第二十一話 ガンズショップ休館
『勉選手vs五十嵐選手 勝者、勉選手』
地面に横たわる五十嵐とナイフを持った勉。
「五十嵐・・どうしちまったんだょ」
「わからねぇ、正直、長距離の狙撃もできなくなっちまった・・・」
「裕大や俺にも負けるだなんて。こりゃ問題だな」
五十嵐が過去を明かしてからしばらく経った。落ち込む五十嵐を元気付けようと企画した一対一の対戦だが、結果は五十嵐の惨敗で終わった。
「ごめん・・今日はここまでにしてくれ」
そう言うと五十嵐はフィールドから出て行った。
『どう思うよ・・』
勉は観戦席で見ていた康太達に聞いた
『どうって、言われてもな・・・ありゃ抜け殻だべ・・』
『目的を果たしちまうと、あぁも変っちまうものなのかね』
『しばらく試合がないからいいけど・・・本調子の五十嵐がいないと辛いぞ』
『まぁ、しばらく様子見るべ・・』
『そうだな』
岸辺は、『いい企画考えてくるからそれまで待ってて』そう言ってしばらく顔を出してない五十嵐もあんな調子で、過去もわかった事だし下の名前を聞いてみると身分証明書を作る時に適当に書いたらしく自分でも読めないと言う事がわかった。
なら、昔の名前は?と聞くと五十嵐は、忘れた!と言い張るし・・・まぁ五十嵐のまんまでいいかという結論になった。・・・残念
この街の地面も白い雪が敷き詰める中、各地で相次ぐ発砲事件に新たな進展が起きた。
それは、おそらく誰もが予想できなかった。出来事だ。
《また発砲事件 !!平和な国日本はどこに?》
雑誌や新聞では未だに一面で載せる中、ニュースでは市民の関心が薄くなっていたせいか報道時間は極端に減っていた。
だが、そんな中
《独占報道 !!犯人からの犯行メッセージ》
四角いテレビの上の方にそんな文字が書かれ昼に色黒のキャスターが緊張な面持ちで原稿を読み上げる。
「これから予定を変更することをご了承ください。今回、我社にこのカードが送られてきました」
キャスターの手にカードが映し出される。
「カードの中には犯行声明と思われる映像が入っていました。これからその映像を皆さんにお見せいたしますが、一部、残酷な場面がございます。苦手な方は、しばらくの間、チャンネルを変える事をお勧めします。それでは、ノーカットでご覧ください」
映像が変わり
一人顔を隠し銃を持った男性が映し出された。
「これもぅ、録画出来てんの?なんか赤いもんが点滅してんぞ」
「いいから早く言えよ」
撮影者の声が入る
「え〜、んー・・・我々は、日本で暮らしながら日本と言う国に売られた人間を代表してこの映像を残そうと思う。そしてこの国で暮らす人にも今の日本で起きている現実を受け止めてほしい。・・・そしてこの国に絶望してほしい。今のままじゃ駄目だそう思って欲しい。そしてそれを変える事が出来るのは、私達ではない。私達と同じ考えを持つ同志達だ」
男性は、左手のリストバンドを外し手首につけた機械を見せるように強調した。
「同志よ、今こそこの国を変えるべきだ。そして我々は忌々しい呪縛から解放されるのだ。自分の持つ銃口を目の前にいる敵ではなくこの国に向けるんだ !!」
男性は一度フレームアウトしロープで身動きが取れない男性を引きずってきた。
「俺達は、この国に宣戦布告する。その証拠としてこれから国の飼い犬を殺す。岸辺・・これで最後だ最後に本当の名前でも言ったらどうだ?」
「う゛ぐうぅっう」
ロープで縛られた男性は必死に体を動かす。
「あぁそうか、俺達お前の顎砕いちゃんたんだもんな。喋れるわけないか・・残念だ」
男性は銃の引き金を引いた。しばらくの静寂の後、男性の腕時計がピピピと鳴った。
「・・・これから、俺達はある事を始める。それは、今起きている発砲事件と関係している事だ。みんなも発砲事件について疑問に思う事がたくさんあるだろう。これから起こる事を見て、何かを感じてほしい・・・・・・OKだ。よし、みんな・・いつも通りやろう」
その時、男性の壁が突然、爆発した。カメラはその衝撃でどこを映しているのかわからなくなった。
その後、カメラがもう一度男性がいた場所を映すと壁にぽっかりと開いた穴から朝日が入り込み、さっきの男性の物と思われる肉片があたりに飛び散っていた。
穴から外を窺うと下には崩れた建物や壁に何人もの人が隠れていた。
「おぃ、みんな聞いてくれ!!」
一人の男性が穴から身を乗り出し両手を上げ外の人に訴えかける。
だが、そんなことはお構いなしに外からの銃弾を浴び男性は倒れた。
「このバカ野郎がー!!」
「おぃ止せ」
撮影者が止めようとするがそれを振り払い、穴から外に向かって撃ちまくる男性は、もぅ一度の爆発でカメラの前で男の体は吹き飛んだ。
その時の血しぶきと土砂がレンズにつき真っ暗で何も見えなくなった。
だが、爆発音や銃声は鳴りやまなかった。レンズの汚れを落とし息が乱れた撮影者が自分を映した。
「いいか・・これは創りもんなんかじゃない。そして、日本で実際に起きている事だ。それなのにこの国はこの出来事を隠している。俺達の後を継ぐ同志がいる事を信じている。・・・信じてるからな」
撮影者は徐に自分のしている覆面を取り素顔をさらした。
その顔は、土で汚れてはいるが二十代後半、凛々しい顔が映った。
「佳代・・ごめんな父ちゃん。夜遅くに出かけて、こんな事やってたんだ。毎回仕事だって、嘘ついて、ほんと・・父親失格だよな」
目に涙を浮かべ鼻をすすりながら話を続ける。
「お前の卒園式にも行けなくて、母ちゃんにはきつく怒鳴られて、佳代には口聞いてもらえなくて、小学の時は無理でも中学の入学式には必ず行くって約束してたのに・・・どうやら、それも果たせそうにない」
誰かが、この建物の階段を上がる足音が聞こえてくる。
「でもな・・佳代にどんなに嫌われようがな・・・父ちゃんは母ちゃんと佳代を誰よりも・・・愛してるからな」
そう言い終わると足音が男性の前でとまり大量の銃声が鳴ると同時に手から滑り落ちたカメラは男性の顔ではなく、血にまみれた全体を映し出しそこでカメラは止まった。
ニュースはそのまま続き、専門家を呼び作り物ではない事を証明するなど、これは一体何なのか、というテーマで雑談を始めた。
『信じているからな・・』
部屋でニュースを見ていて男性が残した言葉に心が揺れ動く康太と勉、裕大だが、
「なんてバカな事をしたんだ・・」
そう口に出す悠二とそれに同感する五十嵐。その態度に勉がキレた。
「馬鹿な事ってなんだよ!!」
「馬鹿な事は馬鹿な事だ!!これで、こいつ等の家族の命は保証されると思っているのか !!
それだけじゃない 同志が集まっちまう !!」
「い・・いい事じゃねーか」
「同志が全員、こう言う奴らだけだと思っているのか!!お前等、今すぐにこの店から出ろ!しばらく落ち着くまで家から外に出るな」
悠二はそう言うと部屋から飛び出した。
「なっ・・なんで?」
理解が出来ない康太達
「同志ってのは、俺達のように全てを知っている者の事だ。そいつ等が、まず標的にするって言ったらどこだと思う?」
「どこって・・ここ?」
「そうだ。てっとり早く狙うならここだろう。けど、ここには確かに岸辺もいるが、俺達や他の関係のない人だっている。それを関係無く殺しにかかる同志がいたっておかしくはないだろ」
五十嵐はそう言うと先に私服に着替え部屋から出て行った。
「待て、五十嵐」
康太が扉を開け呼び止める
「リストバンドも危なくなってきた。銃を装備するの忘れるなよ」
そう言って五十嵐はいなくなった。
出口付近では、こんなに店員がいたのかって言うぐらいの店員が客の誘導をしていた。
「お客様、申し訳ございません。当店はこれより緊急点検を行います。ですからしばらく休業とさせていただきます」
なんて言いながら、数少ない客を外に出そうとしていた。
そんな中、受付前の長椅子に洋子が座っていた。
「あっ五十嵐君・・・」
こんな状況の中、洋子がガンズショップにいた事に驚いた
「・・まだこんな所にいたのか」
「えっ?何が」
「家まで送る。場所を教えろ」
「え・・・?ちょっちょっと」
五十嵐は洋子の肩を抱き、無理やり店の外に連れて行った。
その光景を、横眼にニヤリと笑う口には歯の矯正をしているのか歯に付いた針金が妙に光る店員がいた。
その店員は携帯を取り出し誰かに電話をした。
「へぇ〜そんな事件があったんだ」
家に向かう途中、その事件について洋子に説明しながら、五十嵐は周りに警戒した。
「あぁ、だからあそこら辺は危険だから、しばらく来るな」
「え?あの店とその事件がどう関係あるの?」
「その映像には『同志達』そう言って手首につけた機械を指さしたんだ。その機械は、試合の時につける位置座標特定機に似ているんだ。」
「・・じゃぁ、同志があの店にいるかもしれないって事?」
「そうだ」
「嘘・・康太、大丈夫かな?」
「それは、大丈夫だ」
「ねぇそれより、肩痛いんだけど」
五十嵐は知らず知らず洋子の肩を強く握っていた。
「あぁ、すまない」
「ねぇどうかしたの?キョロキョロしちゃって」
「お前ここから一人でも大丈夫か?」
「え?なんで」
「付けられてる」
「え?」
後ろを振り向くと細い路地で人通りの少ない道なのに二人が同じ方向に歩いてきていた。
「まさか・・考えすぎじゃない?」
「でも用心に越したことはない。この街でも発砲事件はあったんだからな」
「でも、それは駅付近でしょ?ここと正反対の場所だし・・」
そう言う風に言ってみるものの洋子も嫌な空気を感じ取っていた。
向こうには道が二つに分かれる場所があった。
「俺がどうにかするから、あそこまで行ったら家まで走れいいな?」
「うん・・わかった」
だが、向いの道からまた一人現れた。洋子もそれに怯え、歩きながら五十嵐に強くしがみつく
「そのまま・・まっすぐ行くぞ。向かいの奴は関係無いかもしれない」
後ろの二人は五十嵐達と一定の距離を置いたまま、歩くだけだが、向いの一人は段々とこっちに近づいてきた。
分厚いコートを羽織り毛糸の帽子を深くかぶっている。互いにすれ違った瞬間、男の手が動いた・・・
とっさに五十嵐はそいつの手を掴むが男の手にはナイフがあった。
「今だ !!走れ」
五十嵐の合図とともに洋子は一目散に走った。男は掴まれていない手で五十嵐に抵抗するが、五十嵐は掴んだ手をそのままにし背中に回り込み腕を固めた状態で、電柱に男の顔をぶつけた。
男が怯むと同時に五十嵐は男を背中から地面に叩きつけた。
「がぁっ!!」
受け身もまともに取れなかった男はその場で気を失った。
後ろにいた二人も遅れて五十嵐に襲いかかってきた。一人を蹴り飛ばすと、もう一人を捕まえ
先ほどのナイフをそいつの喉に突きつけた。
「動くな。動くとこいつを殺す。俺に何の用だ」
蹴り飛ばされた男はゆっくりと立ち上がった。
「わかってんだろ?俺達は同志だ」
「同志が俺に何の用だ」
「もち、スカウト」
「違うだろ」
「何が?」
「いくらなんでも早すぎる。これも、リアルウォーか?」
「まさか・・・一般市民を巻き込んでする訳ないだろ」
「岸辺にそう言えと言われたのか?」
「そう・・・・って言っちゃった」
「なら話は早い」
五十嵐のナイフの先端が少し喉にプツリと入る。「ヒッ・・」敵は思わず息をのむ。
「おぃおぃ、そんな事しちゃっていいのか?」
敵は後ろを指さす。振り向くと首を腕で掴まれ銃を頭に突きつけられた洋子がいた。
「もぅ一人いたのか・・」
「残念でした。これで立場は対等だ」
「彼女は関係無い、放してやってくれ」
「関係無いって言われても俺達の本当に目的は君じゃなくて彼女だ」
男は、五十嵐を通り過ぎ、洋子の方に歩み寄った。
「この頃、寒くなってきててね。そろそろ温もりが欲しいかなって思ってさ」
男は洋子の頬を指でなぞる。嫌がるそぶりを見せる洋子の顔を掴んだ。
「俺達は別に同志なんてどうでもいい。ただ、同志の名前が欲しいだけだ。だからこれは、同志の名において正義の行動だ。おそらくこれからドンドン同志が集まり行動を起こす。これはそんな中のちっぽけな事件だ」
「・・・何が正義だ」
「ぁあ?」
「これが正義だと言うのか?」
「もちろん。ほら、早く俺の同志を開放しろ」
男は洋子の顔の横でナイフをチラつかせる。五十嵐は言われるがまま男を開放した。
解放された男は、固められていた腕を振り回しながら異常がないか確かめ、その腕で立ち尽くす五十嵐を殴った。
「五十嵐君 !!」
半分叫び声が混じった声で洋子が叫んだ。
「うるせぇ!!黙ってろ」
銃を突きつけた男がさらに強く銃を突き付ける。だが、洋子は首に巻きついた腕に思いっきり噛みついた。
「がっ・・このクソ女!!」
噛みつく洋子を振りほどき蹴り飛ばした。
「くそ野郎が、何もしなきゃキレイなまま帰そうと思ってたのによっ !!やっぱヤメだ」
ボキッという低く鈍い音が鳴り響き、さっきまで五十嵐を殴り続けていた奴が五十嵐の足元でブラリと垂れ下った片腕を抱え込みながら蹲っていた。
「おぃ・・キレイなままってなんだ」
五十嵐の表情は今までにないくらい怒りに満ち溢れていた。
「てめぇ」
五十嵐は何の躊躇もなくもう片方の腕を持ち、反対方向に踏みつけた。
男は、叫び声を上げる。五十嵐はそいつを壁に向かって蹴り飛ばした。
「キレイなままってなんだ」
五十嵐は二人の男の方に歩み寄る
「それ以上、近づくな!!この女がどうなってもいいのか」
「お前こそ、そいつに手ー出してどうなってもいいのか !!」
「っざけた事、言ってんじゃねーぞ」
男は銃を取り出し五十嵐に向けた。
「おめぇは同志なんてどうでもいいって言ってたな」
「・・・それがなんだ?」
「それにゃ俺も同感だ。今は目の前の事にしか興味はねぇ」
五十嵐はそいつの銃を奪おうと体を密着させた。奪い合う間に一発銃声が鳴りながらも五十嵐は銃を奪い男の両足に弾を撃ち込んだ。
残り一人、五十嵐がそいつを睨みつけると洋子を盾に男は五十嵐に銃を向けた。
五十嵐は持っている銃を捨てまたゆっくりとこっちに進んできた。
「く・・来るな!!」
銃を持つ手はガタガタと震えはじめた。遠くではサイレンが鳴り始める。震える口からは歯に付いた針金が見え隠れする。
「・・・撃ってみろよ」
ズカズカと歩み寄る五十嵐に向けて男は遂に引き金を引いた。
だが五十嵐の腹部に当たったものは、ただのBB弾だった。
その瞬間、五十嵐は男に飛びつき洋子から突き放した。
「ご免なさい、ご免なさい、ご免なさい・・」
形勢が変わった途端、男は土下座し始めた
「ほんと・・言い出したのは僕じゃないんです。言いだしっぺはそこで伸びてる奴で僕じゃないんです」
五十嵐は、そいつの顔面を蹴り上げた。
「おぃキレイなままってなんだ」
「へ・・?」
「キレイなままって何だって聞いてんだよ !!」
五十嵐は謝り続ける男の顔を休むことなく踏み続けた。何度も同じ質問をぶつけるが男はただ謝るだけだった。
「五十嵐君 !!もぅやめて」
洋子が後ろから五十嵐を止めに入るまで五十嵐は男を踏み続けていた。
男の顔は、真っ赤に腫れあがり意識はすでに失っていた。
「あぁ・・すまない」
後ろを振り向くと俯いたまま黙る洋子が下にいた
「大丈夫か?・・洋子」
洋子は何も言わず五十嵐に抱きついた。
「よかった・・本当によかった。五十嵐君、私のせいでお父さんみたく、また死んじゃうんじゃないかと思って」
「・・・あっ、わりぃ・・大丈夫じゃないのは・・・俺らしい」
五十嵐は洋子に寄りかかるように崩れた。
「五十嵐・・・君?」
その時、洋子は自分の手に血がべっとりと付いてる事に気づき、銃の取り合いの時のあの銃声が頭の中を過ぎる。
薄れる意識の中、洋子が横で泣き叫ぶ所を見ながら、五十嵐は目をゆっくりと閉じた。