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第十二話 第二の犠牲者

バスの中は、いつも通り誰も喋ろうとはしない。

静まり返っていると、バスはまた長いトンネルに入って行った。

この長いトンネルを抜けると目的地に到着だ。ただ、いつもと違うフィールドに全員の顔から緊張と恐怖心がにじみ出ている。そんな事は、お構いなしにバスは目的地に到着した。

「到着しました」

誰も降りようとしないから運転手が、そう言った。最初に五十嵐が立つと、後に続き全員が立ち、ノロノロとバスから降りた。

康太が最後に降りようとすると運転手にいつも通り紙を渡される。

「試合が終わりましたら、お迎えにあがります」

そう言うとバスは、向きを変えどこかへ行ってしまった。康太は紙とペンライトを手に場所に移動した。そこには、いつも通り名前を書かれたバックが置いてある。

そして、目の前には暗闇が続くフィールドが大きな口を開けて待っている。

全員が、黙々と準備を始める


今回のフィールドは、洞窟だ。右左と入り組んではいるが、一直線だ。

つまり、必ず敵と正面で対峙することになる。どちらが先に引き金を引くかが、勝負を左右する。

このフィールドの場合、運までも必要となる。だから、全員が苦手とするフィールドだ。

「大丈夫だ・・俺達は一心同体、必ず生きて帰ろう」

全員が握った拳をぶつける。ピピピ、試合開始の合図だ・・・

五十嵐を先頭に一列に並び大きな口を開けた洞窟へと俺達は入って行った。

先頭から五十嵐は前方、勉は二番目で右斜め前、康太は三番目で左斜め前、裕大は四番目で右

大次は最後で左を注意するはずだった。

だが、入ってみると中は人一人が立って入れるほどの大きさしかなく右も左もほぼ関係無かった。

全員が暗視ゴーグルとライトををつけ慎重に進む、しばらく進むと五十嵐が左手を突然上げた。

『止まれ』の合図だ。

そして、裕大を指さし『こっちに来い』と合図する。裕大が近づくと五十嵐と雄大の足元には

ワイヤーのトラップが仕掛けてあった。その場に座り込み裕大と五十嵐が前で何かやり取りをする中、かすかだが、どこかで壁が崩れるような音が鳴ったのを大次は耳にした。

裕大は立ち上がり人差し指を立て顔の横でぐるぐると回した。

『進行中止』



「どういう事だ?」

洞窟から抜け出せた事に安堵はするもののさっそく康太が裕大に問いかけてきた。

「わからないよ。とりあえず、敵の中に俺並の機械オタクな爆弾魔がいる。

見えるワイヤーの後に見えないワイヤーが仕掛けられていた。しかも、それを跨ぐとその先に赤外線のトラップまで仕掛けている。あの暗闇の中、五十嵐が見つけてなかったら、俺達死んでたぞ」

「解除は?」

「できるけど、爆弾の状況はリアルタイムで向こうに報告されてる。少しでも異常があれば、向こうが手動で操ってドカン!!別のルートは・・ないよね」

「どうして、そんなトラップが仕掛けられているんだ?いつ仕掛けたんだ?」

「それが、わからないんだ・・・あんな物を簡単に仕掛けれるはずがない。最低でも40分はかかるよ」

「試合開始してまだ15分も経ってないぞ」


「待ち時間だ」

全員が悩む中、五十嵐がそう言った。

「試合開始までの時間を入れれば1時間以上はある」

「でも、それってルール違反じゃ・・」

「ルールもなんもなくなってきたってことじゃね?とにかく、あの爆弾をどうにかしないと始まらないぞ」

「いや、そうでもないんだなぁ・・」

大次は自信ありげにそう言った。

「この洞窟、何か変だなって思ってたけどようやくわかった。所々土が違う所があるんだ」

全員が首をかしげる。

「だから、このフィールドは一本線じゃなくて隠し通路があるってこと。敵もその事に、多分気づいてる」

大次は、洞窟に入ったすぐの壁を銃で叩いた。するとゴロゴロと音を立て、大きな穴ができあがった。そしてその先には、地図にはない通路が現れた。

「どぉ?」



先はどうなっているのか、わからないため、偵察で大次と裕大が隠し通路に入る事になった。

初めは五十嵐と裕大の予定だったが他にも通路があるかもしれないからと、大次が言い張り

五十嵐と交代した。

「やっぱり、俺も一緒に行こう」

「大丈夫だ五十嵐、危ないと思ったらすぐに引き返す。心配するな」

「・・・わかった。敵に見つかったらすぐに銃声を鳴らせ。急いで向かう」

「了解・・20分経ったら一度戻ってくる」

そう言って、大次と裕大は隠し通路に向かった。


長い一本道が続いていたが、段々と穴の大きさは広くなってきた。そして、二つの穴が目の前にでてきた。

『どっちがいい?』

『右』

二つの穴は、別れてはいるもののほぼ並列した状態だった。ただ、しばらく進むと通路は右に曲がりほんのり薄明るい広場に出た。

そこは、壁の割れ目から流れる水、天井から地面まで伸びた柱の割れ目から流れた水が地面にたまりできた小さな川。そして月明かりかはわからないが広場全体を照らす光。大次が思わず「すげー」と、声を漏らすほど、幻想的で、人工なのか自然なのかは分からないがこのゲームとは正反対の美しさがそこにはあった。

思わず試合中だと言う事を忘れる大次を裕大は連れ戻した。

『時間だ。戻ろう』

大次は頷き、裕大を先頭に来た道を戻った。


通路を左に曲がると隣の通路からかすかだが、足音が聞こえた。裕大は、まだ気づいていない

急いで裕大の肩を叩き、後ろを振り向いた裕大に人差し指を立て口の前に持ってきて見せた。

『音を出すな』

足音は聞き間違えであってほしかった。だが、聞き間違えではなかった。足音に裕大も反応した。

なるべく、音を立てずに敵と並列に歩いた。足音から敵の人数を確認した。

『敵は、三人一組 どうする?』

裕大は、大次の指示を待つ

『通路が合流する所で襲撃、壁は、崩れやすいからお前の合図で壁を壊して攻撃する』

裕大は頷き、ナイフを音を出さないように取り出した。そして、裕大と大次は、道の合流地点へ急いだ。裕大は壁に張り付き敵を待った。

大次は裕大から少し離れた所に構えた。敵の足音が、段々と近づいてくる。

裕大は大次に目をやった、大次はただ頷いた。裕大は、手でカウントを始める

『3・・2・・1・・』

合流場所から敵の顔がヌッと出てきた。次の瞬間、裕大は敵の顔めがけナイフを突き刺した。

敵の喉にブツリと、ナイフが入りそのまま、裕大は壁に押し付けた。

それと同時に大次は、壁を蹴り壊し隣の通路に侵入した。

目の前に一人、少し前にもう一人いた。敵は、裕大が起こした出来事に反応しこっちには反応が遅れた。

チャンスだ・・

目の前の敵の喉元に、左手でナイフを突き刺しながら右手は、ハンドガンを構え、もう一人の敵に向けようとしたが、向こうは、俺よりも先に俺に銃を向けていた・・・

死ぬ・・

一発の銃声が鳴り、敵の胸から噴き出してきた。生暖かい液体が大次の顔にビシャっとかかった。敵は倒れ、その先には銃を構えた裕大が立っていた。

「大丈夫・・?」

「あ?あぁ大丈夫だ」

大次の左手は、まだナイフを掴んでいるがナイフが刺さった敵は、壁伝いにズズズっと崩れた。

そして、その場で体をふるわせ始めた。まるで脈打つかのように、リズムよく体が痙攣し、しだいに脈が弱まるように痙攣も弱まっていき動かなくなった。

大次は、ナイフを抜くと首からドロッとした血があふれてきた。

「戻ろう」

「ぁぁ、そうだな」

ナイフを腰に戻し、戻ろうとしたその時、段々と敵の足音が近づいてくる。

「裕大、逃げるぞ」

そう言った時にはもう遅かった。敵はもう、目の前まで来ていた。

凸凹とした壁に張り付き、その場で銃撃戦が始まった。銃撃戦とはいっても、ほぼ一方的だった。

俺達は、壁に張り付きすぐ耳元で、弾がはじける音を聞きながら身を隠した。

そして、威嚇射撃で、何とか敵を近づけさせないようにしていたが、ジワジワと敵は近づいてきていた。

「裕大、俺がどうにかするから、後退しろ」

裕大が何か反論を言う前に大次は飛び出し敵に向かって撃ちまくった。

裕大は、遅れて出てきて後退するのではなく同じく敵に、撃ちまくった。

「裕大 !!」

「大丈夫だ。康太達が来るまで、持ちこたえればいいんだべ?」

そんな事を言っていると敵の方で突然、何かが爆発した。

「無事か?お前ら !!」

五十嵐が、やってきて敵に向かって手りゅう弾を投げた。また、向こうで爆発が起き、悲鳴が上がる。

壁が崩れ外から月明かりが入ってくる。土煙が立ち、五十嵐はその中に突撃して行った。

何発かの銃声が上がり、向こうからの攻撃はピタリとやんだ。

「大丈夫か・・?」

後ろから、遅れて勉と康太もやってきた。

「あぁ、大丈夫」

そう言いながら、立ち上がる裕大の横で立ち上がり、呼吸を深くする大次、今まで、興奮していたから気付かなかった・・・

恐る恐る腹を覗きこむ・・額には汗がにじみ出る。月明かりに照らされ大次の服は所々破れ、赤く染まっていた・・・

「ごめん・・無理だった」

そう言い終わると、大次は両膝をつきドサッと倒れこんだ。

「大次っ・・!!」

全員が、大次に近寄る

「おぃ、しっかりしろょ。何やってるんだよ」

大次の呼吸は、今度は浅く早くなっていた。

「ごめん・・ごめんな・・」

震えながら、上げた手を裕大がしっかりと掴んだ。

「何・・何謝ってるんだよ・・意味わかんねーよ。たのむから・・しっかりしてくれょ。あっあと、少しでバス来るから、それにみんなで乗って帰ろう」

「俺・・俺、死んだら・・みんなに迷惑かけちまう・・・それに、俺・・母ちゃんにまだ、謝ってない・・・謝んなきゃいけないのに・・」

「うん・・わかった、わかったから。謝りに行こう。俺も一緒に行くから」

大次の手の握力が段々と弱まっていく

「優勝・・・優勝・・して・・・」




大次の手は、裕大の手からスルリと抜け地面に落ちた。

「大次・・?なぁ、大次・・起きてよ・・起きてよ、起きてくれよ・・」

裕大は、大次の亡骸を抱きよせ小さな声を漏らしながら涙を流した。

康太達は、涙をこぼす者や壁にぶつかりながら悔しがる者など各々で悔しさを表現した。

「お迎えにあがりました」

声のする方を見ると、運転手がポツンと立っていた。裕大は、運転手に縋り寄った。

「頼む、俺が怪我したとき見たく大次もガンズショップに・・」

裕大は、何の前触れもなく突然倒れた。

「裕大っ !!てめっ何のつもりだ」

運転手は勉に手に持った黒い何かを向けスイッチを押した。すると、勉まで倒れた。

五十嵐は、運転手に向かって突進していく。だが、運転手の方が早く反応しスイッチを押し五十嵐はその場に受け身も取れないまま転げ落ちた。

「一体、何するんだ !!」

運転手は、康太にも何かを向けてきた。

「お迎えにあがりました」

スイッチを押した瞬間、突然視野が黒に変わり何も感じれなくなった。




「・・・えぇ突然ですが、高本 大次君は、家庭の事情がありまして、父親の住む方に引っ越す事になりました。先生も今日、突然そう言われて正直驚いています。まぁ、みんなに言わなかったのは、少し恥ずかしかったんだろう・・・よしそれじゃ、HR終わり」

先生が、大次についてそう言うと教室から出て行った。

教室の中は、今までの活気はすでになくなっていた。龍ノ介の自殺、康太の自主退学、それに加え、今回の大次の転校・・・康太に大次、グループは違うが二人ともムードメーカーのような、存在であった。

龍ノ介の後に、そんな二人がいなくなりクラスの誰もが、変わったと感じるほどに変わってしまった。

教室の席は、相変わらず欠席者が多くて虫食い状態だった。ただその欠席者の中には、珍しく裕大も含まれていた。




裕大は、大次の家の前に立っていた。大次が死んだ事をどうしても信じられなかった。

もしかしたら、またいつものように、二階から飛び降りてくるんじゃないか?

「おまたせ」軽い口調でそう言いながら一緒にガンズショップに行くんじゃないか?

そんな淡い希望を持っていた。

『おぃ、裕大何をしようとしてるんだ』

頭の中に岸辺の声が入ってくる

「いや、大次がいるんじゃないかと思って」

岸辺の溜息が聞こえてくる・・・

『いいか、言いたくはないが大次はもぅ・・』

「わかってる・・でも念のため」

裕大はそう言うと家の呼び鈴を鳴らした。

「誰・・?」

扉から現れたのは、頭は白髪交じりで手入れもしていないのかボッサボサで痩せこけたおばさんが現れた。

「あの・・大次君はいますか?」

「そんな子は、家にはいません」

おばさんは扉を閉めようとした。

「あ、あの・・俺、大次から伝言を預かってきました」

裕大は閉まろうとする扉に足を滑り込ませそう言った。

「えっと・・最初に、まだ謝ってないことを謝りたいと言ってました。それから・・・」

「もぅ、やめてくださいっ!!」

話し続けようとする裕大におばさんは、割って入った。

「あの子は、父親の所に行ったんです。それで十分です」

「違う!!違うんです!!大次は親父さんの所になんか行ってません!!」

おばさんは、呼び止める声も無視し薄暗い家の奥へと姿を消した。



「待ってくれ」

裕大が帰ろうとした時、誰かに呼び止められた。振り返ると誰かが、二階から飛び降りた。

「大丈夫ですかっ!?」

駆け寄ると大次の兄貴が倒れていた。

「いって・・やっぱり不慣れな事はするもんじゃないな・・」

「あの・・」

「いや、母親が俺に伝言を頼んできてな、全くこういう連絡ごとを人に頼む所とか変な所が似てるんだからあの母子おやこは・・」

英介は立ち上がり土や草をほろいながらそう言った。立ち上がると英介は長身で周りから言えばいわゆるイケメンの部類に入る容姿だった。

「父親を選んでないことぐらい言われなくっても知ってる。・・・あぁ、今のは伝言じゃないから伝言は、『いつでもいいから帰って来て』だそうだ。俺達は大次の連絡方法とかないからもしかして、君ならあるんじゃないかなって思ってさ・・あ、あともし正面からは、無理だったら、いつでも梯子下ろしておくから。そう伝えといてくれ」

連絡方法だなんて俺だってない・・・俺だって教えてほしいくらいだ。

「わかりました。伝えておきます・・」

そう言って、裕大は立ち去ろうとした。

・・・死んだ事は家族にも伝えられないか、


もしかしたら、それはいい事なのかもしれない・・・




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