第二十七話 戦争が始まった
「狙撃手はそれぞれ好きな持ち場につけ。あとは自分の身を隠す建物が壊れない事を祈りな。
それ以外の歩兵は各班に分かれろ。どんだけ固まっていようが構わんが、一人には絶対なるな」
ハセは全体の指揮をとり、みんなはそれに従った。
「うわっ、たった2週間前に来たとか言ってたよな?スッゲーみんな従ってるよ」
康太がそんな事を呟く中、隣の人が話しかけてきた。
「お前、知らないのか?あいつが一番の古株なんだ。どちらかと言うと2週間も生き残ってるって言った方がいいね」
「えっ・・マジっすか?ハセさんの仲間は?」
「あぁ、俺とあと一人生き残ってるな・・・狙撃手だ」
砂袋で作られた壁に身を隠しながらそんな事を言われた。
「あぁぁぁ、ヤになってきた・・・」
「ここに連れてこられたのが運のつきだ。」
狙撃手の五十嵐はともかく、勉も裕大も別の班に移動させられ康太達はバラバラにされてしまった。
「昨日はちゃんと眠れたか?」
「眠れるわけないじゃないですか・・あんな事聞かされて」
あんな事とは、ここでやる事についてだった。
《俺たちはここを死守する。それだけだ》
「一体どこを?もしくは誰を守ればいいんですか?」
「とにかく来る奴を倒して、生き残ればいいんだ」
「くそ〜、なんでこっちには重火器がないんだよ・・・」
「こっちは数で勝負なんだよ。だから毎回毎回、人がたくさん死ぬ。そして、たくさん補充される」
康太は、そんな事を聞かされながら素早く自分の胸を二回叩き叩いた拳を前に突き出した。
「おぃおぃ、なんだそれ?なんかの宗教か?」
「違います。俺達の決まり動作です。まぁゲン担ぎ的な奴です」
「まぁ別にいいだろう。宗教家なんて、そこら中いくらでもいる」
あたりを見渡すと確かに見た事のあるような神への祈りをしている人はたくさんいた。
「自分はやらないんですか?」
「俺は無宗教なの」
康太が問うとそう返ってきた。
「さぁ、御出でなすったよ。今回はどこの国の機械だ?」
住宅街の遠くで金物と金物がこすれあう低い音が何度も聞こえてきた。
「なんだよ・・・足音みたい音しやがって・・」
康太はそう言いながら自分の足を何回も叩いていた事に気づいた。
「足付きか・・・なら北アメリカの方かな・・?」
「え?」
康太の疑問に答えようとした瞬間、すぐ隣の建物が爆撃された。ものすごい衝撃で康太は耳と頭を抑えその場にしゃがみこんだ。
それほど爆発はしなかったものの上から、建物に隠れていた人と瓦礫が康太達を襲いかかってきた。
「おぅ・・・ヤバい、ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!!おぃ何やってる逃げるぞ」
康太は、さっきまで話していた人に掴み立たされ反対側の建物に逃げ込んだ。
「す、すみません・・・・助かりました」
「・・・ったく頼むよ。クッソ〜俺もお人好しだな」
「康太、大丈夫か?」
そう言いながら建物の奥から勉が出てきた。
「あぁ、マジで死ぬかと思った」
「死ぬかと思う前にまずは逃げろ。その後に死ね」
「はぃ、すみません・・・」
建物の中から外を窺うと何やら八本足の蜘蛛のような・・・それでも厳つくて角角していて、でかい機械が住宅街に入ってきた。
「なんだぁあれ・・・?」
康太と勉は今まで見た事ない物を目にし固まる。
『おぃ、今からそいつの情報を探す。歩兵部隊はとにかくそいつを足止めしとけ !!』
誰かの声が無線を通して入ってくる。
「くそっ・・・そう言うのは裕大とか面白そうにやるだろうけどな・・」
「何?お前の仲間にそう言う奴がいるのか?」
康太は自分の銃を構えながらそう呟くと、またさっきの奴が、康太の声を拾った。
「えぇ、いますけど一人・・・」
「それを早く言えよ・・・そいつの名前は?」
「裕大です。佐伯裕大」
男は無線を取りスイッチを入れた。
「おぃ、裕大って奴。無線に応答しろ」
『はい、俺です』
「今から中央にあるテントに向かえ!!そこにパソコンがある。それ使って今いる機械の情報をハッキングでもなんでもして急いで探せ!!」
『わかりました』
「誰か同行しろよ。重役の護衛だ」
男はそう言うと無線を切った。
そんな内にも機械はどんどんと住宅街へ入っていく。
その瞬間、機械の足元で爆発が起きた。一本の足がバランスを崩し残り七本で踏ん張る。
『今だ。撃ちまくれ!!』
無線でハセの声が聞こえた途端、隠れていた俺達は一斉に射撃を開始した。
撃ったはいいものの、弾ははじく音しか聞こえず。傷が付いているのかも微妙だ。
「これ撃ってる意味あるんですか?」
弾を補充しながら康太は聞いた。
「一か所だけを撃っても意味がない。関節部分を狙え」
「そうか!!」
康太は補充したばかりの弾を抜き、違う弾を詰め込んだ。
「俺の周りにいる人。離れててください」
「一体何を?・・・・いぃっ!!おぃ全員離れろ!!鼓膜が破裂するぞ」
康太の持つ銃を見て少々引きつった声を出しながら全員離れた。その瞬間、康太は引き金を引いた。
ものすごい煙と爆音が建物中に鳴り響き、機械の足が一本爆発し壊れた。
「よしっ!!」
康太はガッツポーズを決めながらそう言った。
『よくやった。新入り』
ハセの声が頭の中に入ってくる。
「おぃ、耳は大丈夫か?」
男が康太に声をかけてくる。
「え?なんですって!!」
「耳は大丈夫なのか?」
「すみません。聞こえません!!もっと大きい声で言ってください」
「みみは!!大丈夫なのか!!」
男は耳をさしながら体で表現し、康太はある事に気づき頷き、耳栓を外した。
「すみません、耳栓外すの忘れてました」
耳栓を外すと周りからは銃声が響き渡る。
機械の足は康太が一本壊したものの、残りの七本を巧みに使いまだ住宅街を歩きまわっていた。
「くそっ・・情報はまだか・・」
『おぃ、みんな聞け。こいつ生命反応がない。中に人が乗ってないんだ』
誰かの声がまた無線から聞こえてくる
『なら、話は早い。電磁パルスを開け。あいつの足を止めてやる』
『駄目です。電磁パルスを開くと危険です』
今度は裕大の声が入ってきた。
『確かに電磁パルスを開けば、操縦者の無線は途絶えます。けど操縦者からの無線が途絶えたら、あいつの体中にある重火器が一斉に発射されます。多分こいつの狙いはそうだったんです。住宅街の真ん中で無線が途絶えれば俺達にも被害が出てしまいます。』
『おぃ・・じゃぁそいつにも何か弱点があるだろ?何か無いのか?』
『あいつ足の関節上の関係で腹の装甲が薄いんです。そこに衝撃を与えれば、多分壊れます。でも横からとかは絶対に当たらない構造になってて下に潜り込まないとそこは攻撃できません』
『よし、それがわかれば行くぞ!!援護射撃よろしく』
そう言うと何人かが蜘蛛に向かって突進しだした。
だが、蜘蛛がそれに気づきそいつ等に射撃を始めた。何人かはその場に倒れ、壁を盾に逃げ込んだ人も蜘蛛から放たれた弾が壁を貫通しその人を貫いた。
『おぃ、電磁パルスを開け』
『危険です。どこに撃つかわからないんですよ』
『標準合わせられる方がよっぽどヤバい。電磁パルスを開いて銃弾が飛び交う中、あいつの懐の中に入る』
裕大と誰かの討論が続く
「そんな・・無茶だろ」
「こんないつ崩れてもおかしくない建物であんな銃弾ぶちかますお前も無茶だったとは思うけどな」
「ここって崩れやすいんですか?」
「それを知らなかったのか・・」
そんな事をため息交じりで話す。裕大と誰かの討論は裕大が結局負けた。
『よし、開け!!』
その瞬間、体内無線には妨害電波で嫌な音が響きわたる
「あぁっ!!くそ」
康太は急いで体内無線をオフにする
蜘蛛は動きを止め、辺り構わず装備している銃を撃ち始めた。
建物の中にも弾が飛んでくる。辺り構わず飛びまくる弾は人や建物を崩し倒し始めた。
こんな中、だれが蜘蛛に近づくんだよ・・・そう思いながら外を窺うと勇敢な3人が、蜘蛛に向かって走り出した。
残り20mの所で一人が弾に当たって倒れた。・・・また一人倒れた。
「うをおおぉぉぉぉーーー!!」
残り一人は叫び声を上げながら蜘蛛の懐に潜り込む事に成功し、下から銃弾を撃ち込み蜘蛛の動きは停止した。
そして恐怖に立ち向かう叫び声は次第に笑い声に変わった。
「はっははっははは、やったぞー!!」
男のその一声で俺達は、一斉に雄叫びをあげた。
だが、その場でガッツポーズをとる男は突然爆発した。
その爆発によって上で機能停止していた蜘蛛も一緒に爆発し破片が周りに吐き出された。
吐き出された破片は、たくさんの建物を崩したり、仲間に当たるなどかなりの被害を受けた。
蜘蛛の破片は、康太の横にいた人の首を吹き飛ばし、その奥にいた人の胸に突き刺さしたまま壁に刺さった。
「あっ・・・あぁ・・・」
胸に破片が刺さった人は、まるで壁に画鋲で紙を止めるかのように壁にぶら下がっていた。
両手で破片を外そうとするが、破片はピクリとも動かず抜ける気配がない。
康太の横では、頭がなくなった体がその場で立ち尽くし、大量に血しぶきをあげ、康太に降り注いだ。突然の出来事に動けなくなる康太。
そこへさっきまで優しくしてくれた男が頭がなく立ち尽くす死体を蹴飛ばし、破片を抜こうとする男の頭に銃弾を撃ち込んだ。
「おぃ、大丈夫か!?」
体を真っ赤に染めた康太を抱きよせ落ち着かせるよう促した。
康太は恐怖で口がガタガタと震え、目からは涙が出てきた。
「誰か、こいつを奥へ連れてけ。戦線離脱だ。・・・よく頑張ったな餓鬼」
康太は二人に両肩を背負われ奥へと連れてかれた。
テントの中でパソコンをいじる裕大の後ろを二人に背負われた康太が入ってくるのに裕大が気付いた。
「康太・・?」
血まみれの康太を見て裕大は、ショックを受けた。
「嘘だろ・・康太!!」
「大丈夫だ、こいつの血じゃない。しばらくしたら落ち着くだろう。しばらく寝かせてやれ」
二人はそう言うとテントから出て行った。
機能が停止した蜘蛛が爆発した理由は、しばらくしてわかった。
蜘蛛がまた二台こちらに向かってやって来るのが見えた。おそらくあいつ等が砲撃したんだろう。
「どうなってる?電磁パルスで動けないはずだ」
「電磁パルス切ったんじゃないですか?」
勉と知らない男がそんな事を話す。
「いや、パルスは切れてない。無線が通じてないからな」
「それじゃ、一体何で?」
「とにかく、あの蜘蛛倒すしかないだろ。クソー俺達、骨折りだよな。こっちは被害があるってーのに向こうは機械が壊れて終わりだからな」
「・・・・それだ!!」
勉はある事に気づき、ある生命反応を示す機械を蜘蛛に向けた。すると、ばっちり反応した。
「やっぱり、中に人がいる。中であの蜘蛛を操ってるんだ。みんなに教えないと・・」
「駄目だ。パルスをどうにかしないと連絡がつかない」
勉が隠れる二階建の建物からあたりを見渡すと、遠くの建物に五十嵐がいる事に気づいた。
勉は手鏡を反射させ五十嵐に気づかせた。五十嵐の方からも手鏡が光るのが見えた。勉は手信号で五十嵐にある要件を伝える。
五十嵐はスコープで勉の伝えたい事を読み取り、親指を立て『了解』と示した。
今にも崩れそうな建物から身を乗り出し五十嵐は銃を構え、電磁パルスを発生させる機械を破壊した。
『おぃ、誰だ!!パルス破壊したのは!』
「てめぇこそ、いつまでパルス張ってるつもりだ!!あの機械には中に人がいる。パルスはもぅ意味はねぇ」
男が無線を使いそう叫ぶ。
『中に人がいるだと?・・・なら、話は簡単だ。おぃ誰かポイントBまで連れて来い。
俺が炙り出してやるよ』
また新しい人がまた無線で指示する。
「じゃぁ、俺行きます」
勉がそう言った瞬間、五十嵐がいた建物が崩れる所が見えた。
「なっ・・・・五十嵐・・クソッ」
勉は二階から飛び出し機械の前に出た。
「ほらっこっちだ」
蜘蛛は一歩一歩こっちに近づいてきた。
ポイントBまであともう少しだ。道も真っ平らになり走りやすくなった。
『駄目だ。勉!!その道は通ったら駄目だ』
裕大から無線が入る
「いや、こっちの方が近道だ」
『違う、そうじゃないその機械は足が速いんだ!!』
「え?」
後ろを振り向くとさっきまでカニ歩き的な事をしていた機械の足だが、先端部分からローラーが出てきて、勉に向かって急発進した。
「ヤベっ・・・・」
周りからは勉を助けようと撃ちまくるが弾ははじけるだけで意味がなかった。
そして遂に蜘蛛が、勉を銃口で捕らえた。
その瞬間、蜘蛛が横から大きな衝撃を受けバランスを崩した。
蜘蛛から発射された銃弾は勉の横で大量にはじけた。
『大丈夫か?勉』
無線から聞こえたのは五十嵐の声だった。
「・・・五十嵐!!生きてたのか?」
『俺は常に移動してるんだ。いいから早く逃げろ。蜘蛛みたいな奴がバランスを持ち直しちまうぞ』
五十嵐の指示で勉は建物の中にもぐりこんだ。
蜘蛛はまたそこら辺を歩きだす中、蜘蛛の足元から突然、地面が崩れ炎が噴き出し始めた。
『ポイントB地点、到達。よくやった餓鬼』
身動きが取れない蜘蛛から人が二人熱さに耐えきれず飛び出してきた。
そこを、見逃すまいと一斉射撃をした。
『さぁ、残り一台だ。倒しに行くぞ』
ハセの声が無線に響く