第十四話 敵か味方か・・
「大量に並んでた車、いなくなっちまったな」
「あぁ・・」
誰もいなくなった教室で裕大が窓から外を眺める五十嵐に話しかけた。
「お前も両親がいないんだっけ?」
「あぁ・・」
「そっか・・俺とおんなじだな」
「あぁ・・」
「どこか施設に預けられてるのか?」
「いや・・親戚と国から補助金貰って一人暮らしだ」
「先生、おせーな」
「あぁ・・」
「頼むから『あぁ・・』以外にもなんか言ってくれよ。言葉のキャッチボールが一方的で淋しいんだけど」
「・・・お前も制服に着替えてきたらどうだ?」
『拳銃、制服の中に隠してるんだろ?』
「あぁ・・そうだな。それじゃ、トイレ言ってくる」
そう言って裕大は教室から出て行った。
しばらく窓から外を眺めていると廊下から誰かの足音が近付き教室のドアを開けた。
「何の用だ?」
振り返ると女性が一人立っていた。
「あの・・裕大さんはいますか?」
「トイレに行った」
「そうですか、ありがとうございます」
そう言うと、駆け足で彼女はトイレに向かった。
五十嵐は、窓から外を眺めながら裕大に回線をつなげた。
『トイレに一人の女性が急接近』
『何?まじでか?ちょっと待って、まだ銃が丸出し』(下ネタ?)
『到着まで残りおよそ5秒』
『ちょ・・嘘』
『3・・2・・1』
(ガサ・・ゴソ・・バタン)
『裕大さん、どこ?』
『な、その声・・・み、未来か?ここ男子トイレだぞ』
『裕大さん・・・そんな所で、何やってるの?』
『何って、トイレだからやる事は決まってるだろ!!ウ○コじゃ、ウ○コ』
『そこ、掃除用具入れよ』
『・・・いや、制服に着替えてたらな・・・廊下から足音が聞こえてきたから、急いで隠れたからこうなったんだ』
『ふ〜ん、どうだか?』
『なんだよ、不審がりやがって』
『裕大さん、家で隠れてそう言う事が出来ないからってここでやるのは、どうかと思いますよ』
『馬鹿 !!何言ってるんだ。いくら俺でもな、時と場所はわきまえる』
『何が時と場所よ!!さっきも誰かの「きゃっ」って言う甘い叫び声に反応してたじゃない』
『あれは違う、あれは男同士のノリと言う物があってだな』
『どうせ、さっきの人ば、思い出しながらやってたんでしょ !!』
『ハッ、そんな事で嫉妬するだなんて、未来もまだまだ餓鬼だな』
『そ・・そんなんじゃないもん!馬鹿、変態』
『誰が、変態・・ん?・・ヤベ、回線がオンになってる !!』
『嘘!!じゃぁさっきの会話が筒抜・・』
(プツン・・)
五十嵐は、軽く舌打ちをした・・
五十嵐が誰もいなくなった教室でしばらく、窓から外を眺めていると廊下から急ぎ足の二人の足音が近付いてきた。
「五十嵐 !!」
扉を開け裕大が五十嵐を呼んだ。
「どうした、そんなに慌てて」
「聞いてたか?」
「何をだ?」
「俺とこいつの会話」
裕大の横でやけにオドオドとする未来を指さしながら言った。
「一体、何の事だ?」
「・・・本当に聞いてない?」
「だから、何?」
「いや・・何でもない」
「・・・よく、わからないが、俺に立ち聞きの趣味はない(嘘)・・・それより、先生の車が来たぞ。そろそろ玄関に行こう」
玄関に着くとまだ何人かの生徒が残っていた。
「それじゃ、多分全員乗れるからと思うから乗ってください」
玄関の前には、部活動で使うバスが止まっていた。バスに乗り込むと生徒達もようやく落ち着き安心した表情になっていた。ところが、やはり全員は乗れずバスは出発した。
しばらくし、次の乗用車が来た。
「さぁ、早く乗って」
残りは、五十嵐と裕大、それと裕大の妹だけになり残す席は一つになった。
「五十嵐・・俺とこいつ同じ家だからお前先に乗れょ、俺等次のに乗るから」
「・・出来れば、そうしたいんだが、お前らどちらか先に乗れ鞄を教室に忘れた・・」
そう言って両手を上げ鞄がないことをアピールした。
「そんなのどうでもいいだろ」
「いい訳ないだろ。俺の鞄には、色々と入ってんの!」
『銃があの中に入ってる』
運転席に座る女性の先生は、色々の意味を読み間違え「アホらしい」とか呟いているのが聞こえた。
「・・・そっか、なら未来。お前先に乗れ」
「裕大さんは?」
「見ての通り、俺も鞄忘れた」
そう言って裕大も両手を上げた。未来は、車に乗り込み心配そうにこちらを見てくる
「心配するな、大丈夫だから」
未来は、何か言おうと口を開きかけたが非情にも車は、出発した。
取り残された五十嵐と裕大
「それじゃ、お前の鞄取りに行くか」
裕大がそう言った。
「あぁ、今持ってくる」
そう言って五十嵐は下駄箱のちょうど死角になる所から、鞄を持ってきた。
「それじゃ、お前の鞄取りに行くか」
五十嵐がそう言うと
「悪い、俺今日学校、手ぶらで来た。ただジャージ持ってくるの忘れたから取りに行くか」
そう言って二人は教室に向かった。
「本当に学校にいるの俺達だけになっちまったな」
「あぁ・・」
窓から外をみる五十嵐に話しかけた。
「おぃ、『あぁ・・』って禁止」
「わかった」
「それと、お前が俺に何か聞け」
「・・・じゃぁ、一つ聞きたい事が」
「何?」
「未来・・だっけか?同じ家ってもしかしてさ」
「あぁ、妹だ。血はつながってないけどね。施設で一緒に育てられた。最年長が俺でそん次が、未来。あと下は、みんな小学生や幼稚園に行ってる」
「・・どうでもいいかもしれないけどさ・・俺の予想だけどさ・・別に聞き流してくれても構わないけど。あいつは、お前の事、兄じゃなくてそれ以上の」
「知ってるよ・・薄々気がついてるさ」
「・・・・なら、応えてやろうとは、思わないのか?」
「応えてやりたいけどさ・・俺達が今やってる事、考えるとどうにもさ・・・俺だけいいのかな?って思うのさ・・・」
「そうか・・・別にいいと思うけどな。」
「けどさ、お前からそんな話が出るとは思わなかった」
「意外だろ」
「けど、やっぱりお前、あの会話聞いてたろ」
「さぁ、どうだか」
「さっきまではさ、疑惑だったんだけどさ。今、確信に変わった」
「悪気は、かなりあったんだ。許してくれ」
「よ〜し、今回は正直な所に免じて許してやろう・・・ってなるかぁ〜!一発殴らせろ」
「やだな〜先輩御冗談を・・」
「誰が先輩だ!!・・・なら、お前も一つ秘密を暴露したら許してやろう」
「秘密・・・特にないな」
「嘘つけ!!お前はいつも謎のオーラに包まれてるんだよ!じゃぁさ、お前このゲームについて何か知ってるの?」
「どうしてだ?」
「なんとなく最初の時、慌てる俺達をまとめ上げた。岸辺が言ってた初参加が勝率40%以下なのは、お前みたくまとめ上げるものがいないからだ」
「・・・」
「お前はあの時、やけに落ち着いていた。それに何か理由があるとしたら、それ以外に考えられない」
しばらく五十嵐は悩み、ようやく口を開いた。
「・・・俺は、まだ餓鬼の頃」
その時、裕大と五十嵐の頭の中に慌てる康太の声が流れてきた。
『お前ら、今すぐに学校から離れろ !!』
「康太か?どうした」
康太の後ろからは岸辺が必死に康太を止めようとする声が入ってくる。
『駅前の発砲は偽物だ。本当の場所は学校だ!!人を外に出さないための偽の情報だったんだ』
五十嵐と裕大は、ただ返事はせず康太の言う情報を聞く事に集中した。
『つまり学校がゲームの会場になる一般市民の負傷者とは、ゲームの勝者。犯人が全員死亡なのは、ゲームでの死者だ。犯人に共通点がないのは、敵味方入り乱れて死んでるからだ!!
目撃情報もそりゃないよな、プレイヤー以外に誰もいないんだ!!・・・けどその試合には抜け道・・』
康太からの声はここで途絶えた。
「くそっ、回線が切られた !!」
悔しがる裕大だが、すぐに誰かから連絡があった。
『今、聞いた通りだ。ここがフィールドだ。どぉ?見慣れた場所が戦場になる気分は?』
「だれだ?」
『俺も岸辺、あっち側の紹介者だ。よろしく〜この前は、よくも僕の掘り出し物チームを殺してくれたね。あれ結構いい値段してたんだよ。』
一番最初の岸辺と言いどうしてこんなにも軽い口調なんだ・・・
『でも、今回は強いと思うよ。このゲームの経験値は君達より上だし・・・まぁ、負けないでしょ。人数も君達より多いし。あと抜け道なんてないから、まぁ頑張って。いや〜学校を戦場にするなんていいアイデアだね。とても俺には思いつかないよ。うんうん・・・でもさ、俺だって』
「お前に戦場の何がわかる」
岸辺の語り口に割り込みそう言ったのは五十嵐だ。
「戦場の本当の意味も知らない奴が、戦場、戦場言ってんじゃねーよ」
「五十嵐・・?」
『・・・そうだったね。ちょっとお話しすぎたようだ。それじゃ、頑張ってね。優勝候補。それからちょっと助言。もぅ、学校内で会う人は敵だと思った方がいいよ』
そう言うと、岸辺と名乗る奴からの回線は切れた。
「・・・どうしようか?」
しばらくの沈黙の中、口を開いたのは裕大だ。
「いきなりあんな事言われて慌てなくなったのは、ちょっと予想はしてたからかな?」
「とにかく、準備は一応しておくか」
五十嵐は、鞄を取り出しチャックを開いた。鞄の中には、必要最低限の装備がズラリと入っていた。
「五十嵐・・・よくこんなの入れて学校に来てたな」
「正直、いつバレるかオドオドしてた」
「度胸あるな〜」
学生服を脱ぎ装備を着々としながら会話をした。
装備をし終わり、上にまた学生服を着た。
「これは、正直賭けだ。敵に見つかっても取り残された生徒を演じよう」
「ミスったら終わりだな」
「玄関に行こう。康太が言ったようにこの試合には抜け道がある」
「本当か?」
驚く裕大に五十嵐はすぐにアイコンタクトを取るよう指示した。何事かと思ったが、それはすぐに理解した。
急ぐ足音がこっちに向かってきていた。
五十嵐は、拳銃を取り出し腰のあたりに置いた・・・
足音はドアの前でとまりドアを勢いよく開きドアに立っていたのは、担任の先生だった。
「お前ら、まだいたのか、急いでここから出ろここは危険だ。」
「先生・・」
「・・・どうした。お前ら?」
五十嵐は、バレないよう銃を腰に差し込む
「車が・・まだ来ないんです」
裕大も五十嵐も戸惑っていた。山岸先生の事もあるが、先生は生徒に慕われ人気のある先生だ。
「とにかく玄関で待ってるんだ。車が、きっと来る」
信じていいのか?そんな疑問が頭の中をぐるぐると回る。いつもならそれに従うかもしれない
でも、今は場合が場合だ。
「先生・・先生の車は?」
裕大が尋ねる
「先生は、これから学校の中を巡回して他にお前らみたいに隠れてる生徒がいないか確認しなきゃならない」
「先生、ここが危険って言うのはどういう意味ですか?」
今度は五十嵐が問う
「それは、銃を持った人間がここら辺をうろついてるかもしれないんだ」
「でも、それなら家でも危険なんじゃないんですか?銃を持った人間が家の中に押し入ればそこだって危険だ。つまり学校が取った行動は、危険を分散させたんだ。学校で死ななければ学校に責任はないですからね」
「・・・だから、これまでの発砲事件は、ここのように公共の建物や広場で起きてるんだ。学校が標的になる可能性の方が、高い」
その言葉に違和感がある事に気づいたのは裕大だった。
「先生、どうして発砲事件の場所とかわかるの?」
「それは、ニュースで・・」
「その事件は、報道規制がかかってるんだ。公共ネットでは、場所などは公表されてない。俺だって調べたんだ」
「・・・さっき警察の方から連絡があったって言ったろ。それで聞いたんだ。ちょっと頭の中がごっちゃになってな」
「先生、俺ずっと窓から外見てたけど、パトカーとか一台も学校の周りを通ってないんだ。公共の建物や広場が標的になるって言っでしょ?ならどうして、警察はここら辺を巡回しないんだ?」
「・・・・何が言いたいんだ?五十嵐」
明らかに先生の顔色が変わった。
「つまり・・どうぞここでドンパチやってください・・って言ってるようなもんじゃないですか?」
「・・・お前たち・・まさか」
その瞬間、五十嵐と裕大は銃を抜こうとした。
だが、早かったのは先生だ。
「動くな !!お前等」
拳銃を二丁取り出し、裕大達に向けた。
「俺に早抜きで勝てると思ってるのか?手を上げるんだ !!」
二人とも素直に手を挙げた。
「せ、先生 !!どうして先生みたいな人が・・・」
「そりゃこっちのセリフだ!!どうしてお前らみたいな奴がこんなのをやってるんだ!!このゲームは、子供がやるもんじゃないぞ。」
「童貞や処女を早くに捨てるのと同じですよ。このゲームをやる年代もだんだん若くなってきている」
「そんな物と一緒にするな!・・・くそっ俺の指導力不足か」
「先生・・」
「あぁ〜、待て待て今、考え事をしてるんだ。くそ・・岸辺のやろー。お楽しみってそう言う事かよ・・・」
「俺達を学校から出してください。そうすれば、試合は終了です」
「何?本当か」
「康太は、それを言いたかったんだ。緘口令だなんてそもそも不可能だ。インターネットが主流の今、一斉に何百、何千人もの発言を取り締まる事なんて不可能だ。だから、目撃者は絶対に出したくない。学校内には、目撃者がいないかもしれない。でも、学校外に出れば目撃者は、絶対に出てくる。・・・先生、どうする?先生は俺達を撃てない。もちろん俺達も先生は撃てない。どぉ?先生」
しばらく迷った後、先生は銃を降ろした。
「よし。いいだろ、お前等を最初に見つけたのが俺で良かった。俺以外だったら、今頃銃撃戦の真っ最中だ」
「・・でも、先生の仲間でしょ?話せばわかるんじゃない」
「誰が、なんな奴等の仲間なもんか、あんな人殺しを楽しむような奴等」
「どういう事、先生?」
「それは、移動しながら教える」
そう言うと先生と俺達は廊下に出た。