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第二十六話 戦争が始まる

「どういう事だ。悠二」

五十嵐の構える銃は、両手を上げる悠二の頭をしっかりと捕えていた。

「そりゃこっちのセリフだ。なんで意識を失わない?お陰さまで計画が台無しだ」

「計画?」

「俺が、お前達から雲隠れする計画だ」

ゆっくりと振り向きながら悠二が言った

「一体、何のためにだ。その計画は、お前が俺達のチームに入った時から決まっていた事なのか?」

「それは違う !!・・・これ以上、お前達と一緒にいたら俺はお前達を殺しかねん。だからだ」

「俺達を殺すだと?」

「五十嵐・・・お前に俺の気持ちがわかるか?俺はすでにゲームと現実の区別がつかなくなってきてるんだ。

日常的に銃を持ち歩く中、歩いてる人に銃を撃ってみたいと思う気持ちを押え込むのが、どんなに大変な事かわかるか?その気を紛らわすために反逆者の清掃に志願して、みんなに嫌な目で見られて・・・遂にはこいつ等を殺したいと言う感情まで芽生えてきた。

それを岸辺に煽られて・・・正直に言おう。裕大が岸辺を殺そうとした時、口では止めようとしてたが、心の底から『引き金を引け!!』と思っていた。

だから、俺はお前達から離れる事にした。離れるのは、お前たちの方だがな」

「俺達をどこへ運ぶつもりだ?」

「一応、日本だ。日本ではないがな」

その時、運転手が扉を開け五十嵐に襲いかかってきた。

五十嵐は瞬時に反応し、運転手を机に抑え込み手に持ってる注射器を奪い取り運転手の首に突き刺した。

「あっ・・か・・・」

五十嵐は注射器の中にある液体をそのまま運転手の首から注入した。

運転手は、がくがくと痙攣しだし意識はあるらしいが体は全く動かなくなった。

「神経剤か・・」

五十嵐は再び銃を悠二に向け、悠二もその隙に銃を抜き五十嵐に銃口を向ける。

「体は、鈍ってないみたいだな」

「生きる理由も見つけたし、体が、覚えてる」

にらみ合いが続く中、また扉が開き、今度は岸辺が入ってきた。

「はい、そこまで〜終了。五十嵐君、駄目だよ。ルール違反じゃないか。」

「お前等だって、こんな事が起こるとは教えてくれなかったじゃないか。そもそも、このゲームにルールなんてあったか?」

悠二から目を離さずに五十嵐はそう言う。

「まぁ、それもそうだけどさ。でもみんなが倒れてるんだから君も倒れようよ」

「倒れてただろ。復活したんだ。・・・・悠二、どうしてこんな事した?」

悠二が答える前に岸辺が口を開いた。

「五十嵐君、昔の戦時中ある実験が行われていたのを知ってるかい?

対象者は一般市民だ。白衣を着た人は『この実験は絶対に安全だ』そう言って、あるスイッチを押し続けさせる。

だが、隣の部屋からは一緒に実験室に入った人の悲鳴が聞こえてくる。もちろん大体の人はスイッチから手を離す。向こうからは荒い息遣いと痛みに苦しむ悲鳴が聞こえてくる。もぅスイッチは押したくないと言うだろう。でも白衣の奴は『安全だから続けてください』そう言う。

スイッチを恐る恐る押す。するとまた悲鳴が上がる。思わずスイッチから手を離す。それを何度も来るかえすと遂には、向こうからは悲鳴も何も聞こえなくなった。スイッチを押した人は、死んだんじゃないか?そう思う。

白衣の奴は、それでもスイッチを押すように言う。そこからが実験の概要だ。『安全』と言う言葉と白衣=医者、学者という先入観。それでもそいつはスイッチを押すのか?それとも独自の判断でスイッチを押さないのか?

結果は一体どうだったか。8割以上の人がスイッチを押したんだ。それと同じだ。僕が悠二君にこうするように命令したんだ。」

「岸辺、俺は悠二に聞いてるんだ」

長々と説明をしたのにそんな一言で一刀両断され大げさにショックだとあらわす岸辺

「・・・俺もその実験を知っていた。俺はその実験結果に従っただけだ。」

「そうか・・・なぜ残りの2割以下を選ばなかった。」

「そりゃ日本人ですから、日本人の特徴を・・・」

「黙ってろ、岸辺」

「・・・・ショック!!」

黙りこくる悠二に五十嵐は深くため息をついた。

「もういい、俺も一緒に連れてけ」

そう言うと五十嵐は悠二に向けていた銃をおろし、自ら手かせを着けた。

「いいのかい、五十嵐君?君だけ助けてやる事だって出来るんだよ」

「俺は、こいつとは違う。俺なら残りの2割以下を取る」

銃を下ろしその場に立ち尽くす悠二を見ながらそう言う

「・・・そうかい。それならそれでいい。また俺にはたくさんの金が入る」

そう言って岸辺は部屋から出て行った。



「こいつ等を運ぶの手伝ってくれ」

悠二は倒れる康太達に手かせ足かせをつけ終わり、手かせをつけたまま立っていた五十嵐にそう言った。

「あぁ、わかった」

五十嵐は裕大を持ち上げ、悠二は康太と勉を外に止まっているトラックまで運んだ。

「乗れ」

悠二は康太達を乗せ終わると五十嵐にそう言った。そしてそれに素直に五十嵐は従った。

「俺を・・・」

「なんだ」

「俺を恨んでくれて構わない。それに多分もぅ二度と会う事はないからな」

「別に恨まねぇよ。お前にとってこれが最善策だったんだろ。」

「駄目だ。恨め !!そうじゃないと俺はやっていけない」

「だからだ。ぜってぇ恨まねぇし、康太達にもお前がしたことは何も教えない」

トラックが動き出し、ニタリと笑う五十嵐の顔が悠二の眼に焼きついた。

「クソッ・・・・」




地面が不規則に揺れている事に気づき、康太は目を覚ました。

「よぉ、気付いたか?」

目の前には手かせをし、すでに戦闘服を着た五十嵐が腰を下ろし座っていた。

「・・んあ?なんだこりゃ」

そして自分にも手かせがされている事と服が着けられている事に気づいた。

「やられたよ。俺達、ガンズショップにどうやら拉致られたらしい」

周りを見ると天井と壁は布で覆われていて、勉と裕大が倒れている事に気づいた。

「おぃ、勉っ裕大!!大丈夫か?」

その時、またしても床が縦に大きくジャンプした。

「うおっ、なんだ?」

「俺達、今どこかに運ばれてるんだ」

「運ばれてる?どこに?」

そして、ようやくここはトラックの中だと理解した。

「一応、日本らしい」

「一応?」

「意味はわからん。ただ、ここは北海道でない事は確かだ」

五十嵐は壁の布を少し持ち上げた。何があるのか気になり外を見るとあたり一面、砂漠が広がっていた。

日本でも広がる砂漠化現象は、南から徐々に広がりを見せていると聞いていたが、ここまでだとは思ってもいなかった。

「なんだ!これ・・・」

そして俺達を乗せたトラックは、砂漠のど真ん中を走っていた。

「おぃ、俺達をどこに連れて行く気だ」

康太は運転席の方の壁をバンバンと叩く

「よせ、運転手はいない。全自動の車だ」

康太は壁の布をどかし、運転席の方を覗いてみるとハンドルなどが勝手に動いてるだけで本当に誰も乗っていなかった。


「あれ・・・悠二は?」

「わからん、俺も気づいた時にはいなかった。」

「・・・お前って嘘つくの下手くそだな」

「はぁっ?どこが嘘だ」

「いや、何となく違和感が・・違うならいいんだ。悪いな」

「そうか・・」

五十嵐は、表情を崩さないようにしていたが内心、心臓がバクバクしていた。



「そういや、今回の対戦場所が道外だとか言ってなかったっけ?それが原因かな」

トラックに揺られながら康太は、この状況を考えようとしていた。

「いや、それはない。場所は青森のはずだ。そこはまだ砂漠には浸食されていないはずだ。」

本当ならパニくるのが普通だろうが、なぜが落ち着いていた。

「なんでこんな状況なのに落ち着いてられるのかな?」

「さぁな・・・みんないるからじゃないのか?」

確かに、気を失ってはいるものの、みんながいる事で結構安心する。

「そろそろ、こいつ等起こすか・・」

「いや、いいだろ。まだトラックが止まる気配もないしな」

「おぃお前等、起きろー」

五十嵐がそう言う中、康太は全くの聞く耳持たずで二人を起こしていた。

そして、二人もこの状況を見て唖然としていた。

裕大は腕にしたパソコンを使おうと袖をまくるが、パソコンがなくなっている事に気づく。

携帯パソコンの他にも、携帯電話やとにかく通信手段に使えるものは全員無くなっていた。

「どうするよ・・」

「いや、どうするもなにも・・・このトラックが止まるまでどうにもできないべ」

「それにしても暑いな・・温暖化ってこんなに酷かったんだ。東京って凄いな。この前、50度越えたんだっけ?」

「確かそうだな。熱中症で倒れる人とか、バカだな〜とか思ってたけど。こりゃ倒れてもおかしくないな」

「でも、北海道と比べると倒れる人の数がこっち側の人って半端ねーべ。桁がまず違うからな」

「つーか、一応これって季節は秋って言うか冬になりかけてるよな?この前、町にも雪降ったし」

なんて少々観光気分に浸っている中、五十嵐が口を開いた。

「砂漠地帯は気温の寒暖差が激しいんだ。日が落ちれば一気に気温が下がる」


日が落ちたとたん・・いや、落ちはじめる前から気温は下がっていくのが肌を通して感じていた。

だが、日が落ちたとたん気温の下がり具合は一気にスピードを上げた。

「うおぉぉぉぉ、なまらさみぃ〜」

「これが凍恐とうきょうの真の恐ろしさか〜」

「いや、康太・・・ここが東京と決まった訳じゃないから。って言うか東京ではないべ。

東京には人がまだいる。砂漠化がこんなに深刻なのは、長崎とかそっちら辺じゃなかった?」

「あぁ、あそこら辺ってもぅ人いなくなっちゃったんだっけ?」

「確か・・・使えないからって、国があそこら辺の土地、買い取ったんだよ」

その言葉で全員が凍りつく・・

「確か、3年前だよな・・・じゃぁその頃からリアルウォーは・・」

「まさか・・・無い無い。」

「いや、そうでもないみたいだ。」

外に顔を出す裕大が、そう言った。

「外見てみろ・・・あれ、原爆ドームだよ」

全員が外に顔を出し、裕大が言う方向を見る。するとそこには、砂漠の中心にポツンと立つ少々穴があき崩れているが、原爆ドームとわかる建物があった。

砂漠化が原因で崩れたとされる原爆ドーム。崩れた時は大問題になった。

平和の象徴が崩れただの色々と騒がしくもあった。そんな事があって、他の重要な建物が次々と引っ越しをするようになった。

たとえば京都の清水寺は秋田に金閣、銀閣は二つ揃って岩手が購入した。

その他にも重要文化財と言われる物はすべて東北地方に移動になった。

もちろん原爆ドームもレプリカだが、北海道に建てられた。



「まさか、平和の象徴付近でドンパチするって事はないよな」

「それはさすがに・・・モラルってあるだろ。普通」

だが、そんな考えはすぐに打ち砕かれた。トラックが止まったのだ。

「日本もこんなとこまで、落ちちまったのかよ・・」

バキンと言う音とともに手かせが外れ、壁の布が一気に剥がれおちた。

周りはやはり砂漠だけで、一つ違ったのは同じ色の戦闘服を着た男が立っていた事だ。

「降りろ」

男は俺達にそう指示し、武器を持たない俺達はそれに従った。

トラックの横に並ばされ「名前は?」と聞かれた

「井上康太です」「鈴木 勉です」「佐伯裕大です」

そして、五十嵐は?ちょっと心が揺れたが

「五十嵐です」

五十嵐以外の全員が心の中でため息をついた。


「俺の名前は長谷川だ。みんなからはハセと呼ばれている。ついて来い」

歩くスピードがやけに早く。ただひたすらついて行った。

「お前等、よく砂漠の上を簡単に歩くな」

ハセは、振り向きながらそう言った。

「はっ?」

「ここに新しく来るやつは、いつも砂漠に足を取られてついて来れないんだ。

ついて来れなかったら一度、喝を見舞いしてやろうと思ってたのによ。

必死に放そうとしてもついてくるし・・・全部丸つぶれだよ」

「いや、こう言うフィールドは店にありましたから。慣れてます」

「砂漠のフィールドがある店か、よっぽどでかいんだな。どこの店だ?」

「北海道です」

「北海道?お前等、北海道から来たのか?」

「はい」

「そうか俺は新潟だ。北海道から来たのは、お前等が多分初めてだ」

「多分?」

「俺も二週間前にここに来た。」

「あの・・・ここはなんなんですか?あなたもプレイヤーですよね」

「説明は後だ。とにかくついて来い」

ハセは、先ほどの早いスピードではなくゆっくりとしたスピードで歩いた。


原爆ドームが段々と近づいてきた。そして、そこら辺では建物に明かりが灯り人の声が聞こえてきた。

人影も見え始め周りは全員、着こなし方は人それぞれだが、同じ戦闘服を着た人が何人もいた。

「おぃ、康太。全員プレイヤーだ」

「あぁ・・まさか全員で殺しあいをするって事は・・・ないよな」

「まさか俺達、武器ないんだぞ。奪えとでも言うのか?」

進みながらそう話す康太と勉だがそこに裕大も加わった。

「おぃ、あそこ見てみろ」

明かりが灯る中、一つだけ明かりの輪から外れた明かりがあり、そこに一人近づいて行く人がいた。



「おぃ、本当にこのゲームから解放される方法を知ってるんだろうな?」

火が焚いてある場所には二人のいかつい男が座っていた。

「あぁ、知ってるよ」

声も低く図太く目はまるで鷹のようにつり上がっていた。

「ほ、本当か・・?教えてくれ」

「おぅ、耳を貸せ」

「あぁわかった」

男が耳を近づけた瞬間、座っていたおっさんは男を殴り倒した。


康太達にはそこで交わされる会話が全く聞こえない。ただ、男が突然殴られた事しか分からなかった。「何やってるんだよ。あれ!!」康太の声にハセが気付いた。


「いって・・何をするんだ」

仰向けに倒れた男はおっさんに抑えつけられ身動き一つ取れなかった。

「ゲームから解放される方法が知りたいんだろ?それを教えてやるんだよ」

もう一人の男が立ち上がり砂漠の中から一本の斧を取り出し男に近づいてき、ゆっくりと斧を持ち上げた。


「おぃおぃ、頼むからマジでやめてくれよ」康太がどんなに懇願してもそれが叶う事はなかった。

斧は男の左腕めがけ振り下ろされた。男の悲鳴がここまで届いた。


下で男がもがき苦しむ中、おっさんは腕をロープで巻き付け止血を施した。

「いいか?あとは誰にもバレないようにあの方角へまっすぐ進むんだ」

おっさんが下でもがく男にそう言った。

男は痛みを我慢しながら、おっさんが言った方向へゆっくりと歩いて行った。

すばらくするとおっさんは、フラフラと歩く男に向けて発砲した。

ドサリと倒れる男、それを見て大爆笑するおっさん二人

「ダッハハハハハッ!!バッカでぇあいつ誰にもバレないようにって言ったのに俺達にバレてやがんの」


よくわからない状況で突然こんな事が起こり立ち尽くす康太達。

だが、ハセがおっさん二人の方にドンドンと近づいて行った。

「なんだ?あいつが死んだ事に文句でもあんの?」

まだ、笑いが収まらない二人

「・・・いや、別に」

「そうか、なら俺達に近づいてきてんじゃねーぶっ殺すぞ」

またしても爆笑する二人。だがそんな二人をハセは銃を取り出し素早く殺した。

「別にお前等も自分が死んだ事に文句はねーだろ」

そう言って横たわる死体の一つに持っていた銃を投げつけた。



「悪かったな、いきなり変な事になっちまって・・」

建物の中に入り、煙草に火をつけながらハセがそう言った。

「ここは一体何なんですか?」

「武器は向こうのでかいテントの中にある。好きな奴を選べ。後はもぅ遅いから。早く寝ろ。長旅で疲れたろ?」

ハセはそう言うと建物から出て行こうとした。

「待ってください。ここはなんなんですか?これから何が起こるんですか?」

康太の問いにハセは立ち止った。


「ここは戦場でこれから戦争が始まる」



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