第二十二話 同志の名のもとに
悠二や五十嵐の言うとおり発砲事件の数は一気に増えた。場所も明確にわかるようになり、目撃者も増えた。官僚や議員の暗殺などもあったが、人通りの多い場所で無差別に発砲するなどの事件も多発した。
そして、そいつ等がそろって言う言葉が『同志の名のもとに』
あのニュース以来、多くの反響を呼んだ。あの放送のせいで発砲事件は急増しただの批判を生む中、事件の統一性がない事にニュース番組では、疑問視した内容を伝えていた。
「統率者がいない組織なんだから統一性がないのは、当たり前だ」
悠二のその一言で俺達は納得した。けどそんなにもプレイヤーがいた事に驚いていた。
「プレイヤーって一体何人いるんだ?」
ガンズショップもしばらく営業停止。今は康太の家に全員上がりこんでいる。
「さぁこの街にもすでに何人もいるみたいだしな」
「それより、五十嵐の場所まだわからないのかよ」
五十嵐から体内無線でSOSがあり、その場に向かってみるとやじ馬でごった返し割り込みながら中心に行ってみると路地に四人の負傷者とその場で応急処置をする救急隊員だけで五十嵐の姿はどこにもなかった。
「目撃情報によると女もいたらしいんだが、おそらく中村洋子だろう。ガンズショップの防犯カメラに五十嵐と中村洋子の姿があった」
悠二の言葉に胸が痛む康太
「くそっ五十嵐のやろー」
裕大はパソコンを使って五十嵐のつけた発信器を探しているが、LOSTと言う文字が浮かびあがるだけだった。
「駄目だ・・見つからない。発信器の履歴を見てみたんだけど生命反応が消えてるんだ。多分、五十嵐はもぅ・・・死んだんじゃないかな」
「死んだとしても発信器は当分は通常作動したままだ。どうして、反応しない」
「体内の微弱電流で動く発信器だ。電池切れしてもおかしくない」
「とにかく、ガンズショップが再開してみない事には、何も始まらない」
「くそっ俺達には待つ事しかできないのかよ・・」
「俺、ガンズショップが早く再開しろだなんて初めて思っちまったべや・・」
「とにかく、同志がいつここら辺で活動するかもわからない。外出はなるべく控えるように」
そう言って悠二は、家から出て行った。
「・・・あいつ、外出控えろとか言っておきながら真っ先に外に出やがった」
その原因は、発砲事件が多発しているとはニュースで報道されてもその事件を身近に感じる事がなかったからなのかもしれない。
「まぁ、いいんじゃね?俺もこれから用事あるから帰るわ」
パソコンの電源を切りながら裕大が言った。
「用事って?」
「買い物。そんじゃ、したっけ〜」
「女か・・」
康太の一言でドアノブに手をかけていた裕大が止まった。
「当たりかょ・・」
「えっ・・嘘、マジで?」
「バ〜カちげーょ、妹じゃボケ」
「ほっほ〜う?」
ニヤつく康太に戸惑う裕大
「な・・なんだよ」
「五十嵐から聞いた」
「なにっ!!どれを?」
「冗談だよ、ちょっと引っかけてみただけ。・・・で?五十嵐にどんな事を言ったんだ?どれをって言うくらい秘密を暴露したのか?」
「秘密だ、このボケっ」
そう言って裕大は豪快に扉を閉め出て行った。
「怒ったかな?」
「いや、明らかに照れ隠しだろ。つーかよくわかったな」
「勘だよ、勘。人の恋心なんて見てたらわかるモンよ」
「へぇ〜洋子の恋心はわからないのにか?」
「はぁ?何それ」
「知らないの?今、五十嵐にゾッコンらしいぞ。学校じゃそんな噂が流れてる。こんな状況で言うのもなんだけど、洋子と五十嵐が駆け落ちしたって言う噂まででてるからな」
「うっそ・・?」
「幼馴染は一生、幼馴染なんだよ」
「何それ」
「悠二の名言」
放心状態の康太とそれを見て笑う勉
裕大は未来と一両の列車に揺られながら大きな街に向かっていた。
「・・で?なんで服買いに行くのにあんな街にまで行かなきゃいけないんだ」
「どうせ暇でしょ」
「暇っちゃ暇だけどさ・・・服屋なんてうちの街にもあんじゃん」
「いいの、メーカー品欲しいんだから」
「はぁっ?そんな高いもん買うのか?」
「高いのにはそれなりに理由があるんです !!」
「へぇ〜、俺には理解できん」
「別に理解されたいとは思ってません」
列車は停車するたんびに人がどんどんと乗り込んできた
「・・にしても、今日は、どうしてこんなに込むんだ?」
「知らないの?お祭りだよ。大通りであるみたいだよ」
「ほぉ、祭か」
祭と言う言葉に胸が躍る裕大
「ちょっと、買い物だからね。お祭りじゃないから、買い物だからね」
街に着く頃には、たった一両の列車に人が押し込められていた人が次々と降りてくる中、裕大と未来は、最後に息を切らせながら下りてきた。
「・・・なんで、買い物に行くだけでこんなに疲れなきゃいけないんだ」
「しょ・・しょうがないでしょ・・・お祭りだもん・・」
「俺・・満員電車、初めて乗ったかも」
「私も・・・」
「よし、それじゃ祭に・・」
「買い物です !!」
改札から出ても人の混雑は途絶えることなく逆に人が増えていた。
切符がなかなか買えない人や買えない人にイライラする人。変な銅像の前で待ち合わせをする人や銅像の前でたむろする集団。
浴衣 !!・・の奴はさすがにこの季節、寒くていないが裕大の目は右へ左へと目移りする。
「ちょっと !!」
「ん?おぉ・・悪い悪い」
未来の声に我に帰る裕大だがその時、何やら違和感のある集団が裕大達の横を通り過ぎて行った。
思わず振り返るが、その集団は人ごみに消えた。
「どうかした?」
「・・・いや、何でもない」
少々ふてくされる未来だが、買い物も無事終了した。
「ん〜ちょっと早く終わちゃった。お祭りでも見て行く」
時計を見ながらそう言った
「いや、買い物終わったなら、早く帰ろう」
「どうかしたの?様子変よ」
さっきから違和感が取れなく周りに警戒をする。
「帰ろう、何かやな予感がする」
「ちょ、ちょっと待って」
店から急いで出ようとする裕大の手を掴んで止めた。
「わからないの?どうして買い物に誘ったか」
「ん?何が」
「今日は何の日?」
「何かあった?」
「誕生日」
「ん?未来のか」
「裕大のです !!今頃、家では誕生日の準備してるんだからまだ帰ったら駄目なの」
「そうか、すかっり忘れてた。道理でみんな口数が少ないな〜とか思ってたんだ」
「自分の誕生日ぐらい覚えときなさいよ」
「そうだったな、今日が俺が施設に預けられた日か〜」
「・・そっか、裕大って本当の誕生日ってわからないんだ」
「あぁ、揺り籠に名前以外はなんの置き手紙もないまま、入れられてたらしい。未来は、親の記憶とかあるのか?」
「ん〜うる覚えかな、ちょっとしか思い出せない」
「・・・ってそんな話をしてる場合じゃない。帰るぞ !!」
未来の手を掴み強引に外に出た
「ちょっと人の話聞いてた?」
「家には帰らなきゃいいんだろ。しばらく家のまわりぶらつけばいいべ。とりあえずここ街から出るぞ」
『同志の名のもとに』
裕大の頭の中で誰かがそう言った。そして、それを復唱するように何人もの人が『同志の名のもとに』と続いた。
その声を聞いたのは、裕大だけではなかったらしい・・・共通の周波数を使用しているらしく
回線をオンにしていた人は急に立ち止まったりキョロキョロしたり、空を見上げたりしていた。
「どうかした?」
未来は、周りの異変と裕大の様子に気付き声をかける。裕大の服の下で一気に汗が噴き出してくる。
「マジかよ・・」
「え?」
遠くで小さな火薬が爆発したようなタタタタンと音が鳴る
「あれ?もぅ花火?まだ昼よ」
「違う、行くぞ」
裕大は手を掴んだまま、音が鳴る方とは反対方向に進んだ。
「ちょっと、駅は反対側よ」
「いや、いいんだ」
「帰るんじゃなかったの?」
「いいから」
裕大のように気づいた人は足早に今だに鳴り響く音とは反対側に急いでいた。
「何があったの?」
「同志だ。同志がいる」
「嘘・・」
未来の足が止まった。
「本当だ、共通の回線にあいつ等の声が入ってきた。今鳴ってる音は銃声だ」
しだいに銃声だけではなく悲鳴も途切れ途切れ聞こえてくるようになった。
「さぁ、行くぞ」
「駄目・・・ここに友達がいる。さっきメールがあったの」
「大丈夫だ、きっと逃げてる。それに発砲してる所にいるとは限らない。何ともないって」
それでも動こうとしない未来
「未来!お前が行ってどうする?何ができる、危険に飛び込んでも何も出来ないだろ。とにかく自分が助かる事だけを考えろ」
未来は何かと葛藤しながら無理やり納得させ、こくりと頷き足を動かし始めた。
その時、後ろから人の波がやってきた。
悲鳴や「おぃ、やべーぞ」「逃げろ」など声を発しながらこっちにやってきた。
「未来、逃げるぞ。とにかく人のいない所に」
「うん」
人の波に飲み込まれ、ただ従いながら進んで行くうちに未来はある事に気づいた。
「ねぇ、そっちは大通りよ」
「あぁ?何だって」
「そっちは、お祭りの会場 !!」
「まじか、そりゃヤバい」
どうにかこの波から逃げだそうと周りを見渡が、どこにも抜け道は見つからない。
だが、ふと目に入ったのは茶色いコートを羽織った奴が裕大の横を並走して走っていた。
「こいつ・・」
駅で見た違和感のある集団にいた一人だ。
そう思った時、その隣の男と目があった。しばらくの睨みあいの後、男はコートの中から銃を取り出した。
「おぃ、こいつ銃持ってるぞ !!」
裕大はそう叫びながら男の銃をはたき落とし横の壁に押しつけた。人は男から離れようと、遠ざかるが後ろからどんどんと押し寄せる人波とぶつかり、重なり合うように倒れた。
転がり落ちた銃はオートになっていたのかその場で、暴発し至る所に弾が飛び散った。
重なり合うように倒れた人たちにも銃弾は飛び、一瞬にしてけが人と死体の山が出来上がった。
騒ぎを聞き付け警官が数人やってきて、暴発した弾を腹に喰らっていた男に銃口を向けながら徐々に近づいて行く。
「取り押さえろっ!!」
一人の警官の掛け声で一斉に犯人に飛びかかる警官
「同志の名のもとに !!」
男がそう叫び、何かを地面に叩きつけた。裕大はそれを何かとも確認せずに後ろにいた未来を抱きかかえパトカーの後ろに飛び込んだ。
ものすごい衝撃と爆音で地面が揺れ動き、あたりを見回すと男や警官がいた場所には黒く焦げた跡しか残ってなかった。
「いやあぁぁぁー!!」
未来が何かを見て叫び声をあげた。目の先には、どうぞ見てくださいと言わんばかりか苦痛に歪んだ生首が堂々と立っていた。
「馬鹿 !!見るな」
急いで未来を抱き寄せるが「もぅいや・・」そう言いながら未来は泣き崩れた。
折り重なっていた人々は、落ち着きを取り戻しけが人を助けながら起き上った。
ただ、どうすればいいのかわからず立ち尽くす事しかできなかった。
「おぅ、俺もあの人達助けに行ってくるけど、お前大丈夫だよな?」
未来は声も発さずにただ一度頷くだけだった。
そして裕大は、未来から離れ「大丈夫ですか?」そう言いながら、人ごみの中に入っていった。
人ごみの中、動ける人を集めあれこれと指示をする裕大を遠目で見ながら車がいなくなった道路に座り込む未来。
裕大達がいる歩道とは逆の方で子供の小さな泣き声が聞こえることに気が付いた。
恐る恐る声がする方に近づくと車の陰に座り込み泣いている子供を見つけた。
「大丈夫?お父さんかお母さんは」
泣きじゃくる子供はただ顔を横に振るだけだった。
「じゃぁ、一緒に探してあげよっか。そんな所で泣いてても、誰も気づいてくれないよ」
手を差し出すと子供はその手を取り立ち上がった。
だが、その時、店と店との間の隙間から体中赤く染め銃を持った男が、現れた。
「パパ」そう言ったので、未来は振り返り、その男に気づいた。
「その子から離れろ」
男はそう言い未来に銃を向ける。
「こ、この子をどうするつもりですか」
未来は子供を自分の後ろに運んだ。
「俺は、その子の父親だ」
「だ、だから・・・どうするつもりですか?」
弱弱しくも男に問いかけた。
「・・・殺すに決まってる」
「な・・何でですか?」
「自分の娘だ。どうしようと関係無い !!」
男の声に裕大達も気づいた。周りからはまたパニックになりだす人や「お譲ちゃん、逃げなさい」と無責任な言葉を遠くから投げかける人もいた。
「未来っ !!」
裕大の服の中には銃が隠してある。どうする?出すか、出したらどうなる?
俺も同志だと勘違いされないか?その前に銃を持っている事に怯えられるんじゃないか?
五十嵐だって銃は持っていたはずだ。あいつはおそらく出さなかった。頭の中で色々な思考が飛び交う。銃を出してどうする?あいつを殺すのか?
未来の目の前で人を殺すのか?
「駄目だ・・そんな事」
でも、そんな悠長な事も言ってられない。その時、自分の足元におそらく警官であろう人の
銃を握り締めた手が落ちていた。
裕大はとっさに手を外し銃を構え、男の所に向かった。
「さっさとどけ、お前も死にたいのか」
「い、嫌です。どきません」
未来の後ろで、また泣き始める子供
「どうして父親のあなたが、自分の娘を殺そうとするのですか?」
「その子の両親は、もぅ死んだの同然だ。だったら、そんな重みから解放してやるのが親の務めだろ」
「あなたは、間違えています。両親がいないからってその子が不幸になるだなんて、誰が決めたんですか?」
「お前に孤児の気持ちの何がわかる」
「わかります。私だって孤児です」
その言葉に声を詰まらす男
「おぃ !!未来から離れろ」
銃を構えながら男にジワジワと近づく
「未来だと・・?」
裕大の発言に反応を示す男
「あんた・・同志だろ?今まで、家族を守るために戦ってきたってのにどうして、家族を見捨てるような行為を取ったんだ !!」
銃を未来に向けたまま男は裕大の左手首のリストバンドを見た。
「お前・・・同志か?」
「違う!!この銃は、さっきそこで拾った。どうしてこんな行動と取った!!どうして他の人間を巻き込むような行動を取った !!」
「お前はあのテープを見ても何も感じなかったのか!?最後の娘に宛てたメッセージ、その娘と母親はどうなったか知ってるか?」
「知ってるさ、火災で死亡。しかも、そのメッセージが報道される前日にだ」
「あの人達は、自分の家族よりも俺達同志を奮い立たせることを選んだ。ならばどうして、お前はそれに答えようとしない」
「しらねーょ、そんなもん。あいつらみたく別に捨ててもいい家族だなんて俺は、持ち合わせちゃいねぇ!!」
「・・・どの道、その子は死ぬんだ。だったら、俺がこの手で殺した方がましだ。妻を殺したように」
男は再度、未来に銃向ける
「どけ、これが最後のチャンスだ」
「嫌です」
「止せ!撃つぞ。未来、後ろに下がれ」
裕大が必死に止めようとするが、全く聞く耳を持たない
「俺は、お前のような捨てられた子供がいるように捨てた親を一人知っている。そいつは捨てた事をいつも後悔していた。だが、そいつは必ず最後に決まって言う言葉があった。
『あの子には未来がある、文字通りの未来が』だそうだ。」
「え・・?」
「その未来を俺の手で潰してしまうのは、本当に残念だ」
男の人差し指に力が入る。未来はきつく目をつぶる。
一発の銃声で吹き飛んだのは男の方だった。撃ったのは裕大ではない。裕大も驚いた表情をしていた。そこへ何人もの警官がやってきた。
『大丈夫か?裕大』
頭の無線に悠二の声が聞こえてくる。
『悠二が撃ったのか?どこにいる』
『もちろん、裕大が見える所。そんな事より、その子連れて早く逃げろ。まだ、同志はいるぞ』
『ちょっと待て、なんでお前がここにいるんだ』
『俺は、一応岸辺だぞ。反逆者の清掃命令が下ったんだ』
『・・・清掃だと?悠二、こいつ等を殺すことを清掃だなんて、マジで言ってんのか?』
『その‘清掃’お陰で、お前とその子は助かったんだろ』
倒れる男の横に駆け寄り「パパ、パパ・・朝だよ起きて」そう言って揺する子供
『・・・あの子はどうなる?』
『俺にはどうする事も出来ん。おそらく保護されるか、もしくはその名目で・・』
『止めろ。もぅいい・・・・』
裕大は無線を切り未来の所へ向かった。
「未来・・大丈夫か?」
「うん」
「ごめん、俺には撃てなかった」
落ち込む裕大に未来は首を横に振った。
「撃てなくて良かった。裕大が人殺しになったらどうしようかなんて思ってた」
違う・・俺はすでに何人も人を・・殺してるんだ