第二十八話 ここでの生き方
『全員耳塞いでろ!!』
バキョンと言う銃声とともに蜘蛛にゴムのような質量感のある物が張り付き、耳を塞いでてもわかるような轟音と衝撃が体を貫いた。
蜘蛛は活動を停止し、俺達は蜘蛛に慎重に近づいた。すると、蜘蛛の蓋がとれ両手を上げる人が出てきた。
「お願いだ!!撃たないでくれ」
両手を上げる人の顔は目、鼻、耳のすべてから血を流していた。
その状況はさっきの武器の威力を物語っているようだった。
「頼む殺さないでくれ、もぅ何も見えないし何も聞こえない。中にもぅ一人いるんだ。助けてくれ」
投降する二人を蜘蛛から下ろした。
両手をあげ、両膝をつきながら一人は見えない目でキョロキョロし周りにずっと命乞いをしていた。
「頼む・・・殺さないでくれ・・」
もぅ一人は、ただ深く深呼吸をするだけで何も喋らなかった。
覚悟を決めているのか、身動きひとつ取らない。
一人の男が何も言わずに命乞いをする奴の頭に後ろから銃弾を撃ち込んだ。
「おぃ!!」
思わず声に出す勉。
横で命乞いをする人が倒れるのを感じ取ったのか、何も喋らなかった奴は突然、どこかの国の言葉を呟きだした。どこかはわからないが、『お父さん、お母さん・・』と繰り返しているのは感じ取れた。
「避難民か・・・残念だ」
そう言うと男はまた引き金を引いた。
「おぃ !!何やってんだよ。命乞いしてたじゃねーか、そんな奴まで殺すのかょ!」
勉の意見に引き金を引いた男が答えた。
「・・なら聞くが、こいつ等がしたことは許せる行為か?この機械に乗って俺達の仲間を何人殺した?俺達が殺したのはたったの4人だ。たった4人に俺達の仲間は一体何人殺された !!
・・・いいか、ここで生きてくってのはこう言う事だ。」
男が立ち去るとバラバラとバラけて行った。
「おぃ、新入り。あいつも1週間前に来たんだ。あいつもここに来た時はお前みたく言っていた。けど俺があいつに『ここで生きていくってのはそう言う事だ』って言ってやった。
納得できないかもしれないが、お前もいつかはわかるよ」
ハセが勉の肩を軽く叩きながらそう言い離れて行った。
「さぁ、飲むぞ!!」
「ウイィーー!!」
ハセの一声で全員のジョッキが高だかく上がった。
「勝利の雄叫びを上げるぞ!!」
「ウイィーーー!!」
「死んでいった仲間に!!」
「ウイイィーーーー!!」
「乾杯!!」
「カンパイーーー!!」
そんな状況に戸惑う康太達。
「どうした。坊主ども飲めや!!」
日が沈み始め気温が下がり始める中、ここは異様な熱気に包まれていた。
「今回は坊主どもの大活躍だったからな!!」
「俺知ってるよ。あいつ等、最年少の優勝候補とか岸辺の間で噂されてたもんな」
康太達はただ愛想笑いをして過ごす事しかできなかった。
ただ唯一、五十嵐だけはその輪に入り酒を飲んでいた。
「どうした?お前等、テンション低いぞ」
ハセともぅ一人ハセの仲間が康太達に近づいてきた。
「ハセさん、どうしてこんな事が出来るんですか!?」
康太の質問に盛り上がっていたその場が一気に静まり返る
「皆さんもどうして?そんな喜び方ができるんですか?たくさん人が死んだんですよ。
ハセさん!!あなただって仲間の一人が死んだんじゃないんですか?」
「あぁ、そうだよ・・・」
「それなのにどうして・・・仲間が死んで悔しくないんですか?」
「悔しいさ・・それを忘れるために俺達は酒を飲むんだ。
それが先に死んでいった仲間に出来る唯一の救いだ。そしてその救いは俺達をも救ってくれる!!さぁ、みんな気を取り直して思いっきり飲もう!!」
「ウェイィィーーー!!」
静まり返った場が一気にさっき見たく戻った。
「なんでなんだよ・・」
納得がいかない康太に今度は五十嵐がやってきた。
「康太、俺達も龍之介や大次を失った時、どうやって立ち直ってきた?」
「・・・しらねぇ、知らないうちに落ち込んだ気持ちなんてなくなってた」
「忘れちまっただろ?悔しさや悲しさなんてさ・・・」
「けど、こんな早く立ち直った事なんてねぇよ」
「それはこの前までなら、次の試合まで長い期間があったからだ。けど、明日にはまた同じ事が待ってる。なら早く悔しさや悲しさなんて忘れちまった方が楽だろ?・・・・ここで生きるってのはそう言う事だ」
指を康太に差しながら五十嵐はそう言った。
「チッ、わかったよ。」
康太は五十嵐のジョッキと自分のジョッキを持った。
「井上康太!!飲みます!!」
二つのジョッキを高だかく上げ一気に自分の口に流し込んだ。
初めて飲んだ(嘘)ビールの味は口の中に苦さと渋さが残った・・・
「よーーーし!!よくやった坊主」
周りからは歓声が上がり調子に乗ってそれを繰り返し康太はバタンと倒れた。
「ぬぁぁぁ!!坊主っ大丈夫か?」
本気で心配する奴もいれば大爆笑する奴もいた。
そして、ここでの生き方を学び、ここでの生き方を教えてくれた、ハセさんは次の日の爆撃で死んだ。
人は簡単に死んでしまう・・
一本の長い廊下に何枚もある扉の一枚からガンズショップの店員の服を血で染めた悠二が現れた。
服に染みついた血を眺めながら深くため息をついた。
「・・・何か、違うな・・・」
そう首をかしげながら廊下を歩きだした。
悠二の出てきた扉の奥には、全身から血を流した死体がごろりと転がっていた。
新しい制服に着替え岸辺の所に向かった。
「岸辺、何の用だよ」
「君も岸辺だろ?ちゃんと番号で呼んでください」
「いいだろ、別にこの店に今俺とお前しかいないんだから」
「まぁ、それもそうだね。それより取り調べ中の反逆者はどうなった?」
「何も喋る前に死んだ。あいつ本当に何も知らなかったみたいだな」
「え〜ちょっと、また殺しちゃったの?これで何回目さ〜」
「俺はこんな事がしたかったんじゃない。俺は生きてるって言う証拠が欲しかったんだ。拷問がしたかった訳じゃねー」
ただ拷問は上がる悲鳴を聞き、「死にたくない」と命乞いする人を見ると生きている実感に近い物が感じ取れた。
「でも、結構楽しそうにやってるじゃない」
「・・・お前、次言ったら殺すぞ」
今までの悠二なら何も怖い物は感じられなかったが、今の悠二には殺意が体中からあふれ出ていた。今の悠二なら本当に殺しかねない・・・思わず岸辺の顔も引きつった。
「まぁいいや。それより、僕と悠二君徴収がかかってる。これから東京に行くよ」
「あぁ、わかった」
部屋で荷物を準備する中、タンスの中からリストバンドが落ちてきた。
今の悠二の左腕には発信器はついていなかった。
仲間の売り飛ばした事で忠誠心が認められ発信器は外される事になった。
・・・長年苦しめられていた物がこんなにもあっけなく無くなると言うのはスッキリとしないものだ。
『よろしく、悠二』
『ちなみに二十歳だ』
『はぁっ?お前が二十歳?ざっけんなよ嘘ついてんじゃねー』
「・・・・・」
『別に恨まねぇよ、これがお前の最善策だったんだろ』
「駄目だ・・・恨めよ・・俺を恨め。。」
『だからこそだ。ぜってぇ恨まねぇ』
過去の記憶がリストバンドを通して蘇ってくる。
悠二は手に持ったリストバンドをゴミ箱に捨てた。
「なんで東京に徴収がかかったのかな?」
「さぁ?僕の紹介した子供達が大活躍してるからじゃない?」
貸し切りの小さな飛行機に乗り込み指定された席に座り離陸を待った。
飛行機はすぐに離陸をはじめ、陸が小さくなり始めていた。
『こんにちわ、悠二君、翼君』
目の前の巨大なモニターにいかにも悪だくみをしてそうな馬面のおっさん達が姿を現した。
「お前、翼なんて名前なのかよ・・」
「良い名前だろ」
ニッコリと笑いながらこっちを見てくる
「誰だ?あいつ等」
「ん〜反逆者に結構殺された事になってる官僚や色々とお偉いさんかな?」
『なにかと死んでいた方が便利なんでね』
「で?死者が一体何の用だ?」
「これだけの人数がそろうだなんて結構な大事ですね〜」
『そうだ。その原因と責任追及を兼ねて君達をここに呼んだんだ』
「ここ?」
疑問に思う悠二と岸辺(翼君)ここって飛行機の中?
『君達を呼んだのは、君達が紹介したチーム1についてだ。彼らの活躍ぶりはすごいね。
なんと4週間も生き残ってるんだ。でもそのせいで、彼等は知ってはいけない事まで知ってしまった。』
「知ってはいけない事?」
首をかしげる悠二の横である事に気づき脂汗をダラダラと流す翼
『君も別に知らなくてもいい事だ』
「それで?言いたい事はなんです?」
単調におっさんどもにそう聞く悠二
『だから、言っただろ?責任追及だ。』
モニターの前に小さな机が現れ、机の上には拳銃が置かれていた。
『私達は、君達のどちらかに責任を取ってもらおうと思ってね。武器は一つだ。どちらかが相手を殺せ』
翼はその言葉を聞いた瞬間、シートベルトを外そうと必死に動くが全く外れない。
どんなに引っ張ってもシートベルトが外れない。
「あれっ?あれっ・・・なんで?外れない」
慌てる翼を横目に悠二はカチリとシートベルトを外しゆっくりと机に向い置いてある銃を取った。
悠二が銃を取った事に気づき固まる翼に悠二は銃を向けた。
「ま、待て、本気で僕を・・・」
全てを言い終わる前に悠二は引き金を引いた。
何の躊躇もなく引き金を引いた事にモニターに映るおっさんの中に何人かは表情が固まった。
「これでいいのか?」
『・・・あぁ、それでいい』
清潔感を漂わせる白いシートは、翼から流れる血で清潔感が失われていた。
『君にはそのまま大阪に行ってもらう』
「おぃ待てよ。このシートに待て座れと言うのか?」
『いや・・・なんのために席を指定したと思っている?最初から君を生かすためだよ』
シートが突然くるりと回転し新しいシートが出てきた。
そして翼が付いたシートは海の上で飛行機の外へと投げ出された。
『名前の通り鳥になれたんだから彼も本望だろう・・・落下しているがね』
「それで?大阪に何がある?」
『君の元仲間だよ。彼等はある事を知り、あの場所から脱走を企てた。まぁ我々が保護したけどな』
「それで?」
『君が殺せ。君の我々への忠誠心が見てみたい』
「わかりました。けど、俺は別にあんた達に忠誠を誓った覚えはない。」
『ほぉ、じゃぁなんで、君は岸辺なんだい?』
「・・楽しいから」
悠二の手に翼の血がついてる事に気づきその血を舐めながらそう言った。
大阪、昔は食い倒れなど色々と栄えていたらしいが、砂漠化が所々で始まり、人はどんどんと北へ移動し、日本人は減り代わりに避難民が増えていた。
日本人と避難民の割合は大体一対一、いや外に出ると避難民がそこら中を歩いているから、実際より避難民の方が多く見える。
悠二は大阪に着き、食糧生産工場へと向かった。
無人の高層ビルが立ち並び、ビルとビルとの間、コンクリートでできた道路にも砂は侵食し始めていた。
風が吹くと砂と埃が舞い、タイミング悪くその時に息を吸うと思いっきり咽る。
「ゴホッ・・・マスクとか売ってないなかな?」
残念な事にここら辺には、コンビニやスーパーも見当たらない。
風に舞う砂のきつい住宅街を抜け、目の前に大きな壁が現れた。
その壁伝いに歩くと今度は大きな門が現れ、その奥には大きな建物が見える。
『ご用件は?』
大きな門が話しかけてくる。
「食品衛生管理局からやってきました。」
『お待ちしておりました。どうぞ』
大きな門は、人一人入れる分だけ扉を開き悠二は門をくぐった。
建物の中に入ると従業員らしき人がいた。
「岸辺さん、お待ちしてました。こちらです。」
道案内をされながら建物の中を見渡すと、食糧生産所でこんな警備システムが必要か?と思うような物騒な物までそこら中、置いてあった。
「避難民が食料を盗もうとしましてね。それでこのような警備システムが必要なんですよ」
「そう言う風に言えと言われているのか?」
「・・・えぇ、まぁそうですね。」
「あなたは人を殺したことはありますか?」
「いえ、私達はただ保護するだけです。まぁ保護している人が逃げ出しでもすれば発砲許可が出るんですけどね・・・」
「逃げ出そうとした人は?」
「その前にあなた方が現れて殺してしまうでしょ」
「それもそうだな・・」
「でも、可哀想に・・・あんな子供まで殺すんですか?」
「上からの命令だ。仕方がない」
「私にもあのぐらいの息子がいます・・・」
「ストップ。それ以上話すと、俺はあなたを殺さなくちゃいけない。気持ちはわからんでもないが私に向って言うもんじゃない」
「・・・・はい、わかりました」
「ここから下に降りれます」
従業員がそう言って一枚の扉を指さした。
「あんたは来るか?」
従業員はただ俯いて首を横に振るだけだった。
扉を開け階段を降りると長い廊下の両側にいくつもの牢屋がぎっしりと並んでいた。
牢屋の中を確認しながら奥へ進むが牢屋の中には今のところ誰も入っていない。
「悠二か・・・?」
誰もいねーじゃん・・・そう思いかけていた時、奥の牢屋から声が聞こえた。
声のする牢屋へ向かうと中に康太達がいた。
「悠二!!無事だったのか・・・心配してたんだぞ」
明らかにやつれている康太が、悠二の事を心配してきた。
「・・・あぁ、俺は大丈夫だ。一応岸辺だからな。それよりお前等、一体何があったんだ?」
五十嵐の方へ目線を向けるが、五十嵐の目には本当に憎しみも怒りもなくいつも通りの目をしていた。
「上の奴等がお前等は知ってはいけない事を知ってしまった、とか言ってたが一体何だ?」
別に聞いてはいけないとも何とも言われなかったからただ聞いてみたかった。
悠二の質問に康太達は顔色を曇らせた。(元々やつれてて顔色は良くなかったがより一層)
「・・・俺達、戦争してたんだ」
「それは知ってる。お前達が戦っていた事は聞いていた」
「でも、その戦争は俺達の戦争じゃなかったんだ・・・」
「どういう事だ?」
康太達は口を開く事なく黙っていたが、五十嵐が口を開いた。
「代理戦争だょ。俺達は知らない国のために今までこれまで戦ってきてたんだ」