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第十三話 サプライズ

『昨日、仙台市で発砲事件が発生しました。拳銃を所持していた犯人は、その場で射殺され 一般市民にも負傷したという情報も入っています。それでは、現場にいるリポーターに現地の状況を伝えていただきます』

『こちら現場です。詳しい場所は明かされず中にはいる事は未だに出来ませんが、ごらんください。今でも進入禁止のテープが張られいつもなら人で賑わうここも、静まり返り事件の傷跡を物語っています。・・・それでは、ここまでの事件をVTRにしましたご覧ください』

いつもなら日本でも拡大する砂漠化現象のニュースで持ちきりだが、今はこの事件で、持ちきりだ。ここ最近、いたる所でこんな事件が続発、これで五回目だ。そして殺された犯人や捕まった犯人の共通点も拳銃の輸入ルートも全くの不明らしい・・・けど、そんなニュースを見る康太は拳銃の輸入ルートには、心当たりがある。それは、ガンズショップだ。


北海道の少ない夏も終わり、衣替えの季節、店員の服装も上に羽織るものが支給された。

そして、康太のその服の下にはホルダーと拳銃を隠し持っていた。



事は時間を少しさかのぼる・・・

試合が、終了し全員が黙って装備を鞄に入れていると

「全員、拳銃とホルダーはしまうな」

そう言ったのは、五十嵐だ。

「どうしてだ?」

「自分の身を守るためだ。拳銃が嫌ならナイフだけでもいい」

康太と勉は、理解に苦しむ中

「今日の事件の事?」

そう言ったのは、裕大だ。

「今日の事件?」

「知らないのか?都心で発砲事件があったんだぞ」

「あぁ、そういやこの頃、テレビとか見てないな」

「で?その事件が、何か関係あるのか?」

五十嵐が、喋ろうとする前に裕大が話し始めた。

「実は、俺も気になってその事件について調べたんだけど、どうやら報道規制がかかってるんだ。目撃者にも緘口令が敷かれているって噂もある」

「カンコウレイ?」

「誰にも言うなって事、犯人の名前も誰も公表されてないでしょ。暴力団でも武力集団でもないんだ。おそらく誰とも言えないただの一般人が犯人なんじゃないかな?」

「どう言う意味?」

「俺達は周りから見たらどんな感じだ?」

「ごく普通の学生と社会人」

そして裕大が意味ありげに拳銃を見せる。それを見てようやく康太と勉は理解した。

「そぅ多分犯人はプレイヤーだ」

「・・・でも、何のために?」

「わからない。でもこの街にだってプレイヤーはまだいるんだ。俺達だってもしかしたら巻き込まれるかもしれない。そう言う事でしょ?」

裕大が五十嵐に尋ねる

「まぁ、備えあれば憂いなしだ」

それで話し合いの結果、全員が所持することになり手首の発信器にはほぼ全員がしていたが、リストバンドをつけるように再確認した。



次の日から学校も衣替えが始まり、冬服の下に全員が拳銃を隠していた。

ただ、それは少し逆効果にもなった。拳銃を所持することで、バレるのではないか、外を歩けば、全員があやしく見える気を張りすぎて、唯一気を許せるのが家だけになってしまった。

そんな家でも、小さな物音でも反応するようになり、ぐっすり寝れる事はほぼなくなった。



そんな事で、話は最初に振り替える。康太が家の外に出るとなぜか洋子とばったり遭遇。

康太は、腕につけた携帯を見ると8時50分をさしていた。

「・・・お前、完璧に遅刻じゃん」

「え?知らないの?今、学校祭準備期間よ」

「学祭?もぅそんな時期か?」

「そう、今回は女子も男子もやる気ばっちりよ。みんな元のクラスの感じに戻ろうと必死になってんのよ」

「そうか・・まぁ頑張れよ」

そう言ってガンズショップに向かった。

「学祭は、少しでもいいから顔を出しなさいよ」



「・・おぃ、受付がなに呆けてるんだ」

康太が顔を上げると受付の前に岸辺が立っていた。

「別に・・・客来ないし暇だなって思ってさ」

「まぁ、それもそうだな」

「なぁ、岸辺・・」

「なんだ?」

「学祭って岸辺もやった事あるべ?どうだった?」

「学祭か・・あんまりいい思い出はないな・・・準備期間とか、よく外出届出してサボってたりしたし、学祭当日は、他校の奴等と喧嘩になったりとか散々だったな。・・・そう言うそっちは去年とかどうなんだよ」

「そっちとそんなに変わらない。去年は、音楽の先生とマジ喧嘩して合唱ボイコットしたり・・でも合唱以外は意地になって、1年の中で全部最優秀賞取ったりしてた。

あぁ、でも中3の時はどっかの不良達が展示品、ぶっ壊してさクラスの男子全員でそいつ等フルボッコ。クラスが初めて一致団結したみたいでちょっと面白かった。でも、全員で暴れたからほかの展示品も悲惨な事になって、代表者として勉と一緒に先生に怒られてたような気がする・・・」

「勉とは同じ中学だったのか?」

「岸辺・・こんな田舎に何個も学校があると思うか?裕大とも一緒だよ。あぁ、あと大次と龍之介・・・・でも五十嵐とは、違うんだよな・・あいつは高校から一緒だ」

「ふ〜ん。そうか」

「五十嵐ってあいつ中学とかどこなのかな?岸辺お前知ってんだろ?」

「知ってても言いません」

「いいよ〜だ。あの紙もう一度、見てやるから」

そう言って康太は、受付の机の中を探し始めた。

「なっ・・駄目だ。止せ」

岸辺は受付を乗り越え、紙を奪い取り自分の口の中に押し込んだ。

「ゲッ・・・」

「うん、よくカンニングペーパーとか証拠隠滅とか言って口の中に突っ込んだもんだ」

口をもぐもぐとさせながら岸辺がそう言った。

その瞬間、ガンズショップ全館に非常ベルが鳴り始めた。



教室や廊下では、段ボールやプラスチックなどが散乱し個性溢れたジャージ姿の生徒たちの声が飛び交う。ステージの出し物の練習や当日の行動を一緒にしようと約束をするカップル。

勉や裕大のクラスにも昼飯の買い出し部隊が「ただいま帰還しました」なんて言いながら帰ってきた。

待ってましたと言わんばかりに教室に湧き上がる歓声

「準備期間ってやっぱり楽しいよな」

勉と一緒に作業をする裕大が話しかけてきた。

「この熱気が当日まで持てば最高なんだが・・」

「あっ確かに、当日ってなんか燃え尽きちゃうよな」

「そこの線に定規あわせてくれ」

「あいよ」

長方形の発泡スチロールに縦に何本も切れ目を入れて裏返して円柱を作り上げた。

「よしっ、完成」

そう言って裕大と手でハイタッチ

「凄ーい、出来たんだ。はい、これ勉と裕大君の頼んでた食べ物」

そう言いながら制服を着た洋子が現れた。

「おぅ、ありがとう。裕大ちょっと白いペンキ取ってきてくれ」

「あいよ」

裕大がそう言って勉達から離れた。


「ねぇちょっと相談なんだけど」

洋子が突然、しゃがみ込み真剣な表情になった。

「何?」

「康太や大次君を学祭に呼べないかな?それで全員でクラス写真を撮ろうと思ってるんだけど・・・最近、勉さ裕大君と仲いいでしょ?だから大次君の連絡方法もわかるかなって思ってさ」

一瞬、勉の表情が曇ったが洋子はそれに気付かなかった。

「女子って企画もの好きだよな」

「いいじゃない、サプライズ!私好きよ」

「とりあえず、俺から聞いてみるから、洋子は絶対に裕大に大次の事、尋ねたりするなよ」

「どうして?」

「どうしてもっ!!あいつだって突然いなくなって傷ついてるんだから」

「そっか・・それもそうだよね」

「そう言う事」

勉はおにぎりを取り出し口に運ぼうとした時

「はぃ、これ白いペンキ」

そう言って裕大は作業をする人たちの間を縫って教室の出入り口に立っている女子の方へ行った。


そして、何やら楽しそうに会話をしている。周りにいた男子もざわつきだす。

「おぃ、あいつ確か一年の美男女コンクールの優勝候補じゃね?」

「あぁ確かそうだ・・って、なんで裕大なんかと」

そして、会話が聞こえないため勝手にアテレコを始める奴等がいた。

「どうしたんだよ。こんな所に来て」

「実はね、私・・美男女の優勝候補にあがっちゃって」(男の声)

「へぇ、すごいじゃないか」

「それでね、結果発表の時に遠くでもいいから、見ててほしいの」(男の声)

「あぁ、別にいいよ」

「えぇ!本当?じゃぁさ、もし優勝したら。その後の学祭、一緒に行動してくれる?」(男の・・)

「あぁ、いいよ」

「本当?嬉しい!!」(男 !!)

そう言いながら女性役をしていた男子が裕大役をしていた男子に抱きつく。

それと同時に彼女も裕大に抱きついた。

「ぬおぉぉおぉぉおぉ−−−!!」

男子全員が雄叫びをあげる中、女性役の男子は裕大役の男子に軽く抱きついていたのだが、驚きのあまり思いっきり締め付け、裕大役の男子は痛さのあまり男子の中で一人だけ悲痛な叫び声をあげていた。


燃え上がる男子と女子、そして冷めきる一部の女子。洋子は、どちらかと言うと後者の方だった。

「・・ねぇ、男子の方がサプライズとか、かなり好きそうなんだけど、そこんとこどうよ?」

勉は、どれにも当てはまらず驚きのあまり開いた口も塞がらず、手に持っていたおにぎりを白いペンキの中に落としてしまった。

「ぬあぁぁ、俺のおにぎりがあぁぁ」

勉が叫ぶ中、なぜか洋子も叫んだ。

「きゃっ私のパンッ・・・」

続きを言おうとした洋子は思わず口をつぐんだ。続きが気になり男子の視線が、ギッっとこちらに向けられる。

洋子は、何やら慌ただしい動作を取った後

「パ・・パンよ。パン・・・私も落としちゃったの・・・ぺ、ペンキに」

残念そうに裕大の方に視線を戻す男子


裕大も少し残念そうに振り返ると

「もぅ、バカっ」

そう言って少し頬を赤めた彼女はどこかへ行ってしまった。

「よっしゃぁぁーー!!」

喜びはしゃぐ男子に残念がる女子・・・これは極端に別れた。

「よくやった裕大。お前は、男の中の男だ」

「裕大、お前の雄大さは雄大だっ!!・・・あれ?雄大が裕大?」

喜ぶ男子に首をかしげる裕大の一言

「妹だ」

一気に冷める男子と女子


「そ、それじゃ私、外の男子達におすそ分け持ってくね」

全員に背を見せないように洋子は教室から出て行った。

「・・あれ?これ洋子のパンじゃない」

一人の女子が一つのパンを指さしそう言ってるのがどこからか聞こえた。


ここの高校は、外にも展示する作品があり、裏庭でその作業が行われる。

洋子は、飲み物が大量に入れられた袋を片手に裏庭の一歩手前の場所で再度服の最終チェックをした。

「よしっ!」

片手でガッツポーズをとり裏庭に向かおうとした時

「お前、こんな所で何やってるんだ?」

洋子は驚き思わず声を漏らしながら、すぐさま後ろを振り返ると相変わらず小さな本を片手に持った五十嵐が木陰から現れた。

「ちょ、ちょっと、驚かさないでよ」

「そうか、悪い・・・そんなつもりじゃなかったんだ」

「あ、はいこれ、飲み物。みんなで飲んで」

「残念ながらほかの奴等は、いないぞ」

「えっウソ・・」

裏庭を覗いてみると確かに作業をする人はいるが、うちのクラスの人間は見当たらない。

「木材調達と言う名目の友達の家への脱走だ」

「いわゆるサボりってやつね・・・」

「それよりスカートにペンキついてるぞ。ペンキがはねたのか?」

「嘘っ !!どこ?」

「後ろ後ろケツの方だ」

「女子にケツだなんて言うな!」

そう言いながら器用にスカートを回し後ろの部分を前に持ってくると確かにペンキの粒が

ポツポツとついていた。

「嘘でしょ、せっかく変えたのにまさかこんな所に飛んでたなんて・・」

「変えた?」

「何でもないっ!!」

「まぁ灯台もと暗し、頭隠して尻隠さずって言うからな」

「でも今回は、頭じゃなくて全部、尻の方なのよ・・」

そう言って落ち込みしゃがみ込んでしまった。

「お・・おぃ、何があったかは知らないが、気にするなって」

落ち込む洋子を励まそうとする五十嵐。だが、それを阻止するかのように突然、校内放送が流れた。

『職員は至急、職員室に来てください。そして、外で作業をしている人達は速やかに作業を中断し校内に入ってください』

いつもなら聞き流す校内放送だが、今回は声が違った。何か緊迫したような声だった。

何事かと裏庭で作業をしていた人達はぞろぞろと校内へ入っていった。

「何かあったのかな?」

心配する洋子を横に五十嵐は、左手から延びたイヤホンでラジオを聞いていた。


「校内に入ろう」

五十嵐は耳からイヤホンを外し洋子の腕を掴み校内へと入っていった。


「え?ねぇ、何があったの?」

洋子を半分引っ張る感じで歩く五十嵐に洋子が尋ねた。

「多分、学校から連絡があるだろ」

「でもさっき、ラジオで何かわかったんでしょ?」

「詳しい事はわからない。ただ、学校が休校になるのは確実だ」

「え?なんで」


教室に入るとサボっている生徒以外は教室に全員いた。

『五十嵐、大変な事になった』

五十嵐の頭の中にすぐ横で腕につけたパソコンをいじる、裕大が話しかけてきた。

『あぁ、俺もラジオで聞いた』

『頼むから二人で話を進めるな。俺にもわかるように説明してくれ』

『発砲事件がここの駅前で起きた』

「発砲っ!?」

驚きのあまり思わず口にしてしまった。そして勉の周りに人がごった返す。

「どういう事だ、勉!!誰かと回線を繋いでいるのか?」

「発砲って、あの事件の事よね・・・ここの近くでもあったって言うの?」

「まて、みんな落ち着け・・俺だって詳しくはわからない。先生が来るからそこで話を聞こう」

勉がみんなを落ち着かせる中、先生がやってきた。

「・・この様子だと、少し状況がわかっているみたいだな。誰か、今外にいる生徒に連絡がとれる人はいるか?」

「はい、俺わかる」

一人の男子が、手を上げそう伝える

「それじゃぁ、今から連絡を取ってくれ。それで、もし誰かの家にいるなら‘絶対に’外に出るなって伝えてくれ。・・・さっき警察から連絡があってな駅の近くで誰かが銃を撃ったらしい」

ざわつく生徒を「静かにしろ !!」と先生から一喝が入った。

「親がもし迎えに来れるのであれば今から連絡をして迎えに来てもらってくれ、もし無理な生徒は先生達が手分けして送り届ける。そして、安全が確認されるまで外には絶対に出ないでほしい。もちろんしばらく学校は休校だ」


先生からの連絡が終わると生徒達は親に連絡をとるなり、ざわつき始めた。

「どうしよう私の家、駅の近くなの」

「私の家においでよ。唯、一人くらいなら何とかなるわ。駅からも遠いし」

「駄目よ、弟がいるの」


「俺、家族全員で親戚の所に行くらしい」

「俺は隣町のおじさんが迎えに来てくれるらしい」

校門の前には車がずらりと並んでいた。玄関から車まで走って行く人や頭を低くしていく人

玄関の前で外に出たくないと喚く人など色々といた。

「あぁ母さん・・うん大丈夫こっちは、どうにかするから大丈夫。だから無理しないで、家が近い友達に乗せてもらうから大丈夫だって。・・・うん・・うん、それじゃ、したっけ」

勉は、親に連絡を取り洋子の親の車に乗って行った。



しばらく経つと、校門に並んでいた車もいなくなり騒がしかった教室は、静まり返り展示品と段ボールの残骸、そして裕大と五十嵐だけになった。



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