第十八話 死と隣り合わせの生の輝き
「おはよう、悠一」
扉を開け、歯が抜けた岸辺が悠二の部屋に入ってきた。
「だましてて悪かったな。本当は、俺は悠一じゃない」
「ねぇ〜びっくりしたよ。だから、悠一君じゃないって事がわかったから君、保護対象者から外されたから」
「あぁ、別にかまわない」
岸辺の話に全く反応しない悠二
「少しは反応してよ。嘘だよ。プレイヤーに戻るんならちゃんと保護しないとね。でも、ここからは本当の話、あのチームの担当これから俺だから」
岸辺は歯を見せるよう笑った。あいつが笑う時は、本当の事を言う時だ。
「どうして !?担当から外されるような事をした覚えはない」
「今まで前例がない事をやった時点でよっぽどな事をしてるんだよ」
「お前みたいな奴があいつ等の担当、務まるのかよ」
「うん、大丈夫。プロテクターとかフル装備していくから試合の報告あるから部屋にみんな集めといて」
岸辺はそう言うと部屋から出て行った。
「はい、全員揃った?」
岸辺が部屋に入ると全員から睨みの効いた視線が集まった。
「今回は、森林と市街地が合わさったフィールドです。森の中に小さな建物がポツポツとしてる感じだね。えぇ・・と、あと2週間後、雪積もってるかもしれないね以上、連絡終わり。今回の敵は」
話を続けようとする岸辺に勉が割って入った。
「おぃ、報告終わったんなら。さっさと出てってくんねーかな」
「そぉ・・残念だ」
本当に残念そうに岸辺は部屋から出て行った。
「みんな・・悪かった。まさか担当を外されるとは思ってもいなかった」
「仕方ねーよ。それより、対策を練ろう。岸辺・・じゃない悠二が新しく入ってきたんだ。
配置場所も考えないといけないだろ」
「巣の形は今まで通り。左右に裕大と勉、正面に俺、そして離れた所に五十嵐、悠二・・で、どうだろう」
話し合いの結果、それ以外にも何通りかの配置を考え話し合いは終了した。
「今日は、ここまでにするべ」
「わかった、みんなメインゲート集合で」
フィールドに移動しシュミレーションを一通り終え一段落ついた頃には、窓から見える外は真っ暗になっていた。
「冬って日が落ちるの速いから、ヤダよな」
「確かに、でも俺は冬の空の方が好きだな。朝は青空が濃く見えるし夜は星がなまら奇麗に見える」
廊下から外を覗きながら康太と勉が言った。
「いいねぇ、ロマンチストコンビ野郎」
「はぁっ?ロマンチストのどこが悪い。機械オタクのお前よりはマシだね」
「いくらロマンチスト野郎でも相手がいないだろ。バ〜カ」
「そ、そりゃお互い様だ !!」
「はぁっ?俺にはいます〜」
「このシスコン野郎 !!」
「シスコンじゃねー!!フェミニストだ!!」
笑ってるんだか、言い争ってるんだかわからない会話を外から眺める悠二。
「何、見物人気取りしてるんだよ」
あとから来た五十嵐に言われた。
「いや、みんな笑顔が絶えないなって思ってさ、俺達のチームは生き残るにつれて必要最低限の会話だけで、こんな風に笑顔なんて誰も見せなくなっちまったからな・・・」
「確かに最初、見た時はこいつ機械なんじゃないか?って思うぐらい無表情だったからな」
初めて悠二が登場した時は確かにそうだった。
「そりゃお前もだろ。今より口数は絶対に少なかった」
「そうかも知んないな・・・」
「けどみんな無理して笑ってるんだなって、今改めて感じたよ」
いつ死ぬかわからない。それに、今まで一体何人の人を殺したのかもわからない・・・
そんな事は、今は忘れたい・・だからみんなで馬鹿騒ぎして気を紛らわす。
そんな事、後から考えれば意味のない事でも今はすごく重要な事。
それを全員が分かっているから、馬鹿になれる。そんな事を考えながらこの風景を見ると、とても悲しいようで美しくも感じる。
「おぃ、悠二 !!」
「ん?なんだ」
「まさか・・彼女とかいないよな・・・いつも彼女とよろしくやってるって事はないよな?」
「あぁ、なんだそんな事か・・・もちろん、よろしくやってるぞ」
全員の表情が一気に崩れる。
「・・・いや、冗談だ冗談」
「あぁ・・・まぁ、そうだよな・・・こんなおっさんに彼女なんて、いるわけないよな・・・聞いた俺がバカだった」
「おぃおぃ、それどういう意味だよ」
「さぁ、みんな帰るぞ」
「おぃ、無視するな !!」
そんな感じで受付の前を通り過ぎる中、受付に座る岸辺に五十嵐は呼び止められた。
「次の試合楽しみだね」
「それは、あんただけだ」
「そうでもないさ、次の試合。君も楽しみになるはずだよ」
「何が言いたい?俺が人殺しを楽しんでるとでも言いたいのか?」
「そうじゃない、敵のチーム名聞きたい?」
「別に」
そう言って立ち去ろうとした。
「あっそう、残念だ。君の為にこの試合を俺が設定してあげたのに・・」
「チーム名を聞かせろ」
何かに気づいた五十嵐は表情が一気に変わり急に足を止め振り返りながら言った。
「・・・やっぱり、内緒」
岸辺は五十嵐に向かってニタニタと笑って見せた。
五十嵐はとっさに岸辺の胸倉を掴み殴ろうとしたが岸辺は入口の方を指さす。
入口を見ると洋子が店に入ってきている所だった。
「残念でした」
岸辺が笑いながらに言う。五十嵐は深くため息をつき手を離した。
「あっ五十嵐君・・」
洋子は五十嵐に駆け寄ろうとしてたが、五十嵐は無視しそのままミーティングルームに入っていった。
「え・・ちょっと五十嵐君?」
後を追おうとする洋子を岸辺が止めた。
「お客さん、受付をしてもらわないと困ります」
「いや、そうじゃなくて、友達が今そこに・・」
「とにかく、受付をしてもらわないと困ります」
「え・・そんな。この前の人は入れてくれましたよ」
そう言っているうちに五十嵐はいなくなっていた。
「はぁっ?五十嵐の様子がおかしい?」
康太が家に帰るとさっそく向かいの窓から洋子が話しかけてきた。
「うん・・・声聞こえてたんだと思うけど無視して行っちゃったの」
「そりゃしつこいお前に愛想尽かしたんじゃないのか?」
「五十嵐君がそんな態度取るわけないでしょ。五十嵐君は誰とでもフレンドリーになるんだから」
「いや・・・それはないだろ。声もそんなに出さないし無愛想だし」
「そんな事ないもん。ただみんなが怖がって話しかけないだけだよ。話しかければちゃんと受け答えしてくれる人だよ五十嵐君は!」
「まぁ確かにそうかもしれないな・・・」
「とにかく、悩みとかあるんだったらちょっと相談にでも乗ってあげなさいよ」
「あいつが悩みを相談してくるわけないだろ・・・」
「康太が聞けばいいでしょ!」
「なんでムキになるんだよ・・・まぁ気が向いたらな」
洋子にそんな事言われながらも聞くのをすっかり忘れ、2週間が経っていた。
「・・・今回の敵は五人だ。五十嵐と悠二は、見晴らしのいい場所を見つけて俺達を援護してくれ」
紙を見ながら康太が言う。
「・・・おぃ、敵のチーム名はなんだ」
五十嵐がいつもよりでかい荷物をなぜか肩にかけながら聞いてきた。
「いや、それがさ漢字、俺苦手だろ?読めないんだよ」
五十嵐は紙を奪いしばらく眺めると森の中に入っていこうとした。
「えっ?おぃ !!五十嵐どこに行く気だ」
康太の声に全員が気付き作業を止めこっちを見る。
「悪いが、今回俺一人でやらせてくれ。万が一俺が死んだ場合、悠二を俺の代わりにしていつも通りやってくれ」
「何言ってるんだ、それに試合はまだ始まってない」
「もぅあいつ等はセットを始めてる。先を越されるわけにはいかない。・・・あいつを倒せるのは俺だけだ」
そう言うと、五十嵐は森の中に走っていき、森の中に消えた
「おぃ五十嵐 !!」
後を追おうとするも五十嵐は一瞬にして見えなくなってしまった。
「康太、一体何があった?」
「わからねぇ、ただ敵のチーム名見た瞬間、あぁなっちまった」
悠二は落ちていた紙を拾い敵のチーム名を見た。
「マジかよ・・・くそっ岸辺め。最悪だょ・・最悪の相手だ」
ため息をつきながら悠二はうなだれた。
「なんだよ一体。悠二、知ってるんだろ隠し事は無しだ!!教えろ」
悠二が持つ紙のチーム名には『梟』と書いてあった。
「なんて読むんだ?これ」
裕大が首をかしげる。もぅここまで来てしまったら話すしかない悠二はそう思い口を開いた。
「チーム名はフクロウだ。チーム梟五十嵐の前のチームの名称だ」
「前のチーム・・?って事は、あいつはリアルウォーを知っていたのか?」
「違う、そうじゃない。あいつは・・・・五十嵐は、創られた戦争・偽りの戦争の体験者だ」
「は・・・?」
「あいつは、傭兵だ。少年兵を中心とした、傭兵軍団の一人だったんだ」
傭兵?少年兵?突然そんな事を言われても理解が出来ない。
「なんで?あいつ日本人だろ?」
「父親は日本人だ、母親はわからん。昔の国籍は日本だが今は国籍不明だ。国籍変えて傭兵になったはいいがその国は滅んじまった。」
「でも、日本で生まれたんだろ?」
「だが、小学生になると同時にあいつは、父親と一緒に国を出た。正確には父親に連れてかれた。国籍を抹消され、少年兵として戦地で育てられてる」
悠二は腰を下ろしみんなは、とにかく今の状況を理解しようと悠二に耳を傾ける。
「父親は、その傭兵軍団の責任者だったんだ。自分の育てた部隊を諸外国に売りまくる。そして、自分の子供までも他の国に売ったんだ」
五十嵐が言った『国に俺達を売ったんだろ?いくらだった?』そんな言葉が、頭の中をよぎった。
だが、それ以外にも何か悪い予想が浮かび上がってきた。
絶対に聞きたくはない・・けど、康太の口が勝手に動いた。
「その父親の名前って・・・」
「わかっちまったか・・」悠二は独り言をつぶやき続けて言った。
「・・そうだ。紹介者の名称のモデルになった男。父親の名前は岸辺 悟だ」
全員の胸に何かが突き刺さるような、締め付けられる思いがあった。
「どうやって日本に戻ってきたかは知らないが五十嵐と名前を変えて、おそらく父親を殺す。その復讐心だけであいつはこれまで生きてきた」
みんなそれぞれの考えを思い浮かべながら沈黙が続いた。
そんな中、またしても無線が入った。
『こちら、チーム梟 応答願います』
「止せ、出るな。向こうの戦術だ。戦闘意欲を下げようとしてくる」
悠二が、頭を抱えながらそう言った。だが、勉が突然、無線を取った
「岸辺っ !!今そこにいるのは、てめぇか!!」
しばらく、向こうからは何も聞こえなかったが無線がつながった
『驚いた、俺の名前がバレてるだなんて・・・君は誰だ?』
「お前は!!自分の息子をなんで国になんか売れるんだ」
悩んでいるのか戸惑っているのか、そんな声が無線から聞こえた。
『・・・・君は誰だ』
「お前は家族をなんだと思ってるんだ!!」
『会話が成立していないな・・・今は私が質問しているんだ。君は誰だ』
「お前が先に俺の質問に答えろ!!」
『ようやく会話が成立した。息子をどうして国になんか売ったか?なんて言ったね?
それは、俺の息子だからだ。俺の最高の遺伝子を受け継いだ子供だからだ』
訳の分からない返答に沈黙する中、悠二が説明を始めた。
「岸辺はある障害を持っていたんだ。症状は、夜盲症と逆の状態だ。夜がまるで朝かのように見えるらしい・・・だから朝は、逆に眩しすぎて裸眼だと失明する恐れがある。おそらく五十嵐もそれを受け継いでいるんだろう」
『・・さぁ、答えたよ。次は君の番だ。君は誰だ』
『俺はあんたの息子だよ』
無線から五十嵐の声が聞こえてきた。「五十嵐っ!!」勉が無線を取ろうとしたが、康太に止められ無線からは五十嵐と岸辺のやり取りが続いた。
『久しぶりだな、親父。俺はあんたを殺すためにこれまで生きてきた』
『ほぉ、久し振りだな。そうか、やっぱり生きてたか』
『あいつ等の仇を取ってやる』
『仇?何を言ってる?あいつ等を殺したのはお前だろ』
『そう仕向けたのは誰だ。お前だろ!!』
『そうだ。だが、最終的に判断するのはお前たちだ。お前について行った仲間まで殺したしもんな・・・』
『違う、あれは俺が殺したんじゃない』
『どこが違う?あいつの頭の吹き飛び方は俺が渡した、お前の銃でしかありえない最後の最後に裏切られたあいつはどういう気持ちだったんだろうな?』
おちょくるような声が岸辺から聞こえる
『・・・あと、10分で試合開始だ。今のうちに念仏でも唱えとけ』
『お前、俺を殺せるとでも思っているのか?』
『そっちこそ、俺なしでその戦闘システムがちゃんと発揮できると思っているのか?』
『お前の穴なんて機械と俺で埋める事が出来る』
『・・・未来予想をしてやるよ。その無線がお前の姿だ』
無線から銃声と同時に岸辺の無線が途絶えた。
『あんたに恐怖を植え込んでやる』
そう言うと五十嵐の無線は、それ以降つながる事はなかった。
ピピピと腕時計が鳴った。試合開始の合図だ。