第二十九話 代理戦争
「・・・遂にハセさんのチーム、全員死んじまったか・・・」
横たわるハセの仲間の死体を見つめながら誰かが呟いた。
「すみません。俺をかばってあの人は・・・」
康太が悔しそうにそう言う
「まぁ、あの人はお人好しだったからな・・それにお前等はまだ若い、俺だってきっとそうしたさ」
「次はあなたが指揮を執ってください。今、一番長生きしているのはあなたです」
「悪いが俺にそんな重役は務まらない。俺はあいつを推薦するぞ」
男が指さしたのは康太だった。
「え・・・・はぁっ?」
驚く康太を横に全員が納得したかのように頷く。
「え・・いや、ちょっと・・・・俺達一番若いし、そんな年上の人たちを指で指図するだなんて到底出来ません」
「確かに指揮官としてはどうだかわからないが、運にせよ実力にせよ、今のところお前達は怪我もせず、全員生き残っている。それはお前達の戦い方にヒントがあるのかもしれない。だからその戦い方を俺等に指示してくれ」
「そうは言われても・・・俺達の戦闘システムは五十嵐が考えた奴だし・・」
あたりを見渡し五十嵐を探すが、絶対にさっきまでいたはずなのに見当たらない
「・・・・逃げたな・・あの野郎」
「とにかく、そいつが考えたとしてもお前達のチームのリーダーはお前だろ?ならお前がやれ」
「・・・わかりました。俺が指揮を執ります」
諦めたかのように深くため息をつきながら康太は指揮官になった。
「おぃおぃ、そんなテンションでどうする。そのテンションは指揮に影響するぞ」
「と、とにかく、明日に備えて今日は飲みましょう!!」
「ウイィィーー!!わかってるねー指揮官」
酒盛りも終わりに近づき、康太達とその他の代表者が集まり建物の中で作戦会議が始まった。
「あの・・・まず、俺達ってどうしてここにいないといけないんですか?」
「それは、ハセさんが言ってたように、前にいた奴等からそう聞いていた。」
「それが俺、疑問だったんですよ。すぐそこに敵がいるじゃないですか。ホラッ」
康太が指さす巨大な地図には確かにすぐそこに敵地があった。
「いつもいつも、向こうから攻めてきてこっちは守るばっかし・・・攻め入りましょうよ」
「でも、それはここを守ると言う事を無視しちまう」
「思ったんですけど、昔と今の状況が違ったんじゃないですか?
昔は俺達が圧倒されていた。だから、この街を防衛線にして敵を待ち構えていた。この街、地図を見るからに数人だけでも守りやすいし、ゲリラ戦にも適してる。そんな状況がずっと続いて行くうちに俺達みたく兵が補充されていく、訳も分からない俺達はただひたすらここを守る。だからこの街、軽く要塞になってしまってる。でも、根源はここなんですよ」
敵地を指でドンドンとつつく
「根を絶やさねばまた草は生えてきます。それに向こうだって準備万全でこっちに来るんだから、攻め入れば準備だなんて出来やしないでしょ?」
みんなからの返事を待つが、全員が悩み黙りこくる。
「あれ?やっぱり駄目ですかね・・?」
「いや・・・悪くはない・・ただ今までやった事がなかったからな・・」
「こんな事を繰り返してたって、何も変わりません。ただ意味もなく人が死んでいくだけです!!」
「それじゃ、多数決にしよう。賛成な物は手を挙げろ」
多数決をしたところ全員が手を挙げた。
「よし・・・決まりだな」
「よかったぁ〜」
康太は安心し胸をなでおろす。
「それじゃ、そろそろ新しい人が来るはずだ。迎えに行って来い」
「え?俺行くんすか?」
「当たり前だ、お前が行かなくて誰が行く。安心しろ俺もついてく」
街から離れた所にトラックの明かりが二つこちらに向かって近づいてくる。
ところが一台はこっちに向かってきたがもう一台はどこか別の方向へ行ってしまった。
そして、俺達が初めてここに来たようにトラックの荷台の布が外され中に俺達と同じ戦闘服を着た人たちが入っていた。
「降りろ」
男がそう言うと、乗っていた人はそれに従いトラックの横に並ばされる。
「名前は」
横から順に自己紹介が始まり、それが終わると町に行けと指示する。
砂漠に足を取られながらヨタヨタと歩く。
「街に残しておいた方がいいなありゃ・・・」
「いぇ、そんな事ないと思いますよ」
康太はそう言うとその中の一人に声をかけた。
「お前、機械得意か?」
「えぇ・・・まぁ・・」
「このトラック遠隔で動かせる?」
「・・・はい、中を見てみないとわかりませんが多分出来ると思います」
そいつに運転席を見るようにいい、一緒に来た男が声をかけてきた
「お前、一体何する気だ?」
「このトラックを奪うんですよ」
「まず、このトラックに先行部隊を乗せて敵地に入ってもらいます。敵も補充兵と勘違いすると思うんですよ」
さっきの場所に戻り、作戦会議を始める。
「それで先行部隊は敵にばれないように見張りとか、いたら困るんでそこをどうにかしてください。その内にまたトラックで何人か乗りこんで町の中に入ってもらいます。そのトラックが俺達の防衛ラインです。足で移動する人たちもトラックから少し遅れて町の中に入ってもらいます。後は敵をせん滅するだけです。」
「トラック奪うなら俺に言ってくりゃ良かったのに・・」
「裕大を呼ぶ暇がなかったんだよ」
「でも、補充兵の中に機械に詳しい奴がいなかったらどうしてたんだよ」
「その時はトラックのタイヤをパンクさせてから裕大を呼ぶさ」
「どうして、一発で機械に詳しい奴を見つけれたんだ?」
「さぁ・・・何となくですね?」
「こいつ、嘘とか見破るのうまいですからね」
「まぁそんなのどうでもいいっしょ。とにかく行きましょう、時間は待ってくれない」
気付くと砂漠の地平線から日が昇り始めていた。
「やってやるか・・」
一人の男が眩しそうに日に目を向けながらそう言った。
建物の外に出ると色々な銃を担いだ仲間が待っていた。
「は〜い、ゲン担ぎ行きま〜す」
「ウイィーー」
人数が多いので胸を二回叩いた拳は空へと突き出した。
「俺達は一心同体だ!!生きて帰るぞーー!!」
「ウイィィーー!!」
「生きて帰るぞーーっ!!」
「ウイイィィーーー!!」
「ぜってぇー帰るぞーー!!」
「ウイイィィーーー!!」
「・・ッシャーー!!行くぞ!!コノヤロー!!」
「ウイイイィィーーー!!」
「・・・っはい、以上です。」
上がりまくったテンションは一気に笑いに変わり逃げて行った。
日が昇り始めてまだ薄暗い中、俺達は街を捨て、敵地へ向かった。
「俺は隠密行動の方が好きなんだ」
「・・・だろうな」
そう受け答えをして、五十嵐はトラックに乗り込みそのほか十数名が乗り込み敵地へ先に向かった。
トラックは敵地の手前で止まり向こうの動きを待った。
住宅街から二人の兵士が急いでやってくる。
「よし・・・まずは二人か」
ナイフを抜き取り、強く握りしめる
「いや、四人だ。入口付近の両サイドの建物に見張りがいる」
五十嵐はスコープを片手に布の隙間から敵の位置を把握する
「どうするよ?」
日がそろそろ真上に達する時間で布で囲まれた荷台の中は人口密度が高く、とても暑い・・・
緊張と暑さで全員の顔から汗がにじみ出る
「あいつ等が来たと同時にやりましょう。狙撃自信ある人いますか?」
五十嵐ともう一人はライフルを構え見張りに標準を合わせる。
見張りは特にやる事がないからか、非常にリラックスしてる。
「俺の合図でお願いします」
五十嵐は安全装置を外し、深く息を吐いた。
「チェック」
二人がトラックに近づき、握るナイフにより一層力がこもる。
「チェック」
狙撃手の二人の指が、引き金へと近づく
「チェック」
二人の銃が暗い部屋でピカリとひかり、見張りの二人は頭から血を噴き出し、「クリア」五十嵐が小さくそう呟く。
五十嵐の合図とともに近づく二人に仲間が一斉に飛びかかった。
反応の遅れた二人は銃を掴むことも出来ずに抑え込まれた。
二人の首にナイフが立てられる。
「待て、待ってくれ」
命乞いをする二人
『おぃ、今の銃声はなんだ?』
二人の無線から敵の声が入る
「なんでもないと言え」
五十嵐は敵から無線を取り敵の口元に持って行く
「あ、あぁすまん大丈夫だ。俺が撃った。トラックの中に補充兵がやっぱり入ってた。
今からそっちに連れて行く」
『そうか、わかった』
無線が切れなんとか一難は去った。
「待て待て待て待て、俺には家族がいるんだ。頼む殺さないでくれ」
「そりゃお互い様だ」
二人の首がナイフで掻っ捌かれた。
「行くぞ」
「オウョ」
倒れる二人を横目に五十嵐の一声で先行部隊はそれぞれ別々の建物の中へ侵入し始めた。
トラックは康太達の所に戻ってきた。
「よし、先行部隊は侵入成功だ。後は俺達にかかってる。ドハデにやるぞ」
男らしい掛け声と共に兵士が荷台へどんどんと駆け込んだ。
トラックは動き出ししばらくすると敵地が見えてきた。
「住宅街の道に入ったら、上から狙い撃ちにされる可能性があるからトラックのスピードを落とすから全員飛び降りてくれ」
敵地の入り口でスピードがどんどんと落ち始め次々と外へ飛び降りた。
全員がトラックから降り終わるとトラックはスピードを出し始め案の定、全方向からの射撃を喰らいその場で横転し炎上した。
飛び降りた康太達は上からの射撃を喰らい、急いで建物の中へ身を隠した。
「屋上に二人いる!!」
両側の建物の屋上から康太達を狙い撃ちまくる二人がいた。
だが、先行部隊の一人が屋上の一人を銃で殴り倒しナイフで始末した。
それに気づいたもぅ一人の敵は、すかさず銃口を向けるが後ろにいた五十嵐から頭に銃弾を喰らい倒れた。
「うわっ・・先行部隊の奴等、凄いな・・・」
「さぁ、俺達も頑張りましょう」
奥へ進むと待ち伏せしていた敵の銃弾に喰らい何人も倒れた。応戦をし、向こうから悲鳴が聞こえてくる。
だが、機械の足音がまた聞こえてきた。
「おぃ、これはさすがにヤバいぞ・・・」
「あいつは、俺に任せてください」
「任せるってどうする・・・いっ!!お前はどうしてそう言う物を見つけてくるんだ」
康太が肩に背負っていたのは対戦車ミサイルだった。
「落ちてました!無反動ミサイルです。俺が撃つまで向こうに弾幕、張っておいてください」
そう言うと康太は銃弾が飛び交う中、建物の外に飛び出した。
「おぃ、待て!!くそっ全員で弾幕を張れ!!」
そこまではみんなの声は聞こえた。
あとは銃弾の飛び交う音と自分の息使いだけが聞こえた。全てがスローモーションかのように見える。背負っていたミサイルを近づいてくる蜘蛛に向け標準を合わせると一呼吸置き、引き金を引いた。
肩に強い衝撃が伝わり弾丸は蜘蛛めがけて飛んで行く。
康太は弾丸の行く末を見る前に重いミサイルを道に捨て建物の中へと急いだ。
弾丸が蜘蛛の到達し爆発するのと康太が建物の中に横っ飛びするタイミングがほぼ同時に起きた。
「よしっ」
「『よし』じゃねーよ。馬鹿お前が死んだらこの後どうするつもりだ」
そう言って康太はヘルメットを叩かれた。
「でも、生きてる」
「それは結果論だ!」
「あぁ、なんか似たような会話を昔、誰かとしたような気がする・・」
その後、残りの仲間も到着し一気にたたみかけた。
問題はその後だった。
戦闘も終盤に入り、向こうはほぼゲリラ戦になっていた。
裕大ともう一人の仲間で詮索する中、裕大の横から突然現れた敵は裕大を殺す事なく頭を撃ち抜かれた。
裕大が振り返ると建物の屋上で五十嵐が手を挙げた。
『悪ぃ、助かった』
『気にするな』
そんなやり取りがあった時だった。
『おぃ、誰かこいつの言葉わかる奴いるか?』
そんな無線が入り、後ろから今まで聞いた事がないような言葉が聞こえてきた。
『避難民か?』
『いや、それにしては服装が立派だ。スーツなんか着てやがる』
『どういう事だ』
『命乞いしてるぞ。そいつ』
『そりゃ、聞いてたらわかる。意味が知りたいんだ』
『いや、だから命乞いしてる。「お願いです。殺さないで。私はこの国の人間じゃない」って』
『言葉がわかるのか?』
『あぁ、片言だが少しは喋れる。そいつに無線を渡してやってくれ』
そう言っているのは五十嵐だった。
その時、康太の頭の中に五十嵐が体験した戦争の事が一瞬過ぎった。