第二十四話 俺達で終わらせる。
「なぁ・・五十嵐」
落ち着きを取り戻し康太が口を開いた。
「なんだ?」
「いや、お前が無事って事はさ・・だから・・その」
「あぁ、あいつも無事だ。生きてる」
「ホントか・・良かった」
「ただ、家にはまだ帰れない」
「どういう事だ」
「後で話す」
「待った。後もぅ一つ」
外からにやにやしながら見守る勉と裕大。その空気を察し見守る悠二
「お、お前と洋子って、今どんな関係なの?」
喉から振り絞った声で五十嵐に聞いた
「どんな・・ってどんな?」
真顔で五十嵐の口からそう出た。
「いや、どんなって、そりゃ・・き、気づけよ・・」
「んん?」
本気で悩む五十嵐に勉が助け舟を出した。
「学校で噂になってるんだよ。お前と洋子が付き合ってるって」
「え・・マジか・・」
「そぅそぅ」
「でも、そうは言ったって、洋子と付き合ってるのは、康太だろ?」
「はぁっ?」
思わず声が裏返る康太
「あれ・・違うの?」
康太の態度に驚く五十嵐
「五十嵐だから、言ったろ。幼馴染は一生幼馴染だって」
「洋子は五十嵐にゾッコンっていう噂もあるぞ」
「お前等が行方不明になった時、駆落ちしたって言う噂も出たしな」
周りから飛んでくる声
「じゃぁ、お前と洋子は何の関係もないの?」
「あぁ、全くない。誤解が解けて良かった。・・・でも俺にも本当に可能性はあるってわけだ」
五十嵐が、康太にそう言う
「え・・いや、まぁそう言う訳じゃ・・いや、そうだけど」
「まぁ、一つ屋根の下、あいつとしばらくいた訳だし」
「はぁ?待てどういう意味だ。いやそうじゃねぇ、今までどこにいたんだ」
『今は言えない』
「どこって言われても内緒かな〜」
体内無線で五十嵐がそう言う
『どういう意味だ?』
「いや言えって、気になるだろ」
『大丈夫だ。いつか教える』
「黙秘権を行使します」そう言って口を閉じた。
「・・・まぁ、いい。いつか口を割らしてやる・・それより五十嵐、狙撃は出来るようになったのか?」
「そうだな、久し振りにやってみるか」
康太と五十嵐が、やり取りをする中、悠二は迷っていた。
岸辺に言われた事をこいつ等に伝えるべきか?今伝えないと手遅れになる・・・
だが、伝えてどうする?伝えたらどうなる?けどこれは、伝えないといけない。
「あ、あのさ・・・」
悠二が口を開き全員がこっちに振り向いた時、裕大の電話が鳴った
「あ・・わりぃ」
裕大はそう言って電話に出た
遅かった・・
「はぃ、もしもし・・・え?燃えてる?」
電話の向こう側の声は異様に慌てていた。内容は聞こえないものの電話を受ける裕大の様子が次第に変わっていく所からただ事ではない事が伝わってきた。
「今から行く」
裕大は電話を切り何も言わないで駆け出した。
「裕大!!どうした」
「俺ん家が燃えてる」
裕大の家の方を見ると黒煙がモクモクと立ち上っていた。
「マジかよ・・」
康太達は裕大の後を追った。
野次馬をかき分け裕大の家に着くと木造の家は、真っ赤な炎で包まれていた。
そんなに近くでもないのに顔がチリチリと熱さが伝わってきた。消防が水を懸命にまくが、一向に収まる気配はない。
「ちきしょおぉぉ!!」
裕大が立ち入り禁止の線を引き裂き、飛びだしたがそれに気づいた康太と勉が抑え込んだ。
「止せ、裕大 死にたいのか」
「かまわねぇよ!!放せっくそ、なんで・・なんでこんな時に」
地面に抑えつけられた裕大は必死に暴れるが、完璧に抑えつけた康太達を振りほどく事は出来なかった。
「わるぃ、裕大・・」
そう言ったのは抑えつける康太でも勉でもなく五十嵐だった。
その意味が、裕大も康太、勉も理解できなかった。
その瞬間、五十嵐は駆け出した。
「おぃ、何してる!!誰かそいつを止めろ」
消防の人たちを押しのけ五十嵐は、燃え盛る扉を蹴破り炎に包まれた家の中に玄関から入っていった・・・
「大変だ!人が中に入ったぞ!!」
何が何だか理解できなかった。消防の人が慌ただしく動くが音が全く入ってこなかった。
防火服を着て中に入ろうと試みるが入口からは炎が噴き出る。
どうして五十嵐はあんな所へ入っていったのか?ただ、無事でいてくれそう願うだけだった。
しばらくすると、家の横から炎と一緒に火の玉が窓を割り外に飛び出してきた。
だが、その火の玉はすぐに五十嵐だとわかった。横たわる五十嵐にすかさず放水をする。
咽る五十嵐は、何かを大事そうに抱きかかえていた。
「未来・・」
「なにっ」
康太と勉は裕大を抑えつけるのをやめ、五十嵐の所へ向かった。
「五十嵐 !!どうしてそんな無茶をした」
「ごれで・・・嫌でも・・・・警察が動く」
五十嵐は咽ながらそう言った。
「何を言って・・」
何を言ってるのかわからなかったが、五十嵐が抱える物を見て康太と勉は理解した。
「未来・・無事だったのか」
そう言って裕大もよってくるが、言葉を失い、立ち止まってしまった。
「悪い・・裕大・・・原形を一番留めているのがこの子だったんだ」
五十嵐が抱きかかえて出てきた物は確かに未来だった。
だが動かない、火事で死んだわけではない。所々、火傷はあるものの明らかに死因に至るものではない一番の原因は、刺し傷だ。首と胸から出血がみられる。
「これで、事故による火災じゃなくて、事件による火災だと立証できる」
犯人は口に出さなくても、だれなのかわかった・・・・間違いないガンズショップだ。
「でも、なんで俺達が何かしたって言うのか」
そんな事、裕大にとってはどうでもよかった。
「あ゛ああぁあぁーーー!!」
怒りがこもった叫び声が上がり裕大は、人ごみを突き飛ばしある場所へ走った。
「裕大を・・止めろ」
五十嵐が脇腹を押さえながら言った。
「でも、どこに行ったか」
「わかるだろ !!ここは大丈夫だから早く行け」
五十嵐が押さえる手の隙間から血がにじみ出ている事に気づいた。
「お前、その血・・」
「いいから、早く行け!!」
「俺がここに残る。康太、悠二と一緒に裕大を追え。後から、そっちに向かう」
「わかった・・おぃ悠二!! 行くぞ」
康太は悠二に叫び裕大の後を追った。
「五十嵐、お前一体何考えてる・・・」
勉の下で傷の痛みと格闘する五十嵐に尋ねた。
「・・別に、同志のやる方法以外でも俺達がさせられている事を伝える方法があるんじゃないかって思ってな」
「だからって・・・裕大の妹を利用しようとでも思っているのか」
「・・・・俺達で・・これ以上被害を出したら駄目だ。俺達で終わらせるんだ・・・そのためだったら、俺ぁ死人でも使うぞ」
五十嵐のその言葉は受け取り方によっては最悪な言葉で、でも勉にとっては五十嵐と同じでこのゲームを終わらせたいという気持ちに共感するところもあった。
「・・・まぁ今回は事故じゃないって事だけでもわかればいいか・・」
「勉・・・悪いんだけどガンズショップまで連れてってくれ。治療を受けたい」
康太と悠二がガンズショップに着くと裕大が、ちょうど受付の席に両手を上げ座る岸辺に銃を向けている所だった。
「裕大 !!駄目だ」
「その通りだ。こいつを殺したって何も始まらない」
「うるさい !!俺は、こいつがどうして未来達を殺したのかが聞きたいんだ」
その言葉でピンと来たのか、岸辺がニヤける。
「なんだ。悠二君から聞いてないのかい?ちゃんと彼には伝えたよ」
康太と裕大の視線が悠二に向く
「どういう事だ。悠二」
「・・・すまない、言うタイミングが遅れた。坂本 未来の父親もプレイヤーだったんだ。彼は、同志になって俺達に銃口を向けたんだ。」
悠二は、康太達に目を合わせる事なく話した。
「ほら、ちゃんと伝わっていただろ」
「裕大が襲われたあの日、彼女の父親もいたんだ。」
「なんで・・なんで教えてくれなかったんだ !!それに、未来と父親はもぅ、何も関係無いじゃないかっ」
「だが、血縁関係はある !!・・そう言う決まりだろ。・・・ルールを犯した者はもちろんの事、周りの人間、家族も殺されるって。」
呼吸が乱れ、悠二の言っている意味が分からなくなる。裕大は、すべての元凶を岸辺になすり付け銃を強く握った。
「おぃおぃ、俺を殺すつもりか?君も同志になりたいのかい?」
「同志なんて関係無い、俺は何もかも失った」
「君はいいかもしれないが、彼等はどうなる?君が、反逆者になる事でトバッチリを受けるのは彼らだ。」
そう言いながら康太の方を指さす
「だったら、俺はチーム1から抜ける。これでいいだろ」
片手で持っていた。銃を両手に持ち替え引き金に力が入る。
「待て、裕大・・お前にも家族はいるんだ。」
悠二の一言で引き金にかかった人差し指が止まった。
「お・・・俺には、もぅ家族はいねぇ!!」
一瞬戸惑いながらも涙声で裕大はそう叫んだ。
「違う、そうじゃない。彼女と同じだ。お前の両親が、生きてるんだ。」
「俺を捨てた親だ。どうなってもかまわねー」
「そうだ!!それで彼女は、死んだんだ。彼女の父親の勝手な行動で、関係のない子供まで死んだんだ。お前は、それを繰り返すつもりか !!」
岸辺を殺したい・・だが、それで未来のような被害者が増える。裕大の中で二つの意見が葛藤し、銃を地面に投げつけ「チキショー!!」たったそれだけの言葉で、葛藤した気持ちを吐きだした。
後日、強盗殺人及び放火による事件は警察が捜査をする事になり、焼け跡から裕大以外の住人が全員死亡した事が、確認された。
事件当日、裕大の誕生パーティーが出来なかったので、裕大に内緒で(未来から聞かされていた)その日にする事になっていた。
「俺のせいだ・・・俺の誕生日のせいで・・・」
全てを聞かされた最後の頭を抱えながら言った裕大の一言に全員の胸がきつく閉まった。
「おぃ、みんな準備ができたぞ」
そう言いながら悠二が部屋に入ってきた。
「・・・じゃぁ行くか」
康太が、先に席を立ち後にみんなが続いた。今日は、話し合いの結果、裕大を捨てた両親を見に行く事になっていた。
「おぃ、本当に俺達ついて行っていいのか?」
廊下で裕大に康太が聞く
「いや、俺一人だったらどうなるか、わからないから。一緒に来て欲しい」
「そうか・・わかった。それなら一緒に行くよ」
店の外に止めてある車に全員が乗り込んだ。
「あ・・悪い、鍵もらって来るの忘れた」
運転席に座った悠二は、鍵を取りに店の中に入っていった。
岸辺から鍵を受け取り車に向かおうとした。
「気をつけてなー」
受付で手を振る岸辺の声に悠二は立ち止った。
「・・・岸辺、頼みがある」
悠二は振り返り岸辺の方を向いた。岸辺は、まるで知っていて待っていたかのように笑った。
「裕大の両親は会社の独立に失敗し家も財産も何もかも失った。そんな中、裕大 お前が生まれた。・・・その後、再度始めた会社が何とか軌道に乗り今、子供が一人いる。」
悠二がそんな事を言う以外は、車の中はとても静かだった。全員が窓の外に目をやり、紅葉した木々を眺めるだけだ。
「着いたぞ」
悠二が車を止めた場所は、知らない住宅街が並ぶ場所だった。ぞろぞろと車から降り、長旅に疲れ伸びをする奴もいた。
「あそこだ」
悠二が指をさす方に一軒の家があり、別に立派とも酷いとも言えない家が一軒あった。家の前には車が一台止めてあり、どこかへ出かけるのか荷物が積んであった。しばらく、様子を見てると扉があき子供が一人飛び出してきた。
「ほら、早く車に乗りなさい お爺ちゃん達が待ってるぞ」
「は〜い」
子供は勢いよく後部座席に乗り込む。裕大は、父親を穴が開くのではないかと思うぐらい睨みつけている。
「裕大・・・」
「・・ったく、いい気なもんだ・・」
裕大はそう言うと、家の方に歩き出した。
「おぃ、裕大」
勉が裕大の後を追い、横に並んで歩く。父親のいる方にどんどんと近づいて行く。
母親も扉から現れ、鍵を閉め車に近づいてくる。父親が、こちらに気づき奇妙な目でこちらを見てきた。
「お前らだけ幸せになりやがって・・・」
裕大が父親の横を通り過ぎながら呟いた。父親の顔は、急に青ざめてくる。
「あなた・・」
母親も感づき、父親に話しかける
「パパ、どうかしたの?あのお兄ちゃん達知り合いなの?」
「い、いや・・・何でもない」
両親は急いで車に乗り込み逃げるかのように急発進した。
「裕大・・・あんな会い方で良かったのかよ」
目の前を勢いよく通り過ぎる車を目で追いながら、勉が尋ねた。
「いいょ、元々あんな奴等とは血は繋がってるかもしれないけど、全くの他人だ。」
「あん時、岸辺殺しときゃよかったとか、後悔してる?」
「・・・わかんね。なんか全部アホらしくなってきた」
正面から冷たい風がやってくる。
「うっわ、さぶっ」
「車の中に戻るべ」
「あぁ、そうだな」
風が来る前に急ぎ足で車に向かった。
「裕大、これからどうなるんだ?」
「ん〜補助金出るらしいから、一人暮らしかな?」
「うわっ大変そ〜」
「まぁ、五十嵐もやってるんだし何とかなるべ」
ガンズショップに戻ってきて部屋に向かう途中、そんな話で盛り上がっていた。
だが、扉を開けるとそんな会話も終わる出来事が待っていた。
「お帰り〜」
部屋の中で待っていたのは、岸辺と運転手だった。置かれている状況が理解できずただ固まる康太達。
「・・・そして、さようなら」
岸辺のその一言が、康太達が聞いた最後の言葉だった。運転手が、黒いリモコンのスイッチを押した瞬間、康太達は意識を失い倒れた。
だが唯一、悠二だけが立っていた。
「・・全部、部屋の中に入れなさい。廊下に倒れてたら目立ってしょうがない」
「あぁ、わかってる」
岸辺の指示に従う悠二。倒れている康太達を引きずり部屋の中に入れた。
「俺が頼んだからっていくらなんでも、早すぎだろ」
「そうでもないさ。そろそろ時期だったからね」
「俺が、いつかこうなるってわかってたのか?」
「んや、君もこいつ等と一緒に送られると思ってたよ。あそこに送られればもぅ生きては帰れないし。悠二君、助かったね〜」
「本当に送るのか?まだ子供だぞ」
「そうだね、多分最年少だ。でも、送る 金になるから」
「最低だな」
「悠二君だってそうだろ?僕にこれを売ったんだから・・最低と言うより僕より岸辺らしいね。いや〜、岸辺より岸辺らしいかな?真の岸辺誕生 !!」
「・・・・・」
「・・・まぁ、錠をはめたら教えてくれ 受付で待ってるから」
岸辺と運転手はそう言うと部屋から出て行った。
机の上には、人数分の手かせが、置いてあった。悠二はまず、康太からやろうと錠をとり康太の所へ向かった。
「どういう事だ。悠二」
康太の前でしゃがみ込み作業を始めようとした悠二の頭の後ろに銃が突きつけられた。
「なんでだ・・?」
悠二は驚きながらも両手を上げゆっくりと立ち上がる。悠二の後ろには銃を構える五十嵐が立っていた。
「・・・なんで意識を失わない?」