最終話 温かい手の感触
目を覚ますとそこは昔来た事のある病院の天井だった。
「な・・なんだ?」
声がやけにこもっている。何故かは口に酸素マスクが付けられていたからだ。
上体を起こしながら酸素マスクを外すと横には康太の脈拍数を血圧を測る機械がリズムよく刻んでいる。
そしてその奥には、勉と裕大が康太と同じように酸素マスクやら管のような物をつけベットに横たわっている。
周りを見渡すとガラス張りの部屋で見渡しているとガラスの向こうに親父が立っていた。
康太は驚き目をカッと開く。親父は自分の左腕の手首を指さした。康太は何かと思い自分の左腕を見ると発信器がなくなっていた。
「なっ・・・」
もう一度、親父を見ると今度はガラスの部屋の中にある受話器を指さし親父は向こうの部屋の受話器を取り耳につけた。
康太は受話器を取ると親父の声が聞こえてきた。
『おはよう、いや今は夜だからこんばんわかな?』
「俺達、一体どうなったんだ?」
『ヘリに乗り込んだ後、緊張の糸が解けて倒れたんだ』
「倒れた?」
『気付いてるか?あれから3週間経ってるんだぞ』
「3週間?俺達は3週間も寝てたのか?」
『いや、もっと目覚めるは先だと思っていた。正直半分諦めかけていた』
「どうして俺達を閉じ込めてる。ここはICUだろ?」
『そうだ。覚えていたか』
「俺は一度見たものは忘れれねぇんだ」
『一度だけお前を職場に連れて行った事があったからな』
「それで、どうしてICUに入れてるんだ」
『そこに入れられている意味、わかるだろ?』
「集中治療室に入れないといけないほど俺達は危険だって事か?」
『いや、正確には康太・・・お前以外の奴だ。お前以外、今のところ意識が戻らないんだ。もしかしたら一生、目覚めないかもしれない。もちろんお前もそうなる可能性があった』
「え・・・?なんで?」
『これは精神的な問題だ。どんなに医療が発展しようが、この謎は一生解明される事はないかもしれない』
「違う!!何でだって聞いてるんだ!!」
『いいか、お前達は極限の緊張状態でこれまで生きて来ていたんだ。助かった・・・そう思った瞬間が一番危険なんだ。だが、お前達は倒れた。意識がそのまま戻らないことだってあるんだ。お前の意識が戻った事だって奇跡に近い。勉君や裕大君はまだ戦場で戦っているのかもしれない』
「・・・何で俺だけ」
『さぁな・・・とにかくお前だけでも意識が戻って良かった。五十嵐君は・・・死んだのか?』
康太は、俺達が建物から出てきた時、渡り廊下が爆発する所を思い出した。
「・・・あぁ、俺達を庇って死んだ」
『そうか・・・五十嵐君は死んだのか・・・』
その時、親父の横の扉が閉まるのとバタンと閉まる音が受話器を通して聞こえた。
『ミスったな・・・・とにかく、別にそこのガラス張りの部屋から出るのは別にかまわん。だが、俺の横にある扉からは、しばらくの間絶対に出るな。悪いが外から鍵をかけさせてもらう。この部屋にトイレもあるし問題はないだろう』
そう言うと親父は急ぎ目で部屋から出て行った。
親父が扉の外に出ると、扉のすぐ横にしゃがみ込み泣きじゃくる洋子がいた。
「洋子君・・・」
「すぐに帰ってくるって約束したのに・・・死んだら奴隷も何もできないじゃない。。」
・・・戻ってきた。
地面に座り込み自分の左腕にはもぅ、俺達を苦しめてきた物は何もない。なのに何とも思わない。俺はここまで来るのに一体何人の人を殺して何人の仲間を失った?
『俺は人の屍の上を生きていい資格なんてない』
誰かが昔そう言っていた。誰だっけか?思いだせない。だが、その言葉が何回も繰り返される。
ここは、あの親父の病院だ。って事はこの近くに俺の暮らしていた街がある。だが、その街はなんだが遠くにあるように感じる。
部屋の中はとても静かだ・・・脈拍がリズムよく刻まれる音しか聞こえない。そんな状況なのに、この前まで銃声や爆音が鳴り響く場所にいた事を忘れさせてくれない。
目の前で人の頭が取れる所が突然映し出された。吹き出す血が康太に大量に降りかかる。
次に映し出されたのは住宅街の中、誰かと一緒に行動していた時、曲がり角を曲がった途端、
前に立っていた仲間の上半身が全て吹き飛んだ。
「うわあああぁぁああーーー!!」
どんなに目を固く閉じようと次々と映像が映し出される。
「止せ!!やめろ!!やめてくれ、誰か止めてくれ」
そう叫んでも映像は全然止まらない。今度は俺が今まで殺してきた人の映像が流れてきた。
「違う。俺はそんな殺し方はしていない!!そんな事はしていない」
どんなに否定しようが殺してきた事実は変わることはなかった。
気がつくと俺は心配して見にきた看護師の首を絞め、後にやってきた看護師に取り押さえられていた。
『またミスったな・・・お前は出なくても看護師が中に入ってしまったか・・・』
鎮静剤をうたれ、落ち着きを取り戻した康太
「・・・あの人は、大丈夫か?」
『あぁ、命に別条はない』
ガラスの壁をはさみ康太と親父が話す
「今のうちに俺を隔離でも監禁でもなんでもしてくれ。俺はもう駄目だ」
『残念だが、監禁はうちの病院でも出来ない。軟禁なら出来るがな』
「なら、軟禁でもいいからしろ」
『今、それを実行中だ。一応これが軟禁状態だ』
「勉達が危ないだろ!!」
『それは問題はない。お前に触れようとする奴だけが襲われそうになるだけだ。看護師も心配してお前の肩に触れたらしい』
「あんたはどうして俺と受話器越しにしか話そうとしない」
『・・・私は別にいいが、私がガラスの部屋の中に入ってきたらお前どうする?』
「・・・・あんたを殺すかもしれない」
『だろ?だからやめとく。こういう場合はすべてノリとタイミングだ。お前も疲れただろしばらく寝ろ』
「・・・寝たらまたあの夢を見ちまう」
『悪夢を見なくなる方法を教えてやるか?』
「どうすりゃいい?」
『慣れろ、過去は所詮過去だ。そう思え』
その言葉に康太は怒りを覚えた。
「じゃぁあんたは母親が死んだ事も慣れたって言うのかよ・・・」
『・・・違う、そう言う意味じゃ・・』
「どこが違うって言うんだ !!あんたはあんたのせいで母親が死んだってーのにそれも忘れたって言うのか!!・・・っざけんなよ!!死ね、くそ野郎」
そう言うと康太は受話器を強く元に戻した。
親父を思いっきり睨みつけるが親父はそれを気にもかけずに、もう一回受話器を取るようにと表現するが、康太はそれを無視してベットに戻った。
相変わらず悪夢が繰り返される中、変化は前触れもなく突然起きた。
「ん・・・・・?」
康太はガラス張りの部屋で幻覚と幻聴に悩まされる中、誰かの声が聞こえた。
「・・・誰だ?」
康太は立ち上がりあたりを見渡すと裕大が突然、動いた。
「裕大・・・・おぃ、裕大!!」
康太は裕大に急いで駆け寄りベットに取り付けてあるナースコールを押しまくった。
「わかるか、裕大?俺が見えるか?」
『どうしました?』ナースコールの向こう側から声が聞こえる
「裕大の意識が戻った。戻ったんだ!!」
向こうからは『今からそちらに向かいます』と入っただけで康太は裕大に話し続けた。
「裕大、お前左腕見てみろ。発信器がないんだ。俺達帰ってきたんだ。ほらっ見ろ、俺の左腕にも発信器はないんだ。俺達もぅあの戦いはしなくていいんだ。俺達の戦いは終わったんだ。俺達、生き残ったんだぞ」
康太は裕大の左腕の袖をまくり裕大に見せた。
裕大は、一瞬笑ったかのように見えた・・涙を一滴垂らし、また裕大はゆっくりと目を閉じた。
「・・・裕大?」
その時、裕大の脈拍数を測る機械が突然ドラマみたく鳴り出した。
「はっ?・・・え?裕大?嘘だろ・・・え?なんで裕大、裕大!!しっかりしろよ。裕大」
康太が裕大を必死に揺らすが、親父と看護師が何人か入ってきて康太を裕大から引き剥がした。
「ちょっと、離れててください」
看護師がそう言いながらガラス張りの部屋から康太を追い出そうとする。
「おぃ、裕大!!ふざけんなよ。てめぇも死ぬつもりなのか!ちょっ・・退けっ邪魔だ」
看護師5人相手に康太は負けた
すぐ向こうでは、親父が電気ショックでもやっているのか裕大の体が飛び跳ねる
「もぅ一回だ!!離れろ」
そう言う親父の声が何回も聞こえた。
親父は、裕大の上に跨り心臓マッサージを始めた。
「くそっ、戻って来い!!戻ってくるんだ」
親父のそんな声と裕大の様子を見て
「くそっ・・・くそがっ・・・」
力無くそう呟きながら、康太は頭を両手で抱えその場にしゃがみ込む事しかできなかった。
親父はあれから二時間も心臓マッサージを続け看護師にもぅやめましょうという声にも耳を傾けずしばらく続けた。そしてガラス張りの部屋の外で座り込みながら待つ康太の横にやってきた。
「すまん、助けれなかった・・・」
「・・・なんで。」
「すまん、私の力不足だ・・・」
「違う、そうじゃない。裕大は意識が戻ったんだ。俺と目があったんだ。なのになんで・・・なんで・・?」
どんなに悔しがろうと、どんなに悲しがろうと康太の目から涙が一切こぼれる事はなかった。
「意識って言うのは本当に難しい・・・戻ったかと思うと、また失う。そして二度と戻る事はない事だってある。それと今回は似たような症例だ」
「どうして大人って何でも比べたがるんだ・・・症例だとか判例だとか・・・そんなの関係無いだろ・・・裕大は裕大だろっ!!周りのケースと比べてんじゃねーよ」
「康太・・・」
その日のうちにガラス張りの部屋から裕大と裕大がいたベットは無くなり、俺と勉のベットが広い部屋に二つ並んだ。
その日の夢は悠二と五十嵐が死んだ時の事が何回も繰り返された。
康太がどんなに止めようとしても、五十嵐達が死ぬ・・・それは変わる事はなかった。
「何やってんだ、お前?」
康太はガラスの壁に寄りかかりながら座ったまま寝ていたらしい。目を開けると目の前に五十嵐が立っていた。
「どうなってんだ・・・死んだはずだ」
「あぁ・・・死んださ・・・これはお前の夢だからな」
夢と言う言葉に違和感を覚えたがまぁ・・いいか・・・
「そうか・・・夢か、道理でお前が白衣を着てる訳だ。その恰好で冥土に行くつもりか?普通、白い着物だろ」
「これだって十分白い服だ。で?何やってんの」
「五十嵐・・・裕大が死んだよ・・・」
「あぁ、知ってる」
「なんで、俺だけ生き残ったのかな?勉もまだ意識が戻らないし・・」
「さぁな、なんか訳でもあんじゃね?」
「親父から聞いた。お前、発信器外せてたらしいな」
「だからあの時、俺を置いてけって言っただろ」
「そこまで教えてくれなかっただろ。」
「そりゃ、盗聴されてるのに言えるわけないだろ」
「なんで、俺達を置いて逃げる事だって出来ただろ?どうしてしなかった?」
「お前が怪我した俺を見捨てなかったり悠二が自分を犠牲にしてお前達を助けた。それと同じだ。理屈じゃねーんだよ。そう言う行動は」
「理論ばっか言ってそうな、お前からそんな事言われるとは思わなかった。」
「で?こんなとこで何してんの?」
「別に・・・悪夢に悩まされてるだけだよ」
「ふ〜ん、悪夢ね・・・」
「お前は悪夢に悩まされる事とかなかったのかよ」
「あったさ。でも、慣れた」
「・・・そうだよな・・どうせ、俺の記憶の中で創りだしてるんだからそうだよな。親父とおんなじこと言うのは当たり前だよな」
「・・・ほぉ、お前親父と結構会話してるのか?もしかして今もしてるのか?」
「うるせぇよ!!あぁ言う状況なら会話するしかねーだろ」
「今は違和感あるか?」
「あぁ?何に」
「親父との会話」
「・・・別にねぇよ」
「それと同じだ。慣れだよ」
「いや、違うだろ」
「いや、違くない」
「そんな事ない」
「そうか?」
「そうだろ」
「そうかな?」
「そうなの」
「・・まぁいい。俺そろそろ行くわ」
「そうか」
「親父さんに伝えといてくれ。この病院の警備システムちょろいなって。それからお前はちゃんと布団で寝れ、風邪ひくぞ。あぁあと洋子にあやま・・」
気がつくと康太は蒲団の中にいた。
「あれ?俺布団で寝てたんだっけ?」
そう思い口に出しながら、康太は蒲団から出た。夢の中で誰かがいたような気がしたがどんな内容だったか思い出せない。
『おはよう。どうだ?気分は』
「別にいつも通りだよ」
『やな夢は?』
「だからいつも通り、現れたって言ってんだろ」
『ほら、それが慣れだ。』
「あぁ?」
『目が覚めるとクソッまたあの夢だ・・・とか思う事あるだろ?この前まで起きたらパニックになっていたのに今ではただ憂鬱になるだけ。それが慣れだ。今は寝るのにそんなに躊躇はしないだろ?』
「・・・ふざけんなよ」
『図星か?・・・軟禁も、もぅ解いてもいいだろ。部屋から出たかったらいつでも出ろ。』
親父は部屋から出て本当に外から鍵をかける音も鳴らなかった。
部屋の外に出るとそこは親父の病院だった。白く長い廊下、そこにはいくつもの扉がある。
それはガンズショップのミーティングルームにどこか似ていた。
悪夢や幻覚を見ても発狂することは少なくなっていたのは事実だ。
けど・・・それが一体何だ。俺は忘れたいんだ!!
そんな事を思いながら廊下を歩いていると各階にある談話室と書かれた部屋があった。
そこには、色々な新聞が並べてあった。
部屋越しにその新聞を覗くと『日本の呆れた真実』『創られた戦争は日本によって再び創られていた』などのゴシック体の文字がでっかく表示されていた。
康太は談話室に入り、その中の新聞をひとつ取った。
『リアルウォー撲滅へ!!』
康太が新聞の表紙を指で横になぞると次々とページがめくられていく。
『議員、官僚にも内通者がいた。』『岸辺と呼ばれる紹介者』『総理辞任!!』『行方不明者、すでに死亡の可能性も・・・』『ガンズショップ全て閉館』
『芸能界激震!!○○がまた不倫』
「なんだよ・・・これ」
その時、談話室の扉が開く音が聞こえ振り向くと洋子の母親がそこに立っていた
「凄いでしょ?全部、あなたのお父さんがやったのよ」
「・・・おばさん」
「おばさんって何?私まだ若いわよ。五十嵐君にそう言われたもの」
「おばさんがいるって事は・・」
洋子の母親が「あっ、またおばさんって言った!!」そう言う中、洋子が談話室の外でちょうど康太に気づき康太と目が合った。目の前に洋子がいると言うのになんだか洋子が遠くに見えた。
「康太っ!!」
洋子が急いで談話室に入る中、康太はそれをくぐり抜け談話室から飛び出した。
「待て、康太!」
洋子から逃げるが洋子は康太を追いかけてくる。康太は部屋にかけ戻り急いで扉を閉めた。
扉の向こうから洋子の足音がドンドンと近づいてくる。
「・・・鍵、鍵」そう呟きながらドアノブを見るが、この部屋は外から鍵をする仕組みだった事に今気づいた。
「やっべ・・・」
「開けろ!この野郎」
洋子がそう言いながら扉開けようとして扉をガンガンと揺らしてくる。
薄暗い部屋でガンガンと揺れる扉を抑えているとなんだか少し怖いよな・・・
「くっそ・・・どこかのB級ホラー映画じゃねーんだからよ。勘弁しろよ」
「何をぶつくさ言ってるんだ。開けろよ」
「うるせぇ、こんなとこ来てんじゃねぇーよ。なんでここにいるんだよ!」
「私も入院してたからだよ!ねぇ、開けてよ」
「はぁっ?お前みたいなバカが入院?」
「誰がバカだ!!康太に言われる筋合いはない。学力は私の方が上です」
「そっちじゃねー!!精神的な面でバカだって言ってんだ!!」
「うるさい!!その精神的な面で入院してたんだよ。ねぇ開けてよ」
「い〜や、駄目だ」
康太がそう言うとガンガンと揺れていた扉は、ピタリと止まった。
「・・・ねぇ、なんで開けてくれないの?」
静かな洋子の声が扉から聞こえてくる。
「・・・俺は、お前にはもぅ会えねぇ・・・会っちゃいけないんだ。お前と俺はもぅ違う世界の人間なんだ。」
「はぁ?何言ってるの、違う世界って・・」
「なら聞くけど、洋子!お前は人殺した事あるか・・?人が目の前で無残に死んでいく所を見た事があるか?虫の息の人に止めを刺した事はあるか?俺の手はそんな奴等の血が染みついちまってる・・・誰かが言ってた『もぅ元の生活には戻れない』って・・・その通りだ。俺は元の生活にはもぅ戻れない・・・・
どうして人殺したら刑務所に入れられるか知ってるか?きっと世間にそいつが人を殺したって事を忘れさせるためにだ。重々酌量の余地ありとか言って刑務所から出たらきっと知らない環境でそいつ等だって普通に生活するんだよ。洋子、お前は人を殺した俺と面と向かって普通に話ができるか?出来ないだろ、少なくとも俺はきっと出来ない。・・・この扉が俺達の境界線だ。俺はそっちにはもぅ戻れねぇ・・・」
「何言ってんだか全然わかんないよ。いいからこの扉開けて・・」
「五十嵐を殺したのは俺だっ !!」
再び扉を開けようとする洋子に康太はそう叫ぶと、扉がまた動かなくなった。
「足手まといになる五十嵐を俺達は見捨てた。あいつの最後を誰も見てやる事が出来なかった。」
「そ・・・それが何よ !!康太はそんな事しないって私知ってるもん・・・五十嵐君だってきっと死ぬつもりじゃなかったはずよ!・・そうよ、団体行動が苦手だっただけよ」
「それにな・・・死んでいった仲間の顔が思い出せないんだ。一緒にいたのに名前は覚えているのにどんな性格だったのかも思い出せないんだ・・・」
「康太が覚えてなくても私、覚えてるよ。小心者で少々ひ弱な龍之介君。口は怖いけど誰にでも優しい大次。機械オタクでシスコンの裕大君。誰よりも家族を大切にして康太の親友の勉。康太達のために戦いに戻って行った五十嵐君。そんで私の幼馴染の康太。私、覚えてるよ。顔だって思い出せる。私が思い出させてあげるから、この扉開けてよ・・」
洋子が一人一人言っていくと康太の頭の中にみんなの顔が鮮明に浮かび上がってくる。
「・・・お前、五十嵐の事好きだったろ」
特に意味もなく康太の口からそうこぼれた。
返事がない事に疑問を持ったが「とぉっ」と言う洋子の掛け声と洋子のドロップキックによって扉が破壊され、康太は仰向けに倒れた。
「イッテ・・・何すんだよ」
「えぇ、そうですよ!!好きですよ。ちょっとお父さんに似てていいなぁとか、思いましたよ!!それがあなたに何か関係あるんですか!!」
「お、おぃこら。今の発言によって一人の男の恋が終わったんだぞ!!」
「はぁ?何言ってんの?」
「・・何でもない」
「あっ!もしかして康太、私の事・・・」
「うるさいっ!!」
「あ、あんたねぇ、こう言う言葉知らないの?幼馴染は一生」
「幼馴染ってか?あぁ、俺もそう思うよ!ってか今実感した。ガキの頃、結婚の約束したのを覚えてるのは意外と男の方が多いとかな」
「えっ?そんな約束した?」
「・・・いや、してないけど。例えだよ例え」
「どぉ?普通に面と向かって会話してるんじゃない?」
「あっ・・・・・」
「何が境界線よ。こんな脆い境界線なら私が何度でも壊してやる。別の世界にいるって?」
洋子は突然、康太の手を握った。
「・・・別の世界にいるならこうやって触る事だって出来ないはずでしょ?いつまで自分の殻に籠っているつもりよ。もしまた籠るってんなら、私がまた窓から石投げて康太を引きづり出してあげる。康太・・・あんたの手冷たいわね。意外と冷え性?」
洋子の手は温かく俺の手のように冷たくゴツゴツとしていなかった。冷え切っていた康太の体を溶かすかのような温もりに今まで出てこなかった涙がここぞとばかりに溢れてきた。
「・・・・あったけぇな」
「ちょ、ちょっと何泣いてるのよ・・・ってか、いい加減、手ー放して」
「・・・ごめん。もぅちょいこのままで・・」
「ん〜、仕方ないな・・・一分500円ね」
「それは高いだろ!!駐車料金よか、たけーじゃねーか!!」
「一切値切りは無しです」
「なら、もぅいいです!!」
康太が手を離そうとするが、洋子が手を離さなかった。
「え?おぃ、ちょっと・・・何?離せよ」
「・・・・よし、二分経った。」
そう言いながら洋子は手を離した。
「うわっ、最低だ!お前・・・普通慰めるとかなんかするだろ!!なのに金にすべて結びつけやがって」
「いいじゃない、あんたの場合しみじみと慰めるより、こう言う方がいいでしょ。」
「うるせぇ!俺だってたまにはしみじみムードが必要な時だってあるんだよ」
「それよりいい加減、涙止めてよ!いつまで流してんのよ。鼻まで出てきてるじゃないのよ!汚いじゃない」
「お、・・・お前は鬼か!?お前の血は何色だ!!」
「ちゃんと赤い色してます!!」
「嘘つけ!お前はピッ○ロと同じだ。ナ○ック星人と同じ血の色をしてる」
「み、緑ってか!!・・・あれ?たしかナメッ○星人って女性いないんじゃなかったっけ?うわっ何それ!さっきまで恋がどうの言ってたあんたが私に対してそこまで言うか?」
「いや、それは違う!お前がそこまで深読みするとは思ってなかった!!」
本来なら看護師にうるさいと怒られるかもしれないが、看護師がこの階にいないのかまったく誰も止めようともしなかった。
だが、今回はそれがいい方向に動いた。
「・・・んだよ・・・うるせぇな」
言い争う二人の声がピタリと止まった。
「勉・・・?」
ガラス越しに勉が酸素マスクをゆっくり外す所が見えた。
「勉っ!!」
「私、先生呼んでくる」
康太は勉に駆け寄り、洋子は部屋を飛び出した。
「勉、大丈夫か?俺が見えるか」
「・・・・何泣いてんだよ。」
勉の声は弱弱しく聞きとるのがやっとのような声だった。
「う、うるせぇよ。泣いてねぇよ」
勉はまた瞼を閉じようとしていた。その時、康太は裕大の事を思い出した。
「待て。勉!!目ば閉じんじゃねー。お前まで死ぬつもりか!!お前にまで死なれたら俺どうしたらいいんだよ!!どうやって生きていきゃいいんだよ!!俺一人残して逝く気か!!」
勉はゆっくりとだが、康太のいる側の手で握り拳を作り胸の所に持って行ったあと康太の方に拳を向けた。
「・・・俺ぁ死なねぇよ」
「本当だな?戻ってくるんだな。信じてるぞ」
康太は自分の拳で胸を二回叩き拳を勉に向けた。
「必ず生きて戻って来い」
康太は勉の拳に自分の拳をぶつけた。
「待ってるからな」
洋子と親父、看護師が着く頃には勉の拳は下に落ち、康太は両膝をつきグッタリとうなだれていた。部屋の中には勉の脈拍を測る機械がリズムよく鳴る音だけが響いた。
その後、この国は疑われた議員は全て一掃され新しい議員が選ばれた。そして、その議員の半分は元プレイヤーと言う意外な結果になった。
テレビでは一部不満の声もあったが、頑張ってほしいなど賛同する意見が圧倒的だった。
そして康太の父親は一度は逮捕されたものの公訴提起はされず『この国と真っ向から戦った男』とテレビでは引っ張りだこになっていた。
「誰もがこの国に絶望したものの俺の存在のお陰で少しは希望と言う活力にはなったのではないだろうか?」とか親父が言ってたから「そんな事はない」と俺は親父にドロップキックを母親の墓の前でお見舞いしてやった。
そして十数年後。。。誰もがリアルウォーの存在を忘れたころ。小さなモデルガンショップにある張り紙が貼られるようになった。
「あれ?おぃ浅野、そんな張り紙前からあったっけ?」
「ん?・・・あぁこれの事か?」
浅野と呼ばれる店員は張り紙を一枚剥がし高校生に渡した
その張り紙はゴシック体でこう書かれていた。
『リアルウォー再開』
最後まで読んでいただきありがとうございます。
えぇっこんな終わり方!?とかは是非とも胸の奥にしまい込んでください・・・し、仕方ないだろ!ネタが尽きたんだ!!と言ういい訳しかできないので・・・
最終話と書いておきながら毎回の事、本当の最終話はおまけの方です。よかったらそちらの方も読んでいただけたら「地球に生まれてよかった〜」・・とか自分が思うんでよろしくお願いします。