第十五話 担任が変わった
一部、暴力的な表現が含まれると思います。苦手な方はご遠慮ください。
「敵は俺を含めて六人だ。全員、他の階を単独で詮索している。職員玄関に俺の車がある。
そこまで、誰にも会わないように祈ってな」
先生を先頭に廊下の真ん中を堂々と銃も手に持たないで歩いていた。
「先生、やっぱりこれってどうかと思うんですけど・・・」
「うるさい、お前達が、学校に隠れていた方が悪い。隠れて歩けば逆に怪しまれる」
裕大は、本当に大丈夫かな?と思いながらも意外とスムーズに職員室まで来れた事に驚いた。
だが、二階と一階をつなぐ階段で敵と遭遇してしまった。どこからどう見ても禿げた中年太りのおっさんで私服姿は毛糸のセーターを着て緑のズボン。・・・とりあえずビミョー
「よぉ、いたか?」
先生は、敵に話しかける
「いや、見つからん。・・・と言うよりそいつら誰だ?」
声は明らかに裕大達を疑っている
「こいつ等は、俺の教え子。スリリングがどうとか言って学校に隠れてたんだよ。いや問題児でさ〜それで、今からこいつ等、家に届けようと思ってさ」
未だに俺達から目を離さないおっさん
「先生、お知り合いですか?」
「ん?あぁ、自警団の人で中島って言う人だよ。先生以外の人たちにも、ここら辺を巡回してもらってるの・・・なっ !!」
「ん?あ、あぁ・・いや、まさか、あんた公務員とか言ってたが教職だったとは知らなかったよ」
「それじゃ、俺こいつ等、家まで送ってくるから、みんなにそう言っておいて」
先生の後についておっさんの横を通り過ぎ階段を降り終わった時、またしても、おっさんが話しかけてきた。
「おぃ、本当に違うんだろうな?」
「そんなに信じれないならレーダー使って調べればいいだろ」
先生がそう言うが一体何の事かさっぱりわからなかった。
「あぁ、そうさせてもらう」
おっさんは、何かを取り出そうと初めて目を俺達から離した。
その瞬間、五十嵐と先生が動いた。五十嵐がおっさんの片腕と頭を掴みうつ伏せに倒し先生はすばやく銃を抜きおっさんに向けた。
「な、何のつもりだ」
「凄いだろ、俺の教え子だ」
五十嵐は、そのまま首を絞めつけおっさんの気を失わせ立ち上がった。
「・・・何をしている」
先生が五十嵐を問いただした。
「何って落としただけですよ」
「違う、そう言う意味じゃない」
そう言うと、先生はその場で伸びているおっさんの頭を思いっきり蹴りあげた。
ゴキッと言う鈍い音を上げおっさんの頭は首がある位置からズレておっさんは呼吸も何もしなくなった。
その光景に裕大は息をのんだ。
「先生、何やってるんですか !?仲間でしょ」
「さっきも言ったはずだ。説明してる暇はない行くぞ」
先生は何事もなかったかのように進み始めた。
職員玄関までたどり着き先生はすぐに外に出ようとした。
「先生、止まってください」
先生の肩を掴みそう言ったのは五十嵐だ。
「屋上に狙撃手がいます」
だが、五十嵐は外を一度も見ずにそう言った。
「どうして、そう思う?」
「俺ならそうします」
先生は、玄関にある鏡を叩いて割りその一枚を取り出し鏡で屋上を窺うと確かに人影があった。
「本当だ。よく気が付いたな」
「まぐれです」
「よし、一度二階に上がってあいつを殺そう」
そう言って先生は来た道を戻ろうとした。
「待ってください先生、仲間をまた殺すんですか?」
裕大の問いかけには先生は答えてくれなかった。
「先生っ!!」
「待て、裕大。多分先生達は、チームなんかじゃない」
「その通りだ。五十嵐、読みがいいな。」
まだ理解が出来ない裕大
「つまり寄せ集めチームだ。全員が単独で行動してる」
「正解 !!成績表をオール5にしてやりたいくらいだ」
裕大は、笑いながら廊下の真ん中を堂々と歩く先生が変に見えてきた。
二階の職員室に入り先生の席からなんと組み立て式の狙撃銃が出てきた。
「五十嵐、出来るか?」
「はい」
先生はその他にも色々な所から銃を取り出した。
「凄いだろ、これ全部、山岸先生の形見だ。こうなる事を先読みしてたのか、職員室に隠しておいたんだろう。」
五十嵐は、狙撃銃をテキパキと組み立て始めた。その間、裕大はハンドガンからサブマシンガンに変え先生とともに廊下の監視をした。
「どうした、裕大?様子がおかしいぞ」
「いえ、ただいつもの先生と違うような気がして」
「あぁ、俺もそう思う」
「寄せ集めのチームってどういう事ですか?」
「ただその通りだ。寄せ集めだ。俺の本当のチームは、もぅみんな死んだ・・・・俺一人生き残っちまって、そんな俺を今の岸辺は、俺みたく一人生き残った奴を集めてチームを作ったんだ。一人でも生き残っちまうような奴等だ。運にせよ実力にせよ、腕は確かだからな。・・・ただ、団結力も人としての心も無いけどな」
「組み立て終わりました」
五十嵐は、身を隠しながらゆっくりと窓を少し開き、開いた窓の隙間から銃を少しだし屋上の敵に銃口を向けた。
「チェック」
スコープのしぼりを最終調節に入る
「チェック」
五十嵐の泳いでいた人差し指が、引き金に吸い寄せられるように動いた。
「チェック」
一発の銃声で銃があった両側の窓ガラスは割れ、敵の頭が吹き飛んだ。
「さぁ、行きましょう」
五十嵐は狙撃銃を構えそう言った。
「おぃおぃ、この窓ガラス安もんじゃないか?実際なら強化ガラスのはずなんだが?」
先生の話は無視し裕大と五十嵐は、廊下の様子を窺う・・・やはり銃声に気づき足音が聞こえる。
「・・・ここは、俺に任せとけ」
先生が、そう言うと職員室から堂々と出て行った。廊下の突き当たりから二人の敵が出てきた。
「おぅ、俺だ。撃つな」
両手を上げ敵に向かって歩いて行く
「お前か?撃ったのは」
「違う、職員室に生徒が二人隠れてる俺の教え子だ。俺には殺せないだから行ってくれ」
「ハッ、根性無しめ」
先生を鼻で笑う私服を着た二人は、銃を構えこっちに向かってきた。
裕大は耳を疑った・・・先生が俺達を売った?
だが、敵が先生を通り過ぎた瞬間、先生は二丁、銃を取り出し敵に向かって撃った。
一人は、即死だったようだが、もう一人は、撃たれた右肩を抑え壁によしかかるように腰をついた。
「何すんだよ・・てめぇ」
「俺は、教え子は撃てないが、お前らなら簡単に撃てる」
先生の一発で、出血をする右肩を抑えていた左手はダラリと落ちた。
「・・お前等、いつまで職員室に隠れてるんだ。さっさと行くぞ」
その言葉で我に返った裕大と五十嵐は先生の元に急いだ。
先生の元に向かう途中、廊下の突き当たりから、また新たに敵が二人やってきた。
「先生っ !!」
先生が振り返った時には、もぅ遅かった。敵は先生に銃口を向け引き金を引いた。
その場に崩れる先生、裕大と五十嵐は、敵に銃口を向け引き金を引いた。
一人は裕大の大量の弾を浴び、もぅ一人は後ろの白い壁を自分の頭から噴き出た赤いもので染め上げ倒れた。
「先生、大丈夫ですか?」
裕大が駆け寄る中、先生は、右のわき腹を抑えてその場でもがいていた。
五十嵐は、先生を抑えつけ服を捲りあげた。血で赤く染まる腹を服で拭うと臍の少し上のあたりが、くっきりと小さな穴が開いていた。
だがそれも一瞬にしてあふれる血で見えなくなってしまった。
「裕大 !!きっと説明書の事だ。職員室のどこかに止血剤とかあるはずだ探して来い」
五十嵐にそう言われ、裕大が立ち上がろうとした時、先生は、裕大の足を掴んだ。
「俺の車のトランクの中・・」
裕大は、外に出て先生の車を探し出しトランクの窓ガラスを銃でたたき割った。
トランクの中には、色々な箱が入っていて、どれかわからないので全部持って五十嵐の元に急いだ。
五十嵐は、白い粉袋を歯でちぎり傷口にぶっかけた。
「ーーーーーっ!!」
先生は、声にならない悲痛な声を出した。五十嵐はすばやく丸めた布を先生の口に入れた。
「何やってるんだ?」
「このままだと、舌を噛み切ってしまうかもしれない。だから、布を口に入れたんだ。そこの鎮痛剤を取ってくれ」
「鎮痛剤?どれ」
箱の中は、整頓はされているがどれがどれかさっぱりわからない
「お前、そう言うのは、ちゃんと調べておけよ。」
「そんなのわかる訳ないだろ。」
「よし、先生をガンズショップに連れてこう。このままじゃヤバい。たぶん岸辺がどうにかしてくれる」
五十嵐と裕大は先生の両肩を担ぎなんとか、一階まで下りた。
「・・ちょっと、よってほしい所がある」
そう言われ先生をボイラー室に連れて行った。
「先生、ここに何かあるんですか?」
「いや、ここには何もない。ただこの上にいる」
そう言うと先生はボイラー室に隠していたのか銃を取り出し上に向かって発砲した。
天井にいくつもの穴があき上の階から悲鳴が上がった・・・
先生は悲鳴が聞こえた瞬間、脇腹を押えボイラー室を飛び出した。
「先生っどこに行くんですか!!」
追いかける裕大と五十嵐は、この上に何があったか考えてた。
「・・・確か放送室?」
二階に上がると先生は放送室のドアノブを取り開こうとしていた。すると、小さなサブマシンガンの銃声が聞こえ放送室のドアと先生に大量の弾を浴びせた。
「そんな・・もぅ敵はいないはず」
訳の分からなくなり立ち尽くす裕大。五十嵐は、先生の所に駆け寄る。
だが次の瞬間、放送室のドアを蹴破り全身を血で赤く染め奇声を上げた男が日本刀を持ち現れ五十嵐に襲いかかった。
「ウラッ・・オラッ !!」
我武者羅に振り回す刀を巧みにかわし振り下ろした刀が地面に刺さった瞬間
刀を片足で押さえつけ、血まみれの男の顔面に強烈なパンチを喰らわせた。
先生は、壁伝いに立ち上がり、その場に倒れる男の所に歩み寄った。
先生の体は、弾を浴び赤く染まり始めていた。
「よぉ、岸辺・・・あんたの事だ。どこか近くで俺たちの戦いを見てると思ってたぜ」
その場で倒れる男は、何が楽しいのか突然笑い出した。笑う男に先生は、話を続ける。
「お互い変態らしいな・・・こんな殺傷能力のない銃を撃った所でよほど当たり所が悪くない限りすぐには死にやしない銃を選びやがって・・・そんなに人が苦しむ姿が見たいならな!
・・・お前もその痛みを味わえっ !!」
先生は、落ちてる刀を拾い男の右手を切り落とした。
「あ゛ぁあぁぁあ !!!」
さっきまで笑っていた男は叫び声をあげた。先生は、切り落とした手を拾い男の口に突っ込んだ。口から切り落とされた手を取ろうと左手を伸ばすが先生はそんな左手を足で踏みつけ喉元に刀を突き付けた。
「オラッ !!食えっ岸辺 !!食ってみろっ !!」
涙を浮かべる男は、顎を震わせながらも自分の手が入った口を閉じようとした・・・
一発の銃声が鳴り男は動かなくなった。・・・撃ったのは五十嵐だ。
「五十嵐、何考えてるんだ」
五十嵐に向かい低い声で言った。
「あんたこそ、何考えてるんだ」
目をカッと開き先生を睨みつける・・・
「あんたに鎮痛剤を入れたのが間違いだったようだな、あんただって実際なら全身に痛みが走っているはずだ。先生は人の痛みがわからなくなってしまったのか?」
「いいんだよ、どうせ・・」
先生は突然、何かに気づいたのか口を詰まらせその場で腰を落とした。
「なんてこった・・俺もあいつ等と同じになっていたのか」
片手で頭をかきむしりながらそう言った。
「先生・・どうしてあんな事を」
裕大が、先生に聞いた。
「お前達は、今までこういう事はしてこなかったのか?」
「当たり前です」
「そうか・・俺達のチームは違った。前のチームじゃないぞ、今のチームだ。無抵抗の奴に対しては、もっと酷かった・・もしそれが女だったら、みんなで使いまわしにしたりもしていた」
「まさか・・先生も?」
「・・・・それは、お前たちの想像に任せる・・・いつかの試合が終わった時、俺はみんなに聞いたんだ。五十嵐と同じように『どうしてこんな酷い事が出来るんだ?』・・そしたらあいつ等はこう言った。
『別にいいだろ、どうせ殺すんだから』
・・・・・俺は、そん時思った。あぁ、俺とこいつ等は違う生き物なんだって・・でも俺は五十嵐にその質問をされて全く同じ回答をする所だった。所詮、俺もあいつ等と同じ生き物になっちまったってことか・・・こんな生き物なら俺は簡単に殺せると思った時点で俺もそんな人間になってたのか」
「けど、俺達を助けようとしてくれました」
「いやただ、あいつ等を殺す機会が巡ってきたと思って協力しただけなのかもしれない。それに助けようと思って行動してたとしても俺は最後に自分のわがままでお前達を危険にさらした。・・・・教師として失格だな」
そう言って先生は瞼を閉じようとした。
「まだ寝ちゃ駄目だ」
五十嵐が先生を揺さぶる
「レーダーってなんですか?先生は、俺達が知らないことを知っている。何でもいいから教えてください」
「岸辺に・・・聞・・け」
それが先生の最後の言葉だった。先生の周りには血が溜まり、裕大と五十嵐は先生の血で黒い学生服は赤黒く染まっていた。
学校に七人の死体。廊下や壁には、血痕や銃痕が所々にあり裕大は岸辺が言っていた『どぅ?見慣れた場所が戦場になるって?』を思い出し、考えてみると何とも言えない悲しさがこみ上げてきた。
学校は、数日後に再開・・・そこには、血痕も銃痕も真っ赤に染まった死体はきれいさっぱりなくなっていた。
そしてそこで初めて担任の先田 竜生が死んだ事を伝えられる
原因は交通事故死
そして担任がいなくなり担任が変わった。