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第二十三話 ガンズショップ再開

あの日の発砲事件は過去最悪の惨事となった。死者60名、負傷者100人以上、行方不明5名。

犯行グループは全員射殺、祭と重なった事もあり、子供の犠牲者もたくさん出た。

ニュースではこのような状況で祭を開催していた責任者に非難を投げかけ、予想は出来なかったのか?どのように責任をとるのか?そんな事を繰り返し、責任者は涙をこぼしながら何度も頭を下げていた。

それに視聴者が飽きてくると、今度は目撃者の証言をもとに再現VTRを作ったりなど事件を報道していた。

「突然、男が駅前で銃を取り出し発砲し始めたんです」

「最初は何が起こったのかわかりませんでした。人の波に飲み込まれ、ただひたすらに逃げていました」

「警官が取り囲んだら 男は突然、自爆したんです」

「一人の少年が、下に落ちている銃を拾い男に向けて発砲しました」

「彼はその前にも、犯人の一人を見つけ、大声で叫んでました」

「私は秋祭りの会場で銃を乱射する2人を見ました。そりゃ、驚きましたよ。気がついたら足が勝手に動いてました」

VTRが終わり、キャスターが発砲したと思われる少年に牙をむける

「その発砲したとみられる少年とは一体誰なんでしょうかね?」

「今週発売の○○雑誌に少年と思われる写真が掲載されています」

写真には街の風景と小さく少年の銃を構えた後姿が映っていた。

銃を向ける先では、人にモザイクがかけてあり、ただ見る限り、明らかに撃たれているとわかるような体の仰け反り具合や血しぶきが確認できた。

その写真に映る彼は、一体誰かはわからないが、知っている奴が見るとこれは、明らかに裕大だとわかるような写真だった。



その情報は、裕大が学校に来る前には広まっていた。

もちろん裕大にも・・

「おぃ・・裕大」

裕大が教室に入るなりさっそく一人が裕大に話しかけてきた。

「・・うるせぇ」

オドオドとしながら話しかける男子に不機嫌そうに返す裕大

「だってよ・・裕大」

「うるせぇっ!!って言ってんだろ。俺ぁ撃っちゃいねぇ!!」

「ほ、本当だな?信じていいんだな?」

「当たりめーだろ。人殺してたらこんな所にはいねぇえよ !!」

「そうか・・良かった」

本気で胸を撫で下ろすクラスのみんなに裕大の感情は空回りした。

「あっ・・あぁ。こ、殺しちゃいねーょ」

「いや、マジで不安だったんだって、殺してたらどうしよ、ってどう接したらいいのかわかんねーよってな」

「・・・疑わねーのか?こんな問題ばっかり起こるクラスなのに」

「こんなクラスだからこそだろ。・・・マジで心配したんだから」

涙ぐむ男子と安堵の表情を見せるみんなに心が揺れ動いたのは裕大だけでなく勉もそうだった。

俺達は良いクラスに恵まれた。そして、そんなクラスに嘘をつく俺達に罪悪感に似た感情も涙と一緒にわき出てきた。

「おぃおぃおぃ、泣く事ねーだろ !! いやマジで」

「ごめん・・怖かったんだ。みんなどんな表情で、俺を見てくるのかわからなくて・・・・みんなから遠ざかろうと思って、トゲ出して学校来たのにこんな風に俺と接してくれるとは、思わなかったんだ」

「ああーヤベ、そう言う事言うなよ。もらい泣きしちまうじゃねーか !!・・・マジヤバい出てくるっ・・」

クラス全体が鼻をすする音で充満する中、何も知らないで入ってきた先生の驚く表情を見て全員が爆笑した。

笑いながらも裕大と勉は嬉しくて流す涙を俺達はまだ出せる事を喜んだ。


俺達はまだ人間だ・・

そんな事を再確認した






「・・・へぇ、そんな事あったのか」

康太の家で勉や裕大が嬉しそうに話す内容は康太にとって微笑ましくもあるが、羨ましくもあった。

それに気づいた勉と裕大は話の内容を変え盛り上がっていた。

ガチャリと開いたドアから悠二が入って来た途端、話は中断され不穏な空気が流れた。

「・・・わりぃ、シャワー貸してくれるか?」

銃をしまった鞄を肩に担いだ悠二の恰好は、泥だらけで顔にも泥がついていた。

「あぁ、いいよ。勝手に使ってくれ」

「いつも悪いな・・」

「・・・また、清掃かよ」

風呂場に向かう悠二が勉の一言で立ち止った。

「・・悪い、俺もまだ岸辺なんだ」

「岸辺、岸辺って・・・なぁどうしてもお前がやらないと駄目なのか?」

「戦闘経験のある岸辺から清掃部隊は選抜されてるんだ・・拒否はできない」

俯きながら喋る悠二に康太は少し首をかしげた。

「まぁ、泥だらけだから。早く風呂入って来い。家ば汚すなよ」

「わかってる」


テレビをつけると発砲事件の特集が組まれて警察の特殊部隊が取り上げられていた。

模擬演習で犯人を取り押さえる様子や、ペイント弾を使った銃撃戦を放送していた。

世間では最初に報道された同志には一部、同情の目も向けられていたが、今では同情する目など、どこにもなかった。

同志の虐殺する事にやりすぎと言う言葉も聞こえない。最初の奴等はこんな事になるなんて事を想像していたのだろうか?

「五十嵐・・」

康太が何も考えずに口にした事に裕大と勉も驚いたが康太が一番驚いていた。

「はぁっ?なんで俺、今 五十嵐なんて言ったんだ?」

「大丈夫か康太?」

「ううん、駄目だこりゃ」

「五十嵐か・・・どこにいるんだべ」

死体も出て来ない、消息もつかめない。学校では洋子と駆落ちしたなんて噂で盛り上がっていたが、五十嵐の生命反応は途切れていた事から洋子は無事だったとしても五十嵐はもぅ・・

けど、どうしてもそうは思えなかった。そう思いたくなかった・・・



頭上から降り注ぐお湯で体に付いた泥を落としながら悠二は、さっきまでやっていた事を思い出す。

『同志の名のもとに!』

壁に追い詰められた同志は頭に銃を向け引き金を引こうとするが、悠二の一発で頭に向けられていた銃は宙を舞った。

同志は立ち尽くしながらも狙撃に気づきスコープ越しに悠二と目が会ったような気がした。

だが、悠二の二発目で同志の頭にキレイな穴が開き、目をカッと開いたまま同志は後ろに倒れた。

他の出来事を思い浮かべながら人差し指をまるで引き金を引くように動かしていると知らず知らずに口元が緩んだ。

鏡に映る自分の姿を見て緩んでいた口は治りまた自分の感情に苛立ちを覚えた。

「くそっ・・」

『あぁ、こりゃそろそろヤバいかもね』

軽い口調の岸辺の声が悠二の頭の中に入ってくる。

「・・・何の話だ」

『なにが、選抜部隊だ。な〜にが、拒否はできないだ。嘘つき、自分で志願したくせにぃ〜』

「黙れ」

『大丈夫、みんなには言わないからさ〜。まぁ実際ぃ〜、みんな薄々感づいてきてるけどね』

「黙れ」

『そろそろ悠二君、暴走するかもしれないね。誰かのお兄さんみたく。へ〜っへへへ・・』

不気味な笑い声を残してまた岸辺は消えた。

「くそっ・・」

初めは好奇心だった。志願した理由は、またあの感覚を・・・生を実感したかっただけ。

生きている事を確認したかっただけだった。ただ・・それを繰り返していくと段々病みつきになってきた。

やめられないとまらない

どこかのCMではないが、本当にそうなってしまった。

その衝動を抑えようと我慢すると気付くと口の中は切り傷で血だらけになっていた。

口の中に広がる血の味・・・自分の血でもいいが、自分以外の血はサイコーに良い。


横たわる死体の傷口に指を当てなぞりその指を口に持ってくる。初めはそれだけで良かった。

気づくと俺は死体の傷口に自分の口を持って来ていた。吸血鬼とは、こう言う奴がいたから広まったのかもしれない。それにこの感覚は人に感染する。傷口を舐め終わり開放感に浸っている時、遠くで他の岸辺が、俺のように死体の首筋に傷を作りから血を吸っているのを見た。

そんな事はお構いなしに息を吐くと白い吐息ではなく赤が混じった吐息が出た。



『康太等の血ってどんな味がするんだろ』

そんな事を考える悠二の顔はまたも口元がニヤニヤとしていた。

「・・・・サイテーだ。俺」




「いや、洋子の父親はいないよ。何でかは知らないけど」

「ほほ〜う、そんな事まで知っているのか、家族付き合いも良好なんじゃないの?」

「バ〜カそんなんじゃねーよ。まぁ俺以外に近所付き合いとか、中村家は無いからな・・・それに唯一、俺の過去を知らない家庭だ」

「康太の過去?」

首をかしげる裕大に、知らなかったのか・・!!と困った表情をする康太。

「こいつ、昔引きこもりだったの。一軒家丸々使って一人で引きこもってたのさ」

「はぁっ?引きこもり?康太が?ありえねー」

勉の補正が効いた話に盛り上がる中、悠二がやってきた。

「みんな、報告が遅れてすまない。・・・ガンズショップ再開だ」

全員の表情が曇った。

「・・・マジ?」

「あぁ・・」

「い、五十嵐は?」

「それも、向こうで報告があるらしい」

「もぅ・・大丈夫なのかよ?」

「・・・ここら辺は、大体一掃した」

頭をかきむしりながらそう言った。

「また、あの戦いも・・」

「それも向こうだ。行ってみないとわからん」

一人を除きガンズショップに向かう、足取りは重たかった。その足の軽い一人とは悠二だ。



店に入ると岸辺の不気味な笑顔が最初に目に入ってきた。

「いらっしゃいませ〜。ようこそ」

「生きてたのかよ」

「死ねばよかったのに」

「俺が殺せばよかった」

受付で立つ岸辺に康太達は一言ずつ言って部屋に向かった。

「いや〜傷つくな〜」

「大して傷ついてもないくせに」

「あっバレた」

悠二もそう言い部屋に向かおうとすると岸辺に呼び止められ、ある事を聞かされた。

「なっ・・・岸辺!!てめぇ正気か!」

受付を乗り越え岸辺に掴みかかった。

「仕方ないだろ、上からの命令だ。それにこの決まりは、昔からある事。お前も知ってるだろ?もちろん、あいつ等だって。むしろ感謝してほしいくらいだ。彼等に飛び火しなかったんだからね」

「だからって関係のない人まで殺すのか?」

「違うよ、今回の設定がこうなっただけだよ。どうする?止める?あいつ等に教える?」

悠二はその場で答えを出す事は出来なかった。掴んでいた手を放し部屋へ向かった。




「はい、みんな揃ってる?報告をいたしま〜す」

全員が下を向き岸辺が言う次の試合内容に耳を傾けていた。

「次の試合、初の道外だから頑張ってね。はい、以上・・・って言いたいとこだけど、一つ報告があります。五十嵐君の事です」

「何かわかったのか?」

口を開くつもりはなかったのに康太の口は勝手に開いた。

「全然、お手上げ状態・・・・それで発信器の履歴から見て死んでるんだし五十嵐君、死亡って事で」

「それじゃ・・洋子は?洋子はどうなる」

「うん、五十嵐君と同じさっき死亡届提出しといたよ」

その言葉に力を失ったのかのように崩れおちる康太。

「いや〜、悪かったね。うちの店員の暴走でこんな事になっちゃって、本来なら警察に届けるはずなんだけど被害者も目撃者もいない。立証する事が難しいって事でこっちで銃殺刑にしときました〜。もちろん全員」

「おぃ!!いい加減出て行け」

勉が銃を岸辺に向け叫ぶ。息を乱しながらも銃は揺れ動く事なくしっかりと岸辺の頭を捕えていた。

「康太、しっかりしろ。死んでるだなんて誰も思っちゃいねーよ」

裕大がそう言い、康太も自分にそう言い聞かせる。岸辺はゆっくりと外に出ていった。

「大丈夫・・・大丈夫だ」

「い、生きてるって、五十嵐も中村も・・ほら・・それにパソコンもまだ詮索中だし」

裕大はパソコンと立ち上げ画面を表示する。だたその画面には、LOSTと言う文字ではなく

ここの周囲の地図を表示し緑の点が動いていた。・・・ただそれに気づいたのは裕大だけだった。

「・・・・生きてる」

「あぁ、わかってるよ。あいつ等は生きてる」

「違う、そうじゃない!生きてる!!ほらこれ」

裕大は腕につけた画面をみんなに見せる。全員が画面にくぎ付けになる。

「どういう事?」

「この店に向かってきてない?」

勉の一言で全員が一斉に部屋から飛び出した。


途中、廊下で岸辺とすれ違ったが「どけっ」そう言って横に突き飛ばした。

店の外は広い駐車場の中、落ち葉が舞い、その中をゆっくりとこっちに向かってくるコートと帽子を深くかぶる男が一人いた。

男はこちらに気づき、深くかぶっていた帽子を外した。

帽子の下から出てきた顔は五十嵐だった。全員の口が塞がらず表情が固まったまま・・・五十嵐も何を言えばいいのか鼻をかきながら考えて

「あ、あぁ〜その・・・ただいま?」


「う・・・うおぉぉー!!五十嵐しぃぃ!!」

固まっていた康太達の金縛りは解け五十嵐に向かって駆け出した。





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