去った。

「む、無理して・・ついて来なくてもいいんだぞ」

山城は、珍しく先輩面をして、気まずい空気をさらに気まずくさせた。

「行きますよ。私も練習したいし」

「そ、そうか?・・・それならいいけど」

口を尖らせる三好の姿を見て、テーブルに肘を置き手に顎を乗せながら翔が「フフフ」と鼻で笑い始めた。

「なぁ、三好・・・お前、まだ諦めてないのか?」

「なにがですか?」

わかっている事だが、一応聞き返してみた。

「あいつは決して鈍感って訳じゃないけど、お前の気持ちに全く気付いてないと言うか、そういう風に見てないと思うぞ」

話について行けない山城が首を傾げる中、三好は「いいんです」と強い口調で言い返した。

「そんなのわかってますよ、そんな事。・・・でも、いつかは気付かせて、こっちを振り向かせるんです」

「強いな、お前は」

「そうです。強いんです・・・ちょっとやそっとじゃ、くじけないのが私の取り柄ですから」

三好はそう言うと「カレー買ってきます」と言い残し、席を立った。

「俺、あいつのハイテンション振りはちょっと苦手だな」

山城は三好が立ち去ったのを良い事に翔にそう言ってきた。

「確かにな・・・でも、あぁ言うまっすぐな奴、俺は嫌いじゃないぜ。

無理だとわかっていても、必死に手を伸ばす。兎が月を捕まえようと必死に手を伸ばすみたいにな」

「しょ、翔って意外とサディストなんだな」

「はぁ?まぁそうかもしれないけど・・・人間は無理だと思われた月の大地に足跡を残した事もあるんだぞ。

・・・いいじゃねぇか、夢があって」

そんな事を言いながら、翔は三好の粘り強さに「フフフ」とまた笑い始めた。







「やべっ・・もぅ検査終わってるかな」

腕時計を見ながら、少し遅れた事を気にしながら病室に入ると、顔のやつれた妹がベットの上に腰掛け待っていた。

検査が相当辛かったのだろう。

「悪い、遅くなった」

永は病室に入ってきた矢吹に駆け寄ると、無言で矢吹の腰付近にしがみ付いてきた。

「ん?どうした?」

「昨夜、夢でお兄ちゃんが遠くに行っちゃう夢を見たそうですよ」

病室にいた看護師がそんな事を言い「そうなのか?」と尋ねると、永は小さく頷いて見せた。

「馬鹿だな~。俺がどこに行くって言うんだよ・・・現に今もこうしてお前の所にいる」

「どこにも行かない?」

「あぁ、今日はお前の行きたい所に行こう。・・・どこに行きたい?」

「お家に帰りたい」

「・・・よし、じゃぁそうしよう。急いで帰ろうな」

「うん・・・」

明るい性格だが、病弱な所もあってか、引っ込み思案なのが悩みの種だった。

いつかは、俺の元から離れる時期が来る。だけど、どうも心配だ。

これだから、シスコンだとか言われるんだろうな・・・



「お兄ちゃん、昨日寝てないの?・・目に熊が出来てるよ」

やつれた顔のお前が言うか?

「まぁな、夜間の仕事が長引いてな・・・ちょっと疲れたぐらいだけど、大丈夫だ」

家に帰って来て、ソファーに腰を下ろす永が、矢吹の言葉を真に受け心配そうにこっちを見てくる。

「だから、大丈夫だって」

飲み物を手渡し、矢吹も永の横に腰を下ろした。

テーブルにあるテレビのリモコンを手に取り、いつものように永に映画のリクエストをする。

「何の映画観たい?」

「俺達の戦争っ!」

検査が終わった日は必ず、その映画をリクエストしてくる。

「お前、好きだな~」

「うん、大好き」

リメイクの何作目かは、忘れたが、いつもなら「戦争はいけません」なんて強いメッセージ性を込めた映画が作られるのだが、この映画では、不条理な世界に立ち向かう高校生が最後の最後に自由を勝ち取る。

そう言った映画が妹の好きな映画だった。

おそらく、自分の不条理な病と重ねている面もあるのだろう。

だが、こちらとしては何回も同じ映画を見るとさすがに飽きてくる。

お陰様で、この映画のセリフなどは全て一言一句間違えないで言える自信がある。

矢吹が何故、あんな謎のサークルを作ったのかは、もしかしたら、少しは影響してるのかもしれない。


再生ボタンを押すと、大きなテレビ画面に、有名な俳優陣が数年前に実際にあった出来事を再現し、見ている人達の涙を誘う。

だが、何十回も見た二人にとっては・・いや、疲れが重なったからかもしれないが、二人にとっては子守唄のように聞こえてくる。

『俺達は一心同体だ。必ず生きて帰ろう』

テレビからは彼等の決まり文句が流れ、ちょうどそのタイミングで、眠りに入った永は矢吹の肩に寄りかかってきた。

どうやら、相当疲れていたのだろう。

しかも、俺が遠くへ行く夢を見てから、一睡もしいないなんて看護師から聞かされていたのだから、仕方がないよな、なんて思っていた。

ソファーに掛っている毛布を取ると、妹の上にそれを敷き、矢吹も目を閉じた。





夢を見た。

今にも崩れそうな建物の廊下を男に背負われ歩く光景だ。

その男は全ての悲しみを絶望を背負ったような男で、その男に俺は憧れを抱き惹かれていた。

この廊下を抜け、建物の外に出れば待っているのは絶望だけだというのにその男は進み続けた。

この男とならどこへでもいける。例え待っているのが死だったとしても後悔はしないだろう。

そう思っていた。

だが、男は突然、俺を突き放すのだ。

「ここでお別れだ」

男はそういうと俺を逃げ道へと無理やり乗せた。

待ってくれ、俺を一人にしないでくれ・・・一人は嫌だ。

絶望という希望から俺を突き放さないでくれ!

明かりも無い狭い通路に投げ込まれみるみる男の姿は遠くなっていく。

嫌だ。一人は嫌だ!

夢の中の俺は酷い光景が記憶の中から蘇ってくる。そして、その中には、集中治療室へ運び込まれる永の姿がった。

不平等な世界に俺は、叫び続けた。声が枯れるまで叫び続けた。



「・・・・んあ?」

目を覚ますとテレビからはエンドロールとテーマソングが流れていた。

横を見ると未だに眠り続ける永。

そして、永に掛けていたはずの毛布は矢吹の肩にまで掛けられていた。

面倒見のいい妹だ。

目のあたりを拭うと、手に水が着いた。どうやら泣いていたらしい。

・・・不条理な世界に巻き込まれる夢を見るなんて映画の見過ぎか、影響してしまってるじゃねぇか

軽く舌打ちしながら、テレビの電源を切り、リモコンを置いた。

テーブルに置いてあった携帯が光っている事に気がついたが、明日でいいやと思い、矢吹は再び目を閉じた。






次の日、やけにご機嫌な永に見送られ、家を飛び出し、大学へと急いだ。

携帯を開くとそこには翔や三好、山城からの大量の着信があったのだ。

何かあったのだろうか、そう思い、大学へ到着した訳だが、彼等に連絡を取ると、今、ガンズショップに来ているらしい。

おぃおい、二度手間じゃねぇか・・・

もぅ急ぐ程の気力も無く、ゆっくりと行きつけのガンズショップへと向かった。

「いらっしゃいませ~」

愛想を振舞う浅野を無視しながら、いつも使っているミーティングルームへ向かうと、テーブルを挟んで深刻そうな顔をする三人がいた。

「おぅ、悪いな。昨日電話に出れなくて・・」

そう言いながら、彼等に近づいて行くと、テーブルの上に置かれた一枚の紙に気がついた。

「あ?何これ」

矢吹はそう言いながら、誰も口を開かない事になにも不安にならぬまま、紙を取った。

「・・・・・」

紙に書かれている文字に矢吹は思わず絶句した。

日本風のホラー映画のパンフレットのように薄気味悪く、ゴシック文字かと思っていたがそれはレンガが積まれたようになっていた。

その重っ苦しい鎖で巻かれたレンガには、大量の銃痕のような跡と、赤い血が飛び散っていた。

そして、文字はこう書かれていた。



『リアルウォー再開』




最後まで読んでいただきありがとうございます。

書き上げることに必死で更新するのすっかり忘れてました。

さてさてようやく本題の手前まで来たような気がします。

まぁ楽な気持ちでボーっとしながら読んでいただけるとうれしいです。


ではまた

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